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続編―英国におけるコロナウイルスの感染状況

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COI(利益相反)

注:この記事は、有識者個人の意見です。武見基金COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • 日本と英国はともに島国として似ている。英国で昨年最初のロックダウンが施行されてから1年が経過した(2021年3月23日現在)。感染状況の悪化に伴い、この1年間で計3回にわたる全国ロックダウンが実施された。
  • 感染伝播力が強い英国変異株が昨年末に出現したことにより、年末年始にかけて状況が急激に悪化し、厳しいロックダウンを強いられた。
  • 年明けからワクチン接種が進められ、3月下旬現在では英国の成人人口の約半数にあたる2600万人が第一回接種を終了しており 、7月までには18歳以上の全成人人口の接種を目指している。それに伴い、ロックダウンの段階的な解除を経て、夏頃に英国では完全解除を目指している。
  • この項では、この1年間の経過を振り返り、時系列に感染状況の推移ならびに対応の経過を説明したい。

はじめに

英国で昨年最初のロックダウンが施行されてから1年が経過した(2021年3月23日現在)。感染状況の悪化に伴い、この1年間で計3回にわたる全国ロックダウンが実施された。感染伝播力が強い英国変異株が昨年末に出現したことにより、年末年始にかけて状況が急激に悪化し、厳しいロックダウンを強いられた。一方、年明けからワクチン接種が進められ、3月下旬現在では英国の成人人口の約半数にあたる2600万人が第一回接種を終了しており (https://coronavirus.data.gov.uk/details/vaccinations)、7月までには18歳以上の全成人人口の接種を目指している。それに伴い、ロックダウンの段階的な解除を経て、夏頃に英国では完全解除を目指している(https://www.bbc.co.uk/news/explainers-52530518)。新型コロナ対峙に試行錯誤を繰り返した1年間について総括する。前回(https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/1631)と同様、情報の出典を引用で示す。

英国政府の方針やその根拠、感染状況等についての情報の多くはインターネットで開示されており、より詳細な情報を閲覧することが可能であるため、本稿ではその情報ソース(インターネットのurl等)を記すことを心がけた。

新型コロナ対峙の一年の経過

この1年間の経過を振り返り、時系列に感染状況の推移ならびに対応の経過を説明する。

まず、2021年3月下旬時点において、新型コロナによる英国における総死亡者数は12.5万人を超えた。罹患者数も総数で約430万人に達した。筆者が勤務するレスター大学附属病院は英国でもっとも多くの患者数を治療した病院のひとつであり、また臨床研究にもっとも多くの症例を登録した施設として貢献してきた(https://le.ac.uk/news/2020/june/recovery-trial)。

昨年2020年春の第一波の際は、死亡者は高齢者が多く含まれ、老人ホーム等におけるクラスターや院内感染が問題となった(https://www.bbc.co.uk/news/health-54793542)。

昨年3月下旬より第一回の全国ロックダウンが実施された。夏頃に患者数が減ってきたため、ロックダウンを解除する方向であったが、筆者が在住・勤務するレスター市では、感染が多い状況が続いたため、ロックダウンを解除しなかった(https://www.bbc.co.uk/news/uk-england-leicestershire-54423723)。6月3週目の一週間における人口10万人あたりの新規患者数は140人の状況が続いた。また、その時期に英国の他地域で進められたロックダウン解除のステージ・段階は一週間における人口10万人あたりの新規患者数が100人を基準としており(もっとも軽度のティア1は100人未満、中等度のティア2は100人以上)、日本におけるステージ分類(ステージ3は同15人、ステージ4は同25人)とは基準値が異なる。

英国の保険局(Public Health England)はレスター市の感染状況を緊急調査し、4月末までは高齢者(65歳以上)や医療関係者の感染者が多かったのに対し、それ以後は市中における18歳―65歳の感染が増えていることが判明した(https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/897128/COVID-19_activity_Leicester_Final-report_010720_v3.pdf)。これは、レスター市内の一部の民族性(有色人種)や住居環境(3世帯住宅等)さらに職場(工場等)における環境が感染増加の原因と考えられた。

自治体行政、病院と大学はジョイントタスクフォースを発足させ、筆者は医学・ライフサイエンス研究科副研究科長ならびにライフサイエンスイノベーション研究所の所長の立場で参画した。市内のコミュニティ・スクリーニングや検査センター等の系統的なシステムを立ち上げ、筆者は職場におけるスクリーニング・プログラムの構築を担当した。職員入室時に症状がないことを確認し、体温測定を行う、ITならびにIoTを用いたスクリーニングキオスクのシステムを導入した(https://le.ac.uk/news/2020/december/self-screening-kiosks)。

英国をはじめ、北ヨーロッパの国々の人は、夏場のバカンスをスペインやギリシャ等の暖かい地中海地方で過ごすことが慣例化している。それに伴い、夏場後期から地中海地方からの感染輸入例が増えた(https://www.itv.com/news/2021-03-19/covid-holidays-to-greece-spain-and-croatia-brought-in-over-half-of-virus-cases-last-summer)。これらは後に詳述する英国におけるウイルスゲノムのトラッキング解析によって明らかになった。

また、秋に英国では、日本のgo to eatと同様に、eat out to help outという経済活動を活性化することを目的とした外食を奨励するプログラムが実施されたが、感染悪化の引き金になったと報告されている(https://warwick.ac.uk/fac/soc/economics/research/centres/cage/news/30-10-20-eat_out_to_help_out_scheme_drove_new_covid_19_infections_up_by_between_8_and_17_new_research_finds/)。

結果的に、感染第2波が秋に到来し、11月初旬から4週間にわたり、再び全国ロックダウンが実施された(https://www.bbc.co.uk/news/uk-54763956)。

その間に、英国変異株と名付けられた、新たな変異株がロンドンや英国南東部で出現し、感染悪化を招いた(https://www.gov.uk/government/news/phe-investigating-a-novel-variant-of-covid-19)。この変異種の特徴は若年者の感染が多く(https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/threat-assessment-brief-rapid-increase-sars-cov-2-variant-united-kingdom)、感染力が3割から7割強く(https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/961037/NERVTAG_note_on_B.1.1.7_severity_for_SAGE_77__1_.pdf)、重症化するリスクも高いことが報告された(https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/961042/S1095_NERVTAG_update_note_on_B.1.1.7_severity_20210211.pdf)。

感染者数が増えたことから、2021年1月4日から第三回目のロックダウンが実施された(https://www.gov.uk/government/news/prime-minister-announces-national-lockdown)。1月8日のピーク時点では、一日あたりの新規患者数は68,000人に達し、一日あたりの死亡者数も1800人に達した。1月17日時点では、一週間あたりの人口100万人における死亡者数は16.55に達し、世界でもっとも新型コロナによる死亡者数が多い国(一週間あたりの人口割合)となった(https://www.independent.co.uk/news/health/uk-covid-death-rate-coronavirus-b1788817.html)。累計でも総死亡者数も12.5万人に達した(https://coronavirus.data.gov.uk)。

3月下旬現在、新規患者数また死亡者数は低下しており、3月8日から段階的にロックダウンの解除が開始された(https://www.gov.uk/government/publications/covid-19-response-spring-2021/covid-19-response-spring-2021-summary)。

検査体制

英国は早い段階からPCR検査体制を整備してきた。10月末までに一日あたりに50万件のPCR検査の体制を整備し(https://www.gov.uk/government/news/500000-daily-testing-capacity-reached-in-ongoing-drive-to-boost-test-and-trace)、現在は一日あたり75万件が可能である(https://coronavirus.data.gov.uk/details/testing)。検査体制を整備するにあたり、国内数カ所にPCRセンター(lighthouse lab)を設置した(https://md.catapult.org.uk/lighthouse-lab/)。レスター近くのラフバラ市内の旧アストラゼネカ社研究所跡地に最新のラボが開設され、パーキンエルマー社が運営し、そこだけでも現在一日あたり5万件のPCR検査が可能である(https://www.bivda.org.uk/News-Events/News-Policy-Media/ArticleID/441/New-Lighthouse-Lab-opens-in-Charnwood)。

疑わしい症状があれば、検体採取キットを郵送で受け取るか、ドライブスルーないしウオークインの検体採取センターを訪れ、翌日までに検査結果が判明するシステムとなっている。申し込みもインターネット経由で可能であり、検査費は無料である。疑わしい場合、また陽性の場合は、自宅における隔離措置となる。

また、英国の接触者追跡システム(track-and-trace)のアプリを導入している場合は、検査結果を入力すると濃厚接触者にも連絡がいく。ただし、英国の接触者追跡システムは十分に機能していない(https://www.theguardian.com/world/2020/dec/11/uks-test-and-trace-repeatedly-failed-to-hit-goals-despite-22bn-cost)。世界有数のPCR検査体制を整備した英国でITを活用した接触者追跡システムが十分に機能していれば、感染者数を抑えられたのではないかとも思われるが、個人情報保護や個人の権利の壁は厚い(https://www.theguardian.com/world/2020/dec/11/uks-test-and-trace-repeatedly-failed-to-hit-goals-despite-22bn-cost、https://blogs.bmj.com/bmj/2020/12/11/martin-mckee-nhs-test-and-trace-under-fire-a-system-flawed-by-design/)。

それ以外に職場や学校またコミュニティにおいて無症候感染者のスクリーニングとして、抗原簡易検査(lateral flow test)も広く実施されており、無償で提供されている。

ゲノム解析

英国はゲノム研究の先進国として、ヒトゲノムプロジェクトを先導し、ゲノム医療の導入を先駆けて導入してきた。同時に、今回のパンデミックにおいて、ウイルスゲノムの解析体制を早くから整備してきた。英国変異株の発見もゲノム解析によるモニタリングの賜物である(https://www.bbc.co.uk/news/health-55413666)。ゲノム解析は、COVID-19 Genomics UK Consortium(https://www.cogconsortium.uk)が実施し、3月下旬時点では、すでに35万件体のゲノムを解析した実績を有する。PCR検査の陽性検体の約1割がサンプリングされ、ゲノム解析を実施されるが(https://www.cogconsortium.uk/update-on-new-sars-cov-2-variant-and-how-cog-uk-tracks-emerging-mutations/)、現在は新たな変異株の発見に向けてサンプリングを約3割に増やしている(https://www.bbc.co.uk/news/55905142)。

ワクチン

英国は早い段階からワクチン開発にも注力してきた。オックスフォード大学・アストラゼネカ社またファイザー社やモデルナ社等と早くに契約し、ワクチンを確保した。3月下旬現在では英国の成人人口の約半数にあたる2600万人が第一回接種を終了しており、7月までには18歳以上の全成人人口の接種を目指している。それに伴い、ロックダウンの段階的な解除を経て、夏頃には完全解除を目指している。英国のワクチン接種は老人ホームから始まり、その後に高齢者と医療従事者が接種し、医療従事者から始めた日本とは優先順位が異なる(https://www.gov.uk/government/publications/covid-19-vaccination-care-home-and-healthcare-settings-posters/covid-19-vaccination-first-phase-priority-groups)。

Long COVID(後遺症)

一旦退院しても、状況が悪化し、再入院する症例や症状が慢性化する症例が少なくないことが知られており、long COVIDと現時点では名付けられている。レスター大学の調査の結果、退院した患者の1/3は5ヶ月以内に再入院し、8人に一人が亡くなる実態も明らかになった(https://www.telegraph.co.uk/news/2021/01/17/almost-third-recovered-covid-patients-return-hospital-five-months/)。現在、レスター大学を筆頭にLong COVID慢性期の実態を解明するための研究を実施中である(PHOSP-COVID、https://phosp.org)(https://le.ac.uk/news/2021/march/covid-19-patients-not-fully-recovered)。

殉職者

新型コロナで亡くなった医療従事者は230人以上である(https://www.itv.com/news/2021-02-02/covid-at-least-230-nhs-workers-have-died-during-the-pandemic-here-is-a-list-of-all-of-them)。医師も数多く含まれている(https://www.bmj.com/covid-memorial)。現在、防護服不足との関係(危険な労働環境を強いられた等)が追求されている(https://www.theguardian.com/world/2020/dec/07/doctors-step-up-drive-for-probe-into-ppe-and-covid-deaths-among-health-workers)。一方、有色人種の医師は英国の医療システムNHSの44%を占めるが、新型コロナで亡くなった医師の95%が有色人種であることから、国営放送のBBCのテレビ番組等で取り上げ、社会問題として注目されている(https://www.bbc.co.uk/programmes/m000sv1d)。

総括

新型コロナ対峙に試行錯誤を繰り返した1年間について総括した。近代パンデミックとしては全世界に甚大な影響を及ぼした新型コロナはまだ終息していないのが実状である。英国では感染状況が改善しているが、近隣国のフランスやイタリアでは再びロックダウンとなり、東欧のエストニアやハンガリーはさらに状況が悪化している。今後、英国に感染が再び波及する可能性があり、警戒を続ける必要がある。全世界で終息しない限り、往来も再開困難であり、日常生活も取り戻しにくい。

1年前に英国政府にロックダウンの必要性の警鐘を鳴らしたモデリング専門家であるインペリアル大学ファーガソン教授はこの1年を最近振り返り、英国変異株の出現による感染悪化は予想外であったこと、また英国としてはもっと早くに検査体制を整備し、国際往来を制限していればよかったのではないかとコメントしている(https://www.theguardian.com/world/2021/mar/14/neil-ferguson-one-year-ago-i-first-realised-how-serious-coronavirus-was-then-it-got-worse-covid)。

日本と英国はともに島国として似ている。往来や移動の多い現代社会においては、人の移動の他に物資(食物、医薬品等)の移動・輸入に依存している。現代社会において国境閉鎖は容易でないと英国政府は見解を述べている(https://www.bbc.co.uk/news/uk-55921150)。

また、日本では今夏にオリンピックが開催される予定であるが、本学のウイルス専門家はパンデミック中の国内スポーツ競技の再開は可能なものの、国際大会等は世界から変異株等の輸入に繋がる心配があると警鐘を鳴らしている(https://le.ac.uk/news/2021/january/sport-covid)。

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