日本医師会 COVID-19有識者会議

COVID-19の高齢社会への影響について

辻 哲夫東京大学高齢社会総合研究機構・未来ビジョン研究センター 客員研究員
COI:未確認
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • 新型コロナウイルス感染症の世界的な流行の中で、日本においても第二波、第三波がやってくることが予想され、私たちの日常の生活は簡単には元に戻ることはできそうもない。
  • 現在、「三密状態を避ける」「ソーシャルディスタンスを保つ」などの「新しい生活様式」という大変化がおきている。
  • 高齢者が感染を恐れて閉じこもることにより、フレイルが進行しやすい可能性がある。社会性(人と人の交わり、生活の広がりなど)を維持することが特に大事であり、ICTの活用も含めて新しい生活様式の下でのフレイル予防に取り組むことが急がれる。また、感染した高齢者が病院だけで対応されることには問題があり、在宅医療も受け皿として位置付けられるべきである。
  • 一方、テレワークの普及により、現役サラリーマンにとって、居住地域が「寝に帰るまち」から「働き生活するまち」に変わり、地域の新しい形に変わりつつある。このことは、若者世代が地域に愛着を持ちながら安心して子育てができる「分散型地域構造」の「多世代共生社会」への追い風となっている。
  • 超高齢化と人口減少の下でのあるべき地域社会を考えると、「多世代共生」と「地域包括ケア」の「まちづくり」を行うことが不可欠である。この場合、高齢者が住み慣れた地域の在宅で生ききれる社会を目指し、24時間対応の在宅医療介護システムでカバーすることが必須である。
  • 東京大学高齢社会総合研究機構は、新型コロナウイルスへの対応をチャンスとして捉え、「新しい生活様式」を踏まえた今後のあるべき「まちづくり」を目指し、ICTを活用しながらフレイル予防や在宅医療を推進する等、時代の大きな課題にチャレンジを始めている。

はじめに

新型コロナウイルス感染症の世界的な流行の中で、日本においては、緊急事態宣言が解除されたものの、第二波、第三波がやってくることも予想され、私たちの日常の生活は簡単には元に戻ることはできそうもない。ワクチンや治療薬が開発され落ち着くのにあと1年半から2年はかかり、場合によればそのようにうまくいかないかもしれないということが報道されている中で、新型コロナウイルス流行後の世界である、アフターコロナ社会は様々な面で変わっていくであろう

具体的には、現在、「三密状態を避ける」「ソーシャルディスタンスを保つ」といった「新しい生活様式」が長期間求められるという大変化が起こっている。一方、人と人が対面してお互いの息遣いを感じながら人格的な交わりを深める、あるいは多くの人々がいわば膝を接するようにして語り合うといったことは、人間社会の基本的なあり方であり、それが損なわれるような社会が定着するなどということはあり得ないことである。そのような正常な社会に早く戻ることを切に願うものであるが、市場の構造的な変化を含めて今後一定期間継続する「新しい生活様式」に合わせて導入された様々な変化が、私たちの社会をかなり変容させることは間違いないように思われる。私達は、この際、取り戻すべき生活様式と今回の大きな経験を活かして定着させたい新しい生活様式を見極めて行動することが大切と思われる。

以上のような視点に立った議論が活発になされ始めている中で、本稿では、超高齢化と人口減少が進んでいる日本のあり方、特に都市部の地域社会のあり方という観点から東京大学高齢社会総合研究機構(ジェロントロジー)で様々なプロジェクトに取り組んでいるという立場から、新型コロナウイルス感染症が高齢者の住む地域社会にもたらしている影響や課題について、いくつか気づいたこと、訴えたいことを述べたい。なお、以下の記述のうち意見に関わる部分は、筆者の責任である。

超高齢化と人口減少の下でのあるべき地域社会の展望について

団塊の世代に着目した変革が必要

まず、現在私達は、これまで、あるべき地域社会の方向をどのように展望しているかについて簡単に述べたい。日本においては、2040年過ぎに65歳以上の高齢者数がピークを迎え、その後65歳以上人口が40%近くを占めるという社会になると見込まれている。しかも、少子化傾向が続く中で、総人口は既に減少過程に入っている【図表1】。

図表1
日本の人口ピラミッドの変化

特に注目されるのは、各年齢層のうちの最大の人口集団といえる団塊の世代が高齢期を迎えているので、75歳以上、更には85歳以上の人口が都市部を中心に急増することである。

できる限り元気で弱っても安心な多世代共生のまちづくり

このような社会においては、まず、ⅰ)高齢期においてもできる限り就労すること、就労しない場合であっても、フレイル(加齢に伴い心身が虚弱になることをいう。詳細は後述)の予防に重点を置き心身の自立度をできる限り維持すること、そして、ⅱ)誰もが大なり小なり人のお世話になる要介護の期間を迎えるのも事実であり、そのときは在宅医療や介護のサービス体制を地域ごとに確保し、一人暮らしでも安心してできる限り住み慣れた地域の在宅で生ききれる社会を目指そうとしている。国の政策スローガンでいえば、「生涯現役」と「地域包括ケア」の「まちづくり」を目指している。

東京大学高齢社会総合研究機構は、課題解決型の研究に重点を置き、その一つの拠点フィールドとして以上述べたようなまちづくりのモデル実践を千葉県柏市で取り組んでいる(「柏プロジェクト」と呼んでいる)。

柏プロジェクトについては、その10年の取り組みと展望を東京大学高齢社会総合研究機構の編集でとりまとめた書籍(「地域包括ケアのまちづくり(仮称)」が、この秋に東京大学出版会から刊行される予定であり、ここでは、詳しくは触れないが、国が地域包括ケアという政策を明らかにし、その概念が普及する前から、Aging in Placeという同じ理念でまちづくりに着手した【図表2】。

図表2
Aging in Place:コミュニティーで社会実験

このように、近年、社会保障政策の視点からも以上述べたように「まちづくり」が、極めて重要な概念となってきている。

その要点を述べると、人生100年時代を迎えた今、長い高齢期をできる限り自立して生き、弱っても安心して過ごせるようにするためには、誰もが高齢期を迎えたら、できる限り地域社会を基本にして就労し、弱った高齢者や子育ての支援も行うという地域貢献型のライフスタイルを目指す必要がある。この場合、働かないまでもフレイルを予防するためには、高齢者が社会と交わることが重要であり、コミュニティにおける何らか役割をもつよう社会参加をすることが望ましい。高齢期を現役時代の肩書で生き続けたくとも、人生100年を視野においた長い高齢期を過ごす人生を迎える今、それは誰でもできることではないからである。また、高齢者は地域社会で地元サービス業等の地域経済を支えることを含めて一定の役割を持たなければ今後の地域社会は成り立たない。遅くとも65歳以降は就労を含めて地域デビューする社会とすることを目指すべきである。一方、戦後の経済発展の中で職住分離が進み団塊の世代の移住を中心として膨大な郊外の住宅地が形成されたが、そこを若者世代が地域に愛着を持ちながら安心して子育てができる「多世代共生社会」にしていかなければ多くの住宅地は衰微していく。もとより、地域社会が高齢者の弱りにくい構造で、24時間対応の在宅医療介護システムでカバーされるという「地域包括ケアのまちづくり」を行うことが不可欠である【図表3】。そうでなければ、高齢者が弱ったとき都市部では地価の高い近隣の施設に移れる人は限られるので多くの高齢者は地価の安いなじみのない地域の施設に移らざるを得ない。しかも、一人暮らしの高齢者が住まいを去った後は空き家だらけとなることが予想されるからである。このように個別の政策だけにとどまらず、まちの機能を総合的に確保する「まちづくり」が、団塊の世代の本格的な高齢化という時代の流れの中で極めて重要な課題となっているのである。団塊の世代は時代のブームや変革のシンボルでもあったが、まだその役割は終わっていないのである。

図表3
地域包括ケアのまちづくりの構図

住宅地域における日常生活圏の重要性

団塊の世代が85歳を迎える2030年台半ばごろに向けて、以上に述べたような視点に立って日常生活圏(中学校区単位が基本だが地域によっては小学校区単位の場合もある。皆が日常生活でかかわり合える生活圏域をいい、地域包括支援センターや生活支援体制整備事業(詳細は後述)の対象区域とされるなど介護保険における重要な概念となっている。以下同じ)を基礎単位としたまちづくりができていなければ、団塊世代を中心とする世代の他地域からの移住により作り上げられた大都市圏近郊(概ね25キロから50キロ圏)の住宅地域は、ある時点から一人暮らしの高齢者の住宅が一挙に空き家となり地域全体が急速に衰微する可能性がある。確実にしかもある一定の時期で急速に変化が生ずると予想されるが、私的所有を基本とする郊外住宅地をすべて維持できるかといえばそれは厳しいといわざるを得ない。近い将来に生ずる大きな変化に早く気づいてまちづくりに立ち上がろうとする住民の機運の生まれた地域がその資産価値を維持できることになるのではなかろうか。日本の経済発展の過程で都市で働くサラリーマンが努力して獲得した住宅地という思い入れのある資産をできる限り次世代に継受しなければならないと思う。

現在概ね70歳を超えた団塊の世代には、これからをどのように老いるかという生き様を含めて自らの住宅地の再生という大きな仕事がまだ残されているのである。

2040年に向けての超高齢化と人口減少に対応する国土全体のまちづくり

以上述べたことは、大都市圏の高齢化を軸足にした大きな課題であるが、実は、既存の市街地も同様の構造でなければ、歳をとると安心して住み切れる街ではなくなるので、大都市圏でのまちづくりだけでなく国全体のまちの再生の取り組みが求められているのである。

人口が減少する中での国土交通政策、都市政策の視点からも、コンパクト・プラス・ネットワーク政策が推進されようとしている。人口減少に伴いこのような方向性は必然のものと思われる。首都圏一極集中は是正されるべきであり、分散型で地域ごとの文化が根差したコンパクト・プラス・ネットワークの国づくりが不可欠である。この方向での政策と前述した「多世代共生」と「地域包括ケア」の「まちづくり」政策とが一体となって、高齢者人口がピークを迎える2040年を大きな節目と位置付け、市町村行政を中心にして総合的に進められるべきであると考える【図表4】。

図表4
地域包括ケア政策とコンパクトシティ政策の融合
国土交通省都市局資料。神田街路交通施設課長(当時)発表資料より

このような構想を推進していく上で、新型コロナウイルスの脅威はどのように影響するのであろうか。

新型コロナウイルス感染症と超高齢人口減少社会との関係について

超高齢人口減少社会への対応はフレイル予防と在宅医療を推進する政策が鍵

以上述べたような超高齢と人口減少が進む時代のまちづくりを円滑に行う上で、特に政策的な鍵となるのは、フレイル予防と在宅医療の推進である。加齢とともに徐々に衰え要介護に至るまでの過程(日本老年医学会はこの状態を「フレイル」と定義している)を遅らせることが、85歳以上人口が急増する中での国政の大課題である。そのために重要なことは、社会性(人と人の交わり、生活の広がりなど)を維持することであるということが東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢教授らの研究で明らかにされるなど、高齢者の社会性の維持の重要性を示すエビデンスが多く出されている。今後の日本においては、高齢者が地域社会で社会との交わりを持ち活躍できるまちづくりが重要となっている。また、老いたがゆえに亡くなるというのが普通となった時代においては、一人暮らしの高齢者であってもできる限りその住まいで日々の生活を繰り返すのを支援し弱りにくいように配慮し、たとえ弱っても24時間対応もできる本格的な在宅医療在宅看護介護システムでカバーされるまちづくりが必要である。その結果、急性期対応の病院等の医療機能が健全に本来の役割を果たしていけるという関係でもあり、それが今の政策の基本となっている。

あるべき政策と真逆になる可能性のある新型コロナウイルスの影響

日本における死亡件数の推移を【図表5】に示す。今後死亡者の相当部分が85歳以上である社会を迎え、それが定着するので、今述べたようなそれにふさわしい地域社会のシステムへの転換が急がれていることは明らかである。一方において、新型コロナウイルス感染を防ぐためには、「三密」を避け、「ソーシャルディスタンス」を確保する生活が要請される。そうなると感染したら重症化する可能性の高い高齢者は閉じこもらざるを得ない。また、今の国の仕組みは新型コロナウイルスに感染したら高齢者は入院ということなので、在宅療養中の高齢者本人の意思にかかわらず入院を余儀なくされることとなる。これらの方向性は、今述べた今後の日本の政策及び地域社会のあり方と真逆といえる。

図表5
日本の死亡件数
国立社会保障・人口問題研究所 金子隆一氏資料より

現在、新型コロナウイルス感染者は若い世代が中心であり高齢者が外出を自粛して自衛していることが伺われるが、「三密」を避け「ソーシャルディスタンス」を維持する生活、いわゆる「新しい生活様式」が、1年半以上も続いたら、高齢者の自立度は全体として悪化する可能性がある。私の身近な在宅医の情報からも、新型コロナウイルス感染症流行以降、高齢者が二階から降りられなくなったので往診に来てほしいといった事例が出てきたというような話を耳にしており、高齢者の心身の自立度等に悪い影響が生ずることが懸念される。新型コロナ関連虚弱死の増加を含めて今後の高齢者の心身の状況を注視し、必要な対応の確立が急がれている。

一方、病院に新型コロナウイルス感染患者として入院した場合、家族は面会もできず、亡くなった場合に最後のお別れもできないままお骨となって帰ってきたといった悲しい話もかつては報道されている。そのような中で、かなりのご高齢の在宅療養者が感染した場合、本人が入院を受け入れるかどうかは極めて疑問である。認知症の在宅高齢者もおられる中で病院も入院は必ずしも歓迎していないという話も聞くし、高齢者は入院すると在宅に比べて自立度が低下する可能性が高い。また、「三密」状態となりやすい病院やデイサービス等の介護事業所におけるクラスター感染があちこちで起こっており、このような中で、在宅介護サービスを担う従事者を経由して在宅療養者に感染が広がる恐れもある。いったい高齢者は感染したらどうするのが一番よいのか。高齢者に関わる以上のような課題をこの際正面から受け止めて、今後の社会のあり方を考えるよい機会となるように対応していかねばならない。

在宅医療の定着と病院信仰の変容に向けて

新型コロナウイルス対応に関し病院医療に加えて在宅医療の位置づけが必要

そこで、在宅医療(ケア)に関わる医師を始めとする多職種の各団体の唯一の連合組織である日本在宅ケアアライアンスにおいて行われている議論の状況を紹介したい。そもそも、現在、新型コロナウイルスに感染した疑いがある場合は、感染外来に行くことが必要だが高齢の在宅療養者は出向くことが困難である。感染の疑いがあっても早期の判断が難しい。したがって、在宅医療を担当している在宅医が保健所と連携してPCR検査を行えるようにするべきである。また、仮に感染が判明したとして、高齢者本人・家族が入院をためらっているときはどうするべきか。現行制度は、感染者はまず入院という体系となっているが、元々在宅療養者の入院の可否についてそのような考え方が一律に適用されることには、疑問がある。高齢者等の在宅療養は、在宅医、訪問看護師等の多職種が連携し、チームで支えるものであり、本人の望みと暮らしを支えながら自宅等住み慣れた環境(生活の場)で本人にふさわしい療養を実現しようとするものである。現に、症状が重度であっても多くの高齢者等が実際に在宅療養を選択しており、病院でなければ提供できない機器による医療を除き、医師の適切なアドバイスの下での本人家族の意思を尊重しつつ、入院医療に相当する医学的管理の下での療養が可能となっている。すなわち、高齢者の場合は、在宅療養の場も新型コロナウイルス感染の際の受け皿として認められるべきである。実際問題としても、介護的ケアが必要になる要介護者の受入には病院も消極的であり、病院病床が逼迫した際には、高齢者の搬送受け入れ先病院を探すのに大変困難である場合が多く、なおさら、在宅療養の場を関係者の視野にしっかりと位置付けていく必要がある。

もちろんそれはあくまでも高齢者本人や家族の意志を尊重した上であり、かつ、その場合の在宅医療(ケア)にかかわる従事者については十分の感染防御体制が確保されることが大前提である。そして、かかりつけの在宅医こそ率先して在宅療養を支えるという責務を果たさねばならず、かかりつけ医のあり方が問い直されているともいえる。また、在宅医や訪問看護師は、在宅介護従事者に対する感染防止の方法の指導、助言を展開するべきである。

日本在宅ケアアライアンスの動きへの期待

以上のような視点に立って、日本在宅ケアアライアンスは、6月22日この問題に関する基本認識と対処方針【図表6】を明らかにしており、全国の医師を始めとする専門職にこの動きが広がることを期待したい。

図表6
新型コロナウイルス感染症の中で在宅ケアを守るために(対処方針)(第1版)概要

(注)日本在宅ケアアライアンスの対処方針については、日本在宅ケアアライアンスのホームページを参照。なお、在宅医療(ケア)の概念や課題について取りまとめられた「基本文書2」についても、ホームページで公開されているので、適宜参考としていただきたい(https://www.jhhca.jp)。

以上のように今回の新型コロナウイルスの流行を巡って、そもそも、超高齢社会においては、「治す医療」の象徴である病院だけでなく、「支える医療」の象徴である在宅医療が重要な役割を占めるのであり、在宅医療を行うかかりつけ医が極めて重要であるということを、正面から議論する良い機会とするべきであると考える。そして、日本在宅ケアアライアンスの動きを機に、これまで続いてきた日本人の「病院信仰」を問い直し、病院医療だけでなく、今後は、在宅医療を含めた本来の医療のあり方というものを理解するよう国民的な議論となることも期待したい。

この動きに先立ち、5月18日に公表された日本医師会COVID-19有識者会議のタスクフォース中間報告は、日本在宅ケアアライアンスの動きにも留意しつつ、在宅医療や介護における新型コロナウイルス感染への対応について触れている。新型コロナウイルスの流行により重大な局面を迎えている医療界において、新型コロナウイルス感染症への対応を機として、在宅医療を担うかかりつけ医のあり方を含む在宅医療の位置づけについて幅広い議論がなされ、このことが日本の医療のあり方を考える良いきっかけになることを心より期待している。

分散型の地域社会の創生とICTの活用について

遅々として進まない分散型地域社会への展開

先に述べたように、人生100年時代の長い高齢期を展望すると、地域住民が高齢になってもその住んでいる地域の支え手としても活躍し続け、かつ、その地域において次世代がそれに続くというような自己完結した分散型の地域社会を基本とする国づくりが不可欠である。そうでなければ中核的な都市部以外の多くの地域は、今後の超高齢化や人口減少に対応して円滑に持続していく上で厳しい状況を迎えざるを得ないのではないかと考えている。しかし、現実は人口の首都圏一極集中傾向は変わらず、また、若い世代は都心回帰しつつあり、高齢者は郊外の住宅地で老いていき空き家が増え近い将来それらの地域が急速に衰退するといったことが懸念される。首都圏一極集中を是正し、分散型の地域構造を目指す様々な取り組みがこれまで延々となされてきたが、功を奏しているとは思えず、あるべき方向から一層遠ざかっているように思われる。

新型コロナウイルス感染症対策は、分散型地域社会形成への追い風

このような中で、今回の新型コロナウイルス感染症の脅威をどう受け止めるのか。

新型コロナウイルスの流行に端を発する新しい生活様式の定着は、以下に述べるように、しっかりしたコミュニティを土台とした分散型の地域構造形成への転換のチャンスになるのではないかと感じている。

一つは、新型コロナウイルス感染が広域に広がらないために、国際間だけでなく、都道府県間の移動も制約される傾向の中で、地域住民がそれぞれの地域の安全を守ろうという自衛的な気持ちが芽生え、地方自治体ごとに首長がリーダーシップを発揮するという地域主義の風潮が深まっていく好機ではないかと感じる。今後、二波、三波が予想されている中で、国に頼るだけでなく地域ごとに感染防止のために様々な知恵を結集するなど地域積み上げ的なノウハウを育み、地域の連帯を形成することを期待したい。

国の一律的な方針はもとより重要であるが、各地域で感染防止と地域経済の維持を自分事化して議論し、地域住民の自己責任の精神と、他者への配慮や連帯の精神を育む良い機会と捉え、地方自治を重視し地域ごとの対応が自律的に行われるようにするべきである。具体的には、高齢者の感染防止と心身の自立を両立させるために、例えば地域ごとの話し合いで高齢者が閉じこもることなく安心して買い物ができる時間帯をルール化するなど、コミュニティごとの取り組みが芽生えることを期待したい。このように新型コロナウイルスへの対応という課題を地域の課題として積極的に捉え、都市部においてなかなか進まないコミュニティ形成の大きなチャンスとするべきなのではなかろうか。

この場合、地域での取り組みが感染者やその家族を差別するといった誤った方向に向かわないようにするためにも、新型コロナウイルス感染症についての最新の正しい知識や感染防止方法等が専門家から常に提供され、しっかりと地域に根付くことが重要であることを強調したい。

二つ目は、新しい生活様式としてテレワーク等ICTの活用が飛躍的に発展し、コミュニティの活性化や分散型の地域構造の促進に繋がるのではないかということである。

パソコンやスマートフォン等のIT機器を持っていれば誰でも簡単に在宅テレワークができ、少人数の会議から数百人対象のイベントまでが簡単にでき、参加者が自ら保有しているスライド等を簡単に他の参加者に対して映すこともできる。これまでもテレワークの普及が目指されてきたが、新型コロナウイルス感染防止対策の一環で一挙に普及し、広く国民生活に定着してきたのではないかと思われる。通勤時間が節約できるし、会議場所の費用や旅費も節約できる。現役のサラリーマンは、自宅のある地域に居る時間が増えるので妻子と地域で過ごす時間も増える。現に、平日に住まい周辺で散歩している若い夫婦と子供連れが増えたように思う。また、買い物の行動パターンも遠くの混雑する所に出かけず近くで買うようになってきているとも聞いている。日中は高齢者を除いて大人の少なかった身近な空間が、大人を含めた生活空間に変わりつつあるように感じるのである。このように、在宅テレワーク等ICTの活用の大幅な普及は、企業活動等の効率化や生産性の向上といった面に止まらず、日本の今後の地域構造のあり方にもよい影響を及ぼすと考える。

要するに、多くの現役サラリーマンにとって、居住地域が寝に帰るまちから働き生活するまちに変わるという可能性が見えてきたのである。このような方向性での動きは、新型コロナウイルス感染症が終息しても、是非とも定着させるべきである。このために、より安価で簡単にテレワークのできる機器の普及、インターネット通信の状態が良好に安定するための措置等について、官民両面で強力な支援措置を行うべきであると思う。

高齢者を念頭においたICTを活用した新しいコミュニティ形成について

新しい生活様式の下での高齢者のフレイル予防にICTシステムの活用は有効

一方、高齢者世代は若い世代とは違って新型コロナウイルス感染による重症化のリスクが高いので、身を守って家に閉じこもっている可能性が高い。例えば、虚弱な高齢者はデイサービス等に通っているが、そこは「三密」になりやすいので、利用が減っているところも多いと伝えられている。今後とも高齢者は自衛せざるを得ない状況が続くと思われる。もとより、高齢者が感染を恐れて閉じこもることによりフレイルが進行しやすいという懸念から、老年医学関係の学術団体等から警鐘が発せられ、自宅での運動や活動の方法がインターネットなどで公開されているが、この点については、今後更に本格的な対策を打っていくことが急がれる。

このことは、市区町村行政における大きな課題であり、新型コロナウイルス感染防止に配慮しつつフレイル予防を展開するコミュニティレベルの活動につき、新しい工夫が必要である。現に、既に東京都文京区では、フレイル予防に取り組んでいる地域高齢者達が自主的に動いている活動があると聞いている。具体的には、「身体が離れていても心で繋がろう」というスローガンを掲げ、ICT(zoom等のweb機能の活用)を通して自宅でも顔の見える関係を確立し、高齢者同士で定期的に自宅内での運動を実施する会が発足し、さらにそれに対応できない方には電話で繋がって運動し合うといった方法を用いるなど地域ごとの工夫が始まっているとのことである。

高齢者に着目したICTを活用したコミュニティの形成

そこで今回進めるべきではないかと考えるのは、地域における公民相乗りの高齢者に着目したICTインフラの活用によるコミュニティの形成である。

新型コロナウイルス感染防止対応の一環で、多くの事業所活動では、ICTを活用した小規模な会議や研修が増えていると聞いているが、このような形態のICTを活用した集りを地域単位で高齢者に普及させるのである。一例を示す。東京大学の研究者が研究活動の一環としてかかわっていた都心から50キロほど離れた郊外住宅地における高齢者のまちづくり協議会が新型コロナウイルス影響で全く開催できなくなっていたのをICTで皆を繋いで協議会活動を復活させたところ高齢者メンバーが大変盛り上がり、引き続き同じ方式で続けることになったと聞いている。機器の使い方を知らない高齢者には最初に少し要領を教えて差し上げれば、高齢者であっても抵抗なく「こんなことが無かったらこんな良いものがあるとは知らなかった」とむしろ喜んで参加されたということであった。この方式であれば、出にくい高齢者も会合に簡単に参加できるはずである。自宅にいる高齢者をこのようにICTインフラ上でつなぎ、地域の交流の輪を広げるのである。直接会えなくとも、このような心の繋がりが大切で、コミュニティの人間関係が維持され、先に触れたようなフレイル予防活動にも繋ぎやすくなるであろう。

そして、このような人と人の心の輪を繋ぐ場として日常生活圏単位に公民相乗りの日常生活圏共通の一元的なICTインフラを導入し、それを活用して地域住民の日常生活圏単位でのコミュニティ(いわば連携と交流の場)を形成するのである。IT機器を使っていない高齢者世帯に対して使いやすいIT機器を自治体からの無償配布を含めて思い切って普及させるべきである。この場合、一つ課題がある。市町村行政におけるICTシステムは、その基幹部分が内部情報の保護のために厳しく外部と遮断されているのが普通のようである。しかし、新しい生活様式が定着する時代にあっては、先の例で述べたICT方式のまちづくり協議会のような市民の話し合いの場に招かれれば行政もICTシステムを通して普通に参加することができるようにするべきだと思う。更には、個人情報やプライバシーが保護された形で、高齢者の孤立対策や防災対策の視点を含めて市民と行政が双方向に直接繋がるための新しいICTシステムの導入を導入することも今後の重要な課題であると考える。

一元的なICTインフラを基盤とする高齢者の住みよいまちづくり

実は、このようなことを考える元になるような試みを柏プロジェクトで取組んでいる【図表7】。柏プロジェクトでは、地域包括ケアのまちづくりとして、日常生活圏単位での生活支援のシステムづくりに取り組んでいる。今後85歳以上人口が急増することは既に述べたが、その場合の中心は一人暮らし又は夫婦だけの世帯であり、徐々に弱る過程で、その見守りの問題や買い物、ごみ捨て等日常生活上の困りごとあるいは行く所がないといった相談ごとが生ずるが、これに対する支援が生活支援という概念である。これは、介護保険給付の対象でなく、個人の自助や地域の助け合いの問題であり、今後そのための地域での仕組みづくりが極めて重要である。国は、その環境整備として介護保険の地域支援事業による生活支援体制整備事業を導入し、特に、日常生活圏単位に、助け合いのための自治会関係者やNPO団体あるいは地域の商店会等の事業所関係者の話し合いの場(協議体)を設置することとし、現在、全国で展開されつつある。柏市でも豊四季台地区という日常生活圏では、「豊四季台地区支え合い会議」が設置され、イベントや話し合いを重ねて日常生活圏の関係者の助け合いの絆とネットワーク化を深めてきた。その結果、モデル的な試みとして、高齢者が困ったときに抱え込まないで気軽に相談ができ孤立しないように、日常生活圏単位に困りごとや相談ごとを一元的に受けつけ調整するコンセルジュ(相談)機能を置こうというところまで検討が進んでいる。このコンセルジュ機能がかなり動き始めれば、その対応は電話対応だけでは処理できないので、その次の段階として、一元的なICTインフラを導入することを目指すことが必要であり、そのための実証作業の準備が進んでいる。

図表7
一元的ICTネットワークによる総合的地域支援システム構築

(注)このICTシステムは、高齢者の情報リテラシーの低下を見込んで、今行われているzoom等のweb機能と同等のシステムでコンセルジュが顔の見える関係で高齢者を受け止めたうえで高齢者が様々なアプリを使えるように支援しようとするものである。

このICTインフラは、当初は簡単な相談機能から導入し、様々な公民の事業が相乗りしていくことを想定し、将来的には、医療介護の在宅ケアのICTシステムにも連動させ、更には、在宅医療の普及と併せてAIを活用したセンサーやコミュニケーションロボットといったテクノロジーを組み込み、あえて例えて言えば、さながら日常生活圏を一つの施設あるいは慢性期病床のようにするという構想を検討している【図表8】。

図表8
従来の介護施設モデルから新しいまちづくりのモデルへ
在宅療養とICTであたかも地域社会がひとつの施設・慢性期病床のようになる。
こぶし園小山氏資料を基に作成

このように、介護保険で全国に繰り広げられている生活支援体制整備事業を活用しつつ、日常生活圏単位に幅広い関係者が関わる人的ネットワークを形成し、それを土台としてICTインフラを使って、高齢者が最期まで安心して過ごせるまちづくりを構想している。この場合大切なことは、ICTシステムがあるから人々が結び付くのではなく、しっかりした平素からの地域における人的ネットワークが出来上がった地域だからこそ、ICTインフラを上手に使いこなせるということである。地域における平素からの丁寧なイベントや話し合いをベースとする人的ネットワークの形成が不可欠の前提である。

今後の超高齢人口減少社会を構想するとき、以上述べたように、高齢者の情報リテラシーが低下しても使われるような、地域ごとの工夫を凝らしたICTインフラが不可欠であると考えているが、新型コロナウイルス流行に伴う新しい生活様式は、このような方向性に弾みをつけていくということを期待して、今改めて柏プロジェクトの更なる進め方を検討しているところである。

おわりに

新型コロナウイルスという新しい脅威に対してどのような対応が良いのか、世界中で模索が続いている。台湾やスウェーデンに代表されるように、対応の戦略も国によりそれぞれ異なる面も持ちつつ、ワクチンが開発されることを含めて世界中で一定の集団免疫が獲得されるまで、新型コロナウイルスとの闘いは続くのであろう。感染しないために戦うのは我々一人ひとりであることは間違いない。その場合、「正しく恐れる」と言われるように、感染対策へのリテラシーを個々の国民が高める必要がある。このためには、国や自治体更には研究者の役割が重要である。我々が正しく行動するためには、何よりも、幅の広い研究者により新型コロナウイルスに関する多面的な研究が進められ、様々な情報に惑わされないような形で、エビデンスに裏打ちされた最新の正しい情報が個々の国民に届けられることが重要であり、それが最大の武器であるといえる。そして、国民一人一人が、今回のことを機に、居心地の良い地域社会を目指すという目線から生活を見直しつつ、国、地方自治体とともに一丸となって危機をチャンスとして捉え、今後のあるべき生き方や社会システムを目指すという気概が必要である。

私の所属している東京大学高齢社会総合研究機構は、課題解決型の地域実証研究を組織の大きな使命としており、新型コロナウイルスへの対応という時代の大きな課題を研究課題に加え、すでにチャレンジを始めている