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COVID-19モニタリング検査の意義(2):デルタ株後の変化

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COI

注:この記事は、有識者個人の意見です。COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。

  • 一般人口の感染状況を把握するために、無症状者を対象とする唾液PCR検査が、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室のもとで進められている。6月に本HPで報告した通り、14都道府県における一般人口の陽性率は、当該地域の新規患者数とよく相関する。
  • 第5波のモニタリング検査のPCR陽性率は、新規患者数の増加とともに上昇した。PCR陽性率は、都道府県単位の流行の勢いをよく反映する。とくに行政検査が縮小するなか、地域のハイリスク集団の同定に極めて有用であり、局地的な感染拡大を予測することが可能である。実際、一般人口の唾液PCRモニタリング検査は、学校で発生した無症状クラスターを検出した。
  • 一般人口の唾液PCR陽性率と新規患者数は、高い相関関係を示す。しかしデルタ株が中心となった第5波では、同じ陽性率でも、報告される患者数は第4波に比べて多い。可能性として、デルタ株の感染力が強いため一般人口の無症状者の割合が低下した、ワクチン接種により無症状感染者が減少した、モニタリング検査の対象にワクチン既接種者が含まれている、検査数が増加し行政の把握する患者数が増えた、などの要因が考えられる。
  • 高齢者や成人でのワクチン接種が進むにつれ、保育所・学校と家庭における感染が相まって、流行を拡大させているといわれる。これまで証拠がなかったが、モニタリング検査では、報告患者数に比べて明らかに10代以下の陽性率が高い。ワクチン接種されていない若年世代の感染防止のためにも、モニタリング検査により感染動向をみながら対策を立てる必要がある。またモニタリング検査は、行政検査を補う役割を果たしていると言える。
  • 公表されるモニタリング検査のデータは限定されている。情報を開示することで、専門家らが分析できる。多くの人が納得して感染防止の行動に協力できるよう、データを開示する必要がある。
  • 感染症法では、患者を診断した医師が保健所に届け出る。このため民間検査やモニタリング検査の陽性者は、医療機関を受診しない限り、保健所の管轄外である。陽性者への指導とデータ活用について、議論が必要である。

 

はじめに

本年2月から、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室のもとで、無症状者の唾液PCR検査が始まった(感染拡大予兆の早期探知のためのモニタリング検査)[1]。この事業は、COVI-19AI・シミュレーションプロジェクトの第三回アドバイザリーボード(昨年10月27日開催)における議論をうけ[2]、同対策推進室が実施することになった。令和2年度の第三次補正予算で81億円が措置され、2月に開始された。対象は、4月から5月の第4波で非常事態宣言が出された14都道府県(北海道、宮城、栃木、埼玉、東京、千葉、神奈川、愛知、岐阜、京都、大阪、兵庫、福岡、沖縄)である。年代、職種、地域別に感染状況を把握するとともに、次の感染拡大を早期に検出することを目的とした。

データは内閣官房の新型コロナ対策室のHPに掲載される[1]。しかし公開されるデータが限られており、アドバイザリーボードの委員もアクセスできるのは、公開データのみである。疫学的な分析や考察はなされておらず、感染対策にどのように活用されているかも不明である。それでも無症状の一般人口を対象としたPCR検査のデータは、世界的にも貴重な資料である。詳細は不明だが、限られた公開情報でも注意して分析するといくつかの興味深い点に気づく。

6月1週の分析では、以下の点が明らかとなった[3]。すなわち、

  1. 第4波における陽性率は0.06%から0.18%の間で推移し、14都道府県の新規患者数と一般人口の唾液PCR陽性率は、高い相関関係を示す。
  2. 5月の連休前後の年代別の陽性率は、10代以下0.5%、20代0.8%、30代0.35%、40代0.3%と比較的高い状態で推移し、その後0.05%以下に低下した。また東京や大阪では、ピーク時には0.3-0.4%の陽性率だった。
  3. 流行間欠期の陽性率は0.05%まで低下した。また第4波期間中のPCR陽性率と報告される新規患者数は高い相関を示した。このことから、唾液PCR検査の偽陽性は大きな問題にならないと考えられた[3]

5月連休明けの週の東京の陽性率は0.26%であり、陽性率から単純に計算すると、都民1千万人のうち無症状陽性者は2万6千人となる。これは、この週の東京都の報告患者数約5,600人の約5倍に相当する。内閣官房によると、モニタリング検査の対象は、14都道府県の中のハイリスク集団・地域であるという。したがって無症状感染者は、新規患者数の5倍よりは少ないと考えられる。本稿では、6月末以後の公開データから見えてきた課題を紹介する。

モニタリング検査で見いだされた千葉県の無症状クラスター

都道府県毎のモニタリング検査のPCR陽性率は、断片的にしか公開されない。そのなかで、8月17日と8月31日に公表された千葉県の陽性率は注目に値する[1]【図表1】【図表2】。通常、都道府県毎の陽性率は0.5%以下だが、千葉県の8月9日の週の陽性率は4.43%、8月23日の週は3.92%と、極めて異常な数値だった。これはある学校の無症状クラスターが、モニタリング検査により発見されたことによる。同じ学校でモニタリング検査を進めたところ、さらに新たな無症状陽性者が見いだされたという。

これまで有症状感染者だけでなく、無症状PCR陽性者も感染を拡大させると想像されていたが、無症状者への大規模検査が実施されず、その実態は必ずしも明らかでなかった。このため無症状感染者への対策が遅れてきた。今回、2度にわたり無症状者の感染クラスターを捕捉できたことは、流行拡大のメカニズムを理解するうえで重要である。

図表1
本年8月17日と8月31日に公表された14都道府県における陽性率
各週の配布検体数と直近の週の陽性率。実際の検査数は今週から公表されるようになった。8月17日と31日の公開資料では、千葉県の陽性率が異常に高かった(それぞれ4.43%と3.92%)。これはモニタリング検査によって、無症状者のクラスターが見つかったことによる。
出典 https://corona.go.jp/monitoring/ (8月17日および8月31日に公開された資料)

 

図表2
本年8月31日に公表された14都道府県における陽性者数
14都道府県における週ごとの陽性者数。千葉県の25週目と27週目の陽性者の多くは、無症状者クラスターである(赤枠)。
出典 https://corona.go.jp/monitoring/ (8月31日の公開資料)

 

空港における「搭乗前モニタリング検査」

内閣官房新型コロナ感染症対策推進室は、羽田、成田、中部、伊丹、関西、福岡の6空港から搭乗し、北海道、沖縄県内と福岡空港に向かう旅行者を対象に、唾液のPCRまたは抗原検査による「搭乗前モニタリング検査」を行っている[4]。空港のブースにおける検査だけでなく、市中の店舗でも検査を受付けている。自宅に配送された検査キットを返送する方式も用意されており、これらにより搭乗前に検査を受けることができる。検査法は唾液のPCRまたは抗原検査による。7月20日から8月22日の間、羽田空港から北海道、広島・福岡・鹿児島、沖縄方面に向かった搭乗者は累計62万5770人だった。このうち羽田空港からの搭乗者1万2215人、伊丹空港と福岡空港での搭乗者、店舗、自宅配送ルートを含めて4万8971人が検査を受け、陽性者は88人だった【図表3】。陽性率は0.18%と低いが、7、8月の羽田空港の利用者を350万人(2020年度実績は340万人)とすると、計算上、約6300人の陽性者が地方に飛び立ったことになる。

図表3
検査方式(空港ブース・店舗・配送)ごとの検査数及び陽性疑い者数
7月20日から8月29日の間、羽田空港からの搭乗者1万2215人、伊丹空港と福岡空港での搭乗者、店舗、自宅配送ルートを加えて合計4万8971人が検査を受け、陽性者は88人だった(陽性率0.18%)。
出典  https://corona.go.jp/passengers_monitoring/ および https://corona.go.jp/passengers_monitoring/pdf/passengers_monitoring_tests_20210824.pdf  (8月28日の公表資料)

 

第5波における一般人口の唾液PCR陽性率

7月末に第5波が到来した。同時に、全国でデルタ株による感染が増加し、現在90%以上を占める[5]。モニタリング検査の唾液PCR検査陽性率は、報告される患者数の増加に並行して上昇した。8月の14都道府県全体の無症状陽性率は0.20-0.28%、東京都では0.15-0.32%である【図表4】【図表5】。しかし陽性率は低くても、陽性者の推定絶対数は報道される患者数に匹敵する。またデルタ株は空気感染を含めて感染力が強いこと、さらに千葉県の例のように無症状感染者がクラスターを発生させること、また行政検査が縮小していることを考えると、一般人口の陽性率をモニタリングしながら、感染対策を立てることの重要性が明らかになった。さらに最近は、10代以下の若い世代の陽性者が急増している【図表6】【図表7】。8月23日の週の10代以下の新規陽性率は、同時期の行政検査における10代以下の陽性率よりも高い【図表8】。すなわちモニタリング検査は、行政検査ではわからない面を捉えているといえる。これらのデータから懸念されるのは、ワクチンを接種していない幼児・生徒・学生の感染である。8月9日の週には、保育所・幼稚園に7,515件、50大学に3,882件の検査キットが配布された【図表9】。新学期が始まったこともあり、学校における感染動向を把握しなければならない。保育所・幼稚園の幼児、小中学校生徒、高校生、大学生それぞれのモニタリング検査の陽性率の公開が求められる。

図表4
第5波における無症状者のPCR陽性率と感染者数の時系列変化(14都道府県全体)
最近のデータは変更される可能性がある。

出典 https://corona.go.jp/monitoring/ と公表データをもとに筆者作成

 

図表5
第5波における無症状者のPCR陽性率と患者数の時系列変化(東京都)
最近のデータは変更される可能性がある。
出典 https://corona.go.jp/monitoring/ と公表データをもとに筆者作成

 

図表6
14都道府県における7月下旬以後の年代別陽性率(モニタリング検査)
10代以下の陽性率が際立って高い。学校中心に無症状感染者が増加している。
出典 https://corona.go.jp/monitoring/ (8月31日の公開資料)

 

図表7
モニタリング検査の年代別検査数と陽性者数
10代以下のPCR陽性者の割合が著しく高い。
出典 https://corona.go.jp/monitoring/ (8月31日の公開資料)

 

図表8
14都道府県における8月末の行政検査とモニタリング検査の新規陽性者の年代別比率
10代以下の陽性率は、モニタリング検査の方が行政検査よりも高い。
出典 https://covid19.mhlw.go.jp/ と https://corona.go.jp/monitoring/ をもとに筆者作成(8月31日の公開資料)

 

図表9
14都道府県における5月以後の検査数と陽性疑い数
5月末以来の検体配布数(黒)、検査数(青)、陽性疑い者数(赤数字)。7月中旬から陽性者が急速に上昇している。右上に検体配布先が示されている(赤枠)。
出典 https://corona.go.jp/monitoring/ (8月17日の公開資料)

 

第5波における報告新規感染者数/一般人口唾液PCR陽性率比の上昇

第5波のPCR陽性率は、14都道府県全体でも、あるいは東京都に限定しても、報告される新規患者数とよく対応する【図表4】【図表5】。しかし第4波と比較すると、第5波では一般人口のPCR陽性率が同じでも、新規患者数が多い【図表10】【図表11】。内閣官房によると、夏休みに入り学生の検査数が多少減ったものの、検査対象が極端に低リスク集団に移行したことはないという。考えられるのは、

  1. 感染力の強いデルタ株の流行によって、有症状者が増加した
  2. ワクチン接種によって無症状感染者が減少した
  3. モニタリング検査の対象に、ワクチンの既接種者が多く含まれている
  4. 民間検査等により検査実績が増え、多くの新規患者を捕捉できるようになった

などである。実際、東京都における感染者のうち、無症状者の割合が低下しているという報道がある[6]。おそらく複数の要因が関与すると考えられるが、いずれにしてもわが国の市中感染の実態は不明な点が多く、モニタリング検査の詳細情報の公開が待たれる。

直近の一般人口における0.25-0.3%の陽性率は、流行間欠期の0.05%よりもはるかに高い【図表4】【図表5】。デルタ株の感染力を考えると、注意深いモニタリングと感染対策が求められる。

図表10
報告される患者数と一般人口のPCR陽性率
青は第4波(6月21日の週まで)、赤は第5波におけるデータ。第5波では患者数の割に無症状陽性率が低い。
出典 https://corona.go.jp/monitoring/ の公表データをもとに筆者作成

 

図表11
無症状者のPCR陽性率と患者数の時系列変化
第5波では、無症状者の陽性率が第4波と同等でも、報告患者数が多い。この解離は、デルタ株の流行の始まり、およびワクチン接種の普及の時期と一致する。なお最近のデータは変更される可能性があることに注意が必要。
出典 https://corona.go.jp/monitoring/ の公表データおよびOur world in Data  https://ourworldindata.org/grapher/covid-cases-delta をもとに筆者作成

 

おわりに

三密回避と人流抑制が叫ばれながら、一般人口における無症状感染者の実態はこれまで不明だった。これに対し、内閣官房コロナ対策室が進める「感染拡大の予兆の早期探知のためのモニタリング検査」は、従来の対策にない新しい視点を提供した。想定しているのは、一般人口において社会活動する無症状感染者からの感染拡大の防止である。そのためには、有症状の感染者に加えて、無症状ながらPCR陽性という集団を考慮した感染対策が必須である。現在、空気感染の可能性が高いデルタ株がまん延しており、その重要性は明らかである。この無症状感染集団に関する情報を初めて提示した点で、本事業は意義がある。

本事業は新たな感染拡大の予兆探知という名目で始まった。しかし第5波では、14都道府県全体の一般人口のPCR陽性率は、必ずしも新規患者者数の増加に先行して上昇していない。それでも地域や学校などのモニタリング検査陽性率は、行政検査では捉えられない動向を反映しており、一般人口における感染状況を俯瞰する指標として有用である。実際、8月に千葉県で2度、無症状クラスターが同定されたことからも、地域の感染拡大防止に有用である。とりわけ行政検査が縮小する中、保育所や学校でクラスターが発生しており、学校生徒に対するモニタリング検査を積極的に進める必要がある。

しかしながら本事業のデータ公開には大きな問題がある。これまでの公表データは、分析と説明が足りない。とくに職域、学校、地域毎のデータが示されていない。また陽性者のCt値も明らかでない。このような世界的にも貴重なデータの分析、とくに他のデータと突合して包括的な感染動向を把握したり、感染対策の計画・実施・評価をリアルタイムに進めるには、データ分析や疫学・統計学専門家の力を借りるべきである。そのためにも、プライバシーに配慮しつつ、オリジナルデータを開示し、広く活用することが重要であり、成果が国民に還元されることを強く期待する。

モニタリング検査をいかに系統的かつ包括的に進めるかも、大きな課題である。全数調査は現実的でないため、優先順位としては、ハイリスク集団とハイリスク地域(エピセンター)を重点的に調査するのが適切である。また情報を国民と共有し、理解と協力を得ながら感染防止の活動をより効果的に行わなければならない。一般人口における無症状者の陽性率が低いことで、効果を疑問視することもあるが、逆に現在の状況であれば、検査と隔離を徹底することによりCOVID-19の制圧も可能である。

こうした一般人口における感染動向は、検査数や検査対象に左右される報告患者数と異なり、代表性と比較可能性が担保されている。この観点からみると、本事業のデータは、感染対策の効果の指標としても活用できる。さらに信頼に足る感染動向の情報として、国民に納得と安心感をもたらす。そのためにもデータをわかりやすく提示し、その意味を社会に説明しなければならない。

これまでのモニタリング検査のデータは、一般人口のハイリスク集団とハイリスク地域における積極的な調査の重要性を示している。これはCOVID-19有識者会議が昨年8月に提言した「コロナ検診」や、「データ駆動型対策」と一致する[7][8]。しかしながら、わが国の感染症法第十二条は、医師が感染者を診断したときに届出を行うと定めている。このためモニタリング検査で見いだされた無症状感染者の感染症法上の位置づけは、必ずしも明らかでない。この状況は民間検査の陽性者も同様である。陽性者は医療機関で診断されない限り、保健所の管轄外である。個人情報の扱いには特別な配慮が必要であるが、モニタリング検査や民間検査による陽性者をどのように指導し、また陽性者のデータをいかにCOVID-19対策に活用するか、議論が求められる。

[引用文献]
  1. 内閣官房:感染拡大の予兆の早期探知のためのモニタリング検査 https://corona.go.jp/monitoring/
  2. 第3回AIアドバイザリーボード https://corona.go.jp/prevention/pdf/advisory_siryou_20201026.pdf
  3. 永井良三、相澤健一:唾液PCRによる一般人口のCOVID-19モニタリング検査の意義 https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/6570
  4. 内閣官房コロナ対策室:羽田空港等と北海道・沖縄県内の空港等との間を結ぶ便の搭乗者を対象としたモニタリング検査 https://corona.go.jp/passengers_monitoring/ および https://corona.go.jp/passengers_monitoring/pdf/passengers_monitoring_tests_20210824.pdf
  5. Our world in Data https://ourworldindata.org/grapher/covid-cases-delta
  6. 産経新聞 2021年8月18日 https://www.sankei.com/article/20210818-KUP7HERNONI27NH7QLY4P66MLM/
  7. 日本医師会COVID-19有識者会議:COVID-19感染制御のためのPCR検査等の拡大に関する緊急提言 2020年8月5日 https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/3243 
  8. 永井良三:「新型コロナの克服は仮説先導型だけではなく、データ駆動型の対策強化で」 財界 2021年3月18日 https://www.zaikai.jp/articles/detail/354

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