日本医師会 COVID-19有識者会議
教育

COVID-19時代の地域医療学教育

小谷 和彦自治医科大学 地域医療学センター地域医療学部門 教授
松村 正巳自治医科大学 地域医療学センター総合診療部門 センター長・教授
COI:なし
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • COVID-19対策として、地域の病院や診療所での実習は、全国的に縮小、もしくは中止する事態に及んだ。
  • 実習のできない間はメディア講義を実施するが、メディア講義で学修の可能な項目と、限界のある項目とに分けて、地域実習を再考する必要がある。
  • 地域実習の現場において学修可能な項目として、地域で求められる総合的な診療能力、立地環境や文化のような地域特性に関連すること、介護福祉系のケアや多職種協働などが挙げられる。
  • 感染症診療における連携体制や、総合診療医の役割など、地域での感染制御についても地域医療学教育にとり入れる必要がある。今後の役割が期待されるオンライン診療についても学ぶ必要がある。
  • COVID-19に配慮して、地域実習の再開を検討する必要がある。

はじめに

国内外における新型コロナウイルス感染症(Novel Coronavirus Disease 2019:COVID-19)の流行は、‘世の中’を変える影響を持った。医学教育も例外ではない[1]

地域医療学教育の主軸である、地域の病院や診療所での実習は、縮小、もしくは中止する事態となった。COVID-19の流行と地域医療学教育の現状について、地域実習の担当指導医の声を集めた調査結果を交えて紹介する。

地域医療学教育の現状

現在、わが国の地域においては、医師確保や医師偏在が課題となっている。一般に、医学生が地域医療の現場を体験することは、将来的に地域医療の参加につながると期待されている。また、医学教育モデル・コア・カリキュラムでは、「多様なニーズに対応できる医師の養成」をキャッチフレーズにして、総合的な実践能力を学修するカリキュラムが推奨されている。地域医療現場での実習は、このカリキュラムの一角を占める。このような地域医療学教育を推進する動向を受けて、学部教育では大学内での地域医療学の座学に加えて、大学外、すなわち地域医療の実践施設に赴いての早期体験実習や臨床実習が広く行われるようになった。

地域医療の実践施設の選定や実習の内容は、大学ごとに異なる。自治医科大学では、早くから地域実習に取り組んできた。医学生が、地域の中核となる病院(研修指定レベルの病院を含む)から、プライマリ・ケアを担う診療所や中小病院(へき地や離島での施設を含む)まで体験できるように施設を選定している。実習は、病院や診療所における総合診療を志向した内容とし、その学修には相応の時間が当てられている。

2020年度はこの実習を地域で実施するのに困難を極めた。COVID-19対策として、実習施設での医学生への感染、あるいは医学生が感染源となる可能性の回避が重視される。医学生自身は、感染に対する不安と実習の縮小・中止に対する当惑のジレンマを抱えることになった

実習を担当する指導医の一部からは、地域医療の最前線の現場に関わることが実習の意義である以上、安易な実習の縮小・中止を容認できないとする意見も流行初期には提出されたが、次第に、学生を感染から守ることと同様に、地域住民を守ること[2]を考慮すべきという意見が多くなった。

地域実習の現場ならではの学修項目

COVID-19対策下で、遠隔でのメディア講義が医学教育に導入され始めた[1]。その講義は、オンラインによる同期型やオンデマンド式の非同期型で、創意工夫をもって実施されている。教育工学や情報学の分野においてはよく知られてきたことかもしれないが、こうしたメディア講義には、教室(オンサイト)での座学対面講義と比べて、メリットも多い[1]。

地域医療学教育も、実施体制や方法を含めて、「新たな教育様式」を考案する必要に迫られた。知識の伝達や技術の提示を主体とする学修項目は、確かに遠隔のメディア講義で代替できる。地域実習の学修項目の見直しのポイントは、項目の「代替可能性」である。すなわち、地域実習でこそ学べる、または実習でしか学修できない項目は何であるかについての再考にある。

自治医科大学は、各都道府県で地域実習を行っており、全国に実習の担当指導医を擁している。2020年7月に、本指導医集団に対して、アンケート調査で、地域実習の現場「ならでは」、すなわちメディア講義で代替不可能と考えられる学修項目を問うた。この結果を【図表1】に示す。

図表1
地域実習の現場ならではの学修項目
複数回答あり

最多は、診療の一部に関する項目であった。例えば、幅広い受診理由に対する守備範囲(common diseaseの診断と治療、専門性の高い医療に委ねるべき疾患の見極め)、救急のような臨場感ある状況での判断や患者搬送の流れ、触覚を使うような手技、多様な価値観を持つ患者と情報を共有する対話やコミュニケーション術、臨床に臨む態度や姿勢が挙げられた。

次いで多かったのは、地域特性に関する項目であった。例えば、医療施設の立地や取り巻く環境(交通、離島、産業)、食文化や方言のような文化人類学的要素、地域住民との医療の関係性(住民との距離感、まちづくりへのアプローチ方法、住民の医療観)が挙げられた。

続いて、病院や診療所の外でのケアに関する項目が多かった。介護福祉職の仕事、在宅ケアの複雑事案(アドバンス・ケア・プランニングを含む)への対応、介護者である家族の役割への洞察などだった。医療施設内での、あるいは医療施設-医師会-保健行政機関-介護福祉系施設間での多職種協働も少なからず指摘された。さらに、地域医療従事者としての自覚や感性の涵養、また職場マネージメントについても、少数だが挙げられた。

以上のように、地域実習の担当指導医がメディア講義で完全には代替できないと考えている学修項目がハイライトされた。地域で求められる総合的な臨床能力の形成や、介護福祉系のケアや多職種による協働は、必ずしも言語化されていないため、off-the-jobでは学修できないとされるのは、大いにうなずける。「地域社会と医療のつながり」を意識した「地域志向的医療」[3]は、地域医療に特異的な実践として上位だったことも特筆される。地域医療の実践される立地環境は、その場所に行って初めて体感できるというわけである。

代替制限のある学修項目への対応

メディア講義の学修項目に関しては、いくつか代替に制限がある項目が判明した。その一方で、地域実習の今後の継続と発展を考えて、対応できる余地について考えてみたい

診療に関して、先の全国アンケート調査の中には、仮想症例でのメディア講義では一般的なケースの提示に留まりがちになるとする意見があった。大病院への受診になかなか至らない事例、例えばあまり医学的ではない些細な悩み事を有するケースや、家族背景が複雑で民生委員が連れて受診するようなケースに出会うのは、プライマリ・ケア設定における現実である。バリエーションに富んだ事例を収集し、教育資材をさらに蓄積する必要がある。

また、メディア講義では、医学生は基本的に受け身になり、自発性を失いやすい。事例の提示をもとに、担当指導医と臨機応変なフリーディスカッションをしたり、適時のフィードバックを受けたりする機会に乏しい。雑談のように思える中に、臨床の金言が含まれていることもある。担当指導医からの問いかけを受けて自ら考えることで学修も深まる。双方向性のあるオンライン方式を意識的に採り入れる必要がある。

多職種協働[4]を考える際に、最近、専門的な知識や技術であるテクニカルスキルとともに、ノンテクニカルスキルの修得の重要性が指摘されている。ノンテクニカルスキルは、コミュニケーション、チームワーク(チームビルディング)、リーダーシップ、デシジョンメイキングなどを包含する概念であり、多職種による営為のレベルの向上に必須である。オンライン方式やチャット方式による意見交換を伴うチーム主体学修(team based learning)をさらに積極的に採り入れることも必要である。

地域特性や職場環境に関する対応はどうであろうか。旅行制限のある今日、ドローンのような技術を用いて景観や人物を映し出すvirtual観光も見受けられる。写真や映像、あるいはシミュレーション技術を駆使したvirtual hospital/clinic、virtual communityのような試みも考えられる

加えるべき学修項目

地域実習に新たに加えるべき学修項目のあることも明らかとなった。低学年時から感染症に対する標準予防策の修得に努め、地域医療学教育には、特に地域での感染制御の内容について含めることが考慮される。実習施設内に留まらず、施設の存立する地域内、あるいはその地域を含めた都道府県~二次医療圏レベルでの感染制御の体制づくりについて、医学生と担当指導医で検討することは新たな学修項目となり得る。地域内の医療資源の配置と連携、地域医療構想、地域社会の医療と経済のバランス考のような内容を含めることもできる。地域では多様な問題が重複することもあり得る。台風や豪雨、震災のような自然災害時の医療についても併せて検討することは一案である。

新興感染症の診療への参画は、総合診療医像の検討に一役買うであろう。地域の流行状況や診療設定に応じて、現場の前線に立つこと、受診者の相談に乗ること、地域住民への啓発に当たること、また行政、医師会、感染症専門医と連携して体制づくりの調整に当たることなどの様々な役割が想定される。

地域包括ケアレベルの慢性期疾患の医療を、急性感染症の医療と並行して継続することも、またとり上げるべき学修項目である。この中で、オンライン診療についてもその項目に含まれる[5]。

いずれにしても地域医療の実践には、柔軟な心構えと対応力が欠かせない。時々刻々と変わる状況をよく眺めて、忍耐と寛容の精神をもって体制や診療を構築する姿勢と活動を、医学生に伝え、共に学修していきたい。

地域実習の再開

今後の地域医療学教育、特に地域実習の再開に関する指針やガイドラインを求める声が出ている。先の全国アンケート調査の中で、地域実習の再開要件について問うた。その結果を【図表2】に示す。

地域での感染の収束ワクチン接種2週間前の行動制限標準予防策の修得社会規制(地域間移動、特に都道府県を跨いだ移動の制限)の解除検査での感染の陰性証明地域の患者や住民の理解体調の管理(観察)受け入れる医療施設の方針(例えば、分散式の実習)の順に多く見られた。この他にごく少数であるが、学生用個人防護具の配給を求める意見や、感染の多い地域の実習を感染の少ない地域で引き受ける広域互助実習の提案もあった。

自治医科大学では、医学生は、基本的に2週間クールで大学附属病院の各診療科をローテーションして臨床実習を行う。この間に地域実習が入る。地域実習に引き続いて病院の臨床実習を行う場合には、地域実習後に検査の陰性証明や、2週間程度の体調の観察をすべきという意見も見られた。

図表2
地域実習の再開要件
複数回答あり

おわりに

COVID-19 によって地域医療学教育もまた再考する時期にある。今後、対面教育ばかりでなく、非対面教育の割合も増すと予想される。しかし、地域医療特有の診療やケア、あるいは地域特性のような地域実習でないと学修できない項目も多い。さらに、地域での感染制御のように、新たな項目もある。地域で行う実習の代替としては、現場を彷彿とさせる教材の作成や、現場とインタラクティブにやりとりできる教育方式を採用するなどが考えられる。また実習の再開に向けての要件など、さまざまな検討が求められる。

[引用文献]
  1. 岡崎仁昭,淺田義和,松山泰.コロナ時代のオンライン医学教育
  2. Kotani K,Manabe T.Special considerations in the management of COVID-19 in rural and remote areas. Singapore Med J.2020 [published online ahead of print].
  3. Kelly L,Walters L,Rosenthal D.Community-based medical education: is success a result of meaningful personal learning experiences? Educ Health.2014;27(1):47-50.
  4. 小谷和彦,小池創一,松村正巳.地域医療における多職種連携.日本内科学会雑誌.2018;107(11):2294-2300.
  5. 武藤正樹.新型コロナとオンライン診療.保険診療.2020;75(6):72-73.