日本医師会 COVID-19有識者会議
海外

COVID-19のパンデミック:米国の失敗と成功から学ぶ

相川 眞範ハーバード大学医学大学院 ブリガム・アンド・ウィメンズ病院学際的心血管病研究センター 所長
COI:なし
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • COVID-19は全世界で大きな被害をもたらしている。しかし危機への対応の仕方や被害のレベルは、各国さまざまである。CDCがあり協力的な国民性を有し、科学技術にも優れた米国で、死亡数が10万人を超えたのは何故か。一方、日本は被害を最小限に抑え、その見事な成果が世界中を驚かせている。国によっては収束の兆しがある一方で、これから被害が拡大すると予測される国もある。米国では、拙速な封鎖解除により遷延や再燃が危惧されている。一旦収束しても、秋に予想される第2波、流行が数年遷延する可能性、さらに全く新しいパンデミックに対応するためには、諸国のCOVID-19関連データを詳細に分析する必要がある。米国と日本のみならず、各国が以下の事項に至急対処し、今後の危機に備えるべきであろう。
  • それぞれの国で不具合であった点を、至急改善する努力が必須である。一方で、対応が成功した理由を科学的に明らかにすることも重要である。
    1. 科学的根拠に基づかない医療政策決定や政治的発言を避けるためのモラルを確立する
    2. 国家や各組織のトップの非常時のリーダーシップのあり方を考える
    3. 緊急事態に際し、遅滞無く対応する仕組みを作る
    4. 革新的技術を迅速に導入する(テレメディシンやAIなどの導入、データサイエンスの拡充)
    5. 情報収集・発信方法を改善する
  • このような活動の寄る辺として、米国でのCOVID-19の状況を報告する。何故かくも大きな被害が出たのか、評価に値する機能は何か、に焦点を当てる。

はじめに(背景と研究領域)

私は、日本で内科医・循環器内科医として臨床および血管生物学研究に従事していた。1995年以後は、ハーバード大学医学大学院のブリガム・アンド・ウィメンズ病院循環器科で、血管の炎症の研究を行なってきた。米国の医療機関に所属する日本人研究者として経験した、米国でのCOVID-19の状況や対応を報告する。

パンデミック拡散のモデリングや感染症学は専門外であるため、COVID-19の科学的側面ではなく、大きな被害を出したこの国で、何が機能し何が機能しなかったかを考察したい。

また当地で経験した政治と科学の大きな乖離にも、焦点を当てたい。日本が次の危機に備えるための参考になれば幸いである。

米国におけるCOVID-19の状況と対応

首長の能力が国の命運を左右する:トランプ政権の失敗に学ぶ

米国での被害:

米国は世界で最大の被害を受けている。5月28日現在、約160万人以上の感染が確認され、死亡数は10万人を超えた(IHMEのデータ)【図表1】。ボストン市民の7分の1、ボストン隣接のケンブリッジやウィスコンシン州のグリーンベイの市民の全員が死亡したのと同様である。8月4日までに予測される死亡数は13万人を超え、ボストン郊外の小都市フラミンガムの人口の2倍である(IHME)。

図表1
米国でのCOVID-19の推移(The Institute for Health Metrics and Evaluation, IHME, the University of Washington)

世界に誇るCDCがあり、緊急時には一致団結する協力的な国民性があり、科学的にも最先端にあるこの国で、何故かくも甚大な被害が出たのだろうか。

これから論ずるように、「人災」の要因が大きいと考えられている。

経緯の詳細は、本項末尾のタイムラインも参照されたい。

初動の致命的な遅れが被害を増大させた:

米国被害の原因はいくつか挙げられる。党派を超えて指摘されている最も重要な敗因は、トランプ大統領の危機管理能力の低さである。科学的情報を尊重せず、特に中国でのエピデミックが、急速にパンデミックになる懸念が1月に報告されながら適切な対応をせず、6−8週間の空白を作った。この初動の遅れが、被害の拡大をもたらしたといわれている。コロンビア大学の研究では、5月3日時点でのデータ(死亡数65,307人)をもとに、もしソーシャルディスタンシングが2週間早く始まっていたら、死亡者が83%少なかっただろうと推定されている【図表2】。まさに人災である。この未曾有の危機に際し、この人物が首長であることは米国の悲劇である。

図表2
ソーシャルディスタンシング開始の遅れが、米国での被害を拡大した

1月中旬に報告を受けてから、FDAが規制を緩め民間での診断キットの開発を促すまでに約1ヶ月半、欧州からの渡航制限や国家緊急事態宣言発令までには約2ヶ月経過している。この遅滞は、韓国政府としばしば比較される。韓国では、最初の感染者が出て1週間以内に20の企業代表と緊急会議を開き、診断キットの開発を指示、その1週間後には第1号の製品完成に至った。

米国はかなり遅れて国家非常事態宣言を出したが、その後もさまざまな対応の不備が指摘されている。トランプ大統領就任以来、共和党と民主党の対立が深まる中、国家的危機に直面しながら、党派を超えた対処をせず、依然として再選を目指した政治的判断を介入させている責任も追及されている。

後に示すタイムラインで示される通り、連邦政府機関のNIHやCDCなどの初動は必ずしも遅くはなかった。しかしその後、トランプ政権は対応が遅く、かつ科学的根拠に基づいた政策決定を行わなかった。このことにより、対立が深まり、これら機関の有効活用にも失敗した。さらにトランプ政権は、COVID-19のような事態に備えてNational Security Council内に設置されていたPandemic Unitを2018年に解散させた。その時点で今回の失敗の土壌が出来たとも言える。この一連の大失態は、人類の歴史に残るであろう。

非常時に国のリーダーに求められるもの:

COVID-19のレベルの国家的あるいは世界的危機への対処は、しばしば戦争への対応に例えられる。

歴史家ではないので、過去の戦争との具体的な比較は避けるが、COVID-19のごとき緊急時に適切な対応をするため、国のリーダーや国の仕組みに求められる要素は、戦時に必要なものとある程度共通する。また公衆衛生、特に感染症対策は、国家安全保障上の重要な活動と認識されている。戦争であれ、感染症パンデミックであれ、国のリーダーに不可欠な対応能力は共通である。COVID-19のみならず、変化が加速度的に早まる現代においては、平時にのみしか機能しない者が、国のトップに立つのは危険である。

現状の理解と受容:

戦争のみならず、国家や組織が危機に直面した場合、特に平時に全く想定されていなかった事態が勃発した際、リーダーには、現実(”bad news”)を受け入れる能力と勇気が欠かせない。これなくして迅速な初動はなされ得ず、その後の対応が後手に回る。トランプ大統領は1月に専門家からのCOVID-19の情報が耳に入りながら、予測された危機の可能性を否定し、作戦の立案を迅速に開始するリーダーシップを取れなかった。

国家の長たる者、国民が気づかないくらいの早期に、危機的状況を理解し、行動に移すスキルが求められる。

科学的情報に基づく医療政策の決定:

科学を尊重しない政治は危険である。戦争同様、危機への対応には情報が極めて重要である。COVID-19が、指数関数的に脅威を増す病気である以上、医学的・科学的データが重要な情報源であり、専門家の意見に耳を傾け、科学的根拠に根ざした政策決定がなされなければならない。また、その説明が曖昧であってはならない。

トランプ大統領は、専門家や科学者の意見を尊重せず、CDCなど連邦政府機関の活動とも齟齬を生じて来た。Lancet誌はeditorialのなかで、緊急事態のなかトランプ大統領がCDCとことごとく対立し、その機能を低下させたと指摘、次の大統領には公衆衛生の重要さを理解する者を選ぶべきであると結論した(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31140-5/fulltext)。

国民が納得できる目的を掲げる:

トップの判断に反対意見があり、議論を尽くすことは、民主主義に必要なプロセスである。しかし、国家の緊急事態の対応にはスピードが重要であるため、国民のコンセンサスを求めている時間のないことも多い。

複雑な事態や要素を迅速に整理し、仮に皆が賛成できなくとも、少なくとも腹に落ちる目的に昇華させ、それを分かりやすく掲げられるスキルが必要である。トランプ大統領はこれにも失敗し、この役割は地方自治体や各民間組織のリーダーが肩代わりした。

また、国や組織のトップは、健全な世論や流れを形成する教育者でなくてはならない(洗脳とは異なる)。特に非常時には重要な能力である。トランプ大統領が、自身の率いる政権の指針に反し、公の場でのマスク着用に公然と抵抗する姿勢は、悪影響を及ぼしている。

感染拡大後の米国の対応

地方自治体と民間のリーダーの独自の対応:

米国での惨事を目の当たりにしてきた者として、強調したいことのひとつは、トランプ大統領の危機管理が遅滞し、さまざまな問題が生ずるなか、先行して地方自治体と民間がかなり独自に措置を取ったことである。

カリフォルニア、ニューヨーク、フロリダ、オハイオ、マサチューセッツなどでは、トランプ政権の国家緊急事態宣言より早く、州政府が緊急事態宣言を発令した。私の地元マサチューセッツ州やボストン市などの地方自治体や、私が勤務するハーバードとブリガム・アンド・ウィメンズ病院を含む多くの民間組織では、トランプ政権が迷走するなか、国家緊急事態宣言を待つことなく、それぞれ感染拡大予防措置を立て、迅速に展開した。この巻き返しがなければ、この国の被害はもっと大きくなっていたであろう。特に各地方自治体や各民間機関のリーダーが示した独立心、断固たる判断、スピードは特筆されるべきである。

一般市民の協力的な姿勢:

この国に身を置き一連の経緯を経験し感じたもうひとつは、地方自治体や民間が先行して徹底した措置を取り出してから、一般市民が非常に機敏に反応し、危機管理に協力したことである。経済重視のトランプ政権がリスクを過小評価しており、COVID-19の危機感がなかなか浸透せず、多くの市民がまだ対岸の火事という感覚を抱いていた。

3月初め頃、ボストンのレストランや店舗はいつも通りに混んでいた。もともと習慣がなかったこと、効果の有無がはっきりしないとされていたことから、マスクをする人々もほとんどいなかった。今にして思うと、これが明暗を分けたかも知れない。しかし、3月10日にマサチューセッツ州での死亡数が一晩で倍増したのを受け、州知事が国に先駆けて緊急事態宣言を発令した。ハーバードの研究施設は3月16日の週に全て閉鎖、翌週の3月24日には州が封鎖に至り、ボストンの街は一瞬にして空になった。このスピード感は見事であった。

後に分かったことであるが、米国でもおそらく1月にはCOVID-19感染が拡がり始めていた。3月の時点で相当数の無症状キャリアがいたと想像され、このような迅速な対応をもってしても、既に手遅れであったと考えられる、しかしこの素早い対応がなければ、マサチューセッツ州での被害はさらに大きくなったと想像する。

一般的に自己意識が強いと理解されている米国人が、何故かくも速やかに州や職場の方針に従い、危機への対応に一丸となって協力したのか? 外出禁止令に関して言えば、警察が見回っている訳でもなければ、ふらふら出歩いても懲罰を受ける訳でもないのに、多くの市民が一斉に自粛に協力した。(封鎖下でのレストランや小売店などの休業の違反にはペナルティーが伴う。)理由のひとつとして、第二次世界大戦後も、この国は大小さまざまな国際紛争や9/11を含むテロなどの危機を経験してきたことが挙げられる。ひとりひとりの使命感や責任感がかなり強く、危機に際しては一致団結する傾向があり、有事の対応には向いている。

マスクを着用する習慣がなかったことに触れたが、これに関連して、おそらく日本では報道されていないエピソードをひとつ。州が閉鎖下の4月に入っても、マスクをする市民は多くなかった。この時期全国的にPPEの不足が予想されており、ニューヨーク州では医療崩壊が起きていた。米国では、COVID-19治療に関与する医療関係者を英雄視する傾向が強く、「彼らがマスクの足りないなか命がけで戦っている際に、買い物に出かけるくらいでマスクをするのは申し訳ない」という市民感情があった。これは私にも理解出来た。振り返って見れば、ネガティブに作用した訳ではあるが。

COVID-19によるこの国の経済的打撃は甚大である。4月の失業率は14.7%である。5月21日現在、失業者は3,860万人を超えた【図表3】。

図表3
米国での失業者の急増

民主党下院議員のグループが提案した景気刺激策が、さまざまな議論と修正を経て上院でも可決され、共和党のトランプ大統領が署名するに至ったが、配分の仕方などに国民の不満は多く、事態は深刻である。追加の景気刺激策を民主党が提案しているが、共和党は反対している。

これだけの経済的負担がありながら、国民の大半が早すぎる封鎖解除に反対している(後述)。Democracy Fund/UCLA Nationscapeの調査では、早すぎる封鎖解除や再流行への懸念は、失業したか否か、あるいは経済的に打撃を受けたか、などとは相関していない。

市民の腹に落ちる情報配信のスキル:

トップの情報配信のスキルが優れていることも、一般市民の協力を得られた重要な理由であろう。トランプ政権は例外だが、米国では、ホワイトハウス、連邦政府、地方自治体、民間組織の全てのレベルで、正確な情報が、頻繁にかつ非常に分かりやすく配られる。このため例外的な指示が出ても、皆の腹に落ち、迅速な協力体制が実現する。

COVID-19のように未知の要素が多いパンデミックは、公衆衛生(人命尊重)と経済のバランスを取るのは困難であり、正解のない未曾有のチャレンジである。しかし最悪の事態を想定し、当面何に集中すべきか、トップが明確に説明すれば、民衆は理解すると思う。間もなく沈むかもしれない船の船長は、判断を迷わない。軌道修正が必要になれば、その都度明確に説明すれば良い。

トランプ大統領からの情報には事実誤認が多く、一貫性にも欠け混乱を引き起こしている。一方、地方自治体や民間のトップの多くが、それぞれ独自に優れた情報を発信している。

後述するが当ブリガム・アンド・ウィメンズ病院では、毎日、あるいは日に数通のニュースレターが一斉配信され、ガイドラインやその背景が詳細に伝えられた。

科学的根拠に基づく方針を、具体的なデータを示しながら、分かりやすく人々に語りかけることが必須である。そのようなスキルを備えた者を組織のトップとして選ばねばなるまい。今回の危機で、このような能力を持つ幾人かの指導者が、我々に感動を与えた。ドイツのメルケル首相、ニューヨーク州のクオモ知事、東京都医師会の尾崎会長などが好例であろう。クオモ氏は全国ネットの生中継で毎日記者会見を行い、最新のデータを示し、今後の予測や方針を分かりやすく説明する。さらに危機に対応する人間哲学まで語るため【図表4】、州民のみならず多くの米国民の心の傷を癒し人気が高い。

図表4
ニューヨーク州クオモ知事の毎日の会見は、説明が明確であるのみならず心の傷を癒す(MSNBC)
州や政党ごとの対応の違い:

米国は合衆国であり、地方自治体の権限が大きいため、知事が所属する2大政党の主義主張により、州の対応が異なったことも、米国におけるCOVID-19の特徴である。

民主党は概ね革新的であり、共和党は保守的傾向がある。人命が多く損なわれるパンデミックにおいて、公衆衛生と経済のバランスを上手に取ることは難しい。

民主党は科学的データに基づき、公衆衛生を優先する傾向にある。人命尊重路線を取る一方、大型景気刺激策を提案したのは民主党下院議員のグループであり、バランスをとる努力が見られる。

共和党は、経済とのバランスを重視する傾向にあり、それが初動の遅れの原因になったと指摘されている。実際、共和党知事の州(フロリダ、ジョージア、テキサスなど)では早期に封鎖解除が行われた。

各党派の支持層も同様の考えを有する傾向にあり、ロックダウン、マスク、ソーシャルディスタンシングなどに対する考え方に違いがある。70%の民主党支持者がマスクを着用しているのに対し、共和党では59%、というWashington Postの調査結果がある。国民の75%が封鎖解除はゆっくり行うべきと考えているが、全員に近い民主党支持者がこの考え方である。共和党支持層は50%のみがゆっくり州を開けることに賛成している【図表】。しかし早期解除を推進する政治家が多い民主党においても、支持者の半数が慎重な解除を望んでいる、と解釈することも出来る。

図表5
米国民の大半、民主党支持者の大多数、共和党支持者の半数が緩徐な封鎖解除を望んでいる

州による違いの例として、マサチューセッツ州とフロリダ州の数字を比較してみる。マサチューセッツでは2月1日に武漢への渡航歴のある最初の感染者が確認され、3月10日に緊急事態宣言が発令、3月24日には州が封鎖された。フロリダでは3月1日に2名に感染が確認され、外出禁止令の発令は4月1日だった。

ソーシャルディスタンシングで比較すると【図表6A】、マサチューセッツはフロリダ【図表6D】に比べ、かなり徹底していた。民主党優位のマサチューセッツでは、共和党知事が党派を超えた慎重な対応をしている。

しかしマサチューセッツ州は、感染者数と死亡数それぞれ米国内で3位と4位であり、どちらもフロリダ州より多い【図表6B、C、E、F】。さまざまな推測があるが、1月頃には相当数の無症状キャリアがおり、最初の感染者が確認された2月1日の時点で、感染がかなり拡大していた可能性がある。ボストンが欧州からの玄関であり、渡航が制限されるまで、かなりの感染者が入国した可能性が指摘されている。1月31日、トランプ政権は中国からの渡航制限を発表した。その時点で、ホワイトハウス・コロナウィルス対策班は、欧州諸国からの渡航制限も提案した。しかし政権内では経済重視の理由から見送られた。このため翌2月だけで、180万人を超える欧州からの渡航者が入国した。3月11日に漸く欧州からの渡航を禁止するも、英国からの入国は制限されなかった。この欧州からの渡航制限の遅滞は、東海岸特にニューヨーク州に大きな打撃を与えたと推測されている。米国でのコロナ禍が「人災」と言われる所以である。

大学や研究施設が多いため若者が多く、概して教育レベルも高いマサチューセッツで、なぜかくも被害が大きかったかの理由としては、死亡の大半が老人養護施設であることや、英語で示された指針の理解が難しいハイチなどからの移民のなかで起こったことを挙げる向きもある。

封鎖解除の方針も州により大きな違いが見られる。共和党知事が、毎日の死者がまだ横ばいだった5月4日にフロリダ州は封鎖を解除したが【図表6D、F】、その後、感染者数が増加傾向にある【図表6E】。一方、マサチューセッツでは、死亡数が減少傾向になるまで封鎖が継続され【図表6A、C】、5月18日に建設業など一部の業界の活動が始まった。今後は研究施設を含む領域に再開の枠が広がる予定であり、その後の感染者数や死亡数の推移が注目される。早期に封鎖が解除された州では、既に第2波の予兆が見られている。Johns Hopkins University Center for Systems Science and Engineeringのデータでも、大きな被害を受け封鎖解除に慎重な北東部の州では、過去2週間の感染者数が減少しているのに対し、比較的解除の早かった南部と中西部の州では収束の予兆はなく、むしろ再増加傾向が見られる【図表7】。

図表6A
マサチューセッツ州におけるCOVID−19でのソーシャルディスタンシング(IHME)
図表6B
マサチューセッツ州における感染者数の推移(IHME)
図表6C
マサチューセッツ州における1日ごとの死亡数の推移(IHME)
図表6D
フロリダ州におけるCOVID−19でのソーシャルディスタンシング(IHME)
図表6E
フロリダ州における感染者数の推移(IHME)
図表6F
フロリダ州における1日ごとの死亡数の推移(IHME)
図表7
北部の州と南部・中西部の州の違い(Johns Hopkins University Center for Systems Science and Engineering)

5月21日のImperial College Londonの新しい報告(Report 23)では、米国全体では収束の方向に向かっているものの、24の州では未だに実効再生産数(Rt)が1を超えており、規制の緩和で死亡が倍増する可能性を指摘している (https://www.imperial.ac.uk/media/imperial-college/medicine/mrc-gida/2020-05-21-COVID19-Report-23.pdf)。【図表7】で示したテキサス、ウィスコンシン、アラバマはこの24の州に含まれる。

ハーバードとその関連病院の対応と実情:

私が所属するハーバード大学医学大学院の教育関連病院であるブリガム・アンド・ウィメンズ病院を含むマサチューセッツ州の医療機関は、困難を経験したものの、崩壊は免れた 【図表8A、B】。ニューヨーク州では多くの病院で、瞬く間に患者数が総ベッド数やICUの許容力を超えた【図表8C、D】。4月9日にはピークに達し、総ベッド数が13,011であるのに対し、必要なベッド数は19,849だった。マサチューセッツ州ではICUは早期に不足したが、4月20日のピーク時でも、ベッドが必要な患者数2,703が、総ベッド数4,849を超えることはなかった。ブリガム・アンド・ウィメンズ病院とマサチューセッツ総合病院の経営母体であるパートナーズ・ヘルスケアに所属する全施設に、3月から5月18日までの期間に入院したコロナウィルス陽性患者数と死亡数の推移を示す【図表9】。累計入院者数は2,928人であり、そのうち480人が亡くなった。死亡率は13.6%である。5月24日現在、日本全国での総死亡数が825人であるのに対し、ボストンのひとつの医療機関での死亡患者数が480人であることは、米国でのコロナ禍の医療機関へのインパクトの大きさを示している。

図表8A
マサチューセッツ州で必要な総ベッド数の推移
図表8B
マサチューセッツ州で必要な総ICUベッド数の推移
図表8C
ニューヨーク州で必要な総ベッド数の推移
図表8D
ニューヨーク州で必要な総ICUベッド数の推移
図表9
パートナーズ・ヘルスケアにおけるCOVID−19総入院患者数と死亡数

CDCのデータでは、全米での総感染者数に占める医療関係者の割合が高いことが示される【図表10】。ニューヨーク州と異なり、マサチューセッツ州の医療機関ではPPEが大きく不足することはなかったと理解している。それでも当ブリガム・アンド・ウィメンズ病院でも医療関係者の感染が大きな問題であり、5月19日現在、検査を受けた合計3,591人の職員中、394人が陽性(約11%)である。陽性のスタッフは勤務から外れることになるので人員減となり、病院は臨床領域以外のスタッフ(基礎研究者を含む)全員を対象にオンラインで調査を行い、補助要員として動員する準備を迅速に進めた。私の研究室のメンバー数名も、既に夜間の補助要員として勤務した。私はまだ動員されてはいないが、昼夜の勤務が可能である旨回答してある。ハーバード大学医学大学院など米国の医科大学では卒業式を早め、補助要員を増やす試みも取られてきた。まさに総動員体制である。なお当院の医師の手記がNew Yorker誌に掲載された。当時の最前線の様子がよく分かるので、参考にされたい (https://www.newyorker.com/science/medical-dispatch/a-boston-hospital-nears-its-limits)。

図表10
米国におけるCOVID−19患者数と医療関係者の感染数(CDC)

最前線でCOVID-19と戦う現場の苦労は想像に絶する。各医療機関、報道機関、一般市民が、医療関係者をヒーローとして扱い、強力にサポートする機運がある。各機関では、彼らの精神的ストレスの管理にも力を注いでいる。医療関係者のみならず、感染への恐怖と長い在宅勤務で気持ちが落ち込む者も少なくない。当院では、毎日のように院内一斉メールでメンタルケアの部署の案内を流し、サポートを提供している。

研究施設の閉鎖:

COVID-19への研究施設の対応にも触れておきたい。先に触れたように、3月初め頃のボストンはまだ危機感が充分でなかった。

しかしマサチューセッツ州知事の緊急事態宣言が3月10日に発令され、当院でも出来る限り在宅勤務を行うよう指令され、多くの職員が出勤を控えた。その週にハーバード大学から研究施設の閉鎖を準備するよう連絡があった。翌週月曜日の3月16日にはブリガム・アンド・ウィメンズ病院の一斉メールで、4日後の金曜午後5時までに全ての研究施設を閉鎖するよう指示が出た。同日昼には病院首脳がプロセスをライブで説明する緊急オンラインミーティングが開かれた。マウスの維持や大規模な動物試験など最低限必要な作業に携わる少数のメンバーを選び、翌火曜日中に申請するように指示を受けた。数百を超える研究室からの申請書の提出、我々の循環器科など各科でのレビューと承認、必要に応じて再提出、内科全体の承認を経て、この週のうちに全ての施設が見事に閉鎖した。

この過程での病院のリーダーシップとスピードは、驚異的であった。私は、NIHの予算で運営する研究施設と日本の興和株式会社との共同研究センターの二つの施設で、約50人のメンバーを管理している。循環器科科長との交渉も含め、この作業は簡単ではなかった。しかし現場が良く反応・協力してくれ、つまらない苦情を言う者はひとりもいなかった。

緊急時に一致団結する気質もさることながら、報道機関のみならず、病院から詳細な情報が頻繁に配られたことも、重要な要素だった。毎日複数のニュースレターが送付され、病院の状況の変化、それぞれの方針や司令の根拠と目的が明確に説明された。私も一斉メールを使用し、状況を研究室のメンバー全員に時事刻々伝えるよう心がけた。

それぞれの医療機関でCOVID-19第2波や新規パンデミックに備える:

コロナ第2波や将来の全く新しいパンデミックに備えるには、ニューヨーク、スペイン、イタリアなどの医療機関が、どのようなスピードで崩壊に至ったかを詳細に調べ、最悪の事態にも対処できる仕組みを各医療機関で準備しておく必要がある。

ニューヨーク州では、感染拡大のスピードとスケールが他の州を凌駕し、短期間に医療機関が崩壊に至った。1月から3月にかけ、欧州からの多数の渡航者の流入がコントロールされなかったことが、大きな原因の一つであろう。

図表8で示すように、約1週間でICUの許容量を超え、2週間程で総ベッド数を超えてしまった。この状況は、米国の報道機関ではリアルタイムで詳細に伝えられた。ある病院ではすぐにICUが満床になり、人工呼吸器の常備されている手術室があっという間に、コロナ専用のICUとなってしまったという。死亡する患者があまりに多く、各病院の前に大型冷蔵トラックが配置され、簡易霊安室となった光景は広く報道された。

先に述べた通り、感染によるスタッフへのリスクが高く【図表10】、人員減少傾向にあった。また人工呼吸器の不足もあり、救命の可能性の低いケースには気管挿管を行わないなど、現場では苦渋の決断を迫られた。このような状況は広く報道され、先に引用したNew Yorker誌の手記にも詳しい。

感染拡大が予測されていた3月中旬、当ブリガム・アンド・ウィメンズ病院では、通常診療は次々に中止となった。例えば心血管外科は3月16日に全ての待機的手術の中止を決め、緊急手術のみに対応することになった。これは院内での感染拡大の予防のみならず、多数のCOVID-19を受け入れる余裕を作っておくことに役立った。

ちょっと横道にそれ、スペインの例を示したい。スペインから留学中のデータサイエンティストが、私の研究施設で人工知能(AI)を用いた探索研究で活躍している。彼はもともとパンデミック拡散の専門家である。彼を含む60名の科学者がOriol Mitjàのリーダーシップのもと、数理解析データを用いて、スペインの都市を封鎖せねばCOVID-19の感染が拡大すること、封鎖の程度によりどのように自体が改善するかを予測した【図表11】。図11左のパネルは各地域で完全封鎖を行った場合、緩い封鎖を行った場合、何も措置を取らない場合の3通りのデータで、ICUのニーズがどう推移するかを予測したデータである。この研究はLancet誌に掲載された。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32224297/?from_term=Oriol+Mitj%C3%A0+Lancet&from_sort=date&from_pos=1)

図表11
スペインの各地域での感染拡大(ICUの占拠率)の予測

この予測をもとに、彼らはスペイン政府に徹底的な措置をとるよう進言したが、当初は経済重視の観点から受け入れられなかった。そのため感染者や死者は増加し、政府は彼らの提案を受け入れた。3月29日に完全封鎖が開始され、収束の方向に向かった(https://www.catalannews.com/tech-science/item/complete-lockdown-or-health-system-collapse-by-april-24-scientists-tell-spain)。しかしその後、スペイン政府は封鎖を緩め、再燃傾向が見られ、現在では大きな第2波が予測されている。人命と経済のバランスを取るのは困難であるとは言え、科学的根拠に基づいた医療政策を実施することの重要さを示したもう一つの例である。

コロナ第2波がより深刻な被害を与えるという予測が正しい場合に備え、各国の各医療機関が詳細な調査を行い、さまざまなシナリオに対処できるよう迅速に準備することが必要である。特に、予想される最悪の事態への防御を固めておかねばならない。そのためには諸外国での事例を参考にすべきである。また危機管理担当部署が必要である。当ブリガム・アンド・ウィメンズ病院を含め、米国の各病院には、平時にも常駐スタッフを有する危機管理対策チームがあり、テロを含むさまざまな事態に備えている。2015年に、当院のロビーで心臓外科医が銃撃された事件があった。その際、スタッフが平時に受けた訓練通りに極めて迅速に対応したことが広く報じられた。諸外国の事例から学び、将来の防御策を立てるには、それぞれの医療機関に危機管理チームを配備し、専門家の雇用、情報収集と解析システムの確立、さまざま非常事態を想定した計画立案、平時の情報の伝達と訓練を行い、緊急時に独自の判断が下せる作戦本部の役割を担うべきである。

この活動は政府や地方自治体任せでなく、各施設でなされるべきである。政府が迅速にイニシャティブを取るなら結構だが、それを待たずに、各組織のトップがビジョンを持ち、独自に活動する意識が必要である。

COVID-19に対抗する科学技術

テレメディシンの急速な普及:

COVID-19は、病院や医院の通常業務の継続を困難にし、他の疾患の診療に支障をきたすことも大きな問題である。特に慢性疾患のフォローアップの方法に、新しい工夫が求められる。

先に述べたように、当院ではコロナ拡大に先んじて、通常の診療活動を中止あるいは縮小した。一般診療の継続が感染の拡大につながることは予想されたことであり、当然の措置と思われた。コロナ以外の外来患者が、「感染患者が集まる病院には行きたくない」と思う心理も一般的であった。米国では年1回あるいは半年に1回の定期検診などを除いて、通院せずとも薬は継続して処方される。このため一定期間外来を閉じても困らない。

米国では遠隔診療(テレメディシン、テレヘルス、あるいは広義にはデジタルヘルス)が、かねてより普及していた。我々のブリガム・アンド・ウィメンズ病院とマサチューセッツ総合病院の経営母体であるパートナーズ・ヘルスケアには、IT技術や電子機器を駆使した遠隔診療を含む新しい医療のシステムを開発する専門部署(Center for Connective Health)がある。この部署を主宰する皮膚科教授Joe Kvedarは、American Telemedicine Associationの理事長でもある。この学問領域は近年かなり発展し、Digital Health Officerのいる病院は多い。当院にはPatient Gatewayというオンラインシステムがあり、主治医とのやり取り、検査結果の閲覧、処方の継続や変更などを、個々の患者が簡単に遠隔操作で行える。最近では、ビデオカンファレンスのプログラム(Zoomなど)や、携帯電話のアプリ(Facetimeなど)を用いたvirtual visitも使われている。携帯電話のアプリケーションと、誰でも買える小さな電子機器で記録した心電図や写真など(例えば皮膚症状を示すため)を医師に送ることも容易である。

テレメディシンの歴史は1960年代に遡り、COVID-19勃発前には約10%の患者がvirtual visitを使用していたと言われる。しかしこのパンデミック勃発後、状況は急変し急速に役割を増した。保険適応であり、対面診療より費用がかかることはない。大手保険会社のBlue Cross Blue Shield of Massachusettsによると、2月から3月にかけてテレメディシンの保険請求件数が36倍増加した。パートナーズ・ヘルスケアでは、感染拡大前の2月のテレメディシン件数は1600に過ぎなかったが、3月には8万9千件、4月には24万2千件(2月比で151倍)に増加した【図表12】。

図表12
パートナーズ・ヘルスケアにおけるテレメディシン(virtual visits件数)の急増

ブリガム・アンド・ウィメンズ病院循環器科では、COVID-19ピーク時には、外来診療の96%がvirtual visitであった。先にも述べたように、昨今は小さな電子機器で心電図を記録するシステム(AliveCor社のKardiaなど)をAmazonなどから個人で購入し(US$89)、携帯電話から主治医にデータを送ることも容易である。

COVID-19のピークを過ぎた現在、外来の通常診療は徐々に再開されつつある。対面の診察の割合が増えると予想される一方、ある程度収束しても、外来受診によりコロナウィルスに感染する心配は続くと考えられる。テレメディシンは、生活様式が変容し多様化するニーズに応えるには有用であろう。また、医療関係者の感染リスク低減に役立つ点でも重要である。さらに米国のみならず、COVID-19収束の見込みが立たない国は多く、ブラジルなど被害が拡大中の国もある。少なくとも緊急時の選択肢の一つとして、テレメディシンの需要は増すと予想される。

テレメディシンは、COVID-19の診療自体にも有効だった。病院が重症患者で手一杯なため、余分な負担をかけるのを避けるために、まずは自宅で様子を見るという良識的な患者は多い。あるいは類似症状があっても、コロナに罹患していない可能性もあるため、通院による感染リスクを避けようとする人々も当然多かった。しかし自宅で様子を見ているうちに急変し、救急救命室に到着した時には、人工呼吸器の使用が必要なほど重篤になっていたか、すでに手遅れだったケースがかなりあったと報告されている。よって、コロナ感染が疑われるが症状が軽度か中等度の患者をフォローし、診療方法を選択するのに(トリアージ)、テレメディシンが有効であった。さらにAI-chat robot (“chatbot”)を使ったシステムも使用されている。これは患者に便利であるのみならず、医療関係者が重症例に注力する余裕も与える。

以上の理由から、COVID-19などパンデミックにおける医療活動には、テレメディシンが重要な武器となる。米国でのハリケーンや、オーストラリアでの大規模な山火事などの非常事態下での医療活動で、使用された実績がある。始まったばかりの流行りものではなく、1960年代以来の研究や技術の蓄積があった。さらにAIの進歩にも支えられて実用化されていたため、COVID-19にも直ちに対応し得た。

他の革新技術同様、テレメディシンにも課題はあり、それらに対応しながら進化を遂げて行くことになる。COVID-19の場合、当然ながら肺の診察や検査はできない。一般的な医療保険でカバーされるが、Medicareの場合は、遠隔地の患者がカバーされるが、多くの州では初診にはテレメディシンが使用できない。これも今後の課題である。

一般論として、医療の基本、あるいは人間社会のコミュニケーションの基本は対面であるとする議論も根強い。テレメディシンでも質の高い医療が提供できるかについても、議論を尽くさねばならない。ここでは緊急時のテレメディシンの使用を議論しているが、平時のテレメディシンの役割や今後の展開の可能性とは、明確に分けて議論しなければならない。

課題を残しながらも、米国政府のCDCはパンデミック下でのテレメディシンを推奨、民主党指導の下院はテレメディシン拡充をサポートする特別予算を可決した。国家的レベルで、テレメディシンの発展が期待されている。各国とも、産官学の連携を通じて、緊急時のテレメディシンの導入とともに、国全体での取り組みが求められる。

革新的技術の開発:

米国でのCOVID-19への対応には、テレメディシン以外にも様々な革新的技術が導入された。

これらは、米国をはじめ多くの国で収束の兆しが見られないCOVID-19の第1波のみならず、第2波以降への対応、さらに収束後も、大きな変容が予想される生活様式への対応も含まれる。

他の領域では当たり前に使用されているAIの導入が、医療界では比較的遅れており、臨床データ共有などにも障壁があること(当然の抵抗感であるが)などが指摘されている。COVID-19以前でも、ここ数年の世界の変化、特に科学技術の進歩は加速度的であり、イノベーションを重視する意識改革が求められていた。

COVID-19が勃発し、この傾向は一気に加速した。否応なしに革新的技術の開発や意識の変容を促している。必要は発明の母である。米国流の、過程より目的重視のマインド(goal oriented > process oriented)は、緊急時の作業のスピードアップに向いている。”Building the plane while flying it”、”jumping on the moving train”などと表現されるが、じっくり用意周到で臨むのではなく、見切り発車せねば激動の現代のニーズに応えられない。特に緊急事態の対応は難しい。我々の施設では、Mass General Brigham Center for COVID Innovationが設立され、領域を超えた共同研究を通じて、データ解析、診断、治療、デバイスの領域でのイノベーションを促す試みが始まった。

AIは、COVID-19によって急速に医療界に導入されて来た技術の一つである。米国の医学部や病院の多くはデータサイエンスの部署を有し、急発展の土壌は既に存在した。テレメディシンのケースも同様である。当院にはMGH & BWH Center for Clinical Data Scienceがあり、放射線科准教授のKeith DreyerがChief Data Science Officerとして活躍している。AIを使った新技術でのCOVID-19への対応には、さまざまな例がある。

例えば、我々パートナーズ・ヘルスケアのマサチューセッツ総合病院は、独自のCOVID-19 Simulatorを開発、必要になる通常のベッド数やICUベッド数などの予測に活躍した。データはオンラインで誰もがリアルタイムにアクセスでき、公的にも貢献した。AIは収束後の新しいニーズに対応するための病院内のスペースの再配分や、改造にも利用されている。

AIは、封鎖解除の過程でホットスポットとなりそうな地域や、特定の場所の予測にも有用であると考えられている。この領域での代表的プレイヤーはGoogle Healthである。米国では地域ごとの多様性が大きく、データのノイズの原因となる、など課題はいくつかある。コンタクトトレーシング(接触者追跡)がリアルタイムで行われ、各人に警告メッセージが入るシステムも開発中である。携帯電話を用いる方法が主流であるため、プライバシーの侵害を防止する試みが、GoogleとAppleの共同研究で進行中である。また私権とのバランスには、明解な説明と透明性が重要であると指摘されている。

パンデミック下の病院内での活動にもさまざまな工夫が必要だ。米国の多くの病院では感染予防とPPE節約のため、しばしばスタッフがICUなどに、数時間入ったままになることがある。外部とのリアルタイムの連絡にはiPadなどのタブレットなど、様々な電子機器が使用された。またGE HealthcareとMicrosoftは、共同して院内複数区域にまたがるICUを統合してモニターするMural Virtual Solutionを開発中である。

産官学連携のパラダイムシフト:

米国の産業界では、かねてより共同ベンチャーが盛んである。独り占めして遅れを取るより、ライバルと組んだ方が一番乗りし易いという考え方が受け入れられてきた。それには障壁もあった。

しかしCOVID-19の襲来により、パラダイムシフトが起きている。データや情報の共有のリスクを恐れるより、共同作業でCOVID-19に迅速に対抗しようという、オープンマインドへの急速な変容が見られる。

バイエル社は、COVID-19に効果のある化合物探索のスピードアップのため、自社のライブラリーを他社と共有している。

感染症パンデミックへの対応は、国家安全保障上重要な位置づけにある。CDCのみならず、サイバーセキュリティなどと同様に、国防省の領域でもある。そのためには、新しい技術の開発者と政府の緊密な協力体制が重要である。開発スピードを上げるには、科学技術に対する政府の思い切った資金援助が必要だ。さらに投資家の役割も大きい。複数の政府機関、大学、企業、投資家が協力しあい、迅速にイノベーションに邁進する産官学連携の新時代に入ったといえる。杓子定規の議論や利害の対立を避け、process-orientedからgoal-orientedのマインドへ移行し、共通のゴールを目指す意識改革が重要である。

まとめ:各国で次のパンデミックに備える

米国の成功例と失敗例を、今後のパンデミック対応に生かす教訓として提供した。

3月20日に研究施設を閉鎖し、在宅勤務が始まった。4月には、COVID−19は米国で猛威を奮ようになった。当時、日本のデータを、イタリア、スペイン、米国と比較すると、東京などの大都市は、3−4週遅れて後を追いかけているように見え、大きな危惧を抱いていた。海外の多くの専門家も同様の意見を述べていた。しかし日本のCOVID−19の被害は非常に少なかった。これは素晴らしいことであり、世界が驚いている。

日本が何故被害を最小限に抑え得たか。清潔観念の高さ、マスクへの抵抗感の少なさ、遺伝的要因、BCG接種、ウィルス変異株の違いなど、さまざまな要素が議論されており、どれも少なからず貢献していると思われる。特に文化的側面から諸外国が学ぶ点は多い。

日本はここで安心せず、うまくいった理由を科学的に徹底的に解明しなければ、この大成功が勿体ない。その研究成果は、日本での第2波や将来の新興パンデミックに対応する医療政策決定や、各組織での危機管理対策立案への重要な科学的根拠となるのみならず、全世界の公衆衛生に貢献する。

各国が、諸外国の失敗例と成功例から、多くを学ばなければならない。この世界的大惨事を、ある意味チャンスと捉え、政府、全ての地方自治体、それぞれの民間組織、個人個人、全てのレベルで、情報を集めるべきだろう。何が原因で被害が異常に拡大したか、何が機能しなかったかなどである。また他国で成功したシステムを柔軟に取り入れる姿勢があれば、新しい独自のパラダイムの構築が可能になる。

冒頭で述べた通り、米国はリーダーの初動が遅れ、少なくとも6−8週の空白期間があった。それ以外の国の失敗例や成功例から、初動のスピードの重要さがわかる。

このパンデミックでの経験を通して、どの国にとっても、より迅速に緊急事態に対応できる仕組みを検討するチャンスが到来したと思う。例えば、首長が判断を誤り緊急時の対応が遅れた場合にも、ある程度、国が機能する方法はないのだろうか。各国の憲法は、地方自治の位置付けと権限を規定している。平和国家として独特の位置にある日本の法体系は尊い。憲法改正などの議論をせずとも、地方自治体などがさらに動き易くする方策はあるだろう。少なくともその議論がオープンになされることを期待する。

緊急事態に迅速に対応するには、国のトップのリーダーシップが最も重要である。しかしそれぞれの国の厳しい経験は、個人も自己判断で動ける社会作りをする良い機会ではないだろうか。平時には想定していなかったことが起きるのが戦時や緊急時の常である。マニュアルにない対応ができることがトップの条件である。このことが常識になる社会を育てて行ければ理想的である。

感染症パンデミックは、公衆衛生の観点からのみならず、国家安全保障の重要な要素である。各国で、パンデミックに備える危機管理部門の拡充が必要である。また、パンデミック対策をすべて政府まかせでは、迅速な対応ができない。地方自治体や病院や企業など各民間組織でも、常設の危機管理部門の設置と専門家の採用・育成が必要である。

他の危機同様、パンデミックへの対応は情報戦である。質・量ともにレベルの高い情報収集が行われねばならない。政府のレベルでは勿論、地方自治体、民間、全ての組織に情報収集専門部署が必要である。マスコミの報道のみに依存していたのでは、危機に対応できない。例えば、現場の医師や病院のリーダーは、日々の診療や経営に多忙を極め、自ら海外の情報を集める余裕はない。しかし危機に直面した場合、データ・情報に根ざした迅速な判断を下す立場にある。医療過誤への対処のみならず、パンデミックなど大型危機に関連する情報収集と配信、計画立案、訓練などを、平時から担当する管理専門部署が必要である。

情報の発信方法の改善も極めて重要である。トランプ大統領の発言には事実誤認が多く一貫性にも欠け、今回の危機管理に失敗した。一方、ドイツのメルケル首相、ニューヨーク州のクオモ知事、東京都医師会の尾崎会長ら、データをわかり易く説明し、目的は何かを市民に語りかけられるリーダーの活躍も見られた。情報発信のスキルに長けたリーダーを選ぶことが重要だが、平時に行われる選挙でそれを見抜くのは困難である。最低限必要なことは、緊急時の情報発信方法を、個々のリーダーが自己の才能だけではなく、スキルとして学ぶことが常識にならねばならない。これは国の文化として根付かねばならないが、それには時間がかかる。少なくとも政府から民間に至る全てのレベルの各組織が、情報発信の専門家や部署を有することが必要である。

情報収集と発信にはマスコミの役割が大きい。自国のニュースのみでなく、感染拡大が先行している諸外国でどのような被害が出ているか、リアルタイムで報道しなければならない。ある特定の惨事の1時点のみの情報では、読者や視聴者を驚かすには十分だが、そこに至る過程や、いかに急激な変化が起きたかなど、ダイナミクスを伝えねば準備に役立たない。国内のニュースの扱いにも、同様の改善が必要である。どこからきて、この先どこへ行き着くのか、方向をどう調整せねばならないのか、流れを伝えることが重要だ。また、国家のトップや政府の批判にのみ紙面や時間を費やす(これは重要な作業であるが!)のではなく、危機的状況に対処するには、国として、国民として、どうすべきかを指針で示し、健全な世論や意識を築くことに貢献すべきである。

CDCは米国での公衆衛生に重要な役割を果たしてきた。国民の健康、特に感染症に関する情報の収集と解析を行い、指針を示してきた。国際的な貢献も大きい。先に述べたように、情報の収集と配信が重要である。COVID−19規模のパンデミックに有効に対応するには、各国にCDC類似の機能を有する政府機関が必要である。COVID−19においては、科学を尊重しないトランプ政権のCDCの扱いが、防疫効果を減じたと批判されている。例えば、日本でCDC類似の機関を設立する場合、科学と政治の境界を明確にできる位置に設置する工夫が必要かもしれない。

科学技術の進歩が加速度的に進んでいる。特にAIを含むデータサイエンスの進歩がめざましい。米国では、COVID−19がAIなどの医療への応用をさらに加速した。本項で述べたように、AIを用いたホットスポット予測やコンタクトトレーシングの開発が進んでいる。またテレメディシンの普及も一気に進み、有効に活用された。第2波や新興パンデミックに有効に対処するには、マスク着用、手洗い励行、ソーシャルディスタンシングなどの徹底を基盤として、革新的技術も導入していくことが重要である。

COVID−19のみならず感染症パンデミック拡散の予測には、数理解析が重要な役割を果たしている。上で述べたように、AIの導入により技術革新が進んでいる。既存化合物の探索や、全く新規の化合物のデザインに至るまで、COVID−19に対抗する治療薬開発にもAIが頻用されている。しかしデータサイエンスが活発な国には偏りがある。各国でデータサイエンティストの育成が急がれる。迅速にデータサイエンスを充実させるには、外国人の採用も考えて良いだろう。

COVID−19や新興パンデミックに対抗する新技術や治療法の迅速な開発には、これまで以上に産官学の連携が重要である。スピードを上げるためには、政府の資金援助、さらに投資家の参加も重要である。

最後に、科学的根拠に基づいた医療政策がなされることの重要性を、再度強調したい。AIを用いたパンデミック拡散の解析などが、世界的に大きく進歩しCOVID−19では大活躍した。一方、予測より結果がよかった場合には、大げさな科学的データが過剰反応を引き起こし、経済に必要以上のダメージを与えたと批判されることも理解できる。しかし科学は万能でなく、使われながら進化して行く。新興パンデミックの予測には、不確定要素が多く、完璧な予測は困難である。科学の有用性と限界を理解し、科学者を全て信じるのでもなく、また全否定もせず、冷静にデータを吟味し、医療政策の決定に役立てて欲しい。危機管理の観点からは、最悪の事態を予測し、徹底的に防御するのが重要である。パンデミック拡散の予測が各国にショックを与え、思い切った医療政策の根拠となり、多くの人命が救われた価値は否定できない。

補足:医療政策関連の米国連邦政府機関の成果と全体的なタイムライン

NIHの活動

NIHのCOVID−19対策は主に下記4項目である。

  • 科学的研究の推進
  • 特別プログラム(The Rapid Acceleration of Diagnostics, “RADx”)を通じ、SARS-CoV-2の診断検査の迅速な開発と商品化をサポート、所謂point-of-care diagnostics(医療現場での検査と診断)を可能にする。
  • 迅速なCOVID−19ワクチン開発をサポート。現在少なくとも8種類のワクチンの臨床開発が進行中。1月14日作業開始。NIH NIAIDとModerna社の共同開発品mRNA-1273の第1相臨床試験が2ヶ月後の3月中旬に開始、5月中旬に好成績が発表される。7月には第3相へ移行できる可能性あり。一方、5月12日の上院公聴会でAnthony Fauci (Director, NIH NIAID)はワクチンの効果や安全性に慎重な発言。
  • 他のさまざまなCOVID−19の治療法開発のサポート。患者血漿の投与、抗体治療、既存化合物のリプロファイリングなど。Gilead Sciences社の抗ウィルス薬remdesivir の第3相試験(ACTT)実施、重症患者での回復期間短縮を報告。同薬の緊急時使用をFDAが5月1日に認可。

CDCの活動

  • CDCは、疾病対策予防、健康増進、環境衛生など幅広い公衆衛生領域を担う中心的政府機関。
  • COVID−19に対しては、患者の早期確認、隔離、接触者追跡、ソーシャルディスタンシング、手洗いなど、公衆衛生上の感染拡大予防策の指針を提供。
  • Emergency Operation Centerが州や各地域の医療機関での対応(ラボ設営、データ解析など)をサポート。
  • 疫学調査の実施。
  • PCRなど検査法の開発。
  • 封鎖解除の過程では、州政府と連携し需要調査(検査キット、検査試薬、人手、感染状況や接触者追跡のデータ収集と解析など)、技術的・資金的サポートを提供。
  • 人員採用や教育のサポート。
  • 第2波への準備。インフルエンザとCOVID−19と同時に対応できるシステムの確立が急務。公衆衛生インフラ再構築。老人介護施設など、リスクの高い施設での調査体制の強化。

COVID−19の規模に対応し切れず、PCR検査の開発の遅れなどで批判を受けた。これまでCDCに役割が集中していたため、機敏に対応できなかった体質も指摘される一方、これまでの共和党政権による予算削減で活動が慢性的に障害されてきたとの見方もある。共和党トランプ政権は、COVID−19勃発後の2月10日に、CDC予算16%削減を提案。トランプ政権が3月13日に国家緊急事態宣言を発令、対策に乗り出した以降、主な情報はCDCではなく、トランプ政権から発せられることとなり、CDCの影響力が損なわれた。 Lancet誌はeditorialで、緊急事態のなかトランプ大統領がCDCとことごとく対立し、役割をホワイトハウスに移し、CDCの機能を低下させたと指摘、次の大統領には公衆衛生を理解する者を選ぶべきであると結論した。

FDAの活動

産業界と教育研究機関との連携を通じ、データに基づいたCOVID−19への医学的対抗策確立を目指す。

COVID−19の規模に対応するため、PCR検査開発の規制を緩め、従来CDCに集中していた役割を、企業や大学などに拡大。現在約500以上の施設が開発に注力。約90以上の新規開発品を、緊急時使用のために認可。効果をモニターし、不正確な製品の認可取り消す。抗体検査の開発・承認も行う。

NIHと産業界との連携をとり、ワクチンなど治療薬の開発状況の把握と使用認可を行う。COVID−19パンデミックに対応し、柔軟な評価を行う。有効なワクチンが開発されるまで、Coronavirus Treatment Acceleration Programを通じ、他の治療法の開発と承認を急ぐ。Gilead Sciences社の抗ウィルス薬remdesivirの緊急時使用を5月1日に認可。

米国でのCOVID−19の経緯

米国におけるCOVID−19の進展経緯のダイナミクスは、日本の報道機関では、詳しく報じられていないようである。本項では、トランプ政権、連邦政府機関、マサチューセッツ州、ハーバードの対応を、あえて混ぜたタイムラインを作成した。それぞれの機関でのイベントがどのようにして平行して起こったかを示すことが目的である。

タイムライン:米国におけるCOVID−19の進展経緯のダイナミクス

発端:中国武漢での新型コロナウィルス感染による呼吸器疾患が拡大し、2019年12月31日に米国政府CDCに情報が入る。2020年1月5日には、ゲノム・シークエンスが報告された。米国での推移は以下の通りである。

  • 1月1日:CDCから、米国保健福祉省HHSへ新型コロナウィルスに関する報告が開始。
  • 1月6日:CDCが中国への専門家派遣を提案するも、中国が拒否。
  • 1月6日:この週にHHS内の機関CDCとNIHが連携し、Coronavirus Task Force(コロナウィルス対策班)を結成(Alex Azar, Secretary of HHS; Robert Redfield, Director, CDC; Anthony Fauci, Director, NIH NIAID)。のちのホワイトハウス・コロナウィルス対策班の前身。
  • 1月8日:CDCが最初の警告を公式に発信
  • 1月14日:NIH NIAIDがワクチン開発を開始
  • 1月16日:中国からの渡航者に、空港でのスクリーニング開始
  • 1月18日:HHSのAlex Azarが、トランプ大統領に電話で事態を報告するが、注意を喚起できず。
  • 1月21日:シアトルで米国最初の感染者。武漢への渡航歴あり。
  • 1月22日:トランプ大統領、コロナ禍に関する初めて報道陣からの質問を受ける。パンデミックの可能性の問いに対し、「完全にコントロール化にあり、心配はない」と回答。
  • 1月23日:武漢が封鎖される。米国政府関係者に大きな衝撃。
  • 1月24日:HHSからの引き続きの依頼に対し、中国政府はウィルスサンプルの提供を拒否。CDCでの診断キット開発の遅れのひとつの原因となる。これに対抗すべくHHSはWohan Institute of Virologyとの連携を模索するも、中国政府に妨害される。米国諜報機関から、中国政府の隠蔽が指摘されるも、トランプ大統領は中国政府のコロナ対策を高く評価。
  • 1月29日:先に開始されたHHS内の対策班が、White House Coronavirus Task Force(コロナウィルス対策班)として正式に発足。代表はSecretary of HHSのAlex Azar、主要メンバーはRobert Redfield (Director, CDC); Anthony Fauci (Director, NIH NIAID)など。
  • 1月30日:武漢からの帰国者から渡航歴のない者への感染判明。米国内初めてのヒト対ヒト感染例。
  • 1月30日:WHOが新型コロナウィルスを公衆衛生緊急事態と宣言。
  • 1月30日:中国政府が武漢を含む湖北省を封鎖。
  • 1月31日:トランプ政権が中国からの渡航制限を発表。1月には、既に30万人が中国から米国へ入国していた。対策班はイタリアなど欧州諸国からの渡航制限も提案するも、政権内の経済重視の点から抵抗にあい見送られ、大西洋間のフライトは継続。2月のみで180万人が欧州から米国に入国することとなる。
  • 2月1日:マサチューセッツ州で最初の感染者確認。
  • 2月5日:医療現場がPPEや人工呼吸器の不足を懸念。特に従来中国からの輸入に依存していたマスクなどの不足が予想された。対策班のリーダーAlex Azarら医療担当官僚が4億ドルの補正予算を要請するも政権内の抵抗にあう。のちに議会が8億ドルに増加して承認、大統領が署名したのが3月6日。この一ヶ月の遅れにより米国は好機を逸し、他国との厳しい競争にさらされることとなる。
  • 2月10日:トランプ大統領、「4月にはCOVID−19がなくなる」と発言。
  • 2月10日:トランプ大統領がCDC予算16%削減を提案。
  • 2月初旬―中旬:CDCのPCR検査の精度に懸念が高まる。また、COVID-19のスケールは医療担当官僚の当初の予測を超え、CDCのみでは対応できない可能性も露呈。CDCがボトルネックであることが指摘される。
  • 2月24日:トランプ大統領「米国ではコロナウィルスはコントロール下にある」との発言が、CDC高官の「大きな被害が出る」予測と食い違う。
  • 2月26日:トランプ大統領がコロナウィルス対策班の代表を、Alex AzarからMike Pence副大統領に代える。
  • 2月29日:米国最初の死亡例。4月に事後に確認された最初の死亡例は、2月6日に遡る。1月にCOVID-19様症状、一旦回復後に死亡。死後に陽性確認。渡航歴なし。死因は心筋梗塞。既に12月にはCOVID-19が米国で拡大していたことを示唆。
  • 2月29日:FDAが検査キットの規制を漸く緩和。CDCのみに依存せず、民間研究機関や企業での開発を促す。
  • 3月6日:Imperial College Londonの論文が、英国と米国の大きな被害を予測。各国での封鎖の根拠のひとつになったとされる。
  • 3月6日、9日、10日:トランプ大統領「CDCの検査はほぼ完璧し、誰でも検査を受けられる(6日)」、「(都市など)何も封鎖しない、人々の生活は継続、COVID-19はなくなるから心配ない(9日、10日)」と発言。
  • 3月10日:マサチューセッツ州に緊急事態宣言発令。感染者が1日で倍増したことを受けて。
  • 3月10日:ハーバード大学が15日までにキャンパスを閉鎖すると発表。
  • 3月11日:トランプ大統領、英国を除く欧州各国からの渡航禁止を指示。発表が不明確で、欧州在住米国人の帰国パニックを招き、相当数の感染者が流入したと推定される。
  • 3月12日:米国での感染者1500人を超える。
  • 3月12日:マサチューセッツ州など各州で公立学校の閉鎖が決定。
  • 3月12日:HHSが初めてN95マスクを注文するが、契約上配給開始は4月末。
  • 3月13日:国家緊急事態宣言。
  • 3月13日:民主党下院議員のグループが景気刺激策の法案を提出。これまで最大の景気刺激策として、のちに承認されるに至る。
  • 3月15日:CDCが50人以上の集会の自粛を勧告。
  • 3月16日:トランプ大統領が10人以上の集会の自粛を勧告。
  • 3月16日:トランプ大統領が、米国が経済恐慌へ向かう予測に同意。
  • 3月16日:医療現場でのPPEや人工呼吸器の不足が深刻化。トランプ大統領「呼吸器や全ての備品は各州で調達するように」と発言、物議をかもす。連邦政府のリーダーシップ不在のため、各地方自治体や各病院が、それぞれPPEや人工呼吸器の獲得に乗り出し、価格競争も招く。特にニューヨークは医療崩壊の危機に直面することとなる。
  • 3月16日:ハーバード大学ブリガム・アンド・ウィメンズ病院で、20日までに全ての研究施設の閉鎖を司令。同時期にマサチューセッツ州で殆どの研究施設が自主閉鎖。
  • 3月17日:感染者が5000人を超える。少なくとも91人が死亡。
  • 3月20日:感染者が19000人を超える。少なくとも249人が死亡。
  • 3月20日:マサチューセッツ州で最初の死者。
  • 3月20日:米国GDPが2020年第2四半期に24%減少するとの予測(Goldman Sacks)。
  • 3月22日:コロナウィルス対策班メンバーAnthony Fauci (Director, NIH NIAID)が、Scienceのインタビューで、トランプ大統領を補佐することの困難さを示唆。
  • 3月24日:マサチューセッツ州で封鎖開始。Essential business(病院、食料品店、銀行、ガソリンスタンドなど)以外、全て休業。
  • 3月24日:医療現場でのPPEや人工呼吸器の不足が深刻化。特にニューヨーク での患者増加が急激で、30000台の人工呼吸器が必要と予測されるなか、連邦政府からは400台が供給。
  • 3月24日:トランプ大統領は「復活祭(4月12日)までに封鎖を解除する」と発言。
  • 3月25日:上院が223兆円の景気刺激策を可決。3月27日に大統領が署名。
  • 3月27日:シカゴ大学の論文が、早すぎる封鎖解除は、むしろ経済に悪影響を及ぼすと発表。
  • 3月31日:感染者が160,000人を超える。少なくとも3,170人以上が死亡。3月20日に比べそれぞれ約8倍、約12倍増。
  • 4月1日:この時期までに約100万件のPCR検査がなされている。この1週間では11万件/日のペース。専門家は少なくとも50万件/日の検査が必要と指摘。遅れの原因として、診断キット、関連試薬、綿棒、機器、人員、PPE、資金の不足が指摘される。
  • 4月2日:1週間に史上最大の660万人が失業申請。
  • 4月2日:トランプ大統領が、ヒドロキシクロロキンを「奇跡の薬」と推奨。Anthony Fauciはエビデンスの不足を示唆。
  • 4月3日:トランプ政権が国民にマスク着用を推奨するも、大統領自身は従わないと発言。
  • 4月7日:PCR検査14万7千件/日。人口比では他国より劣る。
  • 4月13日:トランプ大統領が「封鎖解除(reopening)には絶対的権限を有する」と発言。州知事や法学者から否定される。
  • 4月14日:トランプ大統領がWHOへの財政援助を中止すると発表。
  • 4月16日:感染者が639,664人を超える。少なくとも30,000人が死亡。
  • 4月16日:ホワイトハウスとCDCが封鎖解除(reopening)のガイドラインを発表、前日の大統領の発言に反して、再開のタイミングは州知事の判断で、検査、感染トレーシング、PPE調達は州の責任で行うよう示唆。
  • 4月20日:ジョージア州知事が4月24日に多くの業種の再開を発表。
  • 4月22日:永住権手続きの中断を含む移民手続きの制限強化。
  • 4月24日:FDAがヒドロキシクロロキンの副作用を懸念。病院以外での使用を控えるよう勧告。
  • 4月24日:トランプ大統領が、コロナ対策班の会見において、抗菌剤の注射や紫外線の照射がCOVID-19の治療として有効である可能性を示唆。
  • 4月30日:感染者が100万人を超える。少なくとも60,966人が死亡。
  • 4月30日:PCR検査総数600万件、ペースは横ばいの145,000件/日。
  • 5月1日:Gilead Sciencesのremdesivir の緊急時使用をFDAが認可。
  • 5月1日:テキサス州、ジョージア州などで封鎖解除が始まる一方、マサチューセッツ州では措置が強化され、公共の場でのマスク着用義務化。
  • 5月5日:トランプ大統領5月末までに、ホワイトハウス・コロナウィルス対策班を解散する方針を発表。
  • 5月12日:上院公聴会でAnthony Fauci (Director, NIH NIAID)、Robert Redfield (Director, CDC)、Stephen Hahn (Director, FDA)が答弁。Fauciは拙速な封鎖解除に懸念。
  • 5月17日:各州PCR検査拡大を試みるが、希望者減少が指摘される(ワシントンポストの知事への調査)。
  • 5月18日:マサチューセッツ州で封鎖の部分的解除(建設業など)が始まる。
  • 5月18日:FDAが、唾液を検体とするPCR検査の緊急使用を許可。
  • 5月18日:NIH NIAIDとModerna社の共同開発品ワクチンmRNA-1273が第1相臨床試験で好成績。
  • 5月18日:トランプ大統領自身がヒドロキシクロロキン(4月24日にFDAが副作用を警告)を服用していると語る。
  • 5月22日:これまで最大規模の試験(96,000人)で、ヒドロキシクロロキンかクロロキン投与群で心室性不整脈の発生が有意に高いことが示される(Lancet誌)。
  • 5月28日:米国での総死亡数が10万人を超える。
  • 5月28日:米国内の失業者が4千万人を超える。
  • 6月1日:ハーバード大学ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の研究施設が、限定的に再開(50%以下の空間占拠率)。