日本医師会 COVID-19有識者会議

新型コロナウイルス感染症に対する日本産科婦人科学会の取り組み

木村 正日本産科婦人科学会 理事長
COI:未確認
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • 今回の新型コロナウイルス感染症は人類がはじめて経験する感染症であり、これまでのところ日本での感染者数や死者数は他の多くの国々より非常に少なく経過している。
  • 日本産科婦人科学会が所轄する産科(妊娠・出産)、婦人科、生殖における学会の対応・情報公開の状況のサマリーを報告する。
    1. 妊婦の新型コロナウイルス感染症罹患率は一般成人の罹患率と変わらないこと、また、その重症・重篤化率も一般成人のそれと変わらないことが明らかになった
    2. 感染のリスクを減らすために、帰省分娩や夫立会分娩を勧めない。分娩場所を探す際には、現在健診を受けている医師からの紹介を受けることが望ましい
    3. 大規模災害対策情報システムPEACEを新型コロナウイルス感染症対策に開放したが、幸いこれまでのところ多数の分娩施設機能停止や混乱は生じていない
    4. 妊婦にも無症候のコロナウイルスの感染者が含まれている可能性がある。現在京都で調査中である。また、出産の安心や母児愛着形成を非常時にどのように保つかは今後の課題である
    5. 婦人科悪性腫瘍に関して、医療資源が限られた場合、標準治療から外れざるを得ない場合でも最善を尽くす必要がある
    6. 生殖医療(不妊治療)に関しては日本生殖医学会が不妊治療の延期を選択肢として患者に提示するよう推奨する、という文章を4月1日に発出した

はじめに

今回の新型コロナウイルス感染症は人類がはじめて経験する感染症であり、これまでのところ日本での感染者数や死者数は他の多くの国々より非常に少なく経過している(5月11日現在)

妊娠・出産は常時一定数が発生するので、妊婦に対する情報提供や分娩施設への情報提供を常に行う必要がある。また、妊娠・出産は社会問題になりやすく、メディア対応にも注意を払う必要がある。

産婦人科領域の中で婦人科良性疾患の内科的治療は継続が可能であり、外科的治療は待機が可能である。悪性疾患は手術に割くことができる医療資源の多寡により様々な対応が考えられる。生殖医療(不妊治療)に関しては延期を含めた個別対応が必要となる。

学会の対応

新興感染症のパンデミックが起こった場合にまず考えなければならないのは本邦における感染者数と、そして特に通常と異なる生理機能をもつ妊婦への影響である。2009年のブタインフルエンザ(H1N1)大流行の際に妊婦がインフルエンザに罹患すると重症化率が高いことが明らかとなり、その後妊婦へのインフルエンザワクチン接種が積極的に進められている。この流行に際し、米国では出生10万対2.2の妊産婦死亡が報告されたが [1] 幸い日本では妊婦のH1N1インフルエンザ流行に対しoseltamivirやzanamivirを積極的に投与し母体死亡や有意な出生児への悪影響は報告されていない[2]。

本会は今回の新型コロナウイルス感染症の流行初期であった2月6日にまず医療者向けに2009年事案から類推される注意喚起情報を発出した[3]。

その後流行が拡大したが、新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬はなく、手洗い、マスク、社会的距離といった一般的な対応策が推奨され、日本の10倍以上死者を出している国々からの情報を得つつ対応を進めた。

一般向け情報としては日本産婦人科感染症学会[4]が適切な情報をすでに発信していたので許可を得た上で日本産科婦人科学会HPからのリンクを張ることで対応した。また、3月5日以降、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会の3学会が合同で統一された情報を医療者向けに発出することとした[5]。このころより、妊婦の感染に関する文献的な情報も増加し、幸いなことに妊婦の新型コロナウイルス感染症罹患率は一般成人の罹患率と変わらないこと、また、その重症・重篤化率も一般成人のそれと変わらないことが明らかになった[6,7]。

日本独特の習慣として帰省分娩がある。4月7日の7都府県への、さらに4月16日の全国への緊急事態宣言に対応し、妊婦に帰省分娩自粛を求めるメッセージを発出した。また、医療者向けにも帰省分娩や夫立会分娩を勧めない、とするメッセージを発出している。分娩予約した帰省先医療機関からの予約解消により、分娩場所がなくなった、という報道が一部メディアから上がったが、現在健診を受けている医師からの紹介を受ける(自分で捜さない)ことの周知や、分娩施設側も更に受け入れることができる施設をリストアップすることなどの対応を行い一応の落ち着きを見ている。

小規模で各地に分散しているがゆえに一施設当たりの医療従事者が少ない分娩施設での感染防御策や、様々な医療機関で相次いだ医療者の濃厚接触による就業制限措置を防ぐための考え方を医療機関向けに発信し[8]、これからも増加するであろう診療後に感染していたことがわかった事例に対する対応策を紹介した。

就業制限や院内感染による分娩施設の機能停止を知らせるため、本会の大規模災害対策情報システムPEACEを新型コロナウイルス感染症対策に開放したが、幸いこれまでのところ多数の分娩施設機能停止や混乱は生じていない。

米国ニューヨーク州で健康妊婦の分娩前、全員にPCR法による新型コロナウイルス感染症検査を行い、有症状者1.9%、無症状者13.5%の陽性率が報告され、産科医療関係者に衝撃を与えた[9]。5月11日現在一部医療機関や京都府が妊婦全例への新型コロナウイルス感染症PCRスクリーニングを行っており、一定数の無症候感染者がいるとされる。医療者の感染防御策や無症候陽性者の出産方法、出産場所について各地域・施設で定める必要があり今後の動向が注目される。

婦人科悪性腫瘍診療に関しては日本婦人科腫瘍学会から地域の事情に応じた対応と、状況によっては標準治療と異なる選択肢もある程度許容される、というコメントが出されている[10]。同時に国際団体の方針も載せられており、なるべく手術を避ける方針が記載されているものもあり、海外における医療資源の枯渇を反映しているものと思われる。

生殖医療(不妊治療)に関しては日本生殖医学会が不妊治療の延期を選択肢として患者に提示するよう推奨する、という文章を4月1日に発出した[11]。これに伴い、厚生労働省は不妊に悩む方への特定治療支援事業の年齢上限を1歳引き上げる、と発表している。本会もこの方針を尊重するが地域と患者ごとの個別対応が必要、と考えている。

おわりに

以上、本会が所轄する産科(妊娠・出産)、婦人科、生殖における学会の対応・情報公開の状況を概説した。

妊婦は日本の人口の約0.7%なので、新型コロナウイルス感染者も、同じ方針で検査を行なえば公式発表者の0.7%ぐらいと推定され、その1/10は確実に出産間近である。

妊婦は二つの命をもち新たな生命の誕生はいかなる非常事態下であっても延期することができない。今後も妊婦も含めた日本の女性の健康を守る立場から、会員諸兄の英知を集めて発信を続けていく所存である。

[引用文献]
  1. Obstet Gynecol. 2015 Sep;126(3):486-90.
  2. Am J Obstet Gynecol. 2013 Aug;209(2):130.e1-9
  3. http://www.jsog.or.jp/news/pdf/20200206_coronavirus.pdf
  4. http://jsidog.kenkyuukai.jp/information/index.asp?
  5. http://www.jsog.or.jp/uploads/files/news/20200407_COVID-19.pdf
  6. Int J Gynaecol Obstet. 2020 Apr 8. doi: 10.1002/ijgo.13162. [Epub ahead of print]
  7. https://www.rcog.org.uk/coronavirus-pregnancy
  8. http://www.jsog.or.jp/uploads/files/news/20200502_COVID19_02.pdf
  9. N Engl J Med. 2020 Apr 13. doi: 10.1056/NEJMc2009316. [Epub ahead of print]
  10. https://jsgo.or.jp/news/news.html#covid_20200403
  11. http://www.jsrm.or.jp/announce/187.pdf