日本医師会 COVID-19有識者会議

ドイツのデュッセルドルフから

牧元 久樹デュッセルドルフ大学病院循環器内科 准教授・不整脈部長
COI:なし

―COVID-19をめぐる医療現場の状況リポート―

注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • COVID-19は依然として世界中で大流行している。現在私は、ドイツ西部に位置するノルトライン・ヴェストファーレン州の州都にあたる都市デュッセルドルフの大学病院循環器内科に不整脈の専門医として勤務している。
  • 私の経験の範囲に限定されるが、ここ数か月の間に見たこと、経験したことをリポートする。
    • ドイツの総感染者は現在16万人を超え、総死者は7900名を超える(5/17日現在)。ピーク時には1日の診断症例が6000名を超える日もあった。
    • イタリアの感染爆発のあとドイツでは2月末から感染の報告が始まり、パンデミックが始まった。
    • ドイツでは首相をはじめ国が強いリーダーシップをもって主導し、各州もそれにただちに反応して迅速な対策がとられた。ほぼ毎日、重大な決定が次々と国から発表され、その同日か翌日にはその内容を受けた各州の具体的な決定が下り、同じく同日には病院の統括部門から我々現場への具体的な通達が来る、というめまぐるしい日々であった。
    • 国境封鎖、海外渡航制限、学校と保育所の閉鎖、日常必需品以外の店舗の営業停止、3人以上の接触制限(罰則付)などの生活制限が実施されたが、経済的な保証もされた。
    • 医療現場では、電話診察が奨励され、インテンシブベッドの増設がされた。空ベッドには1床あたり1日560ユーロ(約7万円弱)、インテンシブベッドの新規増設には1床につき5万ユーロ(約600万円)の支給が行われた。それでも経営危機になる民間病院もあった。また、インテンシブベッドは、行政により詳細に把握されコントロールされるようになった。
    • インテンシブベッドは、全国総数としてはピーク時には4万超床が設置され、稼働率は最大65%ほどだった。
    • 現在、感染爆発が落ち着きを見せたため、制限緩和が始まったが、完全収束には至っていない。今後の推移を注視する必要がある。

2020年5月17日現在、COVID-19は依然として世界中で大流行している。現在私は、ドイツ西部に位置するノルトライン・ヴェストファーレン州(以下NRW州)の州都にあたる都市デュッセルドルフの大学病院循環器内科に不整脈の専門医として勤務しているが、COVID-19によってここ数か月の間に私の日常も大きく変わり、今もその余波は続いている。

あくまでも私の経験の範囲に限定されるが、ここ数か月の間に見たこと、経験したことをリポートする。

ドイツにおける感染状況の概観

感染者数

国内感染者数の統計は2020年3月から毎日更新されながら様々な媒体から公表されてきているが、オフィシャルな情報源としては、以下の2種類が存在する。

図表1
COVID-19新規感染者数(ドイツ、ロベルト・コッホ研究所)
ロベルト・コッホ研究所の集計による新規感染者数の推移を示す。
図表2
COVID-19総感染者数(ドイツ、ロベルト・コッホ研究所)
ロベルト・コッホ研究所の集計によるドイツ国内での総感染者数の推移を示す。
図表3
COVID-19新規感染者数(ドイツ、米国ジョンスホプキンス大学集計)
米国ジョンスホプキンス大学の集計によるドイツでの新規感染者数の推移を示す。
図表4
COVID-19総感染者数(ドイツ、米国ジョンスホプキンス大学集計)
米国ジョンスホプキンス大学の集計によるドイツでの総感染者数の推移を示す。

両者は調査方法の違いからか、当初から発表される数字が異なり(ジョンズ・ホプキンス大学データの方が、数字が大きい)感染爆発の初期はどちらの数字が正確なのかで議論もあったが、今となっては大きな違いといえなくなった。最近のテレビニュースの感染者総数は、米国ジョンズ・ホプキンス大学の統計情報を流している。新規感染報告数のピークは3月終わりから4月頭にかけてであり、逆算した感染開始時期のピークは3月の半ばから4月初頭と推定されている。

国内でみると感染者は3つの州に集中しており、私のいるデュッセルドルフを州都とするNRW州、シュトゥットガルトを州都とするBaden-Wüttemberg州(以下BW州)、ミュンヘンを州都とするBayern州に感染者が突出して多い【図表5】【図表6】。国内で(経路不明の)感染症例の出現が報告されたのもこれらの州からで、2月25日NRW州1名BW州1名が最初のニュースだったと記憶している。それまでは中国武漢からの帰国チャーター便搭乗者と、フランクフルト近郊の企業内で中国からの出張者との会議による接触があった社員に陽性者が確認されていた。しかしいずれも帰国者・濃厚接触者全員を隔離し、適切な管理・治療が行われたため、ドイツ国内では、ウイルスは完全にコントロール下にあるという認識だった。その認識が一気に覆ったのが2月25日のニュースだった。

図表5
州ごとの患者数および死者数
5月17日現在の州ごとの患者総数、増加数、人口当たりの患者数及び死者総数を示す。ロベルト・コッホ研究所のホームページで、基本的に毎日更新される。
図表6
人口10万人あたりの感染者数の地域分布(ドイツ、ロベルト・コッホ研究所)
人口10万人当たりの感染者数をヒートマップで表示している。デュッセルドルフ近郊(NRW州)、ミュンヘン及びニュルンベルグ近郊(バイエルン州)、シュツットガルト近郊(BW州)で感染者数が多いことがわかる。画面左側には地域ごとの患者総数(青色)と死者数(灰色)が示されている。

検査状況

当初から連邦保健省および各州の保健省は、救急相談やホットラインなどの電話相談窓口を設置し、感染が疑われる場合は、これらの連絡先か、かかりつけ医にまず電話し指示に従うようにと指導した。3月半ばまではPCR検査を求めて、検査実施施設へ人々が列をなす光景もたまに見られたが、国が検査のキャパシティを拡充した成果か、ほどなく解消された。4月半ばの段階で最大キャパシティの50%程度の利用にまで下がったと記憶している。その後もどんどん使用率が下がり続けたため、現在は、症状の有無に関わらず、医療従事者全員に定期的なPCR検査を行うという話もでている。

大衆に向けた大規模な抗体検査の実施や、様々な検査結果を反映した詳細な感染所在マップアプリなどの情報共有方法についても議論されている。後者は個人情報保護の観点から問題視もされている。

国・行政の動き

既に報道で広く知られているが、ドイツでは首相をはじめ国が強いリーダーシップをもって主導し、各州もそれにただちに反応して迅速な対策がとられてきた。特に3月13日頃からは、毎日、重大な決定が次々と国から発表され、その同日か翌日にはその内容を受けた各州の具体的な決定が下り、同じく同日には病院の統括部門から我々現場への具体的な通達が来る、というめまぐるしい日々であった。そのスピードと実行力は目を見張るものがあり、勝手な偏見ではあるが、ドイツ人らしい素晴らしいリーダーシップと実行力と感嘆したことも多かった。

3月中に出された主な決定としては、以下のようなものがあった。

  • 国境封鎖、海外渡航制限(但し通勤と輸送業は例外扱いあり)
  • 学校と保育所の閉鎖(州により「両親ともに医療従事者の子に限り保育所は預かる」などの特例措置あり)
  • 公的文化施設休館、宗教行事も含めた会合禁止、大規模イベント開催禁止
  • 遊興施設や子供の遊び場閉鎖、飲食店・スポーツ施設・サウナ・マッサージ施設の営業停止
  • 日常必需品以外の店舗の営業停止(スーパーマーケット、ドラッグストア、薬局、ガソリンスタンドなどは開けてよい)
  • 3人以上の接触制限(外を一緒に出歩いて良いのは、同居家族同士か、1名プラス同居していない他者1名まで)、違反の場合は罰則あり
  • ホームオフィスの奨励、病欠の際の職場への診断書提出義務の一時的撤廃
    病院への見舞目的等の訪問は1日1回最大1時間まで(個別の病院によるさらに厳しい制限もあり)

接触制限違反の罰則もその一環だが、これらの制限には確実な実行を担保するための様々な制度が同時に用意され、経済的な補償にも重点が置かれた。もともとドイツには、時短手当制度(Kurzarbeit)というものが存在する。仕事が減った雇い主が国へ申請するもので、従業員の労働時間と給与の短縮・減額を認めると共に、従業員に対して減額分の給料の60%前後を国が補償し、倒産と失業を防止する制度である。

それに加えて今回は緊急援助金(Soforthilfe)というものが用意された。これは経済的体力のない小規模自営業者を救済する策で、細かなルールは州によって異なるが、規模(従業員の人数)に応じて数段階に設定された支援金が最大3万ユーロ程度まで支給された。手続もなるべく簡略化され、私の記憶では3月末には開始していたと思う。中~大規模企業についてはこのような返済義務のない支援金手当はなかったが、その代わりに金融機関からの融資が受けやすくなるよう国がサポートするということだった。また、納税義務の期限延長や家賃滞納を理由とする解約通知の一定期間禁止も発表された。

これらの生活制限は4月半ばのイースター休暇まで続いたが、その時点で感染増加に落ち着きがみられたことから徐々に緩和が開始される運びとなった。特に5月からは全店舗の営業や学校の再開など、緩和は段階的にだが本格化することが決まった。

医療機関内の動き―デュッセルドルフ大学病院の場合―

NRW州における感染出現

前述のとおりドイツでは1月中はもちろん、2月に入っても危機感は薄かったと記憶している。ただ2月に入ってイタリア北部の村での感染爆発が報道され始めてからだんだん空気は変わってきていた。あっという間に感染爆発、病院崩壊、ロックダウンと毎日急激に悪化する現地の状況を報道で見て、ドイツも大丈夫なのだろうかと心配しながら20日から26日のカーニバルシーズンを迎えた。

カーニバルはカトリック系のイベントのようで、同じキリスト教でもプロテスタント色の強い州は行わないところが多い。しかし私のいるNRW州はカーニバルをしっかりお祝いするところで、特に24日の薔薇の月曜日は祝日である。都市の規模にもよるが、私の住むデュッセルドルフ市では大人も子供も本格的な仮装コスチュームに身を包み、警察によって安全確保された道路上を、豪華な装飾を施した大きな山車と共に練り歩くパレードが盛大に開催された。今年はあいにく強風で小雨もぱらつくような天気だったが、沿道には例年どおりたくさんの人がひしめき合って見物したものと推測される。

その翌日25日、NRW州西部、オランダとの国境に位置する1つの田舎町で感染者が出現したというニュース、さらに翌日の26日には重症化したその患者が私の勤務するデュッセルドルフ大学病院へ入院したというニュースが国内を席捲した。その患者さんは月曜日のカーニバルと、その前の週の仕事の会合に参加していたということで、その地域住民は一斉に検査を受けることになり(結果として現状国内最大のクラスターとなった)、そこからドイツ国内そして特にNRW州の人々の危機意識が急激に高まった。

連日ニュースに登場した私の勤務先は、この時点から明確にCOVID-19患者の受け入れを開始した。それまでは一般の人たちの感覚と同じくさほどの危機感もなければ体制の変化も一切行われていなかった。そしてここから怒涛の変化が始まった。

医療機関をめぐる状況

首相の演説にもあったが、国は当初から明確に「医療崩壊を防ぐために時間をかせぐ」ことを目的として行動してきた。最終的に国民の7割が感染する可能性もありうるウイルスと想定しつつ、感染の拡大をくい止めようと必死で様々な制限を行った。これは国の医療制度および医療機関に過重負担がかかるのを回避するためだった。

国から医療機関に対する働きかけとしては以下のようなものがあった。

  • 電話/ビデオ診察の奨励
  • 緊急性の低い医学的侵襲手技の延期要請
  • 人工呼吸器を備えるインテンシブベッド数の拡充要請
  • インテンシブベッドの数・占有率などの稼働状況を行政が逐次把握・コントロール
  • 人工呼吸器・マスク・防護服・消毒液・手袋などの調達・支給

電話/ビデオ診察は病院によっては既に導入しているところもあり、保険制度上も既に許容されていたが、それが急速に促進される形となった。

病院にとって最も影響が大きかったのは、緊急性の低い医学的手技の延期要請だった。連日生活制限の内容が次々と発表され世間がパニックの中、病院も診療所も患者さんに電話をかけまくって予約を強制キャンセル・延期するという対応に追われた。これは診療科や病院の規模を問わずに出された要請で、侵襲手技に伴って起こりうる感染拡大(例えば歯科診療所のエアロゾルなど)を防止すると同時に、入院用ベッドをなるべく多く確保するために急ぎでない手術等を控えさせる目的だった。

人工呼吸器が設置可能な病室はインテンシブ(集中治療室にあたる)と呼ばれ、これは大学病院をはじめとしたある程度以上の規模の設備の整った病院にしか設置されていない。このインテンシブベッドの増設も国から強く要請された。

上記の通常病床及びこのインテンシブベッドの確保には国から財政支援が実施され、ベッドを空けたら1床あたり1日560ユーロ、インテンシブベッドを新規増設したら1床につき5万ユーロの支給が行われた。予定されていた手技の中止を余儀なくされる病院にとってはそれでも赤字となるため、経営危機に陥った民間病院も報告された。

今回のコロナ危機からは、インテンシブベッドの数が行政により詳細に把握されコントロールされるようになった。感染第一波のピークを超えた4月までは夕方のテレビニュースでも毎日国内のインテンシブベッドの稼働状況が報道された。今でもインターネットサイトやアプリ上では詳細な情報を見ることができ、州どころかその中の地区ごと、さらには各病院のインテンシブベッドの稼働数やそのうちのCOVID-19症例数などが最新の状態で確認できる【図表7】。

図表7
ドイツ各地のインテンシブベッドの使用状況(Berliner Morgenpost誌)
ドイツ各地のインテンシブベッドの使用状況の表示例を示す。各地域の状況が色別に示され、クリックすれば病院ごとの詳細なインテンシブベッドの使用状況も確認できる。本図表には例として5月17日現在の当院のインテンシブ使用状況を表示している。

インテンシブベッドは、全国総数としてはピーク時には4万超床が設置され、稼働率は最大65%ほどだったと記憶している。とはいえ前述のように国内の感染者の分布には偏りがあったため、平均としては65%前後であっても、地域や病院ごとでみれば満床で余裕が全くない状況に陥った場所ももちろん存在した。余裕のある地域はやがて隣国のフランスやイタリアからCOVID-19の重症患者を受け入れたりしていた。当院でも、オランダからの患者を複数名インテンシブに受け入れた。5月半ば現在は、全国総数が3万超床まで減少したが、依然として50~70%の稼働率である。感染者数の多い3州はもともと人口も病院も多いため、インテンシブベッドの稼働率が突出して高いこともなくなっている。

これまでのところ、国内で人工呼吸器つまりインテンシブベッドの不足という事態には陥らずにはきているが、防護装備の不足はいくつか見られたようである。とはいえ私の勤務先ではそのような話は聞かなかったし、一時的なものはさておき、国内でインテンシブベッドを擁する病院での深刻な防護装備不足は、おそらくほとんどなかったものと推測される。

防護装備不足が最も深刻だったのはおそらく介護施設ではないだろうか。COVID-19に対して高リスクの高齢者を多数預かり濃厚接触を避けられない環境にも関わらず、マスクも手袋も足りないというニュースを耳にした。集団感染が実際に起こってしまった介護施設も複数あった。

また病院といってもCOVID-19の治療に関わらない小規模の診療所には、必ずしも防護装備がきちんと行き渡っていなかったようで、歯科医師の団体から防護装備を求める訴えが報道されていた。また生活制限緩和に伴って病欠の診断書提出義務が再開される際には、開業医からの抗議が相次いだというニュースもあった。生活制限がほぼ解除されつつある現在は、一般のドラッグストアなどでも欠品がかなり解消されてきたので、小さな診療所や介護施設にもだいぶ行き渡ってきているものと推測する。

私の勤務先大学病院の場合

前述のとおり、私の勤務する病院は、2月末からのドイツにおけるコロナパンデミックのスタートを経験した当事者の1つであった。とはいえ、実はその後の感染者の受け入れ数は、幸い危惧していたほどに至らなかった。したがって不整脈が専門の循環器内科医である私は、この感染の第一波においてはCOVID-19治療の最前線に関与することはなかったが、院内のドラスティックな変化にさらされ、日常は激変した。

もともと院内には有事の際の対策委員会のような組織 (KEL,  Krankenhauseinsatzleitung) が存在しており、正直それまではほとんど存在を感じることはなかった。しかし今回のコロナパンデミックにおいては統括部門として中心的に機能した。通常この大学病院は組織として大きく2つ(内科系 konservativと外科系 invasiv)に分かれ、それぞれ独自に動いていた。今回、対策委員会のような組織がそれを統括し、院内全体で統一したCOVID-19の取扱が実現した。

2月まで国全体で危機感が薄かった影響で、病院も最初から準備万端でCOVID-19患者を受け入れたとはいいがたかった。しかし政治同様に強力なリーダーシップと実行力が発揮され、特に3月13日以降は毎日すさまじいスピードで様々な決定が下り、直ちに実行に移された。上述の医療機関に対する国・行政からの要請についてはもれなく、それ以外にも院内の細かな取り決めや自分の業務に至るまで、状況は毎日めまぐるしく変化した。

当時の記憶が今となってはちょっと定かでない部分もあるが、覚えている限りの出来事を書き留めてみる。

  • 2月26日:
    • 最初の患者が入院、大々的に報道
      • 報道の影響で、コロナウイルスのいる病院には行きたくないという患者からの予約キャンセルが、一定数みられた。2月中に多かったが、3月に入ってからも時々あった。診療科によっても異なるだろうが、循環器内科は外来及び予定カテのキャンセルがパラパラみられた程度だった。
  • 3月上旬まで:
    • 学会をはじめとした学術イベントが中止/延期、出張を制限する通知
      • もともと学会や学術イベントの多くなる時期だが、次々と開催が延期やキャンセルとなった。それ以外にも、内規レベルだが、出張は本当にやむを得ないものに限定するようにという達しが出た。
  • 3月13日以降:
    • 緊急性の低い手術・カテーテルアブレーションのキャンセル/延期
      • 当院では3月16日からこの措置は開始した。病院本部からの要請は「通常リソースの4割をCOVID-19用に、残りの6割を緊急症例のみに振分けよ」という内容だったが、これは各診療科の特性により実現内容に多少のずれはあった。循環器内科として直近2週間の全予定症例を直ちに検討した結果、延期・キャンセルが可能な症例は外来50-60%、手技20-30%程度と判断され、延期・キャンセル症例に該当する患者さんへは直ちに連絡が行われた。この措置は感染拡大状況を見ながら1週間単位で延長され、4月半ばのイースター休暇まで実施した。トータルでみると患者側からのキャンセルもそれなりにあったが、もともと予期できない緊急症例も多いため、結果的には外来は80%、手技は20%の抑制というのが実感である。
    • 病棟の再編成(COVID-19病棟とnon COVID-19病棟の振分け)
      • 当院の感染症科にはエボラ出血熱患者対応用の施設が備わっているが、呼吸管理の面からはECMOを有する外科系インテンシブの方がCOVID-19の治療に適すると考えられ、最初の入院患者さんも外科系インテンシブへ収容された。ここは混合病棟にはなるが、構造上COVID-19領域とそれ以外の領域に明確に隔離することが可能である。インテンシブはそれまで内科系と外科系の2つに分かれ、それぞれ独自に管理されていたが、病院全体として統一されたCOVID-19治療とベッドの管理を行うため、新たな病棟管理プランが、構造・設備・スタッフの専門性を考慮しながら立てられた。
      • この病棟管理プランは感染者数の増加による3つの危機段階に分けて考えられており、3月17日の最初のプラン発表後も、状況をみながら何回か修正とアップデートを加えて改良された。結果として今回の感染第一波では、この病棟プランは想定患者数が最も少ない第1段階目プラスアルファの実行にとどまった。
      • プランの概要としては、第1段階目はCOVID-19の最重症患者の収容先としてECMOと人工呼吸器を装備する外科系インテンシブ2つ(どちらもCOVID-19/nonCOVID-19混合病棟だが、エリアを明確に区切る)、その下の重症患者収容先として感染症科管理の内科系準インテンシブ(人工呼吸器設置も可能)1つ、その下のCOVID-19一般病棟として感染症科管理の内科系普通病棟1つが決定された。
      • これで足りなくなった場合の2段階目として、人工呼吸器を備える病棟をプラス2、一般病棟としてプラス1が具体的にプランされていたが、実際には人工呼吸器完備病棟が1つ追加稼働しただけ(しかも1週間で閉鎖し、通常の使用に戻した)で、他は一切COVID-19病棟として使うに至らなかった。もっとCOVID-19患者数が増えたときの3段階目として、人工呼吸器装備病棟をさらにプラス1(ECMOも設置が可能)、一般病棟をさらにプラス1とプランされていたが、もちろん稼働には至っていない。
      • 現在は、第一段階の内容からさらに縮小されている。COVID-19一般病棟の使用は終了し、最重症用2つ(部分的)と重症用1つのみが稼働して、その重症用が一般病棟も兼ねて使われている。
    • 救急受け入れとその後の患者取り扱いのワークフロー
      • 3月半ばには救急外来入口の外にテントが設置され、来院した患者にまず問診を行いCOVID-19疑いの有無で振分けるようになった【図表8】。心疾患はCOVID-19に対する高リスク要因に該当するため、循環器内科ではそれ以前から受診患者の取り扱い手順に関して独自で内規を設けてCOVID-19の隔離を行っていた。最終的には循環器内科で使っていたチェックリストにいくつか追加事項を加えたものが、救急外来での問診リストとして採用された。
    • ベッド管理
      • この大学病院においては、もともとMPO (Medizinische Prozessorganisation)という組織が(おそらく主に外科系の)インテンシブのベッド数を把握していたようである。今回のCOVID-19の非常事態からは、内科系のインテンシブベッド数も合わせて管理するようになった。管理態様もこれまでとは違う積極的なコントロールで、例えば患者をインテンシブに受け入れる際には、COVID-19であってもなくても、事前にMPOの許可が必要となった(緊急症例は除く)。MPOは行政と緊密に連携し、ひいては州・国がベッド稼働状況を把握していたと思われる。デュッセルドルフ市からは毎日、地域の近隣病院の詳細なベッド稼働状況がメールで報告されてきていた。
    • ミーティング制限、ホームオフィス・テレワークの導入、院内への立ち入り制限
      • 一般の接触制限(3人以上の集会禁止)に伴い、院内にも変化があった。
      • 3月16日以降、外出制限が緩和された5月まで、大学病院の事務系の部門は全員オームオフィスとなった。研究職の者はやむを得ない実験や操作は続行しても良いが、必要最低限にとどめ、大学に来る機会と時間をなるべく減らすようにと指示された。
      • 事務系ではない部門や従業員も、会議は必要最低限の機会と人数で、それぞれ1.5メートル以上の間隔を開けて集まることとされた。それまでは患者と接するときのみマスク着用義務があったが、同僚同士のコミュニケーション時にもマスクを着用することになった。並行して3月下旬に急ピッチで電話会議・ビデオ会議のシステムが導入・整備されたので、循環器内科の朝カンファも、最初は人数をかなり絞って1.5メートル間隔で集まっていたが、やがて通常のチーム全員による電話/ビデオ会議を行うようになった。
      • また、2-3月がもともと休暇シーズンだった影響で、3月半ばに国境が封鎖されるまでの間に旅行に出かけた従業員は相当数おり、休暇中の感染もしくは濃厚接触による自主隔離に入った従業員が、院内でも数名報告された(出勤はしていない)。そのような状況を受け、一従業員の感染で部門全員が勤務不能になるという事態を防ぐため、チームを2つに分けて行動させるという策も(可能な場合は)奨励された。例えば検査部が実際にその策をとったので、受注許容量が通常の半分となっていた。
      • 国からの要請では、入院患者の見舞は1人1日1回最大1時間とされていたが、この大学病院では、お見舞いを含む一般の人の立ち入りが一切禁止された【図表9】。COVID-19でない重篤の患者さんでも例外はなく、最期の瞬間を家族でも見守ることが許されず、医師から見てもかなりつらい規則ではあった。5月半ば現在も、解除の議論は始まっているがいまだ継続中である。
図表8
救急外来入口前に設置されたCOVID-19スクリーニング用テント
救急外来内部での感染を防ぐ目的で、救急外来前にスクリーニング用テントが設置された(著者撮影)。
図表9
院内立ち入り禁止の張り紙
付き添いや見舞いでの患者以外の院内への立ち入りが禁止された(著者撮影)。医療関係業者も例外ではなかった。

今後の見通しと課題

再生産数と再制限の可能性

政府による迅速な処置が功を奏したのか、4月半ばのイースター休暇の頃には感染者数の増加傾向がだいぶ落ち着き始め、生活制限の緩和プランが議論されるようになった。私の勤務先でもイースター休暇明けから通常業務の再開方法が議論され始め、循環器内科は強制的な予約延期をなるべく行わないようにした。また延期した外来・手技の再プランニングを始めた。5月からは本格的に生活制限が緩和され、病院においても通常業務がほぼ全面的に再開し、我々も延期した症例に精力的に対応する日々である。

政府や研究機関は、急激な生活の再開は感染拡大を再燃させると危惧し、段階的な制限緩和を目指していて、メルケル首相は緩和を知らせる演説の中で、「再生産数 Reproduktionszahl」を用いて説明した【図表10】。

図表10
7日単位での再生産数(ドイツ、ロベルト・コッホ研究所)
7日単位での再生産数のグラフを示す(ロベルト・コッホ研究所のデータから筆者が作成)。政府が外出制限を3月中旬に要請して以降急激に低下し1以下を保っている。1日単位で算出された再生産数は1を超えた日も見られた。外出制限が緩和され始めた4月下旬以降は緩やかに上昇している傾向があり、今後の推移を注視する必要がある。

今回制限緩和が決定されたのは、この指数が継続して1を下回ったからである。もし再びこれが1.1に上昇すれば、すなわち10月に、1.2なら7月に、1.3なら6月にドイツの医療システムが崩壊するということであった。ところが5月4日の本格的な緩和開始から1週間、はやくも1.1(5/9)そして1.13(5/11)という数字が報告されており、今後の推移を注視する必要がある。一定以上の新規感染が確認された場合、緊急ブレーキ制度が発動される可能性があり、市民の生活そして病院の業務はいつまたガラリと変わるかわからない状況にある。

医療機関の今後

感染の第一波を乗り越えたとはいえ、有効な治療薬や予防接種はまだ確立されていない。生活制限は解除されたとしても、病院は本当の意味でコロナパンデミック前の業務状態に戻ることはできない。ウイルスに対する医学的な解決が実現されるまでの間、継続して患者の分別・隔離・治療にリソースを割き続けなければならない。感染第1波のベッドコントロールが原因で経営難に陥った病院にはさらに厳しく、今後も感染の第2、3波が来るとすればどのようにして医療機関そのものを維持していくかという問題にもなりかねない。

デュッセルドルフ大学病院については、通常業務をかなり絞って病院全体としてCOVID-19患者待ち受け態勢を取っていた4月までは、結果的に感染患者が少なかったことも幸いしPCR検査のための物的・人的リソースはそれほど問題とならなかった。しかし、各科で通常業務が再開され、来院・入院する人の数が元に戻ろうとしている今、院内感染を防止するために来院者、特に侵襲手技を予定する患者全員に事前のPCR検査を行うとなると、その分のリソースは診療科によっては大きな負担となる。循環器内科は侵襲的手技を中心的に行うため、PCR検査を行わなくてはならない患者数は非常に多く、ただでさえ人手不足の現場には厳しい。しかしながら検査をしないわけにもいかず、できることなら手軽に瞬時にその場でチェックできる、しかも精度の高い検査キットの開発が非常に望まれる。

また当大学病院では現在、敷地内に急ごしらえのCOVID-19専用のインテンシブ及び準インテンシブ病棟を建築する計画が持ち上がっている。既に州への予算申請は許可され、現在は建築上の許可を待っているということである。予定敷地は救急入口の近くに隣接する駐車場で、ユニット式の工法で非常に速く建設できるらしい。これができても、既存の病棟内の警戒度をただちに下げて良いということにはならないだろうが、検査や消毒を徹底すれば院内感染のリスクは低下する。COVID-19の重症患者をここに集めて治療すれば効率的で、もともとあったインテンシブも本来の許容量で稼働できるので、様々な面で負担軽減にはつながる。