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コロナ様疾患定点サーベイランスによる地域における新型コロナウイルス感染リスクの評価

著者

COI

注:この記事は、有識者個人の意見です。COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。

本研究は、令和2年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)「マスギャザリング時や新興・再興感染症の発生に備えた感染症サーベイランスの強化とリスクアセスメントに関する研究(H30-新興行政-指定-004)」研究代表者 島田智恵 国立感染症研究所の分担研究として行われている。

  • 感染症対策はサーベイランスに始まる。今般のCOVID-19パンデミックに際しては、症状的には通常の急性上気道炎やインフルエンザと症状的に区別が付かないので、欧米では、早期から既存のインフルエンザ様疾患と一緒に、あるいはコロナ様疾患、あるいは急性上気道炎としてのサーベイランスが行われている[2]。
  • 本研究では三重県においてインフルエンザ様疾患および上気道炎患者のサーベイランスを行い、地域において発生する急性上気道炎の起炎病原体に占める新型コロナウイルスの割合を調査し、地域で急性上気道炎と診断される症例がCOVID-19であるリスクを評価することを目的とした。
  • 定点医療機関におけるコロナ様症状を示す上気道炎患者数(ARI)は、COVID-19を疑うべき疾患症例数であり、このなかで検査が行われ、一定の割合が陽性となる。一般的な診療所定点では、明らかなCOVID-19患者との接触歴のない地域の患者が受診するため、このなかでのSARS-CoV-2の陽性率が地域におけるCOVID-19感染リスクとなる。
  • 地域における潜在的な感染リスクは、明瞭で一貫した症例定義で患者を捉え、そのなかで積極的に検査を行っていくことによって、地域における上気道炎症状を呈した場合に、そのなかのどのくらいがSARS-CoV-2によるものかを評価することができる。これが地域に存在する見えない感染源をみていることになり、この存在がその後の疾病流行を規定していると考えられる。

 

背景

感染症対策はサーベイランスに始まる。現在地域でなにが起こっているのかわからなければ、どんな対策を取るべきか検討できない。特に、現在パンデミックとなっている新型コロナウイルス感染症(COVID19)のように症状が非特異的な疾患の場合には、その鑑別が難しく通常の感染症法に基づく届出は、受診行動と医師の判断に大きく影響をうけるため、実際の発生状況を把握出来ていない可能性がある。軽症で受診しない患者は診断に結びつかないし、受診したとしても医師が疑わなければ検査を行わず、患者として把握されることはない。

地域での実情を正確に把握するためには、複数のサーベイランスを行うのが定石である。診断された患者を届けるものとは別に、地域内での潜在的な伝播を評価するサーベイランスは、その一つで、地域において、確定された感染者と明確な接触歴が無い状況で上気道炎症状にて医療機関を受診した人についてランダムにスクリーニング検査を行うものである。感染者と確定診断された患者のみを報告する届出疾患サーベイランス(Notifiable Disease Surveillance)とは異なり、一定の症状を来す患者において、その患者が特定疾患(今回の場合にはCOVID-19)に対する検査陽性割合を示すことによって、地域において一定の症状を来した患者がその特定疾患であるリスクを表現する。

このようなサーベイランスは特別なものではなく、平常時ではインフルエンザ様疾患(influenza-like-illness; ILI)サーベイランスとして世界のほとんどの国で行われている。これはWHOが推奨している標準的なインフルエンザサーベイランスであり[1]、症状としてのインフルエンザ様疾患をカウントして、そのなかでのインフルエンザ陽性例の割合をもって、インフルエンザの地域での流行を評価するものである。一般的には採取した検体からインフルエンザのみならず、上気道炎を起こす種々の病原体も同時に検査しているので、今回のような新型コロナウイルスのような新興感染症に対しても早期の探知が可能になるのである。

今般のCOVID-19パンデミックに際しては、症状的には通常の急性上気道炎やインフルエンザと症状的に区別が付かないので、欧米では、早期から既存のインフルエンザ様疾患(influenza-like-illness; ILI)と一緒に、あるいはコロナ様疾患(Corona-like-illness;CLI)、あるいは急性上気道炎(Acute Respiratory Infection;ARI)としてのサーベイランスが行われている[2]。WHOはインフルエンザの定点サーベイランスにCOVID-19の検査を加えることを勧奨している[3]。ニュージーランドではパンデミック早期にサーベイランス戦略として症状的にCOVID-19と区別の付かない患者について、すべてがCOVID-19の鑑別疾患として、SARS-CoV-2の検査を行い、症状のあるひとのなかでのCOVID19の割合を見ることによって、地域での感染リスクを評価すると明確に述べられている[4]。

本研究では三重県においてインフルエンザ様疾患および上気道炎患者のサーベイランスを行い、地域において発生する急性上気道炎の起炎病原体に占める新型コロナウイルスの割合を調査し、地域で急性上気道炎と診断される症例がCOVID-19であるリスクを評価することを目的とした。この結果は地域での見えないSARS-CoV-2の感染伝播を探知することに繋がり、地域内感染伝播についてのリスクアセスメントに繋がることが期待される。

 

方法

三重県では三重県医療保健部薬務感染症対策課、三重県医師会、三重県感染症情報センター、三重県保健環境研究所との協力により感染症法におけるインフルエンザサーベイランスの72定点(内科27+小児科45定点)において、インフルエンザ様疾患(Influenza-like Illness;ILI)の症例数とコロナ様疾患(Corona-like Illness;CLI)としての急性上気道炎(ARI)の症例数と、これらにおける積極的なインフルエンザとSARS-CoV-2の病原体検査を行い、インフルエンザ及びSARS-CoV-2の検査数と陽性数の報告を依頼した。

現行の感染症法では臨床症状からインフルエンザと診断出来る患者をインフルエンザとして届けることを規定しており、日本はグローバルスタンダードにおけるILIをインフルエンザとしているので、サーベイランス上はILIとインフルエンザが区別出来ていないので、インフルエンザあるいはILIの届出数はほとんど意味を成さないため、ここではインフルエンザ患者数は参考程度として、検査数と陽性数から陽性率を算出している。

それぞれの症例定義は以下の通りとした。

  1. ILI:38.0℃以上発熱かつ上気道症状かつ全身倦怠感
  2. ARI(上記以外の上気道炎・コロナ様疾患含む):発熱、あるいは上気道症状、味覚/嗅覚障害

検査方法は、インフルエンザについては迅速抗原検査、SARS-CoV-2については、行政検査としてのリアルタイムRT-PCR、LAMP、あるいは抗原定量検査とした。

 

結果

データは毎週三重県感染症情報センターより、ILIあるいはインフルエンザ報告数、ARI報告数、インフルエンザ検査陽性率、SARS-CoV-2検査陽性率を三重県感染症情報センターのホームページから公開された[5]。

【表1】に示す如く、2021年の第1週(1月4日〜10日)には県内9つの保健所地域の69の定点医療機関において、235件のインフルエンザ検査が行われ陽性は0、525例のARIに対して、SARS-CoV-2検査数は508件で陽性数は30であったことを示している。ここで表に示すインフルエンザ患者数というのは感染症法で臨床的に定義される「インフルエンザ」であり、診断医によって臨床的にインフルエンザと診断された症例数である。この時期、三重県では臨床的にインフルエンザを疑って、235件の検査が行われたにもかかわらず、陽性例は一例も無かったことが示されている。一方では、ARIでは、SARS-CoV-2感染者との接触歴を意識せずに地域の医療機関を受診する急性上気道炎患者の内、5.9%がSARS-CoV-2陽性であり、四日市地区と伊勢地区ではそのリスクが非常に高いため、地域での感染伝播リスクが高いことを示している。

表1
2021年第1週(1月4〜10日)の定点におけるインフルエンザとSARS-CoV-2陽性率

【表2】は2021年第24週(6月14〜20日)における同様のデータであるが、地域におけるインフルエンザ様疾患を含む急性上気道炎患者におけるインフルエンザ陽性率はゼロ、SARS-CoV-2陽性率は県全体で1%で、桑名保健所管轄地域で若干高くなっているが、地域において風邪症状を来した患者がCOVID-19であるリスクは非常に小さくなっていることを示す。

表2
2021年第24週(6月14〜20日)の定点におけるインフルエンザとSARS-CoV-2陽性率

【図】に昨年の第40週から県内全体の定点医療機関における1週間のARI患者数、SARS-CoV-2検査数、その陽性割合を示した。一方では発生動向調査における三重県内で報告された全COVID-19患者数をヒストグラムで表示した。定点におけるSARS-CoV-2陽性率が上昇しはじめると数週後から発生動向調査におけるCOVID-19患者報告数の増加がみられ、定点における陽性率が減少につれて、報告数も緩やかに減少した。インフルエンザは2020年第40週から2021年第8週までにA型1件、B型2件の検査陽性が報告されている。

インフルエンザ定点の多くは、一般の診療所であるため、探知されていない地域におけるCOVID-19例、つまり地域に流入したCOVID-19の地域内での初発例、あるいは二次感染例を探知していると考えられる。

週毎の定点におけるARI患者報告数・SARS-CoV-2陽性割合と感染症発生動向調査におけるCOVID-19確定例報告数(2020年第40週から2021年第9週)

 

考察

定点医療機関におけるコロナ様症状を示す上気道炎患者数(ARI)は、COVID-19を疑うべき疾患症例数であり、このなかで検査が行われ、一定の割合が陽性となる。一般的な診療所定点では、明らかなCOVID-19患者との接触歴のない地域の患者が受診するため、このなかでのSARS-CoV-2の陽性率が地域におけるCOVID-19感染リスクとなる。上記で示した様に、地域での感染リスクが上昇するとともにCOVID-19患者報告数が増加している。 

現状では、各地方自治体は検査数と陽性数を公表してるが、これらの検査数は一次的に外来での疑い症例に対する検査、濃厚接触者における検査、また退院時検査やスクリーニング検査が混在して報告されているところもあり、濃厚接触者における陽性率というのは、地域での感染伝播リスクではなく、それら接触者の感染者との接触密度に影響をうけるので、本来はこれら二つの集団はわけて考えるべきである。明らかな接触歴が無く、純粋に地域で発症したARI症例におけるSARS-CoV-2陽性率を示すことによって、地域におけるSARS-CoV-2の感染伝播リスクを示すことができると考える。

通常の感染症発生動向調査における患者届出は、受診行動と医師の診断により影響をうけるので、地域における患者の発生状況を反映するが、地域における感染リスクが評価出来るわけではない。地域における潜在的な感染リスクは、明瞭で一貫した症例定義で患者を捉え、そのなかで積極的に検査を行っていくことによって、地域における上気道炎症状を呈した場合に、そのなかのどのくらいがSARS-CoV-2によるものかを評価することができる。これが地域に存在する見えない感染源をみていることになり、この存在がその後の疾病流行を規定していると考えられる。

謝辞 本研究は三重県医療保健部薬務感染症対策課、三重県医師会、三重県感染症情報センター、三重県保健環境研究所、そして感染症発生動向調査におけるインフルエンザ定点医療機関の方々の協力によるものであり、この場を借りて深謝する。

 

[引用文献]
  1. WHO.Global epidemiological surveillance standards for influenza. https://www.who.int/publications/i/item/9789241506601
  2. CDC. Percentage of ED visits by syndrome in United States: COVID-19-Like Illness, Shortness of Breath, Pneumonia, and Influenza-Like Illness. https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#ed-visits
  3. WHO. COVID-19 sentinel surveillance by GISRS.https://www.who.int/influenza/gisrs_laboratory/covid19/en/
  4. MOH.Newzealand. COVID-19: Surveillance strategy.  https://www.health.govt.nz/our-work/diseases-and-conditions/covid-19-novel-coronavirus/covid-19-response-planning/covid-19-surveillance-strategy
  5. https://www.kenkou.pref.mie.jp/covid19mie/

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