- 2021年5月初旬現在、ドイツは感染第3波の真っ最中である。
- 住民の生活は「7日間指数(7-Tage-Inzidenz)」と呼ばれる指数に基づき制限内容が自動で変わる仕組みになっている。
- 国境管理では感染危険地域として3種類が設定され、行き来の制限や防疫措置が取られている。設定国・地域は随時指定・変更される。
- COVID-19感染者数の算定はPCR検査の結果に基づく。PCR検査結果には届出義務が課されている。抗原検査も広く活用され始めた。
- ドイツでは確認されている変異株の90%以上がいわゆる英国変異株、次いで南アフリカ変異株0.7%であり、それ以外は現在ほとんど確認されていない。
- ドイツでは、2020年末からワクチン接種が開始したが3月までは進行が遅く、ほぼ同時期に接種が始まった北米や英国と比べ遅れている。最初は懐疑的な雰囲気も強かったが、現在は受け入れられているようだ。4月初旬から開業医での接種が開始し一気に加速したが、大部分が1回終了者で、2回接種終了者はまだ少ない。
- 全国的にインテンシブ病棟の看護人員不足問題がある。また全体として病院の赤字問題も深刻化している。
はじめに
本レポートは2021年5月上旬までの状況をまとめたものである。COVID-19をとりまく環境、特に法的規制が関与するものは現在もめまぐるしく変わっているため、下記のレポート内容もすぐに過去のものとなると予想されることをご承知いただければ幸いである。
1. COVID-19パンデミックの現在までの概観
2021年5月初旬現在、ドイツは感染第3波の真っ最中である。ドイツでの感染拡大は2020年2月から本格化し感染第1波を迎えた。しかし生活制限をはじめとする様々な対応策が功を奏したのか、4月初旬にピークアウトし、生活制限が解除され始めた5月頃にはだいぶ下火になった。その後は時々クラスターの発生などもあったが大事には至らず、制限はどんどん緩和され、夏の休暇シーズンはそれなりに自由にすごせた。
ところが10月に入ると急激に新規感染者が増加し始め、感染第2波が始まった。第1波よりも感染者数は格段に多く、制限を順次厳格化していったが、感染収束の兆しが見えなかったため、12月からは再度の生活制限が開始された。その甲斐があったのか、2021年2月に入る頃にようやく新規感染者数が落ち着き始めたので制限の緩和についての議論が始まり、3月初めから段階的に緩和が開始した。ただ落ち着いたといっても毎日数千から1万単位の新規感染者数が報告されている状況だった。制限の緩和も本当に少しずつで、まだまだ自由には程遠い状態であった。
そのような状況下の3月半ば、突如として新規感染者数が再急増した。それが現在に続く感染第3波であり、一瞬緩和された生活制限も今は以前よりも厳しくなっている。第3波は人の交流が厳しく制限されている中で始まったというだけでなく、若年層の感染が多いという点でも特徴的である。最多は10代後半~20代で、それに続くのが30代~40代半ば、0~14歳の未成年である。第2波まで圧倒的最多層であった高齢層は、むしろ新規感染がかなり減っており、そのためか死者数は第2波ほどではない。
ドイツでは2020年12月末からワクチン接種が開始したが、後述のとおり4月初旬に開業医での接種が開始するまではかなり進みが遅かった。高齢ハイリスク群でもなかなか接種が進んでいないという状況だったので、高齢感染者数の減少はワクチンの効果ということでもなさそうである。おそらくは変異株が原因ではなかろうかと言われてはいるが、正確なところはまだわからない。そして現在は、第3波がようやくピークアウトしたかどうか、という状況である【図表1】【図表2】【図表3】。
図表1 |
ドイツ国内新規感染者数 |
ZDF COVID-19 Alle Zahlen und Grafiken zum Coronavirusより |
図表2 |
ドイツ国内死亡者数 (1日あたり) |
ZDF COVID-19 Alle Zahlen und Grafiken zum Coronavirusより |
図表3 |
年齢別の人口10万人あたりの新規感染者数 (過去7日間での) |
ZDF COVID-19 Alle Zahlen und Grafiken zum Coronavirusより |
2. 生活制限について
1) 指標となるもの
ロックダウンなどに代表される生活制限の期間や内容は、感染拡大状況を示すいくつかの指標を基に決定されている。初期の頃はドイツ全体の「新規感染者数」、「死亡者数」、「再生産数」が代表的な指標であったが、現在は全国規模の数値だけでなく、細かい地域単位まで算定・公表されるようになっている。またさらなる指標も追加された。
住民の生活に一番直結するのが「7日間指数(7-Tage-Inzidenz)」と呼ばれる指数である。これは最近7日間の、住民10万人あたりの新規感染者数である。この数値の変動に伴って制限内容が自動で変わる仕組みになっている。3日連続で100を超えた地域はその2日後から「非常ブレーキ措置(Notbremse)」が自動発動し、さらに165を超えた場合はもう1段階上がって学校と保育所も閉鎖する。その基準値(100もしくは165)を5日間連続で下回った場合には、その2日後から解除される。これは4月に改正された感染症防止法に基づき全国一律に適用されるルールだが、7日間指数は地域ごとに算定され制限も地域単位で設定される。
また、国境管理の一環として入国制限や検疫措置も行われている。現在では「リスク地域(Risikogebiet)」「とくに感染の発生率が高い感染リスク地域(Hochinzidenzgebiet)」「特に感染力が強いウイルスの変異株が蔓延しているリスク地域(Virusvarianten-Gebiet)」の3種類が設定されていて、各国や地域の状況を鑑みて随時指定・変更されている。指定された国・地域からの入国に関しては、入国禁止・登録義務・検査義務・隔離義務等の制限を受ける【図表4】。
図表4 |
7日間での人口10万人あたりの新規症例報告数 (2021/5/8時点) |
Robert Koch-Institut: COVID-19-Dashboard |
2) 生活制限の内容
生活制限の内容は頻繁に変わるので、現状有効なルールを細かいところまで正確に把握するのは、もはや困難ともいえる状況である。制限の内容としては、私的な集まりの人数制限、マスク着用義務、営業してよい店舗の指定とその条件、(夜間)外出制限、学校・保育施設の閉鎖、ホームオフィス提供義務などがあり、それぞれに細かな指定内容がつく。例えば現在発動している非常ブレーキ措置の内容をかいつまんで紹介すると、
- 接触制限(私的な集まり):
- 自らの世帯に加え別世帯に属する最大1人まで、但し14歳未満の子供はカウントしない(自宅を含む、屋内・屋外問わない)
- 店舗・サービス業(生活必需品):
- 公衆衛生規則とマスクの着用義務遵守で営業可、該当するのは食料品店・飲料店・健康食品店・乳幼児関連商店・薬局・衛生用品店・ドラッグストア・眼鏡店・補聴器販売店・ガソリンスタンド・新聞販売店・書店・生花店・銀行・ペット用品店など(他にもあるが以下略)。
- 身体の接触を伴うサービス:
- 医療・治療・看護・宗教上の目的によるものは可。例外は理髪店・美容院・フットケアで、マスク着用の下、陰性の検査結果証明を有する場合のみ可。それ以外は不可。
- その他の店舗:
- 7日間指数が150未満の場合は、事前の来店予約と陰性の検査結果を有する場合、全ての店舗での買い物が可能(クリック・アンド・ミート)。
- レストラン・ホテル・娯楽施設・スポーツ施設:
- 7日間指数が100を超えたら閉鎖。例外は動物園・植物園の屋外エリアだが陰性検査結果証明が必要。スポーツは自分の家族か2人まで(夜間除く)なら可。14歳以下は接触を伴わず屋外で5人まで。プロスポーツ選手は特別な基準を遵守した上で無観客での競技・トレーニング可。
- 外出制限:
- 7日間指数が100を超えた場合、22時から5時までは仕事や医療などの正当な理由がある者のみ外出可。但し24時までは1人でのジョギングと散歩は認められる。
- ホームオフィス:
- 雇用主は業務上可能な場合にホームオフィスの機会を提供する義務を有する。従業員もそれが可能であれば受け入れる義務がある。
といった具合である。
ちなみにマスク着用義務は、店舗のような閉鎖空間についてはパンデミック初期から設定された。もともと文化的に大きな抵抗があったドイツでも、罰則などを強化することでなんとか守られてきた。2020年末までには、布製やウレタン製で凝ったデザインのものも(例えばサンタクロースとか)たくさん販売されるようになり、ドイツ人も少しマスクに慣れてきたのかな、という様相だった。が、年明けから店舗・交通機関で着用するマスクを医療用マスクに限るという規制が始まり、今はサージカルマスクとFFP2マスクばかりが大量に販売され、その他の材質のものは下火になっている。
また、同じマスク着用義務区域でも屋外となるといまだに遵守されていないのをよく目にする。オープンスペースでのマスク着用はまだなかなか受け入れ難いようである。
旅行については、危険と指定された地域への必要のない渡航は禁止されている。第3波直前期に一瞬の規制緩和があったとき、ドイツ人に大人気の旅行先であるスペインのマヨルカ島がリスク地域指定から外れたというのが大きなニュースとなった。ならば4月初めにあるイースター休暇に行こう! と予約が殺到したそうなのだが、第3波到来で3月30日から新たな規制が開始した。
ドイツへの全ての入国者は入国前48時間以内に実施した陰性検査証明がないとドイツ帰着便に搭乗できないことになり(検査を現地で、自己負担で手配しないといけない)旅行者は慌てて対応に追われたことだろう。イースターではなかったが、休暇中の旅行で現地滞在中に滞在先がリスク地域指定され、慌てて旅行を切り上げて帰ってきた同僚もいた。旅行大好きなドイツ人はコロナに(国の規制に)振り回されながら、それでも懲りずに次の旅行を楽しみに、諦めずに緩和を待ち構えている。
3) 感染症防止法(Infektionsschutzgesetz)改正による「急ブレーキ(Notbremse)」措置
2021年4月21日ドイツ連邦議会で改正感染症予防法が可決され、23日から施行された。これはパンデミック第3波を抑制するための改正だったのだが、これによりドイツ全国で統一的な制限措置が実施されることになった。ドイツにとってこれは大きな変化であった、というのはそれまでは感染防止策の具体的な内容は各州の決定にゆだねられてきたからである。
第1波到来時はメルケル首相の演説の内容がほぼそのまま各州に受け入れられ、非常に迅速に実現されたが、パンデミックが長引くにつれ、両者の足並みがばらつき始めた感があった。さらに州ごとの違いも結構出てきて、例えばある州では家具店は営業禁止なのに他の州では許可されているとか、医療用マスク着用義務に関してもサージカルマスク・FFP2共に認める州もあれば、FFP2のみと定める州もあった。徹底した制限措置を開始して医療崩壊を防止したい派と、少しでも経済活動を維持したい派とのせめぎあいで、コロナサミット(Corona-Gipfel)と呼ばれる閣僚と州首脳による会議は次第に長時間化し、成果にも全員不満足といった状態であった。
その結果、中途半端なシャットダウンが開始したり、イースター休暇の祝日を1日増加するというメルケル首相の発表が1日で撤回されたり、などの混乱も見られるようになっていた。4月21日の改正法可決はそれらを解決し全州一律に制限措置を実現するための第一歩だったので大きなニュースとなったのである。とはいえそれまでも各州は独自の急ブレーキ措置を実施していたので、一般住民の生活自体はこの法改正の影響をそれほど大きく受けることはなかったものと思われる。
3. 検査状況
1) PCR検査
SARS-CoV-2ウイルスへの感染を調べる正式な検査方法としては、従来のPCR検査が現在も主流である。第1波のかなり初期の頃からPCR検査は保険適応となり、医学的な必要性がある者は無料で検査を受けることができる。ただ医学的な必要性はなくても、例えば旅行先の国や宿泊施設への陰性証明などのように、個人的な理由での検査の需要も高い。そこで順次検査場が設置されてきた。2020年夏には国内の主要空港に検査センターがオープンしたし、その頃から有料でのPCR検査を宣伝する開業医のホームページなども散見されるようになった。現在ではだいぶ検査場の数も増えている。
値段やプランは場所によってまちまちで、同じ検査場でも複数プランがあったりする。例えばデュッセルドルフ空港にあるテストセンターだとPCR検査は3種類あり値段は69~199ユーロと差がある。一番高額なものは90分、その次は12時間、24時間で結果がでるようなので、出発直前の陰性証明がないと航空機に乗れない場合には一番高いプランが必要だろう。
2) 抗原検査
簡易PCR検査と並んで、短時間で簡単に行える検査方法として抗原検査も広く行われ始めた。最低でも1週間に1回以上は無料で(kostenloser Schnelltest, kostenloser Bürgertestなどと呼ばれる)受けられるよう公に保障されているとのことである。誰でも登録ができ1日1回までテストを受けられる。うちの大学病院の小さな視聴覚ホールのような設備にも、4月初めにこのコロナテストセンター(Corona Testzentrum)ができ、同時期に家の近所にもう2か所オープンした。
自分でも試しに一度、実際に受けてみた。パソコンで(スマートフォンでも可)当日でも簡単に申し込み登録できた。その予約情報と身分証を持って窓口に行くとトレイに入ったサンプルチューブを渡され、試着室のような作りの採取場で鼻とのどの奥の粘液を採取され、採取済サンプルチューブを提出して終了した【図表5】。最初の窓口に少し並んだが、受付を済ませてからはスムーズで、トータル5分ほどで終了という感じであった。その後買い物をしながら待っていたら、15分ほどたったところで結果が出たというメールが届いた。メールに従って結果にアクセスすると、検査を行った企業名や場所、テストのタイプ(検査キット名)などなどが細かく書かれている中、真ん中に緑色の大きな文字でNegativ / Negativeと書かれ、役所のマークも入っていた。
デュッセルドルフ市内ではこの4月からこの検査場が急激に増え、PCR検査場以上にたくさんの検査場が街中に設置されている。うちの大学病院は、現在はお見舞いが原則禁止で特別な理由がある場合のみ許可されていているが、許可されていても場合によってはこの抗原検査による陰性証明の提出を求めることがある、と定めている。病院構内のど真ん中にある検査場なので、設置の主目的はやはり病院訪問者の陰性証明のためと思われる。対して、街中に大量に設置された検査場の方は、美容院などに行く場合やクリック・アンド・ミートで店舗に入場する際の陰性証明のために用意されたものだろう。
自分がテストを受けた日は、せっかくなので電気製品店に予約を入れてクリック・アンド・ミートで買い物に行った。そこまでせずともオンラインショップで買って配送すれば済むので、またやりたいかといわれるとちょっと疑問ではある。とはいえ、ワクチン接種までまだだいぶ時間がかかりそうな人にとっては、気軽に陰性証明が手に入るのはありがたい。ちなみに当初は近所の検査センターに列をなす光景も見られたが、その後は軒並みまたお店が閉まってしまったので現在はその分検査の需要も下がっているようだ。
図表5 |
抗原検査センター |
3) 抗体検査
抗体検査も一応存在はしているが、結果の証明力が限定されるためか、広くは行われていないようである。たまたまドラッグストアで、1キット60ユーロ程度で売られているのを見かけた際、箱の説明書きを読んでみたところ、針状のもので自分の指などを刺し、血液を同封のキットにこすりつけて専門のラボに郵送すると、結果が送られてくるということだった。好んで買われているという様子は全く見られなかった。
4) 検査結果の把握方法
COVID-19感染者数の算定はPCR検査の結果に基づいている。PCR検査の結果には、法律上の役所への届け出義務が発生する。陽性の結果がでた場合、その患者を診ている医師、検査を行った施設(検査施設や診療所など、公立・民間問わず)はその届け出義務を負う。勤務医の場合は、施設の内規や契約で、最終的に施設から届出がなされているケースが多いだろう。私の職場でも、循環器内科で患者が陽性と判定された場合にどのような手続をするか(だれが担当医として書類を作ってだれが集めるかなど)という研修があった。他科の状況やその後の細かい手順まではわからないが、最終的に大学病院としての届け出がなされる仕組みになっているようである。また、特に診療所規模の病院施設は検体の採取まで行ってから検査自体を外部の検査施設へ委託していることも多いと思われる。その場合、陽性結果をどちらが届け出ることにしているのかという交通整理は、各州法・施設の内規・契約などをベースに各自あらかじめ決めているのではないかと推測される。
ちなみに抗原検査についても、結果が陽性と出た場合、被験者と、他者のためにその検査を行わせた施設(例えば学校や職場など)は報告義務(Meldepflicht)を負うという説明が連邦保健省のホームページにあったが、これは必ずしもPCR検査と同等レベルの報告義務という意味ではなさそうである。ただ陽性結果が得られた場合、被験者は直ちに自己隔離し、PCR検査を受けて結果を再精査しなくてはならない。循環器の診療所を開業する知り合いに聞いたところ、彼らは院内にPCR検査施設がないため患者さんに抗原検査を行っているが、抗原検査の結果が陽性と出た場合、すぐにPCR検査を受けるよう患者さんを指導することになっているそうである。そしてPCR検査の結果はその検査ラボが届け出るということであった(聞いた当時は抗原テスト導入開始から間もなかったので、現在とは運用が異なる可能性もある)。抗原検査も事実上は公による統計把握にきちんと紐づけられているといえるだろう。
ちなみに抗原検査については、セルフテストの場合は結果が陽性でも報告義務は生じないと説明されている(すぐに自己隔離し、PCRテストを受けることを強く推奨はされている)。が、そのためには自分で抗原検査キットを入手し、自分で検体採取しなくてはならない。しかしそこまでして単独でこっそり検査して陽性結果を秘匿するモチベーションは、ドイツではちょっと考えられない。感染がここまで拡大したドイツでは、感染者への差別などはもうほとんど存在しない。わざわざ自腹で費用を負担して検査するという場面は旅行目的くらいしか思いつかないが、旅行関係にはPCR検査結果を要求されることが多い現状では、結果の隠匿はほぼ不可能である(民間の検査業者にも報告義務が課せられている)。そもそも検査結果を隠匿したところで陰性証明にはならないので隠す意味がない。しかも、公に陽性の診断を受けることは病欠の正当理由になってフルでお給料をもらいながらゆっくり休めるので、むしろ歓迎されることすらあるだろう。
4. 変異株
報道によると、ドイツでは確認されている変異株の90%以上がいわゆる英国変異株である。次いで南アフリカ変異株が0.7%となっていてそれ以外は現状ほとんど確認されていない。特徴としてはどちらも感染力が高く、中でも英国変異株は場合によっては致死率が高いということ、南アフリカ変異株は現行のワクチンが効きにくい可能性があるということが説明されている。報道のベースとなっているRKIによる変異株についての報告書(Bericht zu Virusvarianten von SARS-CoV-2 in Deutschland)では、もっと正確で細かい分類がなされ、州ごとの報告数なども比較されている。この報告書はRKIのホームページ上に2021年の2月(1回目)から掲載され、適宜更新されている。最新の2021/5/5版(8. Bericht)は13ページにわたっている。詳細な内容はここでは割愛する【図表6】。
図表6 |
ドイツ国内で報告されたSARS-CoV-2 variantの割合 |
RKI Bericht zu Virusvarianten RKI Bericht zu Virusvarianten von SARS-CoV-2 in Deutschland (8. Bericht) (2021/5/5版)より |
5. ワクチン
1) 接種開始から現在までの概要
ドイツでは、2020年の12月27 日からワクチン接種が開始した。開始当時に使用許可を得ていたのはPfizer/BioNTech社製ワクチンのみだったが、開始直後にModerna社製も許可された。現在はAstraZeneca社とJanssen (Johnson&Johnson)社のワクチンも使用許可がされている(パウル・エーリッヒ研究所(PEI))。各州にワクチンセンター(コングレスセンターやイベントホール、競技場等を利用しているパターンが多い)が設置され、高リスク群から接種が開始した。
ただ、開始当初は遅々として進まず、特に3月までは進行が遅く、ほぼ同時期に接種が始まった北米や英国と比べて大きく遅れている。要因としてはいくつか考えられるが、特に初期の頃は対象者の周知や予約の処理がスムーズに行かなかったようであった。12月から開始した生活制限で事務仕事が全面的にホームオフィスになったのも手続の処理に時間がかかった要因かもしれない。また当初はワクチンの供給も不安定だったようである。外来の患者さんで、年齢的にも循環器の持病的にも最優先順位を得られるはずなのに「まだワクチンを受けられない、一体どうなっているんだ」と嘆いておられる方も複数おられた。
また、最初はまだまだ懐疑的な雰囲気も強かった。副反応を怖がって2回目の予約に現れずワクチンが無駄になってしまうケース(特にmRNAタイプ)が目立って問題になったこともあった。AstraZeneca社のワクチンをめぐるネガティブな報道なども(ドイツでは一度使用許可を停止されたが、現在は再認可されている)接種を躊躇させた可能性はある。それでも開始から3か月、医療従事者を含めて接種が徐々に進み、接種しても大丈夫そうだという雰囲気や、接種した者へのご褒美(特に旅行関係の制限緩和)をちらつかされて、現在はもうだいぶ受け入れられたように感じる。
イースター休暇明けの4月8日からは開業医(Hausarzt)での接種が開始し、そこからは接種が一気に加速した感がある。接種される側としては受けやすくなって喜ばれただろう。ただ開業医側からは、ワクチンの供給が必ずしも安定していないのと、その限られたワクチンをどういう順番で患者さんへ配布するか自分で決めないといけないプレッシャーなど、いくつか問題点は指摘された。その後Janssen社のワクチン供給も始まったので、以前よりは供給も安定してきたのではないだろうか。報道によると、5月から連邦政府の定義する「第3優先グループ」の接種を開始するということであるが、実際には各州・地域の状況によって多少の差があるものと予想される。また、加速はしたものの出だしが遅かったこともあって大部分が1回終了者で、2回接種終了者はまだ少ない。まだまだこれからという状況である【図表7】。
図表7 |
被ワクチン接種者の全人口における割合 |
RKI Digitales Impfquotenmonitoring zur COVID-19-Impfung (2021/5/12) |
2) 接種順位
RKIは優先的に接種できる人を6段階(Stufe 1-6)に分けて分類していたが、連邦政府はそれをもうすこしざっくりと3つのグループ(Höchste Priorität, Hohe Priorität, Erhöhte Priorität)にまとめている。これらの優先順位は主として年齢と基礎疾患に基づいているが、それだけでなく職業に基づいた分類も含まれる(例えば医療従事者、教育関係者、警察官など)。詳細については割愛する。
(RKI及びドイツ政府のホームページ:https://www.rki.de/DE/Content/Infekt/Impfen/ImpfungenAZ/COVID-19/Stufenplan.pdf?__blob=publicationFile; https://www.bundesgesundheitsministerium.de/coronavirus/faq-covid-19-impfung.html )
3) 副反応や合併症
コロナワクチンの副反応や合併症については詳細なデータがPEIから定期的に公開されている【図表8】。
4月末までをまとめた報告書によると、ドイツでも様々な副反応が報告されているようだ。自分も発熱と倦怠感を2回目の接種後に経験したし、多くのドイツ人同僚も(特に2回目接種後)そうであった。世界的にみるとワクチンとの関連が疑われる血栓症による死亡症例報告が存在し、ドイツでも広く知られている。ドイツ国内においてもワクチンとの関連が否定できない死亡症例は報告されている(死亡率 0.0018%)。通常診療中に患者さんから聞かれることも多く、一般の関心は高い。
図表8 |
コロナワクチンによる副反応の報告率 |
Paul-Ehrlich_institute Sicherheitsbericht (2021/5/7版) |
4) 接種者への制限緩和
ワクチン接種開始当初から、接種を受けた者には生活制限を緩和してよいのではないかという議論がなされてきていたが、5月からその緩和が実際に始まっている。既にNRW州ではワクチン接種2回終了者(Geimpfte)と感染からの回復者(Genesene)には、店舗での買い物時(クリック・アンド・ミート)、仕事、学校、入国時の隔離義務において要求される陰性証明提出義務が免除されることになっている。連邦議会においても接種終了者と回復者に対する制限緩和についての政令が7日に可決され、早ければ9日から施行される見込みとなっている。対象となるのは、規定の接種証明書を所持するワクチン接種者と、規定の回復証明書を所持する感染からの回復者で、共に無症状の者に限る。該当者は買い物・スポーツ・学校の対面授業の際に求められる陰性結果証明につき陰性証明所持者と同様に扱われる他、接触制限やスポーツ実施制限の人数にカウントされない、(夜間)外出制限の不適用、自己隔離義務免除(変異株との接触疑いがない場合に限る)などの扱いを受けられるそうだ。
ちなみに、ここで言われている「ワクチン接種証明書」というのはPEI指定のワクチン(現在は上述の4社製)接種完了後、少なくとも14日間経過していることを示す物理的・電子的形式の証明書(ドイツ語・英語・フランス語・イタリア語・スペイン語のどれかで記載)ということである。もともとドイツではワクチン証明書(Impfausweis)というものが広く使われていて、ワクチンの接種を受ける際にこれを持参し記録しておけばオフィシャルな証明になる。黄色い紙製の小さな手帳で欧州の複数言語で表記されている【図表9】。私もコロナワクチンの接種を受けた際に持参して記録してもらった。
インフルエンザ予防接種のような毎年打つようなものはさほど記録も必要ないが、風疹・BCG・3種混合など、生涯で1~数回しか接種しないものについては、子供のころに受けたはずでも大人になると(親も)記憶が曖昧になる。しかも私の場合、国際的に有効な接種証明書も持っていなかったので、ドイツに来てからそれらをいくつか打ち直したのだが、それも全部まとめてこれに記録されるので便利である。とはいえこれを毎日持ち歩くのもちょっと(なくしそうで怖い)と思っていたのだが、報道(2021/5/3 ZDF)によるとEU委員会が早ければ6月1日からデジタルなワクチン接種証明(スマートフォン上に2次元バーコードで表示されるタイプ?)を導入するそうだ。偽造をどう防止するか、個人情報の保護をどうするかといった問題点はまだ解決されていないようなので実際にいつから使えるかは正直わからないが、人と物の流動性をコロナ前レベルまで復活させるためにはそれくらい便利でないとたしかに難しいと思われる。
図表9 |
ワクチン接種証明書(Impfausweis) |
6. 病院の状況
1) 概観
国内全域の人工呼吸器やECMOを有するインテンシブベッドの占拠率は、第1波のときからインターネット上で詳細に公開され今も続いている。第1波のときはメルケル首相の演説からの全国的な(緊急性の低い)侵襲手技一斉停止、などもあったが、その後はあのときほどの急激な変化や緊張感の高まりはないまま今に至っている。というより、第1波が終わった後も引き続き医療界はCOVID-19問題を抱えて必要に応じて少しずつ変化を続けてきているので、第2・3波の際は「やはり、またか」というかんじで個々が粛々と対応しているという様相である。とはいえ第2・3波は感染者の数が第1波よりも格段に多いので、インテンシブベッドはここ数か月ずっとぎりぎりのところを保っていて、今も占拠率は80~90%という地域が最多である。
2) 新たな問題
第1波の頃と比較して新たに浮上してきた問題としては、インテンシブ病棟の看護師不足が挙げられる。第1波のときは人よりも物(人工呼吸器、マスク、防護服など)の不足が注目されたが、その後の緩和期の間に物資面はかなり補充された。ところが第2波の直前期頃から、ベッドと人工呼吸器はあるが看護師がいなくてインテンシブ病棟として開けられないという問題が各地で浮上してきた。しかし解決策を講じる間もなく第2波に突入した。したがって現在は各現場が状況に合わせて何とかやりくりしているのではないかと推測される。
また、第1波のときの手技停止やその後の設備投資、また患者側からの受診控え等の影響で各病院・診療所とも経営状態は悪化し、対応に頭を悩ませている。COVID-19の対処も大事だが通常業務ももうこれ以上制限できないというジレンマに置かれているため、第1波のときのような大規模な通常業務の一律停止はよほどの状況に置かれない限り、どこの病院もすでに行っていないと思われる。
3) 勤務先の大学病院の場合
ちなみに私の勤務する大学病院では、第1波で陣頭指揮をとっていた緊急対策本部KELが6月に一旦は引っ込んだものの、第2波の到来でまた活動を開始した。COVID-19専用病棟は建設が10月に終わり11月から稼働している。これにより陽性者の隔離はしやすくなったが、看護師の追加募集が間に合っておらず、人員不足問題は残っている。第2波初期まではCOVID-19患者といっても通常病棟の場合が多かったので看護師不足はそれほど深刻ではなかったが、年末あたりからじわじわとインテンシブ占拠率が上がり、現在はインテンシブがいっぱいで通常病棟はそれほどでも、という状況に逆転した。そのせいで人員不足は深刻化し、現在は必要に応じて非COVID-19通常病棟を閉め、そこの看護師人員をインテンシブ病棟へ回すことでなんとかしのいでいる。
インテンシブ病棟は法律でベッド数に対する看護師の最低配置人数が決まっているのだが、全国的な人員不足を受けてこれを少し緩める動きがある。だがこれには当然看護師界からの強い反発があり、場合によっては集団退職などの問題も起こり得ることから、非常にセンシティブな問題となっている。また、赤字問題も当然抱えている。結果からみると循環器内科はCOVID-19の影響を受けにくいようだが、特に外科系の赤字は膨大である。外科は診療内容的にインテンシブベッドに直結しているしKELからの一時的な手技停止要請の影響ももろに受けるため致し方ないのだが、感染の波が去っても赤字問題の対処が残る病院にとっては、今後も厳しい時期が続く【図表10】。
図表10 |
地域別インテンシブベッドの占有率(2021/5/8時点) |
ZDF Corona-Zahlen: Aktuelle Daten und Grafiken zum Coronavirus |