注:この記事は、有識者個人の意見です。COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
- 2020年1月末からの日本におけるCOVID-19の急速な拡大は、世界的パンデミックの一環として進んでいった。対処法が見えないこの未知のウイルス感染症に対して、関東学生ゴルフ連盟は独自の感染対策ガイドラインを作成し、2020年10月からの学生ゴルフ競技運用に踏み切った。
- トリプルガードシステム(感染者を保有しない・感染者を持ち込まない・感染者を発生させない)の概念で作成された感染対策ガイドラインには、SARS-CoV-2に感染しない・感染させないための知識と理論的な対策が示された。
- このガイドラインを基に、「関東学連主催の学生ゴルフ競技会が感染拡大に一切寄与しない」という目標を掲げて2020年秋の競技会運営を行い、競技会場への感染者侵入を一切認めないという結果を得た。
- この結果を踏まえて2021年度競技会へ向けてさらに進んだ第2版が作成され、2021年9月までの計35試合(のべ2933人の選手参加)において、感染者侵入0を達成した。
- COVID-19感染拡大第3~5波の中に行われた関東学生ゴルフ連盟主催競技において、競技開催という利益のみを追求するのではなく、「関東学連主催の学生ゴルフ競技会が感染拡大に一切寄与しない」という目標を達成し、参加者の安全を保障し、公共の福祉へも大きく貢献した。
背景
2019年秋から冬にかけて中国湖北省武漢を中心に原因不明の感染症の流行が報告された。すぐにそれが従来株と異なる新型コロナウイルスが原因であり、SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)原因ウイルス(SARS-CoV : SARS Corona Virus)と相同性が高いウイルスであることが分かり[1]【図1】、SARS-CoV-2と命名され、その感染症を略してCOVID-19(Corna Virus Disease-2019)と呼ばれるようになった。
図1 |
SARS-CoVとSARS-CoV2の特徴の比較 |
Hoffmann-M et al Cell 181, 271-280, 2020 より引用改変 |
本邦では、2020年1月末に来航した客船ダイヤモンド・プリンセス号内での感染拡大によりSARS-CoV-2上陸が広く知れ渡るようになったのである。翌年2月には国内感染伝播が拡大するものの、充分な検査・診断・診療体制は存在せず、その患者数実態把握は極めて制限されたものであった。こういった未曾有の緊急事態において、日本の医療体制および近年もてはやされたEBM(evidence based medicine)を基盤とする医療は、ある意味機能不全に陥っていったと言っても過言ではない。しかしこれは日本に限らず欧米諸国でも後手に回り、各国の苦肉のロックダウン政策を見るに至った。本邦でも周知のように2020年4月7日から東京都を含む7都府県に、そして16日には対象を全国にして第1回(当時は最初で最後のような風潮すらあった)緊急事態宣言が発せられるに至った訳である【図2】。
図2 |
感染蔓延状況(東京都) |
関東学生ゴルフ連盟競技会開催時期と東京都におけるCOVID-19感染状況を示す。 |
東京都SARS-CoV2陽性者データ(保健所報告分)東京都福祉保健局ホームページ公開データより引用https://catalog.data.metro.tokyo.lg.jp/dataset/t000010d0000000093 |
これにより、経済活動の多くがストップし、そして対面授業を基本とする学校教育は大きく立ち遅れることになった。当時、大学の多くが休校状態となり、課外活動はほぼ全て停止に至った。学生の本分は学業であるが、課外活動も学業の一環として極めて重要であり、その中の1つであるスポーツを介しての学びは、学業とは違った形で一般社会活動を学ぶ重要な機会を与えてくれるものである。そしてこの時期の経験というものは、人間の発達過程・人格形成の上でも、そして人生を通じての友人といったかけがいのないものを与えてくれる。関東学生ゴルフ連盟(関東学連)では、この社会状況に倣い自粛的にシーズン初めの2020年4月の競技はすべて中止を余儀なくされた。しかし、2020年4月7日からの1回目の緊急事態宣言下、COVID-19制御方法が見えない中において、ただ社会の流れに従うのではなく今後の長期的展望を早々に打ち立てるに至った。すなわち、‟With SARS-CoV-2”こそが長期展望の核となる概念であり、それを基軸として「COVID-19蔓延下においてどのようにして社会貢献につながる学生ゴルフ競技を安全に行っていくか」に関しての議論を行った。
1.With SARS-CoV-2としてのCOVID-19感染対策ガイドライン作成
第1回緊急事態宣言下、まず、2020年のすべての競技は中止となることをスタートラインとして念頭に置いた。その上で今後の競技再開の可能性を検討することとなった。再開のためには、感染状況の今後の見通しが必要であった。まずは5月、理事である一人の医師を中心に感染対策委員会を結成し、COVID-19の感染対策案の構築を開始した。そのなかでまず行ったことは、COVID-19関連の論文のエッセンス、特に、身近なダイヤモンド・プリンセス号感染事案に関する自衛隊中央病院からの報告[2](2020年3月当時はその概要は自衛隊中央病院ホームページに掲示された)を例にSARS-CoV-2の特徴とその感染様式に関する理解をこの感染対策委員会の中で深めることであった。当時、感染伝播予防(感染予防)・治療に関しては、具体的な方法は人と人との接触をなくす以外にはなく、治療法自体は手探り状態であり、抗ウイルス薬といった治療薬の実用化やワクチン開発の見込みは全くと言っていいほど立っていない状況であった。
1.1 感染対策ガイドラインの目標の設定
こういった状況下、COVID-19感染対策ガイドラインを作成するという作業に入ったが、「その目標をどこに設定するか?」を考えねばならなかった。加盟員すべての感染を予防するのか?これは社会的・全世界的な感染予防とほぼ同義と考えられ、早々に不可能かつ関東学連の管轄を超えると結論した。それでは、何が達成できれば学連主催での学生ゴルフ競技継続が、科学的・社会的に容認できるほどの安全性をもって行えるか(公共の福祉に反しない)について考えることとした。これは、比較的容易に結論を出すことができた。すなわち、「学連主催の学生ゴルフ競技会が社会の感染拡大に一切寄与しない」ということである。言葉を変えると、「競技会場に感染者が存在したという事実がない」ということを達成すれば、「この催しが感染拡大に一切寄与していない」、すなわち学連の責任は社会的に果たされたということになる。これは実現の可能性があると考えられた。
1.2 感染対策ガイドラインにおけるSARS-CoV2の感染様式についての理解の重要性
それでは、競技会で感染者を出さずに安全に行うためには何が必要か?これを考える上で最も重要なのは、医学の基本である。すなわち、病態を正確に理解して、根本の病因・原因(この場合SARS-CoV-2の特性)を突き止め、科学的な対策を行うということである。そして重要であるのは「当事者、つまり患者(この場合は学生を含む競技に直接関与する人)自身が正しく病気(この場合COVID-19)を理解して病気に正しく立ち向かうこと」である。競技に置き換えると、当事者が正しい理解のもとで正しく運用するということである。この点は、学生のゴルフ競技が学生の教育の場であるという均一の利益相反(COI: conflict of interest)しかないため、一般社会で見られるような経済的などなどの様々なCOIが存在する場合と異なり、COVID-19感染対策に集中できるという部分では、かなり有利な状況と判断した。
感染対策ガイドラインの目次を【表1】に示す。関東学連加盟員に理解を促すために、このガイドラインでは具体的な対策を示す前にまずはSARS-CoV2の感染様式の特徴に関して科学的記述を平易な表現で行っている。
表1 |
感染対策ガイドライン目次 |
関東学生ゴルフ連盟感染対策ガイドライン第1版における具体的な感染対策内容の部分の目次を示す。 |
ウイルスは生物ではなく、そのウイルスに特異的な受容体を持った細胞にのみ侵入・感染して、その細胞内の物質を用いて増殖することで存在し続ける。そして、ウイルスは細胞で増殖しない限り、大体は2~3日程度で消滅する。SARS-CoV2は、ACE-2(angiotensin-converting enzyme 2)という細胞表面に存在する生体にとって重要な酵素を介して細胞内に侵入する【図1】【図3】。そして、人体においてこのウイルス進入に必要な酵素は【図3】に示すような臓器・細胞に広く存在する[3]。しかし、そういった臓器へ到達するためには、人体への入り口を介する必要があり、それが目・鼻・口なのである。そして、ここに肛門を加えるとSARS-CoV-2の主な出口も見えてくる。皮膚については汗腺が入り口となりそうだが報告はなく、入り口としての機能はしないと考えられる。すなわち、皮膚につくだけでは感染は成立せず皮膚に付いたウイルスを手で顔(目・鼻・口)に運ぶという操作が感染を成立させると解説した。
図3 |
COVID-19原因ウイルスSARS-CoV-2の感染様式と感染する臓器 |
図右に示すようにSARS-CoV-2はその表面のスパイク部分がTMPRSS2という酵素で修飾されてACE2に結合して細胞内に侵入し増殖する。 |
2021年4月 関東学生ゴルフ連盟感染症ガイドラインWeb説明会資料 より引用改変 |
つまり日常では、「入り口(目・鼻・口)をブロックすれば感染せず、出口(+肛門)からの喀出・排泄に気をつければ、日常生活では感染拡大に寄与しない」となる。この単純な概念により、日常の生活を含め感染しない・させないための方法を述べ、そして、感染リスクの高い状況・場所などを解説して注意を促していった。
1.3 感染対策ガイドラインにおける「感染しない・させない」の基本的概念・方法
前述した考え方から、感染しない・させないための基本的な概念・方法に関して、関東学生ゴルフ連盟COVID-19感染対策ガイドラインでは、非常に簡単にその方法を述べている。すなわち、「ウイルスを浴びない・浴びせない、手で顔を触らない・人に触れない」である。そのための具体的な方法を競技に関わる状況下で細かに述べているが、このシンプルな概念があれば日常の種々の局面での応用も利くのである。
1.4 病態の理解から具体的な感染対策「トリプルガードシステム」の作成へ
以上、感染対策の総論的な概念を打ち出した。次は、感染対策ガイドラインにおいて、目標である「学連主催の学生ゴルフ競技会が感染拡大に一切寄与しない」を達成するための‟具体的な”感染対策を作成することになる。
そこで考案したのが、感染予防3原則(トリプルガードシステム)という考え方である【表2】。ウイルス感染を防ぐというのは、ある意味放射線被爆予防に類似している。放射線を浴びても線量が多くなければ、その場では浴びたことすら気づかずそしてその障害は多くが後日顕在化してくる。そして、被爆予防には線源下・放射線下にいた状況「時間・距離・遮蔽」の度合いが重要であり、感染においても非常に似た側面がある。そこで、教育的意味も踏まえ、「非核三原則」に準じた3重の防御を行うことで競技会場での感染者発生を防ぐシステム「トリプルガードシステム」【表2】を作成した。本来1つ1つの対策が100%の防御をなすということが望ましいが、不可抗力的側面は排除できないともいえ、確率的に最終的に漏れを100%に近い形で防ぐという考え方で3つの防御壁で構成した。現実的な目標である「学連主催の学生ゴルフ競技会が感染拡大に一切寄与しない」という結果が得られるように、突破困難な3重の壁を作成したのである。そして、3つ目の「競技会当日に感染者を発生させない-現場において新たな感染者を作らない-」という部分には、万が一競技会に感染者が侵入したとしても、競技会という現場において「学校間の感染拡大は絶対に防ぐ」という次善策的な理念も含まれている。
表2 |
感染予防トリプルガードシステム |
1.4-1 感染部員を保有しない-日常の感染対策により感染部員を日常から発生させない-
トリプルガードの1番目、日常の注意点を解説した部分(【表3】に要点を記す)で、日常的に自然に感染防御行動がとれるよう指導している。
表3 |
トリプルガードシステム(その1)要点 |
3密に関しては別途解説【表4】し、その理解のもと、「人口密度が高い」「空気が淀む」場所・状況が危険であると説明し、その観点から日常やゴルフ場における感染リスクが高い場所や局面を解説している。そして、国民の1人として法令・公的対策に協力し、学業の一環として・学生として大学の方針を遵守して行動するという社会性を強調している。ゴルフは、長い歴史によって培われ、そのルールは他に類を見ないほどきめ細やかに理論的に整合性を以て作成され、皆そのルールのもとに競技を行うとされている。そして、その中には他人ならびにゴルフコース・倶楽部を思いやるマナーも書かれてある。その概念に背かないように、この感染ガイドラインは単に学生ゴルフ競技のために作成したのではなく、それが社会貢献することにつながるとして書かれたものであることをしっかり記載した。そして、このゴルフ理念の実現に不可欠である「自己審判」の概念に基づいて、濃厚接触の判断基準に関して説明している。すなわち、濃厚接触という概念は当事者しか判断できないということであり、保健所の判断はあくまで参考意見でしかなく、ゴルフ同様に自身が審判になって自主的に正しく濃厚感染の評価をし、適切な対処を行うことを要請した。
表4 |
3密の説明 |
1.4-2 ウイルス(感染者)を競技会に持ち込ませない-競技前14日の水際感染対策-
競技会自体の安全性確保には、この事項が最も重要である。そのために、競技直前の14日間(これはSARS-CoV-2 α株潜伏期間に当たる)における感染対策を、日常以上に強く参加選手とその関係者(特に濃厚接触が不可避な方々)に要請した。その感染対策強化内容を箇条書きしたものを【表5】に示す。特に重要であるのは、この14日間において、発熱など有症状者や感染者との濃厚接触が疑われる者は競技参加不可・競技会場来場不可とし、さらに競技直前には無症状の参加者全員(学連競技委員や役員を含む)に対してPCRもしくは抗原検査を行い、陰性を担保することとした上で、競技会参加学生については競技当日受付時に体調チェックシート【図4】の提出も要請した。この水際強化策により、有症状者はもとより無症状COVID-19罹患者が競技会会場に極力侵入しないように配慮した。
表5 |
トリプルガードシステム(その2)要点 |
図4 |
体調チェックシート |
1.4-3 競技会当日に感染者を発生させない-現場において新たな感染者を作らない-
トリプルガードの最後の砦が、競技会場で感染拡大をさせないという部分である。ガイドラインをしっかり理解して感染しないための注意をしたとしても、周りの一般の方や同居者を含め日常で濃厚接触が避けられない方々全員の感染対策が十分であるとは考えられない。このガイドラインのトリプルガードの1と2を確実に行うことで感染者が会場入りすることをほぼ完全に予防できるかもしれないが、日常生活で感染しないということの100%の保証はなく、無症状感染者が多く存在する若者では特に症状や検査で感染者侵入を完全にはブロックできないことも明白である。感染者が会場入りすることはこれだけの対策をしても予期できるため、トリプルガードその3に書かれた現場での感染対策は、感染者侵入時における(学校間)感染拡大を防ぐという次善を求めるためともいえる。
幸い、主催者(関東学連)により現場で直接的に管理ができる部分でもあるのが他の2つのガードシステムに比べて有利な点である。この3つ目の部分の感染対策基本概念は、競技会場において「自分以外の全員が感染者であったとしても自分は感染しない」「自分が感染者であったとしても他の方にウイルスを感染させない」の実践と言える。そのために、イメージしやすいように具体的な競技当日の1日の流れに沿って、感染対策を解説した【表6】。また、複数日にまたがる競技の場合、感染リスクの高い「宿泊」を伴うことが多い。この場合、宿泊は1人でのシングルルーム使用の徹底と、夕食などの目的にレストランを使用する際の注意といった具体的なハイリスク場面に関する感染対策を追記した。そして最後に、「3-7)競技終了14日後まで」【表6】における行動制限の説明とこの期間における競技関係者の感染発覚に関して、専用のフォーマットを使用しての報告を義務として要請した。
表6 |
トリプルガードシステム(その3)要点 |
2.感染対策ガイドラインを用いた競技運営の実際とその結果
【背景・目的】2020年8月13日、「大学生ゴルフ競技におけるSARS-CoV-2感染症(COVID-19)対策ガイドライン(第1版)」(以降、「KSGA感染対策ガイドライン第1版」と称する)とそのダイジェスト版を含め必要資料が関東学生ゴルフ連盟ホームページ[http://www.ksga.jp/publics/index/b679_date=2020-08/#block679]に公開され、 それまでの2020年度全試合が中止を余儀なくされていたが、秋季ブロック対抗戦はこのガイドラインを基に開催すると決定した。この開催の最も大きな目標は、「2021年度競技会へ向けてのエビデンス構築」とした。
【方法】KSGA感染ガイドライン第1版の方針に賛同し、かつ大学の承認が得られた大学ゴルフ部の参加とした。2日間競技の場合、最も感染拡大リスクとなる「宿泊」のリスクを可能な限り回避するために、1日競技として2回に分けて開催した。また、開催日は学業の遅れを考慮して日曜日としたため、2日間競技は2週にわたり日曜日に開催することになった。基本、選手と各校1名のマネージャー/監督/コーチおよび関東学連運営関係者のみの参加とし、ギャラリーは来場不可とした。
KSGA感染対策ガイドライン第1版の内容を十分加味した上で、KSGA競技委員会により男子A-Fブロック、女子A-Eブロックの対抗戦が運営された。それぞれの対抗戦での感染拡大に関しての評価を、競技会受付時に提出された事前14日間の体調チェックシート【図4】、競技2~4日前に施行した事前PCR検査(もしくは抗原検査)結果、競技終了後の報告感染者数を用いて行った。尚、参加資格上問題となる発熱などの明らかに感染が疑われる症状(【図4】の体調チェックシート参照)がある者は自動的に競技参加できないため、PCR検査は無症状者が対象となっている。KSGA事務所・PCR検査施行を担当するクリニックの指定採取所・個々の大学において、唾液サンプルを指定容器に摂取し、検査施行クリニックにてPCR検査を施行した。結果は、同クリニックから同日中もしくは翌日午前中までに関東学連担当理事にまとめて報告された。競技が2週に渡る場合であっても事前検査はその都度施行した。尚、競技会参加のためやむを得ず前日宿泊を要する場合の宿泊は、ガイドラインに沿って行動することを前提に、事前申請された場合にのみ審査の上許可した。
【結果】2日間競技を含め、男子A-Fならびに女子A-Eブロック対抗戦すべてを1日競技形式にて開催した。男子対象校46校中33校(71.7 %)および女子対象校34校中28校(82.4 %)の参加が得られた。男子不参加13校中、関東学連の方針に賛同できない(事実上方針を遵守できない)大学が最も多く9校(62.9 %)、大学の方針としての自粛が2校(15.4 %)、感染者発覚による欠場が1校(6.7 %)、その他の事情が1校(6.7 %)であった。女子不参加6校中、関東学連の方針に賛同できない(事実上方針を遵守できない)大学が最も多く3校(50.0 %)、大学の方針としての自粛が1校(16.7 %)、その他の事情が2校(33.3 %)であった。
競技参加選手(のべ)は、613名であり、運営にかかわる学連関係者やその他参加校関係者を含めた有効事前検査総数(のべ)は760件(すべてPCR検査)であった【表7】。そのうち陽性者は1名(陽性率0.1%)でありCOVID-19患者と診断され、その当該校1校が競技会欠場となった。しかしながら、この1名は発熱があったにもかかわらずPCR検査場に現れるというガイドライン規定違反を犯していた。したがって、KSGA感染対策ガイドライン第1版の規定違反がない検査対象者においては、全員陰性という結果が得られるに至った。また、競技会当日に提出された体調チェックシート数は累積参加選手数(のべ)と同じ613名分であり、SARS-CoV2感染や感染症を疑わせる異常所見を有した者は0人であった。さらに、競技後14日間追跡における感染者もしくは感染伝播に寄与した可能性のある事例の報告も認めなかった。
表7 |
競技会参加校・参加者数および事前検査の結果 |
【結論】競技会に起因する感染拡大はなしと評価でき、KSGA感染ガイドライン第1版の目標である「学連主催の学生ゴルフ競技会が感染拡大に一切寄与しない」を達成したと結論した。
【考察】競技会参加学生のべ613名に、学連運営関係者その他の参加校関係者を含めたのべ759名において、事前PCRでの陽性者は皆無であった【表7】。しかも、2日間競技においては、2週に渡り2回のPCR検査で陰性が証明されており、この2日間競技が感染拡大無しに安全に行われたことと強く示唆するものであった。また、各々の競技会初日に提出された事前14日間の体調チェックシートにおいても発熱を含む感染が疑われる参加学生も皆無という結果が得られた。さらに、競技会終了後14日間で感染が発覚した者や感染拡大に関与した可能性のある者(例えば無症状感染者として他人に感染伝播した者)も皆無であった。
以上から、KSGA感染対策ガイドライン第1版を遵守することにより、「感染者の競技会への侵入を防ぎ、競技会が感染拡大に寄与しない」ことが十分に期待できる結果が得られた。2020年夏場以降に予定されていた関東ゴルフ連盟主催のアマチュア競技は感染対策を講じることもできずに全て中止となった[https://s3-us-west-2.amazonaws.com/kga.gr.jp/topics/topics_20200403180540.pdf][https://s3-us-west-2.amazonaws.com/kga.gr.jp/topics/topics_20200527095732.pdf]という事情を加味しても、同じ関東でのアマチュアゴルフ競技であるKSGA主催の学生ゴルフ競技が、他に類を見ない詳細なKSGA感染対策ガイドラインによる感染対策のもと、競技会内感染者侵入ゼロでの競技会終了という成功裏に終わったことは非常に大きな意味合いを持つものと評価できた。特に、この秋の競技会が、COVID-19蔓延第3波の入口辺りで開催されたという点からも【図2】、来期2021年度の競技においてはある程度の感染蔓延下であっても安全に開催できるというエビデンスとして、非常に価値ある成果であったと言える。
KSGAは学生による競技会運営を基本としている。社会人理事は、定款の作成などのルール作りなどを行いその運営方針の意思決定の過程に関与するとともに学生による運営の評価も行うことで、学生を指導する役割を担っている。したがって、今回の成功の最も大きな要因は学生の活動にあったといえる。本ガイドラインを、感染対策と運営に関わる学生達が相互理解と納得の上で、学生自身で競技会を見事に運営したのである。この運営には、運営側の学生から各大学の主将・主務の学生たちを通して競技者として参加する学生(部員)達への情報伝達が鍵であったことは明白であり、この成功が意味する社会的意義は極めて大きかった。「社会でのCOVID-19蔓延下において、他者を尊重し自己利益のみにとらわれずに、如何に安全な事業推進を行うか」というテーマの大学実習ととらえると、学業の延長としての課外活動の目的を十分に果たすイベントの成功であったともいえ、このような経験を得た大学生は世界的にも珍しいのではないかとも言える。そして、当時他の大学課外活動が困難を極める中、この事業の成功はWith Coronaでの社会活動はどうあるべきかというテーマへ、1つの道筋を示す成功でもあったと考えられる。
3. 2021年KSGA競技会の開催結果
2020年秋の対抗戦の成功から、2021年は全試合の通常通りの開催を目指し、得られた知見と社会状況・感染状況の変化を加味した追加必要事項を加え、ガイドラインの改訂版(KSGA感染対策ガイドライン第2版)の作成を行い、2021年3月10日に公開した[http://www.ksga.jp/publics/index/1/detail=1/b_id=679/r_id=693/b679_date=2021-03#block679-693]。改訂の主な部分は3つで、1.以前は禁止とした「競技前14日以内における合宿など宿泊を伴う活動」を、関東学連並みの感染対策をした上で、事前許可申請のもと、検討の上許可するとした点、2.これまでの学生の感染対策の実施成果(ガイドライン遵守により感染者侵入0)をもとに、ガイドライン遵守下では1日競技での感染拡大の可能性が極めて低いと考えられることから、1日競技では事前検査を省略可能とした点、3. 将来的なワクチン接種者の扱いについて明記した点である。
ワクチン接種者については、極めて単純に、「公式にワクチン効果が期待されるという期間においては」、試合に参加される・会場に足を運ぶ方々に対するPCRなどの事前検査の必要はないとした。ただし、感冒症状・発熱・濃厚接触などのその他の事象に関しては、「他の選手同様(PCR検査必須の試合ではPCR検査陰性の選手同様)の規定」を遵守するものとした。すなわち、単に事前検査を省くとする以外には全てワクチン未接種者と同等の扱いということを明示した。
また競技開催に先駆け、KSGA感染対策ガイドライン第2版の説明会を2021年4月にWebで開催し、各校感染対策委員に感染対策を今一度徹底した。加えて、このWeb会議で使用した音声付説明スライド一式を配布し、各大学の部内での共有を行うよう指導した。
3.1 2021年4~8月(秋季ブロック戦前まで)
シーズンの始まり2021年4月に、COVID-19第4波による感染拡大が生じ4月の個人戦は延期となった【図2】。しかしながら、本ガイドラインの遵守により昨年の競技会感染者侵入0人という実績をエビデンスとして採用し、第3回緊急事態宣言中の5月に女子のABCブロック対抗戦を、宣言解除後に残りのすべてのブロック対抗戦は予定通り行われるに至った。昨年のテスト的な試みではなく、最上位校・最下位校にはそれぞれ昇格・降格ありという通常の対抗戦形式で行ったが、2021年度もギャラリー学生および一般のギャラリーの来場は認めなかった。結果、ブロック対抗戦においては、参加予定(のべ)80校中62校(77.5 %)の参加が得られた。不参加校の理由は、感染拡大による自粛もしくはその他の理由によるものであり、関東学連の方針に賛同できない学校は皆無であった。昨年の感染対策の実績により、関東学連の方針が理解されたものと考えられた。
個人戦に関しては6~8月にかけて行われ、1日競技の場合であれば事前検査を行わずに、体調チェックシートのみの提出で競技が行われた。また当初、事前検査がない1日競技においては、プレー中のマスク着用を義務化していた。しかし、プレー中の屋外ではSDの保持をしっかり行えば感染防止可能と判断し、マスク着用義務は撤廃し、その際、熱中症対策も兼ねて、プレー中はゴルフ用の大きな傘を常時さすことによるSD保持を義務付けるとした。
今回の事前検査は、民間の医療法人社団HELENE/表参道ヘレネクリニック[https://www.jpic-mobile.com/]の全面的協力のもと、唾液PCR検査による医学的診断を行うことを採用した。5月~8月の関東女子学生選手権までに行ったのべ802名の唾液PCR検査中陽性者は0人であり【表7】、体調チェックシートにおける感染が疑われる選手も0人、競技終了後14日間の感染者の報告もなかった。しかしながら、5月7~9日開催の春季女子ABCブロック対抗戦に、事前検査陰性にて会場入りしたコーチ1名が直前に一般のCOVID-19罹患者と濃厚接触していた可能性があることが競技会後に判明した。幸い、その後自粛期間中に施行したPCR検査でも陰性であり、発症することもなく、ブロック対抗戦参加時にウイルス保有者であった可能性は低いと判断できた。しかし、この事案はトリプルガードその2【表5】の水際対策遵守違反であり、同コーチには厳重に注意勧告を行った。以上から、この期間におけるすべての競技会での感染拡大は無かったと結論した。
2021年8月の関東女子学生ゴルフ選手権までの結果【表7】を総合すると、本ガイドライン遵守を徹底することで、ブロック対抗戦や個人競技の通常通りの開催においても学生ゴルフ競技が安全に施行されることが示された。事前PCR検査での全員陰性という結果は、競技会前の日常、特に競技会直前の水際14日間の感染対策が厳格に行われたことを示唆するものと考えられ、ガイドライン遵守により感染者の発生は防止できたと結論付けられる。特に、7月からの感染力が強くかつ若年者にも強い感染力を有するデルタ株蔓延下においても、KSGA感染対策ガイドライン第2版による感染防止が有効であったという結果が得られたことは非常に意義深い成果といえる。また、関東学連の感染対策のもとであれば、1日競技での事前検査の必要性は低いことも裏付ける結果(エビデンス)も得られた。
3.2 デルタ株感染蔓延下・ワクチン接種推進過程での2021年度秋季ブロック対抗戦開催結果
2021年7月、日本においてはSARS-CoV2デルタ株の蔓延が懸念される状況となったが、先に述べたように関東学連の競技会は安全に施行された。一方、感染(重症化)予防に期待がかかるワクチンの一般接種が7月から開始され、特に高齢者に対する接種が大きく進んだ。8月に入ると一部の大学での接種も進み、学生競技者にもワクチン接種後の者が散見されるようになった【表7】。関東学連においては、7月15日にワクチン接種者の扱いについて、注意文を掲載した。ここでは、ワクチンの効果の解説とともに、感染ガイドライン上はワクチン接種者と未接種者における対処法には大きな違いは無いことをあらためて公示した[http://www.ksga.jp/publics/index/1/detail=1/b_id=679/r_id=769#block679-769]。その要点を【表8】に提示するが、ここでも重要であることは、「正確な理解なくして治療や対策は無い」という医療・医学の原点である。この関東学連のワクチンの効果・限界に関する公表、特にbreak through感染は起こりうることを明示した内容に関しては、国内でも非常に早かったと思われた。
表8 |
ワクチンの効果と接種者の扱いに関する説明(2021年7月15日公表) |
http://www.ksga.jp/publics/index/1/detail=1/b_id=679/r_id=769#block679-769 より引用改変 |
3.3 秋の試合結果(2021年8~9月)
8~9月、デルタ株による第5波の中、そして4回目の緊急事態宣言下で行われた競技会に関する結果も【表7】に示されている。この時期は、各大学の合宿や関東学連以外の団体の試合や試合に備える合宿(宿泊を伴う部活動)が多くなるため、それらに対する感染対策を関東学連の基準で十分に行って頂くことが、関東学連主催の競技会の感染対策上での課題であった。この点に関して、感染対策委員の学生達は、競技会に影響を及ぼす試合・合宿参加に関する事前の感染対策報告を各校に徹底させた。その際、これまでの感染対策ガイドライン遵守による極めて良好な結果を基にして、入手・持ち運びが簡単でその場で迅速に結果が得られる抗原検査キットを事前検査として広く活用することとした。つまり、【表7】に示す以外にも各校の合宿や関東学連以外の試合に参加する際に行った抗原検査の結果が多く存在する。この秋季対抗戦においては、抗原検査(のべ)529件中3名(0.6 %: 2名が選手で1名は帯同予定のコーチ)の抗原検査陽性者が確認できた【表7】。しかしながら、3名ともPCRでの再検により陰性かつ全員無症状で経過したので累積感染発覚者数には加えていない。
この陽性結果の対応として、1名の選手に陽性者を出した大学Aは大学の方針として部全体の出場を辞退した。1名の選手に陽性者を出した大学Bでは、同検査キットですぐに再検し陰性の確認かつ追加PCR検査での陰性結果などを含め医師の判断により偽陽性との診断のもと当該選手の出場を許可し、関東学連もそれを承認した。もう1名の陽性者のコーチを出した大学Cについては、出場選手との濃厚接触は無いという判断も加味して、コーチの来場は自粛の上選手は競技会に参加した。以上、対応は分かれたが、この3名の抗原検査結果は偽陽性として良いと判断した。
また、関東学連競技以外のために施行した独自購入の抗原検査キットでも陽性反応の報告があったが、実際に感染が証明された例は無く、これらも偽陽性の可能性が高いと考えられた。ここで偽陽性の判断としては、発症無し・追加PCR検査陰性・後日の抗体検査で既往が示されないなどのデータから、総合的・臨床的に偽陽性と判断している。偽陽性の原因としては、抗原検査キットの結果判定を行ったタイミングが、キットに規定された時間(多くがサンプル負荷15~30分後)を超えていたために発生したと思われる事例があったが、すべてにおいては正確な原因同定はできなかった。また、最終のAブロック対抗戦は5日間という長期の宿泊を伴う競技であったため、競技後14日間の追跡調査に加え、競技終了後5~7日の時点で参加者78名全員に抗原検査キットによる事後検査を施行したが、結果は全て陰性であった。
以上から、約1年の長期に渡りKSGA感染対策ガイドライン遵守により、競技会での感染者は1名も発生せず、目標である「学連主催の学生ゴルフ競技会が感染拡大に一切寄与しない」を完全に達成することができた。
4.KSGA感染対策に関する総合考察
2020年10月~2021年9月までの約1年、KSGA感染対策ガイドラインに基づく競技会運営において、期間中に発生した第3~5波の感染蔓延の程度にかかわらず、目標である「学連主催の学生ゴルフ競技会が感染拡大に一切寄与しない」が完全に達成された。競技会における感染者0名という結果に関しては、統計学的考察は必要ではなく、KSGA感染対策ガイドラインに基づく競技会運営が極めて適当なものであったと結論できる。
この成功の大きな要因は2つあると考えられる。1つは、KSGA感染対策ガイドラインが医学専門家によって平易な文章で書かれたものであり十分な内容が網羅されていたこと、もう1つの要因は、この競技会運営が当事者である学生によってなされるという関東学連のスタイルにあったと考えられる。いくら良いガイドラインを作ったとしても、その運用が現実的でない場合は意味をなさない。実際、本ガイドラインを公表前にCOVID-19に詳しい第3者医師に非公式に見せた際に、内容も複雑すぎてかつ運用に関しては学生の理解・実行能力にも疑いがあり、結果としてガイドライン自体については医師の自己満足的なものになるとの厳しい意見を頂いたこともあった。そして、本ガイドライン公開当初、関係者の一般の大人からも複雑すぎるなどの意見も伝え聞くに及び、実際に当初、関東学生連盟の方針に賛同できない学校も少なからず発生した。
しかしながら、いざ運用を行ってみると、2020年の秋の競技会での感染対策委員の学生たちの精力的な活動により、運用・実践を通じて各大学の学生達がガイドライン内容を理解するようになり、ガイドライン理念が学生に定着するに至った。また、KSGA感染対策ガイドラインに記されているように、感染者が出た際の個人情報の取り扱いはSNSが発達したこの世の中では非常に注意が必要とされるが、当事者である学生たちの細やかな運用により個人情報に当たる情報のやり取りとその承諾もスムーズに行われたのである。感染対策委員で運用に携わった学生達は、最終的にはCOVID-19感染に関する医学的な判断を要する場面においても的確に判断できるようになり、各校の学生達からの種々の質問や種々の事例に対しても適切なコメントを独自にできるようになった。COVID-19という感染症は、社会に多くの弊害と死者を出してきた忌々しき病ではあるが、一方ではKSGA感染対策を通じて学生の成長を促してくれたとも言える。この1年の成果はその証明であり、学生たちの将来への糧となる経験であったと評価できる。
今回の成果を受けて、そしてワクチンの更なる普及と経口抗ウイルス薬の承認を見越して、来年度へ向けてのガイドライン改定が必要になる。ウイルスの解説から日常の感染防御に関しての大きな改定は必要ないと思われるが、この1年余りの結果からのそしてワクチン・経口薬普及を見越しての改訂は必要となる。ここでワクチン効果に関して接種後3か月での急激な中和抗体価の低下から6か月後には10%程度くらいにまで低下していることがつい最近報告された[4]。すなわち、ワクチン接種の有効性の定義をどうするかが問題になる。3回目もしくは定期的ワクチン接種に関する予測を含めて考えるとともに、実際のワクチン臨床効果に関しても考える必要がある。米国の状況を見るとワクチンの感染予防効果には限界があるのであろうが、重症化に関しては一定の効果があると考えられる。抗ウイルス薬の登場も考えて、この問題は事前検査をどこまで行うかの考え方につながる。また、今回の抗原検査キットの結果においては、偽陽性(と判断できる例)が3名(0.6 %)も出たことも考慮して、事前検査の施行をどういう形で行うのかを考えねばならない。この問題は、関東学連関連の競技以外での部活動(合宿や他組織の試合参加など)における制限にも関与する部分であり、次回の改訂においては最も重要と位置付けている。
5. KSGA感染対策から社会へ還元できるもの
2020~2021年、未知のウイルスSARS-CoV-2の蔓延に日本国は振り回され、病の対策と経済対策において、その本質・方向性も正確に判断できずに目標も立てられないまま、すなわち方針の基盤がないまま、場当たり的な対症療法を繰り返し、国民は計5回の感染の波を経験するに至った。2021年9月、第5波の急激な鎮静は、ワクチンの急速な普及と国民の自衛能力の向上のためと理由づけられている。
一方、海外では、ウイルスの増殖阻害作用を有する抗ウイルス経口薬molnupiravir(モヌルピラビル)の治験が終了し、次の対策が進みつつある[5]。そして、日本での年内の承認が見込まれるという報道もある。今後はKSGA感染対策のような国民間の自衛能力を高める感染予防は不要となるのであろうか? 答えはNoと考えられる。その1つの理由は、抗ウイルス薬では感染した後の治療の部分は良くなるものの、ウイルスが消滅することはまだ当分ないと思われるため、これまでのインフルエンザに対する歴史からも分かるように、今後も同様な感染防御は必要であると考えられるからである。またさらに、SARS-CoV-2変異株を含めそれ以外のウイルスが同様なパンデミックを起こす可能性は将来的に否定できず、それらが起こってしまうとワクチン・抗ウイルス薬開発までは同様な対策が必須になるからである。
その場合について、今回のKSGA感染対策をどう社会的に応用するかに関して考察してみたい。その場合においても、やはり今回成功した2つの要因を意識した対策を講じるべきと考える。つまり、KSGAのような小さなユニット(地域・町内会・大学など)ごとで専門家を募って病気の理解を進め、そのユニットの目的に沿ったガイドライン・方針をすばやく作成することである。そして、当事者による当事者のための運用をスピード感をもって行うことである。国レベルでの大きなユニットでの対策は、各地域・各方面・各業種などすべてに対応を迫られるため、その対策にスピード感がないばかりか、今回のように経済問題などの様々な広範囲にわたる問題と融合して行われてしまい、感染対策としてはワクチンが出てくるまでほとんど成果をあげることはできないという結末を繰り返すかもしれない。やはり、様々なカテゴリーで括られた小さなユニット単位での感染対策を日本国内各地域にて独自に行うよう促し対策のスピード感を高め、そのすべての地域からの知見を集積させ、日本国としての対策を構築するという手順の方が現実的かつ確実性が高いように思われる。
国主導でやるべきであった・やることができたはずの最初のステップは、治療の基本である「当事者(患者)自身が病を正しく理解する」ために、専門家・マスコミを上手く使ってCOVID-19という病気に関する情報をつぶさに徹底的に発信し、国民全体での理解を高めることだったと思われる。そして対策を講じている各ユニット・地域が必要とする検査などの必要な物資と必要な資金の的確な配分では無かっただろうか。各々の生活コミュニテイーにおいて感染対策の経験が積み重なれば、結果全国的な感染対策が構築され、感染の波は低く押さえられたのではないだろうか。
最後に、COVID-19感染対策は、全国的に未だ不十分といわざるを得ないが、それでも2020/21シーズンについてはインフルエンザの流行はなく(通常700万人程度罹患報告があるところ、この1シーズンは1万人強の感染者しか報告されていない)、つまり今のレベルでのCOVID-19感染対策でもインフルエンザウイルスの流行は防ぐことができるという成果とも見なせる。今後の日常のCOVID-19感染対策がより充実するならば、小児・高齢者・持病がある方や医療従事者などを除いて、感染対策がしっかりできる多くの国民においては、インフルエンザの(特に集団・職域の)ワクチン接種は不要(ある意味無用な医療・医療費負担)ではないかとも考える。今回のKSGA感染対策の結果が、COVID-19感染対策の基本的考え方、日本国のCOVID-19感染対策、そして将来の未知のウイルスの来襲の備えとして、少しでも貢献できることを期待したい。
付記
*関東学生ゴルフ連盟感染対策委員会メンバー
感染対策担当社会人理事:村瀬 雅宜、小川 裕子
学生感染対策委員:佐藤 丞(東京大学)、白川 真悠子(学習院大学)、山本 凌輔(慶應義塾大学)、高山 美咲(立教大学)、関谷 乃朱(東洋英和女学院)
[引用文献]
- Hoffmann M, Kleine-Weber H, Schroeder S, Kruger N, Herrler T, Erichsen S, Schiergens TS, Herrler G, Wu NH, Nitsche A, Muller MA, Drosten C and Pohlmann S. SARS-CoV-2 Cell Entry Depends on ACE2 and TMPRSS2 and Is Blocked by a Clinically Proven Protease Inhibitor. Cell. 2020;181:271-280 e8.
- Kato H, Shimizu H, Shibue Y, Hosoda T, Iwabuchi K, Nagamine K, Saito H, Sawada R, Oishi T, Tsukiji J, Fujita H, Furuya R, Masuda M, Akasaka O, Ikeda Y, Sakamoto M, Sakai K, Uchiyama M, Watanabe H, Yamaguchi N, Higa R, Sasaki A, Tanaka K, Toyoda Y, Hamanaka S, Miyazawa N, Shimizu A, Fukase F, Iwai S, Komase Y, Kawasaki T, Nagata I, Nakayama Y, Takei T, Kimura K, Kunisaki R, Kudo M, Takeuchi I and Nakajima H. Clinical course of 2019 novel coronavirus disease (COVID-19) in individuals present during the outbreak on the Diamond Princess cruise ship. J Infect Chemother. 2020;26:865-869.
- Dong M, Zhang J, Ma X, Tan J, Chen L, Liu S, Xin Y and Zhuang L. ACE2, TMPRSS2 distribution and extrapulmonary organ injury in patients with COVID-19. Biomed Pharmacother. 2020;131:110678.
- Levin EG, Lustig Y, Cohen C, Fluss R, Indenbaum V, Amit S, Doolman R, Asraf K, Mendelson E, Ziv A, Rubin C, Freedman L, Kreiss Y and Regev-Yochay G. Waning Immune Humoral Response to BNT162b2 Covid-19 Vaccine over 6 Months. N Engl J Med. 2021.
- Mahase E. Covid-19: Molnupiravir reduces risk of hospital admission or death by 50% in patients at risk, MSD reports. BMJ. 2021;375:n2422.