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COVID-19第5波における在宅医療の課題

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COI

注:この記事は、有識者個人の意見です。COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。

  • 新型コロナウイルス感染症第5波において病床が逼迫し、自宅療養者が急増した。
  • 政府は、感染者が急増している地域では入院治療の対象者を制限し、軽症者は原則自宅療養との方針を示した。
  • これは感染者を原則的に入院させる従来の基準を転換させるものであり、反対意見も多かったが、病床が逼迫している状況では既に軽症者は入院困難となっており、現状を追認したものと言える。
  • 実際には、軽症者だけでなく、呼吸不全で酸素投与が必要な患者もなかなか入院できず、自宅療養を余儀なくされることがあった。 
  • 自宅療養者を支えるためには、直接的な往診以外にも、発熱外来、かかりつけ患者のコロナ疑い時の対応、保健所からの依頼への対応等、総合的な取り組みが必要である。
  • 東京23区内であっても、区によって、保健所の方針、地区医師会の方針、病床の逼迫具合などは様々であった。

はじめに

新型コロナ流行において、何度か新規陽性者数が急激に増える時期があった。ここでは、2021年8月をピークとするコロナ流行を第5波と呼ぶことにする【図表1】。第5波の東京における状況を、当院の実際の取り組みに他院の取り組みの紹介を交えて記録する。

図表1
新規陽性者数・増加比
第5波における東京の新規陽性者数・増加比
(第63回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和3年9月16日)より
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1013388/1015548.html

まず、第5波の時期的な背景を述べる。東京オリンピック(7/23-8/8)、パラリンピック(8/24-9/5)が開催されていた。東京では7月12日から9月30日まで(当初は8月22日までだったが後に延長された)緊急事態宣言が実施されていた。8月12日、コロナ分科会が、東京の人流を約5割にすることを提言した。政府はそれを受け、17日に緊急事態宣言を茨城、京都など7府県に追加し、大型商業施設に入場制限を要請した。

第5波の特徴として、感染力の強いデルタ株(L452R)への置き換わりが進んだこと【図表2】、新規陽性者および入院患者の年齢構成が、若年・中年層中心へと変化したことが挙げられる【図表3、4】。また、2週間で陽性者数が約2倍になるという急激な増加に伴い、自宅療養者が増えた【図表5】。40代・50代を中心とした重症患者も急激に増加し【図表6】、医療提供体制は深刻な機能不全に陥っているとされた。この陽性者、重症者における年齢構成の変化は、高齢者に対するワクチン接種が進んだ結果と考えられた【図表7】。デルタ株においては、ワクチン接種を終えていても感染する「ブレイクスルー感染」もしばしばみられたが、入院や死亡を防止する重症化予防効果は高く保たれていた。 

図表2
デルタ株(L452R)陽性率の推移
都内第5波におけるデルタ株陽性率の推移
(第63回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和3年9月16日)より
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1013388/1015548.html

図表3
新規陽性者数(年代別)
(第63回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和3年9月16日)より
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1013388/1015548.html

図表4
入院患者数(年代別)
(第63回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和3年9月16日)より
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1013388/1015548.html

図表5
検査陽性者の療養状況
(第63回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和3年9月16日)より
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1013388/1015548.html

図表6
重症患者数(年代別)
(第63回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和3年9月16日)より
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1013388/1015548.html

図表7
高齢者のワクチン接種割合
東京都 65歳以上における新型コロナウイルスワクチン接種割合
NHK 特設サイト 新型コロナウイルス 東京都のコロナワクチン接種状況より 
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/vaccine/pref/tokyo/

急速に陽性者数が増えるなかで政府は、「入院は重症患者や重症化リスクの高い人に重点化する一方、それ以外の人は自宅療養を基本とし、健康観察を強化する」との方針を定め、菅総理大臣は8月4日、「現在のデルタ株による急速な感染拡大の中で、国民の命と健康を守るために方針を決定した」と説明した。医療提供体制の大きな方針の変更を迫るものとして反発も多かったが、現場では既に軽症者の入院は困難な状況になっており、実質的には医療現場の実態を追認した方針であった。

政府方針に対する在宅医療現場の新型コロナ対応状況

第5波がくる前から、自宅療養者が急増することを予想し、自宅療養者をいかに支援するかを行政、保健所、地区医師会が一体となって話し合われていた。遅くとも2021年3月には自宅療養者の支援体制の構築が喫緊の課題と認識され、4月には具体的な支援が開始されていた。地区医師会を通じて、地域の診療所に、自宅療養者への支援依頼があり、もともと在宅医療を手掛けていた診療所などが支援に参加した。往診が困難な診療所も、できる範囲で、発熱外来、コロナ疑い患者の検査・診療、ワクチン接種などに取り組んでいた。しかし、診療所によってどの程度取り組むかの温度差は大きかった。

地区医師会から診療所への要請は、まずは、自宅で療養する軽症者に対して解熱剤の処方や経過観察のための電話診療をしてほしいとの要請であった。酸素投与が必要な患者や、医師が入院を必要と判断した患者については、行政や保健所が速やかに入院調整をする想定だったが、第5波の最中は、病床が逼迫したため、入院が必要な患者でも自宅療養を余儀なくされることがしばしばあった。そのような患者にたいしては、訪問診療で、酸素投与、点滴、解熱剤投与、ステロイド投与などが実施された。病床のひっ迫の程度や自宅療養の状況は、23区内でも地域によって、時期によって大きな差があった。

新型コロナに対応可能な病院が比較的多く、かつ、早期から行政、保健所、病院が協力して新型コロナ病床の確保や入院調整に動いていた地域では、酸素投与が必要な患者や、医師が入院を要すると判断した患者については、1、2日以内に概ね入院できていた。そのような地域では訪問診療の役割は、軽症者の経過観察、電話でのフォローアップ、必要に応じた一時的な往診や点滴等の対応が中心であった。

しかし、近隣の病院では調整がつかず、夫婦別々に40㎞ほど離れた病院に入院となった例もあった。また、早期入院、酸素投与が必要な患者においても、入院困難なまま在宅医療で1,2週間支援せざるをえないこともあった。中等症以上の患者でも入院せずに在宅医療のみで完治した例もあるが、訪問診療医、訪問看護師、訪問薬剤師、在宅で使用する酸素濃縮装置等、在宅医療に関わる人的・物的資源が十分にあることや、急な変化があった場合に直ちに入院できる体制の確保が必須である。これらの人的資源や体制については、23区内でも地域によって差が大きい。なお、練馬区においては、速やかな入院が困難で新たに往診が必要となる新型コロナ陽性患者は、平時は1日1名程度だったが、第5波時点では、1日10名程度に急増した。

新型コロナ陽性患者は、第5波の最中には急増したため、たとえ一つの病院の新型コロナ病床を倍増しても、増床翌日には満床になってしまう状況であった。逆に、波が過ぎれば、ほとんどが空床となる。新型コロナにおける入院治療体制の整備においては、単なる増床ではなく、冗長性を確保した上で、病院や区の単位を越えた機動的なベッドコントロールと人員配置を、行政も関わりながら実施することこそが重要だと考える。

診療所における新型コロナウイルスへの対応力を増やすために

行政からの要請への対応

自宅療養者を在宅医療で支援するよう行政から要請があった時点では、新型コロナ診療は原則として入院環境で実施されていたため、新型コロナ診療の経験を十分に積んでいた診療所は多くはなかった。また、新型コロナ診療に関わるほど赤字になる診療報酬体制だったり、風評被害や院内感染から閉院に追い込まれた診療所があったりしたことも、診療所での新型コロナ診療を遠ざける一因になっていたと考えられた。

しかし、第5波の前から、自宅療養者が急増するとの予測から、社会的な要請に応え、地域の医療を支えるためにも新型コロナ診療に関わることが重要だと考える診療所が徐々に増えた。また、ある程度、報酬体制も改善され、各種ガイドラインを読み込んだり、勉強会に参加したり、SNSを活用して相互に情報交換をしたりしながら、手探りで新型コロナ診療に関わりだす診療所が少しずつ増えた。座学も重要だが、医師は、実際に患者を診療していくことで臨床経験を積んでいく。また、新型コロナ診療の経験を積んだ医師が身近にも増えることで、実情を教わる機会が増え、自ら新型コロナ診療に関わりだす医師が増えていく。このように、新型コロナ診療に関わる診療所が増えるには、ある程度の時間を要するため、患者数の急増に備えて、先手を打った施策が必要である。少なくとも、診療報酬体制の改善はより早期にしておくべきだったと考える。地区医師会でも診療経験を共有する場や新型コロナ診療について話し合う場はかなり増え、保健所や行政、病院、診療所がよりスムーズに協力できるようになってきた。この取り組みを加速するには、地域を越えて成功例を共有し、地域の実情に合わせてアレンジしていくことが有用と考える。

徐々に増えてはいるが、中等症以上の新型コロナ陽性患者の往診に対応できる診療所は依然として多くない。診療スケジュールの調整、感染リスクのマネジメント、診療スタッフのスキル習熟、診療所スタッフの理解と協力、モチベーションの維持、連携事業所の協力など多岐にわたる調整が必要であり、小規模な診療所において日常診療と並行して実施することは容易ではない。直接、中等症以上の患者の診療ができなくても、かかりつけ患者の健康を守ることや発熱患者の診療をすること、予防接種をすることで地域の医療、患者を守ることができれば、新型コロナ診療をしている医療機関の負担を減らすことになり、間接的に新型コロナ診療にも貢献しているとも言える。各医療機関がそれぞれの役割を果たすこと、新型コロナ診療への対応力を高めて社会的な要請にも応えていくこと、のいずれも重要だと考える。また、長期にわたるコロナ禍の中で、疲弊し、勤務が継続できなくなった医療者も少なくない。持続可能な医療提供体制のためにも、医療機関を支えている職員の心身の健康を守ることも欠かせない。

軽症者への対応強化が重要

在宅で療養している新型コロナ陽性者の圧倒的多数は軽症者である。救急要請のうち3分の1程度が、軽症者の不安による救急要請であり、救急医療体制に負荷をかけている[1]。新型コロナに感染し、自宅療養を余儀なくされる者が不安を感じるのは当然の感情であり、不安を軽減するための対応が必要である。既に実施されているものも多いが、保健所からの電話での状態確認をできる限り自動化し、新型コロナ陽性を診断した診療所やかかりつけ医による電話フォローアップを充実させるなど、軽症者への支援を手厚くする体制づくりが必要である。ICTの活用は欠かせないが、行政主導で開発したシステムは、開発費用の割に使い勝手が悪いものも少なくない。基本的にはオープンソースのプロジェクトとし、有志のプログラマにより継続的に改良され続けることが望ましい。行政の中に、自宅療養の環境を整備する担当課を設置することも有用と考える。新型コロナは治癒した後も後遺症が長引く患者がしばしばいる。肺や神経などが障害されたことに伴う後遺症もあるが、「不安な気持ちでの自宅療養を余儀なくされ、信頼していた社会に見放された。」という心理的影響もあると考えられる。保健所や救急医療体制への負担を軽減しつつ、自宅療養を安心、安全に実施する体制を整えることは、新型コロナの後遺症対策としても重要だと考える。

今後に向けての提言

感染を広げないよう、自宅療養者向けのハンドブックはあるが、現実的には同居家族間での感染予防は困難なことも多く、ホテル療養等を引き続き充実させることが望ましい[2]。新型コロナ感染症においては、急な病状変化もあるため、酸素投与が必要な状況では入院治療を原則とし、入院が困難な場合に備えて、酸素・医療提供ステーションの設置も有用と考える。やむなく在宅療養をする際は、一時的に訪問診療で支援するのがよいと考える。また、一般的に、医師は臨床経験を積むほどに、効率よく、低ストレス下で同様の患者の診療ができるようになるため、中等症以上の在宅患者に対応するには、患者が急増するフェイズで招集される災害派遣医療チームのようなものに経験を集積させていくのも一つの方法と考える。

当院の取り組みと通常診療への影響、様々な取り組み

当院の取り組み

医療法人社団鉄祐会は訪問診療を中心としたクリニックであり、24時間365日の在宅医療を提供している。在宅や施設でのワクチン接種、集団接種への医師派遣、往診でのPCR検査、検査陽性者や濃厚接触者の往診、新型コロナ疑い患者の診察、発熱外来、入院調整、保健所からの要請に応じた自宅療養者への遠隔支援、往診等を実施してきた。もともと、通院が困難な介護度の高い高齢者や末期がん患者、神経難病の患者など、もしも新型コロナ感染症になれば重症化するリスクの高い患者を多く診療してきた。在宅でのワクチン接種には非常に手間がかかるものの、接種会場に行くことができない患者への接種を早期に開始していたことで、第5波の前に希望者に対して新型コロナワクチンの2回接種を概ね終えることができていた。第5波において、新型コロナに感染した在宅患者は何人かいたものの、重症者を多く出さなかったことに貢献できたと考える。

在宅患者が新型コロナ陽性となった場合でも、当院の医師や、連携先の訪問看護ステーションの看護師が個人用防護具を身に着けて訪問し、在宅医療の提供を継続することができる。しかし、訪問介護員(ヘルパー)は、その業務の性質上、長時間患者と密に過ごすことが多く、また、個人用防護具の脱着を含めた高度な感染防御のトレーニングを必ずしも受けられていないことから、新型コロナ陽性者に対して、ヘルパーの訪問は困難となることが多い。手厚い介護を受けながら独居生活をしている患者においては、介護者不在では生活が維持ができないため、医学的に軽症であっても、入院で対応せざるを得ない。軽症者が原則自宅療養の方針になったとしても、このように原則通りに対応できないことも多いことには注意が必要である。

第5波は、通常の在宅診療にも影響があった。80代の在宅患者に尿路感染症が発症した際に、病状が重いため入院治療を要すると判断し、本人、家族も入院を希望したため、いくつもの病院を当たったが、受け入れ可能な病院が全くなかった。結局、自宅で治療を実施し、一度は回復したものの、再度病状が悪化し、当院で往診して自宅でお看取りとなった。お看取りの際に御家族から、「自宅で支えてもらいながら、家族で一緒に最期まで過ごすことができて、本人も、家族もよかったと思っている。」との言葉をいただいた。医療提供体制に限りがある状況に悔しさを感じていたが、その中でも最善を尽くし、御本人、御家族に、よかったと思っていただけたことには、救われる思いがした。

第5波の最中は、家族であっても、入院中の患者との面会を不可としている病院が多かった。そのために、たとえ重症であっても入院を避け、在宅医療を選択する患者、家族は普段よりも多かった。また、最期の場として在宅を選択する患者、家族も普段より多かった。一般的に、高齢者は長期入院をすると、病気そのものが治癒しても、体力が著しく低下する。入院中に全く会えず、退院時にすっかり弱った姿を初めて見てショックを受ける御家族も多かった。新型コロナ患者の診療だけでなく、こういった患者、家族に対するケアも、コロナ禍においては非常に重要であると考える。

注目すべき他院の取り組み

医療法人社団悠翔会では、第5波の最中に、コロナ専門往診チームを組成して対応にあたった。チーム体制を整備し維持するためには、既存の診療報酬や補助金だけでは不足するため、クラウドファンディングで支援を呼びかけたところ、多くの支援が集まり、目標の1200万円を大きく超える支援金額を達成した。

時間外救急の総合窓口「ファストドクター」では、全国1000名以上の医師が連携するプラットフォームを構築し、往診での新型コロナPCR検査や抗原検査、自治体から委託を受けての夜間、休日のコロナ陽性患者の診療などを実施している。

おわりに

国内では、2020年1月に1例目の新型コロナウイルス感染症患者発生を確認した。当初はヒトからヒトへの持続的な感染があるかどうかも分からない状況でほとんど国内での感染も広がりを見せなかったが、一度広がり始めるとその勢いは強く、2020年4月7日には1回目の緊急事態宣言が行われた。マスクも消毒用アルコールも防護具も十分に確保できなかった当時に比べれば、ワクチンも普及しつつあり、臨床経過も、治療法も分かってきた現在では、様々な対策をしやすくはなってきた。しかし、一方で、デルタ株など感染力の強いウイルスが出現し、陽性者数も当時とは桁違いに増えている。時期によって新型コロナウイルスへの対応方法は大きく変わり、都度、知識をアップデートしていく必要がある。また、過去にどのように対応したのかは、往々にして忘れ去られていく。過去を振り返り、未来に生かすためにも、東京での第5波の状況を記録した。

当院の経験や、周囲の医療機関から得られた情報を基に記録したが、新型コロナ対応は、地域によっても、また、医療機関によっても大きく実情が異なるため、ここでの記録は、必ずしもすべての状況を反映できているわけではない。しかし、実際に経験したことを記録することに意義があると考えている。それぞれの役割を果たしつつ、来るべき次の波に備えていきたい。

引用文献
  1. 時事ドットコムニュース 2021年9月5日
    https://www.jiji.com/jc/article?k=2021090400282&g=pol
  2. 新型コロナウイルス感染症 自宅療養者向けハンドブック
    https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/shien/zitakuryouyouhandbook.files/zitakuryouyouhandbook0128.pdf

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