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続編―第一線の医師によるニューヨークCOVID-19最新情報

著者

COI

注:この記事は、有識者個人の意見です。COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • ニューヨーク州では2021年2月以来COVID-19新規感染者数、入院者数、死亡者数ともに減少が続いており、これに伴って経済的活動も再開されてきている。
  • PCR検査数は一日20万件程度の高水準(一日に人口の1%程度を検査している)を維持しているが、陽性率は2021年2月以降減少が続き、現在は1%程度になっている。
  • これらの好ましい変化は主にワクチンの接種が進んだためと考えられる。ニューヨーク州では既に1600万回分のワクチンが接種され、州人口の約半数が少なくとも一度は接種を受けた状況である。
  • ワクチン接種に関する最近の課題として、供給量は十分であるのに一日当たりの接種数が減少しているという問題がある。この主な原因として挙げられているのは、勤務時間等の関係で接種に行く時間がない、ワクチンに関する情報や予約サイトにアクセスできる環境がない、そして誤情報の流布、などである。
  • 世界的に変異株による感染の割合が増加しているが、ニューヨークも例外ではない。最近になって英国型と南アフリカ型の変異株についてはPfizer社のワクチンの有効性がほぼ保たれるというデータが出てきたので紹介する。また、Moderna社は変異株に対する追加ワクチンの開発に成功している。
  • 最近になって新しい治療薬がいくつか承認され、COVID-19感染症の日常診療においても使われている。この寄稿ではこれらの治療薬について推奨レベルとエビデンスレベル(科学的根拠の強さ)を添えてまとめることとする。
  • 経済的活動を再開しながらも感染が拡大しないようにするための唯一の手段はワクチンであるが、ワクチンの普及に対する最大の脅威になりうるのが誤情報の拡散である。新しい情報に接した際には情報源とその信頼性を確認すること、信頼性が確認できない情報をむやみに拡散しないこと、などの対策を個々人が講じる必要がある。

はじめに

筆者はニューヨーク市内の大学病院で常勤医として働く循環器内科医(心臓や血管の病気を専門とする内科医)であり、循環器内科コンサルトチームの指導医として第一線でCOVID-19患者の診療に当たってきた。

循環器内科コンサルトチームというのは、入院中の患者に心臓や血管の異常が生じたときに救急や集中治療室などの主治医チームから相談を受ける専門医チームである。当院からの報告にもあるように[1,2]、COVID-19感染症は様々な心臓・血管の異常を引き起こすため、結果として筆者は多くのCOVID-19患者の治療に携わることとなった。

筆者は、2020年7月にニューヨークにおける状況を報告し[3]、さらに2020年8月にはPCR検査についての寄稿を執筆させていただいた[4]。今回の寄稿では、筆者がニューヨークの他院の医療従事者との議論の中で得た最新情報をまとめてアップデートすることとする(必ずしも当院の情報や施設としての意見を反映したものではない)。

なお、文中にニューヨーク州が何度も出てくるので、その規模感をまず解説したい。ニューヨーク州は面積でいうと北海道と九州を合わせたくらいの広さがあり、人口は2000万人ほどである。第一の都市ニューヨーク市から第二の都市バッファローまで車で行くと7時間程度を要する。日本の読者がニューヨークと聞いてまず思い浮かべるのはこの最大都市ニューヨーク市であろう。

ニューヨーク州におけるCOVID-19パンデミックの現状

ニューヨーク州における累積感染者数と死亡者数

まず初めにご注意いただきたいのは、ニューヨークにおける累積の感染者数、死亡者数はともに日本と比べて桁違いに多い、ということである。例えば、2021年5月6日現在のニューヨーク州での累積感染者数は約200万人,累積死者数は約5万2000人であった[5]。これらの数字を仮に東京都の人口に換算すると累積感染者数は約140万人,累積死者数は約3万7000人となる。これらの仮の数字を東京都の実際の数字(累積感染者数14万人あまり,累積死者数1900人あまり[6])と比べるとおよそ10~20倍の差がある。

全米でみると米国内の累積感染者数は3260万人、累積死者数は58万人あまりとなっている[5]。日本の人口は米国のほぼ3分の1、累積感染者数は62万人、累積死者数は1万人あまりであるので[6]、人口当たりに換算するとやはり15~20倍の開きがある。

これらは日本とは文字通り桁違いの数字であり、現在の状況も全く違うので(米国ではワクチン接種が進み感染が収束に向かいつつある)、この記事の内容を日本の現状に直接当てはめることはできないことに留意されたい。

ニューヨーク州における新規感染者数と死亡者数の推移

次に、ニューヨーク州における新規感染者数【図表1】、入院者数【図表2】、そして死亡者数【図表3】の推移を示したグラフを示す。この三つのグラフから、いくつかの興味深い事項が読み取れる。

まず一つは、ニューヨーク州には大きく分けて2020年3月から5月にかけての第一波と、2020年の年末に始まり1月にピークを迎える第二波があったことが新規感染者数のグラフ【図表1】から分かる(2021年3月の小さなピークは人為的なものなので無視してよい)。2020年の5月から半年間ほど低い新規感染者数を維持してきたニューヨーク州で第二波が起こってしまった背景には、年末にThanksgivingやクリスマスなど遠方の親戚や家族が集まる機会が多くあったことがあると筆者は考えている。

二つ目に、第一波に比べて第二波のほうが立ち上がりがなだらかであったことが新規感染者数のグラフ【図表1】から分かる。この原因としては、人々がマスクの着用やsocial distancingなどの基本的な感染対策を講じていたおかげで感染の広まるスピードが鈍化したことが考えられる。

三つ目に、この第一波と第二波を比べると、第二波のほうが感染者数が多かった(【図表1】)にも関わらず、入院者数のピーク値は第一波より小さかった(【図表2】)ことが読み取れる。これはすなわち、第二波の際には入院させるための病棟や集中治療室ににより余裕ができたことを意味する。これはおそらくマスクの着用やsocial distancingなどのおかげで感染が広まるスピードが遅く、感染者数の増加がなだらかであったことに起因すると考えられる。

最後に、第二波のほうが感染者数が多かった(【図表1】)にも関わらず死亡者数が少なかった(【図表3】)ことが読み取れる。つまり、死亡率が減少したわけであるが、これはおそらく前述のように病床数により余裕があったことに加えて治療法の進歩(後述)によるものであろう。

図表1
ニューヨーク州におけるCOVID-19新規感染者数
青の折れ線グラフは7日間の平均値を表す。
https://news.google.com/covid19/map?hl=en-US&mid=%2Fm%2F059rby&gl=US&ceid=US%3Aenより改変

図表2
ニューヨーク州におけるCOVID-19による入院患者数
青の折れ線グラフは7日間の平均値を表す。
https://news.google.com/covid19/map?hl=en-US&mid=%2Fm%2F059rby&gl=US&ceid=US%3Aenより改変

図表3
ニューヨーク州におけるCOVID-19による死亡者数
青の折れ線グラフは7日間の平均値を表す。
https://news.google.com/covid19/map?hl=en-US&mid=%2Fm%2F059rby&gl=US&ceid=US%3Aenより改変

ニューヨーク州におけるPCR検査数の実際

ニューヨーク州におけるPCR検査数と陽性率の推移

それではニューヨーク州がPCR検査数をどのように増加させその結果を利用しててきたかについては2020年8月の寄稿[4]でご紹介させていただいた。この項では、その後のニューヨーク州におけるPCR検査の状況を述べるとともに、陽性率の最近の変化についても解説する。

まずニューヨーク州におけるPCR検査数であるが、【図表4】に示した通りPCR検査数は2020年12月に一日あたり20万件に達し、それからはこの水準で推移している。ニューヨーク州の人口が2000万人であることを考えるとこれはかなり高い水準であり、毎日州民の100人に一人を検査している計算になる。言い方を替えれば、一人あたり平均で100日に一度はPCR検査を受けているということである。

筆者の個人的な体験に基づいて述べるが、確かにPCR検査は行き渡っており、まさに受けたいときに受けたいだけ受けられる状況になっていると感じる。自発的にいつでも受けられる検査の他にも職場でランダムに職員を検査しており、少なくとも100日に一度は検査をしている実感がある。

次にニューヨーク州における陽性率の推移であるが、【図表5】に示した通り2021年1月の第二波のピーク時に7%であった陽性率はそれから徐々に低下し、現在ではほぼ1%程度にまで減少している。これは2020年10月以来の低水準である[7]。

一日あたり20万件という多くの検査数に基づいたデータであるのでこの陽性率は非常に正確な値であり、これに基づいて州知事は経済活動の再開計画を発表した。これによると、social distancingを守ることを条件として5月19日から小売店、飲食店、ジム、文化施設などに対する人数規制が解除され、集会の人数制限も大幅に緩和され(屋外500人、屋内250人まで)、店内飲食も5月31日までで営業時間制限が解除となる。完全再開は7月1日との報道があったが、ほぼこれを前倒しで行った形である[8]。

人々の行動様式はこの半年間ほぼ変わっていないので(【図表6】)、このように経済活動が再開されてきているにもかかわらず陽性率の減少傾向がここ数か月間続いているのはワクチンの接種が進んでいることが主な要因であると考えられる。この点については次項にて詳細に述べることとする。

図表4
ニューヨーク州におけるPCR検査数
青の折れ線グラフは7日間の平均値を表す。
https://news.google.com/covid19/map?hl=en-US&mid=%2Fm%2F059rby&gl=US&ceid=US%3Aenより改変

図表5
ニューヨーク州におけるPCR検査陽性率
青の棒グラフが検査数、橙色の棒グラフが陽性者数、橙色の折れ線グラフが陽性率を表す。
https://forward.ny.gov/percentage-positive-results-region-dashboardより改変

図表6
ニューヨーク州における人々の活動度
娯楽(BaselineはCOVID-19パンデミック以前の水準を表す)
交通機関(電車、バス、地下鉄などの駅の人出)
職場
https://news.google.com/covid19/map?hl=en-US&mid=%2Fm%2F059rby&gl=US&ceid=US%3Aenより改変

 

報告義務と市、州、国による検査数・陽性数の把握

PCR検査については、公の機関が行っているものと私立機関が行っているものとがある。公のもので代表的なものは州や市が設営している検査所や州立病院などが挙げられる。私立の病院や診療所、それに薬局などで行っている検査は私立機関に分類されるであろう。設営の条件はCLIAという検査所の基準を満たしていることとFDA(アメリカ食品医薬品局)に承認された検査機器を使うことであるので、これらの条件さえ満たせば検査所を設置し検査を行うことができる。

報告義務について述べると、官民問わず検査の結果は毎日、検査から24時間以内に州や市の公衆衛生部門に報告しなければならない、とされている。つまり、全例報告義務があり、その結果は州や市によって集約され、最終的にはCDC(アメリカ疾病予防管理センター)に報告される。個人情報は州や市からCDCに届けられる前に削除されるそうである。これらの点はCDCのウェブサイトに詳しく記載されている[9]。

ニューヨーク州におけるワクチンの接種状況

ニューヨーク州における新規感染者数の減少と考えられる要因

それでは、現在ニューヨーク州においては新規感染者数の減少傾向が続いているのはなぜなのであろうか。この項では、考え得る可能性についてワクチンの接種状況を交えて考察したい。

まず考え得る可能性の一つは、PCR検査数の変化である。しかしながら、【図表4】に示した通りニューヨーク州における一日あたりのPCR検査数は2020年12月以来20万件弱で推移しており、ほぼ一定であるのでこれが原因とは考えにくい。

次に考え得る可能性としては、人々の行動様式の変化が挙げられる。仮に人々がより厳密な行動制限をしたとしたら新規感染者数の減少につながるからである。しかしながら、【図表6】に示した通りCOVID-19パンデミック以前に比べて娯楽は20%減、公共交通機関の利用は50%減、職場は平日で40%減の状態で2020年の夏からほぼ横ばいである。拠って、これも最近の新規感染者数の減少の原因としては考えにくい。

最後に考え得るのは、ワクチンが効果を発揮している可能性である。【図表7】に示したようにニューヨーク州では2021年5月5日の時点で1600万回あまりのワクチン接種が行われた。いくつかのワクチンは2回の接種が必要なので、これらを含めてワクチン接種が完了した人は719万人(州人口の37%)、少なくとも一回のワクチン接種を受けた人は952万人(州人口の49%)に上る。

そもそもPfizer社やModerna社のワクチンは症状を引き起こすような感染を95%減少させ、重症化をほぼ100%抑えることがランダム化比較を用いた大規模臨床試験(つまり、最も質の高い試験方法)で示されている。[10,11]さらに、実際の使用例に基づくデータでは、人から人への感染をも予防する可能性が示唆されている。実際、イスラエルなどワクチン接種が進んでいる国では新規感染者数が激減している。ニューヨーク州でのデータもこれらと合致するものと言えるだろう。

図表7
ニューヨーク州におけるCOVID-19ワクチン接種者数
https://news.google.com/covid19/map?hl=en-US&mid=%2Fm%2F059rby&gl=US&ceid=US%3Aenより改変

 

いかにして迅速にワクチンを接種できる環境を整えたか

この項では、ニューヨークの病院がワクチンの接種会場をいかにして迅速に設置し、効率的に接種を行っているかについて紹介する。

例えばニューヨーク市内のある大学病院では、普段は大講堂として使われている数百人程度収容できるホールが接種会場に早変わりした。演台が撤去され、スクリーンの前の広いスペースにいくつかの接種ブースと冷凍庫が一つ設置された。それぞれのブースには看護師が配置され、普段は観客が座る数百の席は接種後に重篤な副反応が起こらないか観察する待機場所になった。大講堂の外ではsocial distancingを守れるように約2メートルごとに床にテープが貼られ、接種希望者がそこに並ぶという光景が日常になった。

もう一つの例として、小児病院では普段は催し物のために使われているイベントスペースが接種会場になった。また、普段は屋内競技場として使われていた大きな体育館も接種会場となった。

いづれの会場においても並んで待っている間にワクチンに関する情報を記した書類が配られ、同意書にサインし、接種証明となる紙をもらい、接種後には接種証明にサインをもらって待機場所で15分間の観察を行う、という整然とした流れが出来ていた。

これらの例を見て感じることは、米国の病院は新しいシステムを作るのが早くて上手い、ということである。上記のシステムを作るためには医療従事者のみならず事務方やITなど多方面にわたる専門職の協力が必要になる。さらに、ワクチンの入手と搬送、保存に関しても前々から細かなセットアップが必要になったことは想像に難くない。このシステムをこの短時間で作り上げるあたりが米国の臨機応変な対応の良いところなのかもしれない、と感じた次第であった。

 

ワクチン接種に関する現在の課題

前項ではニューヨーク州において5月上旬の時点で既に1600万回あまりのワクチン接種が行われ、州人口の約半数にあたる1000万人近くが少なくとも1回の接種を受けたことを紹介した。全米で見ると既に2億5000万回以上の接種が行われ、全人口の45%が少なくとも1回はワクチンを受けた[12]。日本もいずれこの段階に達し、米国と同様の課題を共有することになると予想されるため、この項では米国におけるワクチン接種に関する現在の課題を解説する。

一日当たりのワクチン接種人数の減少

米国における現在の最大の課題は、一日当たりのワクチン接種人数が最近になって減少しているということである。この点に関しては【図表8】にグラフを示したのでご参照されたい。この減少の原因についてはいくつかの考察がなされている。

そもそも初期の段階では明らかに需要が供給を上回っており、供給をどのように確保するかが最大の課題であり律速段階・ボトルネックであった。しかし、ワクチン接種開始から数か月が経った今となっては、全米のほぼ全ての病院や大規模接種会場にワクチンは行き渡っている。ニューヨーク市に至っては(おそらくワクチンが余っているため)観光客にも無料で接種する観光誘致策キャンペーンを検討している状況である。Pfizer社は東京五輪選手へのワクチンの無料提供を申し出ている[13]。つまり、5月上旬の時点では、ワクチン接種数が減っていることの主な原因はワクチンの供給量不足ではないと言えるであろう。

そもそも4月中旬までワクチン接種数が順調に伸びてきたのは、インターネットと接種場所に容易にアクセスできる手段が確保されていてワクチンが出来たらすぐにでも打ちたいと思っていた人々にワクチンを打ってきたからであろう。この段階では需要が供給を上回り、不正をしてまで先にワクチンを打ちたい人々がニュースを賑わしたのもこの頃である。それでは、米国でワクチンの接種数がここ数か月減っているのはなぜなのであろうか。これには大きく分けて3つの原因が考えられる。

図表8
ニューヨーク州における一日当たりのCOVID-19ワクチン接種者数の推移
橙色の折れ線グラフは7日間の平均値を表す。右端の濃い青の棒グラフの値は暫定値。
https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/?ref=theprepping-com#vaccination-trendsより改変

 

ワクチン接種人数の減少の原因(1):時間と移動手段の確保の問題

5月に入って米国でワクチンの接種数が減少している原因の一つ目は、接種を受けたいものの病院や大規模接種会場などにアクセスするための時間や移動手段が確保できない人たちに接種が行き届いていないということが考えられる。実際、ワクチンを接種する際には最低でも15分程度は会場にとどまって重篤な副反応がないか観察する必要がある。これに接種会場までの移動時間や接種前の待ち時間などを足し合わせると1時間以上かかってしまう場合も多く、そのような長い時間職場を空けることができない、または勤務時間外になると接種会場が閉まってしまうという職種の方々はワクチンを受けたくても受けることが難しいという現状がある。

このように職場から離れる時間が取りにくいためにワクチン接種を受けられない人たちのためには、職場またはその近くでワクチン接種を行える臨時会場を設置するのが効果的である。例えば、米国のとあるトヨタ社の工場ではこのようなワクチン接種のための臨時会場を設置することで1000人以上の従業員にワクチン接種を行うことが出来たそうである[14]。

ワクチン接種人数の減少の原因(2):情報へのアクセスの問題

最近のワクチン接種数減少の二つ目の原因として考えられるのは、インターネットへのアクセスを持たない人たちがワクチンに関する情報を得られず、予約もできない、ということである。多くの人々は情報収集の手段として人の集まり(米国では地域の集会や教会など)での口コミや新聞、雑誌、駅での広告など従来からある媒体に依存している。こういった人たちにはワクチンに関する正確なデータやいつどこでワクチンが打てるのかなどの情報が入りにくく、これがワクチン接種の障害になっているのではないかとの指摘もある。

こういった課題に対しては、地下鉄にポスターを貼る、人が集まる場所でワクチンについての情報提供をする、などの地道な努力によって、数十人や数人、場合によっては一人一人にきめ細かく正確な情報と接種機会を伝えることが求められている。

ワクチン接種人数の減少の原因(3):誤情報の流布

これまではワクチンを受けたくても受けられない、または必要な情報が行き届いていない場合について述べてきた。この項では、ワクチン接種に対する最大の障壁になり得る、誤情報の流布について述べる。

現在までに明らかになっているワクチンの効果

これは筆者の個人的な意見であるが、そもそもCOVID-19というのは新型コロナウイルスと人類の知恵比べである。感染を広げるような行動をすれば感染は拡大し、三密を避けるなどの感染を抑えるような行動をすれば感染は抑えられる。この点は日本も諸外国も数度の緊急事態宣言やロックダウンで幾度となく経験し確認してきた点であろう。しかしながら、ロックダウンを行うと人々の行動を制限しなければならず、大きな経済的打撃が生じる。この状況を打破し、人々が普段通り行動していても感染が広がらないようにする唯一の方法がワクチンである。端的に言えば、コロナ前の元の生活と経済活動水準に戻るためには国民の大多数がワクチンを接種するしか選択肢はないと筆者は考えている。

幸いなことにModerna社やPfizer社が開発したワクチンは非常に効果的であり、有症状感染を約95%、重症化をほぼ100%予防する。さらに、前述のように無症状感染に対しても予防効果があることが示唆されている。国際的な診断基準に合致するようなアナフィラキシー(重篤な急性アレルギー反応)の発症率も10万人に1人以下(米国のデータ[15])から10万人に数人(日本のデータ、3,823,386回接種中107件、5月2日現在[16])と非常に稀であり、このうちの多くがアレルギーの既往がある人に発生している。さらに、アナフィラキシーの大部分が接種後30分以内に発症するため適切な観察と処置が行われれば死亡に至ることはまずない。

これは数十年に渡る科学の進歩の成果であり、多くの科学者達が副作用の少ないワクチンを開発しようと研究を続けてきた結果でもある(詳細は省くが、メッセンジャーRNAを使ったワクチンはその生物学的な特徴のおかげでそもそも副作用が少ない)。また、感染経路や感染が起こりやすい状況もはっきりしてきた。つまり、新型コロナウイルスとの知恵比べにおいては人類は既に勝利を掴みかけているのである。

実際に米国をはじめワクチン接種が進んでいる国々では感染者数や入院者数の減少が進み、経済活動の再開が可能となってきているのは前述の通りである。【図表9】に示したように最もワクチン接種が進んでいる国はイスラエルであり、既に国民の6割以上が接種を完了しているが、イスラエルではほぼコロナ前の生活に戻っているというのは既に報道されている。これに対して日本はグラフ中の右下(接種率約3%)、国別ランキングでは119位と明らかに出遅れている(2021年5月7日時点)。

図表9
国別に見たCOVID-19ワクチン接種者率の推移
https://ourworldindata.org/covid-vaccinationsより改変

 

誤情報の流布はCOVID-19パンデミックを長引かせる原因になり得る

米国において(そしておそらく日本においても)ワクチン接種に対する障害になっているのが、誤情報の流布である。世界保健機関は2019年の時点で既に世界的な健康に対する脅威のトップ10のうちの1つとしてワクチン忌避を挙げている[17]が、誤情報の流布はワクチンの普及を遅らせる一因になっている。米国でも日本でもワクチンの効果や副反応に関する根も葉もない誤情報は毎日のように垂れ流され、拡散され、一部の人はこれを鵜呑みにしてしまっているという現状がある。

インターネット上には全く根拠のない誤情報の他にもCOVID-19の危険性を過小評価したりワクチンの副反応をことさらに強調したりする記事が溢れている。しかしながら、個人レベルでみると、アレルギーの既往がある又は人と全く接しないなどの一部の人たちを除けば、経済活動が再開された場合にCOVID-19にかかって重症化する危険性はワクチンの副反応の危険性よりも桁違いに大きい。不等号を用いて表すと、大多数の人にとっては「経済活動が再開された場合にCOVID-19にかかって重症化する危険性>>ワクチンの重篤な副反応の危険性」なのである。高血圧や糖尿病、肥満、心呼吸器疾患などの持病がある場合や高齢者はCOVID-19にかかった場合に重症化する危険性が上がるのでなおさらワクチンの利益が大きい。つまり、個人レベルで見ると、経済活動が再開された後に人と接するためにはワクチンの接種を受けることの利益が危険性を大幅に上回ると言える。

社会全体で見ると、ワクチン接種が進まない場合には経済活動の制限しか感染者数を減らす手段がないので経済が回らなくなり、ひいては多くの失業者が出たり自殺者が増えたりする結果となることがリーマンショックなどの過去の経験から予想される[18]。対照的に、ワクチン接種が進めば諸外国のように経済活動の再開が進み、経済が上向きになる。すなわち、社会全体で見ても構成員の大多数がワクチンを打つことの利益が不利益を大幅に上回ることは数多くの国の例から示されている。

誤情報の流布に対する対策

このようにワクチンの利益が危険性を上回ることはデータからみても明らかであるが、米国ではもワクチンを受けたくないと考えている人は一定数存在する。最近のアンケート調査では13%が「ではどんなことがあってもワクチンを受けたくない」、7%が「強制されなければ受けない」と回答したとの報告がある[14]。これらの人々の中には正確な情報を得ていながらも個人的な信条や経験からワクチンを忌避する人もいるのであろうが、誤情報を鵜吞みにしてしまいそれによって正確な判断が妨げられた場合も数多くあることであろう。

誤情報の発生と拡散を完全に防ぐことは困難であるが、対策を打つことはできる。具体的には、一人一人が新しい情報に接したときにその信頼性を確認し、信頼できる情報源からの情報であるかを調べること、情報の信頼性を確認できない場合にはみだりに拡散しないこと、などが挙げられるであろう。FacebookやTwitterなどのSNS各社は明らかな誤情報に警告を付けたり、誤情報を発信し続ける発信者の投稿を禁止したりするなどの処置を講じているが、対応しきれていないのが現状である。SNS各社には明らかな誤情報を投稿している者を通報する仕組みがあるので、もしそのような投稿者を見かけた場合には通報することがひいては新型コロナウイルスとの知恵比べに人類が勝利することに貢献するかもしれない。

ニューヨークにおける変異株の状況について

変異株の流行状況

変異株は世界的に流行しており、ニューヨークもその例外ではない。ニューヨーク市が2021年3月のある週に行った調査によると、新規感染者のうち実に65%が変異株によるものであった[18,19]。その前の週の調査では52%が変異株によるものであったので、変異株の割合が一週間で13%も増加したことになる。この後も変異株の割合は同じようなペースで増加を続けていると考えられるので、おそらく現在ではほぼ変異株に置き換わっていると考えても良いであろう。

変異株についてはまだ分かっていないことが多いものの、感染力は従来株よりも強い変異株が存在する。また、重症化のリスク、ワクチンの効果、治療の効果などが従来株とは異なる可能性を示唆した研究も散見される。

変異株に対するワクチンの効果

変異株に関して最も公衆衛生学的に重要なことは、ワクチンの効果が従来株に比べてどうなるのかであろう。変異によってワクチンの効果が大幅に下がることは考えにくいというのが大方の専門家の意見ではあるが、さらなる研究が必要とされる事項である。この点に関しては最近になっていくつかのデータが発表されているのでここにまとめることとする。

Pfizer社のワクチンに関してであるが、南アフリカ型変異株に対して90%、英国型変異株に対しては75%有効であるとのデータが発表されている。従来型における効果が95%程度であったことを考えると確かに効果は多少下がるものの、大幅に下がるわけではなさそうである。[20]

また、同じ報告の中で重症化または死亡に対するPfizerワクチンの効果は97.4%と非常に高かったことが報告されている[20]。重症化や死亡を回避する効果は十分に維持されていると言えよう。

これに対して、アストラゼネカ社のワクチンにおいては南アフリカ型変異株に対する予防効果が認められなかったことが報告されている[21]。

ワクチンの効果に関して、最近もう一つ興味深い結果が報告されている。イスラエルからの報告によると、Pfizer社のワクチンには無症候性(症状が全くない)感染を抑制する効果もあるとのことである[22]。無症候性の感染者は気づかないうちにウイルスを運び感染を広げてしまう可能性があり、全感染者の実に6割近くが無症候性の感染者からの感染であるというデータがある[23]が、ワクチンによって無症候性の感染者からの感染をも抑えることができることが示唆されたのは特筆に値する。

治療法の最近の進歩

COVID-19は新興感染症であるためその治療法もまさに日進月歩であり、このため信頼できる情報源からのデータのみを取捨選択することが求められる。最も信頼できる情報源の一つは米国国立衛生研究所(National Institute of Health)が出している診療ガイドライン[24]であろう。【図表10】に2021年5月7日現在の薬物療法に関するガイドラインをまとめた。

薬物療法の他にも、この一年間実際に診療に当たっていて得られた知見は数多くある。例えば、パンデミックが始まったばかりの頃には知られていなかったが、現在ではCOVID-19が血栓傾向を引き起こすことが分かってきた。[2,25,26]このため、筆者はCOVID-19患者において塞栓血栓症(例えば肺塞栓血栓症や深部静脈血栓症)を疑わせるような所見があった場合には画像などの検査の閾値を下げるように心がけて診療に当たっている。

ただし、最近発表された研究によると、集中治療室での治療が必要になるような重症患者においてさえも予防的に中等量以上の抗凝固療法を始めることは推奨されない。[27]。やはり塞栓血栓症を示唆するような徴候がないか注意深く観察し、疑わしい場合にはそれに応じた検査をためらわない、という姿勢が求められているのであろう。

図表10
National Institute of Healthの推奨するCOVID-19に対する治療薬のまとめ
註:この表はあくまでNational Institute of Healthの推奨する薬物治療をまとめたものであり、これに基づいて治療をした場合の転帰について筆者は一切責任を負わない。また、日本では承認されていない薬物が含まれる可能性がある。推奨レベルA=強、B=中等度。エビデンスレベルI=重大な欠点のないランダム化比較試験が少なくとも1つある、IIa=その他のランダム化比較試験またはランダム化比較試験のサブグループ解析、IIb=非ランダム化試験または観察研究、III=専門家の意見
https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/therapeutic-management/の表1(2021年5月7日時点)を筆者が和訳したのち改変

今後の展望

従来株よりも高い感染性を持つ変異株は既に発見されており、現在のニューヨークにおいては変異株が従来株に置き換わってきている。これは諸外国においても大方同じ状況であり、日本でもいづれ同様の変化が起こることが予測される。

幸いなことに今のところ変異株の中で特に重症化しやすいものやワクチンの効果が大幅に低下するようなものは発見されていない。しかしならが、これからも新たな変異株は生じ続けるであろうし、こういった未来の変異株の中には感染性や病原性、ワクチンの効果が従来株と異なるものが出てくる可能性がある。

もしそうなった場合に必要になってくるのが、変異株に対するワクチン(追加ワクチン)であろう。従来株に対するワクチンが一年程度で迅速に開発され実用化されたこととメッセンジャーRNAワクチンの生物学的特徴を考えると、追加ワクチンの開発にもさほど時間がかからないのではないかというのが筆者の個人的な見解である。実際、変異株に対するワクチンの効果については既にModerna社が追加接種用のワクチンを開発し、臨床試験で南アフリカ型とブラジル型の変異株に対する効果を確認している[28]。

感染が広がれば広がるほど新たな変異株の出現可能性が増えることを考えると、これからは新たな変異株の出現とそれに対する追加ワクチンの開発という鼬ごっこが続くことになるのかもしれない。そうしているうちに全体の感染者数が減少し、それにともなって新たな変異株の発生頻度が減り、COVID-19パンデミックが世界的に収束に向かう、というシナリオが考えられる。

このように現代の科学技術をもってすればCOVID-19パンデミック収束へのシナリオを描くことは可能だが、その実現のための最大の障壁になり得るのが前述の誤情報の流布である。人類が新型コロナウイルスとの知恵比べに勝利するためには、今一度この「内なる敵」に向き合い対処する手立てを考えることが求められているのではないだろうか。

引用文献

  1. Circulation. 2020 May 19;141(20):1648-1655.
  2. Driggin E, Madhavan MV, Bikdeli B, et al. Cardiovascular considerations for patients, health care workers, and health systems during the coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic. J Am Coll Cardiol. 2020. Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32201335.
  3. https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/2880
  4. https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/3266
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