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小児新型コロナウイルス感染症入院例の特徴

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COI(利益相反)

注:この記事は、有識者個人の意見です。COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。

  • 小児のCOVID-19入院例の約3割は無症状であった。
  • 症状がある患者のなかで38℃以上の発熱を呈していたのは1割程度に過ぎなかった。
  • 13才以上の小児では2割程度で嗅覚・味覚異常を認めていた。
  • 症候性患者730名中、酸素投与を要した患者は15名(2.1%)のみであり、小児新型コロナ入院例のほとんどが無症状または軽症であった。それにもかかわらず入院期間の中央値は8日を要していた。
  • 無症候性患者と比較すると症候性患者では2才未満または13歳以上、基礎疾患のある患者の割合が高かった。
  • デルタ株の影響については調査できていないことに注意が必要である。

はじめに

新型コロナウイルス感染症は当初は成人を中心に流行が広がり、高齢者や基礎疾患のある患者を中心に多数の重症患者がでていた。その後、高齢者を中心に新型コロナワクチン接種が広まったこと、感染力の強いデルタ株が主流となったことなどの理由から、流行の中心が徐々に若年化し、10代未満、10代の感染者数や、総感染者数に占める割合は増加しており[1]、小児の新型コロナウイルス感染症がこれまで以上に注目を集めている。これまで小児は成人に比べて重症化しにくいことは知られていたが、その一方で本邦の小児新型コロナウイルス感染症入院患者の疫学、臨床的特徴についての情報は限られていた。そこで今回、本調査が計画された。

2020年1月~2021年2月の間にCOVID-19 Registry Japanに登録された18歳未満の新型コロナウイルス感染症患者の後方視的検討 [2]

COVID-19 Registry Japan (COVIREGI-JP)は日本最大の新型コロナウイルス感染症関連のレジストリであり、核酸増幅検査または抗原検査にて診断され、入院した患者が登録されている。今回は本レジストリに2020年1月~2021年2月の間に登録された18歳未満の患者を対象とした。これらの患者を対象に、有症状者と無症状者の患者背景の違いや、有症状者の年齢層別の症状や治療内容、全体の入院期間や、予後などについて検討を行った。

対象期間中の小児入院患者数

期間中に36,460人の患者がレジストリに登録されており、そのうち研究対象となった18歳未満の患者は1,038名であった【図1】。すべて入院患者であるにもかかわらず、入院時に全く症状がなかった無症候性の患者が308名(29.7%)を占めていた。これは、医学的適応というよりも、隔離目的や、保護者が入院してしまい、子どもの面倒を見る人がいないなどの社会的理由での入院例が多く存在することが示唆された。

図1
登録患者
対象期間中に36,430人の新型コロナウイルス感染症患者が登録され、その内、本研究の対象となった18歳未満の患者は1,038人であった。

無症候性と症候性患者の背景の違い

無症候性患者308名と、症候性患者730名の患者の背景の比較を行った【表1】。無症候性患者と比較すると、症状のある患者では、「2歳未満」「13歳以上」「何らかの基礎疾患のある患者」の割合が高かった。(ただし、基礎疾患のある患者の割合については統計学的な有意差はなかった)。これらは既報 [3-4]とも一致する結果であり、これらの患者群は症状が出やすい可能性が示唆された。また、入院前の新型コロナ感染症患者との接触歴については全体の82.5%に認めた。その内訳としては家族が78.8%、教育関連施設が14.8%であった。

表1
無症候性患者と症候性患者の背景の比較
無症候性患者と症候性患者の背景を比較したところ、年齢層と、基礎疾患の有無の割合に違いを認めた(基礎疾患のある割合は症候性患者が高かったが、統計学的有意差はなかった)。

症候性患者の症状の年齢ごとの特徴

症候性患者730名の症状の頻度を年齢層ごとに【表2】にまとめた。まず、発熱に関しては38℃以上の発熱を来していた患者は10.3%しかいなかった。頻度が多い症状である咳、鼻汁についてもそれぞれ37.1%、29.5%に留まっており、これらの事実からは小児の新型コロナウイルス感染症を症状から疑いことはかなり難しいことが示唆された。小児の新型コロナウイルス感染症の多くは家族内や教育関連施設での接触が明らかであることが多いため、これらの病歴をしっかりと確認し、症状と接触歴を組み合わせてその可能性を判断することが重要と考えられた。また新型コロナウイルス感染症に特徴的な症状である味覚・嗅覚異常であるが、これは13才以上の20%異常に認めていた。味覚・嗅覚異常については生命にかかわるようなものではないが、生活の質の低下に寄与する影響は大きく、小児においてもこれだけの頻度で認めていることは注目に値する。

表2
年齢層ごとの症状の頻度
全体では、38℃以上の発熱を認めた症例は10%程度にすぎなかった。新型コロナウイルス感染症に特徴的な症状である嗅覚・味覚異常は13才以上の年長児では20%以上に認めていた。

小児新型コロナウイルス感染症の予後

症候性患者730名のうち、酸素投与を必要とした患者は15名(2.1%)にすぎず、死亡した患者は0名で、この期間の小児新型コロナウイルス感染症は極めて軽症であったと言える。一方で入院期間の中央値は8日で、これは無症状者、有症状者で変わらなかった。すなわち本来医療的ケアが必要ない無症状または軽症の患者に対しても長期間の入院を要していたことが明らかとなった。これは一旦入院すると、感染力が無くなり隔離が不要と判断されるまで入院が継続されることが多いことや、退院可能な状況となっても、両親が重症化し入院しているため、帰宅してもこどもの面倒をみることが出来る人がいないという理由で入院が継続になっているケースなどがあるためと推察される。医療的ケアを要さないこどもが家族と離れて入院することは、こどもの精神面には決してよいことではない。また無症状者、軽症者で病床が埋まってしまうと、医療的ケアを要する小児(コロナ、非コロナ含め)が適切なタイミングで治療を受けることが出来なくなることなどが危惧される。

研究の限界

本研究にはいくつかの限界がある。まず、本レジストリは日本最大のレジストリではあるが、あくまで研究参加施設の自発的な症例登録に依存しているため、本邦全ての疫学が反映できているわけではないことである。また症状に関しては乳幼児、低年齢の小児では自身の症状を正確に伝えることが難しいことから、年齢層ごとの症状の頻度のうち、頭痛、味覚・嗅覚以上などの主観的な症状については年齢によっては過小評価している可能性がある。最後に、本調査の患者登録期間が2020年1月~2021年2月であり、本邦でデルタ株が流行する前の時期のデータであるということにも注意が必要である [5]。現在、感染力の強いデルタ株の影響で小児新型コロナウイルス患者の数は増えている。それに伴い、中等症、時に重症となる患者も増えているが、これが単に患者数が増えたために、その中から時に中等症、重症となる患者が増えているだけなのか、小児においても重症化しやすくなっているのかははっきりしていない。本研究の結果は、今後小児に対するデルタ株の影響を検討する上で、その比較対象としては貴重なデータになると考えられる。

おわりに

本研究を通して本邦の小児の新型コロナウイルス感染症入院例の疫学的、臨床的特徴が明らかとなった。今後は12才以上の小児に対するワクチン接種の影響や、デルタ株をはじめとした変異株の影響などについて引き続き検討していく必要がある。

[引用文献]
  1. https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000833306.pdf. 新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(2021年9月20日アクセス)
  2. J Pediatric Infect Dis Soc. 2021 Sep 6:piab085. doi: 10.1093/jpids/piab085. Online ahead of print. 
  3. Pediatrics. 2021 Mar;147(3):e2020023432. doi: 10.1542/peds.2020-023432.
  4. Pediatr Allergy Immunol. 2021 Feb;32(2):358-362. doi: 10.1111/pai.13371.
  5. https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/henikabu/screening.files/screening_09160101.pdf. 【参考】都内のL452R変異株スクリーニング実施状況一覧

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