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メディカルロジスティクスの現状と未来

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COI

注:この記事は、有識者個人の意見です。COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。

  • 日本には、医薬品・医療機器の流通を追跡し、全国規模で情報収集できるシステムは整備されていない。
  • コロナ禍で、国は医療資材の流通・在庫情報の収集もできるG-MISを開発したが、医療機関が毎日Web画面で入力しなければならないなど、医療現場の入力負担などの課題がある。
  • NCGMでは、医療機器トレーサビリティデータバンク実証事業で、メーカー、ディーラー、医療機関のそれぞれの業務で蓄積されるデジタルデータを用いて、入力負担無く、正確でリアルタイム性のある物流情報の集積と活用を実証した。
  • 全国規模で実現するには、薬機法で義務付けられた識別符号(バーコード、RF-ID)を医療現場でも活用できる形で貼付すること、日本で使用される医療資材の網羅的な商品マスタの整備、全国規模のデータを蓄積する基盤の構築が必要である。
  • トレーサビリティデータを蓄積し、医療資材のビッグデータが構築されれば、データに基づく効率的・効果的で危機管理にも対応可能なメディカルロジスティクスの実現はもとより、医療機器のイノベーションや医療政策への活用も期待される。

 

はじめに:医療資材のトレーサビリティ

新型コロナウイルス感染症の流行により、日本における医療資材の物流の重要性があらためて認識されている。マスクやPPEなどの不足は世界的に生じたため、物資の不足そのものは日本の医療物流の仕組みによって引き起こされた問題とは言えない。しかし、必要な医療資材について、どこに何がどれだけ存在するのかという物流情報や在庫情報を、全国規模で情報共有し把握できなかったことに関しては、現在の日本の医療物流に起因する課題であると考えている。

物流の世界ではトレーサビリティ(Traceability, Traceするabilityからできた言葉)を確保することが一般的である。個人が宅配便を送れば、どこの取次から発送され、どの拠点を経由して、いつ届け先に届いたかがわかる。諸外国においては、医薬品・医療材料のトレーサビリティの確保が一般的に行われている。どこの工場で生産されたものが、どのディーラーをへて、医療機関や薬局に提供されるのかが、システムとして一元的に管理されている国もある[1]。残念ながら、日本においては、個々のメーカー、個々のディーラー、個々の医療機関の倉庫の中に、何がどれだけ在庫されているのか、それぞれの独自のWMS(倉庫管理システム:Warehouse Management System)などで管理されているが、複数の組織同士をつなげて、追跡可能な状況で管理する仕組みは存在しない。

日本と世界のこの差には実は理由がある。海外における医療資材のトレーサビリティの確保の主な目的は、偽造品の防止である。つまり海外では偽造品が通常の流通経路であっても混入する可能性があり、それを排除するために、正規の工場で生産されたものが、正規のディーラーを通じて流通し、販売されるということを保障する必要があった。例えば、トルコでは、医薬品に添付されたシリアル番号付きのGS1バーコードをスマートフォンなどで読むことで、それが正規品かどうかを一般消費者でも確認できる仕組みが導入されている[1]。韓国においても、生産から消費までの流通情報を一貫して登録管理する国の仕組みが存在する[2]。

一方、流通経路や商取引自体の信頼性が高い日本では、そもそもトレーサビリティを確保しなくとも、医療機関は正規のディーラーから購入すれば、偽造品の混入を心配する必要は無く、また、一般消費者も薬局で購入するものが偽物である可能性を疑う必要もなかった。しかしながら、平時には必要とされなかったこの仕組みが存在しないことにより、我々は、初期のコロナ禍のような流通が混乱した状況下において、日本のどこに何がどれだけ存在するのかを把握する手段を全く持っていない状態となってしまっていた。

コロナ禍において日本ではいかに把握しようとしたか、そして今どうなっているのか

日本では、従来からEMIS(広域災害医療情報システム:Emergency Medical Information System)と呼ばれるシステムが、全国規模で稼働している[3][4]。EMISとは災害時における医療情報共有システムであり、必要な人員や医療資材等を情報共有するため、各医療機関が専用のWeb画面で入力することにより情報を登録する。登録された情報はサーバーに集約され、災害発生地域でのその時点で必要とされている人員・資材を把握することができる。EMISには、必要な医療材料を入力する項目もあるため、当初、国はEMISを活用して医療資材の情報収集をおこなった。しかしながら、EMISは災害医療用として構築されたシステムであり、新型コロナウイルス関連の情報収集には、運用上の課題や医療機関側の入力負担もあったため、その後、新たにG-MIS(新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム:Gathering Medical Information System on COVID-19)を開発し運用を始めた[4][5]。

新しいシステムとして開発されたG-MISも、やはりWeb画面上で手入力により情報収集するシステムであったため、実際には医療機関側の負担は変わらなかった。また、必要資材を入力する画面はあるものの、「サージカルマスク」、「ゴーグル」、「防護服」などの大まかな分類ごとに、前日の在庫量、備蓄の見通し、消費量、購入量、購入予定量を手入力するシステムである。社会一般では、電子商取引が主流となり、在庫量はコンピュータ管理され、消費量から想定される在庫払底時期や発注量の自動計算を行うことが当然になりつつある中で、すべての参加医療機関にこのような前時代的な手入力を強いるシステムが、日本では今も稼働し続けている。

リアルタイムでの物流・在庫情報把握に必要なこと

では、費用をかけて発注し開発することで、このような前時代的なシステムから、最新の自動化・効率化・リアルタイム化されたシステムが実現できるかと言えば、残念ながら現在の日本はそのような状況にはない。このようなシステムを実現するための基盤がこれまで整備されてこなかったからである。ここでは、組織横断的にリアルタイムで情報把握可能な医療物流システムを実現するために必要な基盤や仕組みについて説明し、日本において、現在どこまで進んでいるのかを述べたい。

医療資材のトレーサビリティの確保には、1)生産から使用までを一貫して追跡可能な商品識別コード、2)商品識別コードの商品への表示ルール、3)網羅的な商品識別コードマスタの整備、4)トレーサビリティデータを蓄積するプラットフォーム、を国家レベルで整備する必要がある。

1) 生産から使用までを一貫して追跡可能な商品識別コード

商品識別コードについては、世界的にはGS1コードが用いられており、日本においても医薬品のすべてと、多くの医療機器に使用されている[6]。GS1コードは、可変長で、GTIN(Global Trade Item Number)と呼ばれる世界中で一意に識別される商品識別コードおよび、付加情報としてロット番号やシリアル番号、有効期限などをバーコードに含めることができる。GTINには、メーカーコード、企業コードが含まれており、GS1バーコードにより、生産国、生産企業、商品、有効期限、ロット番号が認識できる仕組みになっている。日本ではJANコードという呼び名に馴染みがあるが、JANコードは、13桁のGTIN(GTIN-13)と同一である。

メーカーの生産管理やディーラーの在庫管理、医療機関内での病院情報システムでの管理では、それぞれ独自のコードを用いて管理しているが、GS1コードとの対応をとることで、モノの動きを一元的に把握することができる。なお、これまでGS1コードを日本における医療資材の標準コードとする根拠は無かったが、「医薬品等の注意事項等情報の提供について」(令和3年2月 19 日付け薬生安発 0219第1号厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知)により、GS1コードを医療資材の商品識別コードとして用いることが求められることとなった。

2) 商品識別コードの表示

医薬品・医療機器へのバーコード表示は、これまではメーカーの自主的な取り組みであった。2019年の薬機法改正では、これを法制化し移行期間を経たのちに義務化することとなった[7]。これにより今後、医薬品、医療機器には原則バーコードやRF-IDなどの識別符号が貼付されることになる。すでに、多くの医薬品のPTPシートにバーコードが印字されるなど、医薬品、医療機器業界の取り組みも始まっている。一方で、バーコードの印字品質にメーカーや商品ごとにばらつきがある問題や、通知では販売包装単位までしかバーコード印字は求めておらず、医療現場で使用する際の個装単位や使用単位での印字は、メーカーの自主的な取り組みになっている。

3) 網羅的な商品識別コードマスタの整備

モノにバーコードやRF-IDが付与され、モノにつけられた商品識別コードの数字を読み取ることが出来たとしても、その数字(商品識別コード)が何の商品を示しているかという、商品マスタデータベースが必要である。日本では、医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)が日本で取り扱われている医療材料のマスタとしての医療機器データベース[8]を提供しているが、ここへの登録は任意となっており、必ずしも日本全国で流通している医療材料がすべて網羅的に登録されているわけではない。したがって、現実には各ディーラーが独自にマスタを構築していたり、医療機関では、企業からマスタを購入して利用しているのが実態である。諸外国では、医療機器としての承認時に、マスタ登録を義務付ける国もあり、これらの国では、国内で流通している医療材料すべてを認識できるマスタを企業や医療機関に提供している。

4) トレーサビリティデータを蓄積するプラットフォームの構築

標準バーコードを定め、そのバーコードを商品に正しく表示し、バーコードが示すコードから適切に商品名が取り出せる状況が実現できれば、企業間や施設間を商品が移動する際に自動的にその情報が蓄積されるプラットフォームを作ることで、医療資材のトレーサビリティを確立することができる。しかしながら日本には、企業横断的に利用可能なトレーサビリティデータを蓄積するプラットフォームは存在しない。また、医療機器メーカー間のシェア争いが激しい現状においては、情報共有について慎重な姿勢も見られ、企業側の自主的な取り組みに期待することも難しい状況である。一方で、共同配送や共同倉庫など業務効率化・経費節減を目的とした情報共有の取り組みはいくつか進められており、そういう観点からの物流情報プラットフォーム活用については、業界団体でも議論が始まっている。

トレーサビリティデータバンク:NCGMを中心としたトレーサビリティデータ蓄積のための取り組み

NCGMでは、2018年から2020年にかけて、前述の医療材料のトレーサビリティデータを蓄積したトレーサビリティデータバンクを構築する実証事業として、経済産業省産業データ共有促進事業「医療機器トレーサビリティデータバンク利活用実証事業」[9][10]および戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)・スマート物流サービス「プロトタイプのデータ基盤の構築および概念実証[医薬品医療機器等]」[11]を実施した。実施した事業の概要を【図表1】に示す。メーカー、ディーラー、SPD事業者等の協力を得て、流通から消費、医事会計システムによる会計算定までの一連のモノの動きを、それぞれのプレーヤーの業務データを蓄積することで実現した[12][13]。

図表1
トレーサビリティデータの蓄積による流通から消費までの把握
メーカー、ディーラー、医療機関内での納品・払い出し、消費の各段階の情報を蓄積する。

 

我々の取り組みの最大の特徴は、トレーサビリティデータを蓄積する目的でのデータ入力は一切行わず、それぞれの組織が業務を行った際に蓄積される情報のみからデータを取得し、臨床研究も可能な診療情報が付加されたデータバンクA(All-inclusive)と個人情報・診療情報を除いた流通・消費情報のみを提供するデータバンクB(Business)を構築した点にある【図表2】。そしてそのための手段を、様々なデジタルデバイスによる自動化技術の採用や、電子カルテシステムの改造で実現している。例えば、【図表3】は、カテーテル室に設置した設備で、RF-IDタグが貼付されたカテーテルを棚に置くだけで棚が物品のRF-IDを読み取り、自動的に在庫管理を行うインテリジェントラックである。また、【図表4】は、トンネルゲート型のRF-IDリーダーを使い、手術室に納品される物品を一括で読み込み納品処理を行っている様子である。手術や処置で使用した物品は、【図表5】のように、バーコードまたはRF-IDで電子カルテに登録することにより、自動的に医事会計まで行われる。このように、デジタル化による業務の効率化を進める中で蓄積されるデータを、二次的に利用してデータバンクを構築している。

図表2
SIPスマート物流事業「医薬品・医療機器等」の全体像とトレーサビリティデータバンク
それぞれの組織の業務で生じたデータをデータバンクに蓄積する。データバンクA(All-inclusive)は、診療情報も蓄積され医療機器の臨床研究にも利用可能なデータベースである。一方、データバンクB(Business)は、メーカーやディーラーも活用できるように、データバンクAから個人情報と診療情報が取り除かれた流通・消費情報が蓄積される。
文献[13]より引用

 

図表3
カテーテル室に設置したインテリジェントラック
一見普通の棚に見えるが、カテーテル情報やその出し入れを、カテーテルに貼付されたRF-IDタグで自動的に検知する機能がある。在庫管理、使用管理の効率化や、有効期限が近いものを自動的に特定することもできる。
文献[12]より引用

 

図表4
手術室に設置したトンネルゲート型のRF-IDリーダー
RF-IDタグが貼付された手術材料を一括で読み取り、検品処理や預託品の返却処理が可能。RF-IDは、メーカーが自らの業務で使用するために貼付しているものを、そのまま医療機関でも活用。

 

図表5
使用材料のRF-IDによる一括読み込み
ビニール袋にまとめられた手術で使用した医療材料を、RF-IDリーダーを用いて一括で読み取り、電子カルテに記録するとともに、医事会計システムにも送信し会計計算される。同時にトレーサビリティデータバンクにも使用情報が蓄積される。

  

それぞれの業務で実際に使用されるコードは、医療材料の院内ローカルコードや医事会計用コードなど、各業務に固有のローカルコードが用いられている。そこで、【図表6】に示すように、それぞれのローカルコードとGTIN(GS1コードの商品識別コード)との対応表を持たせることで、一連のモノの動きを時系列でトレースし、さらにそれを複数医療機関で情報共有するトレーサビリティデータバンクを構築している。【図表7】は、GTINが0690103197420の物品の納品から手術室への移動、患者への使用まで表している。そのほか、【図表8】に示すような様々な検索が可能である。実証実験では、NCGM一施設のみであったが、設計上は複数施設での利用が可能になっており、多くの医療機関が参画すれば、大規模な医療材料のトレーサビリティデータベースが構築され、医療物流の効率化だけでなく、医療機関内での消費情報に基づく新たな製品開発などへの応用も期待できる。

図表6
ローカルコードとGTINの対応付けによるトレーサビリティの確保
それぞれの業務システムが独自の物品マスタを使用しているが、それをGTINで対応付けすることで、業務システムを超えて、物品の動きがトレースできるようになる。
文献[12]より引用

図表7
トレーサビリティデータバンクによる流通から消費までの把握
GTIN 0690103197420で、ロット番号6***954の医療材料が、8月16日、20日に1個ずつ、8月21日に2個、イノメディックス社から納品され、●月●日に■■手術室で、ID■■の患者に〇〇術式で使用されたことがわかる。
文献[13]より引用

図表8
医療機器トレーサビリティデータバンクの検索画面
消費情報一覧、想定発注情報一覧、不具合ロット回収用画面、平均消費数・在庫日数一覧などの情報を簡単に検索できる。

 

今後、日本が作るべき、新しいメディカルロジスティクスのしくみ

コロナ禍において、EMIS、G-MISに加え、HER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム)も開発するなど、国は様々なシステムを作り、稼働させた。しかし、これらのシステム間の連携はほとんど考慮されていない[14]ばかりか、G-MISやHER-SYSでは、従来のFAXで送信するような情報をそのままWeb入力するするという、単なる紙への記入をシステム入力に置き換えた仕組みで運用されている。これは言い換えれば、保健所でのコンピュータ入力負担を、単に、医療機関側での入力負担へと転嫁しただけであり、コロナ対応に総力を挙げている医療機関にさらなる負担を強いるという本末転倒な状況を招いている。

電子レセプト請求が診療所も含めて95.2%に上り、400床以上の病院のオーダエントリシステム導入率が91.4%の状況(文献[15]から著者が集計。2017年時点)で、我々が作り上げるべきシステムは、国が必要とする情報を医療現場に入力させるシステムではなく、医療現場ですでに電子化され蓄積されている業務情報、すなわちリアルワールドデータ(RWD)の中から、国が必要とする情報を工夫して自動的に抽出し、蓄積することである。WHOは、早々にCOVID-19のICD10コードを決め、日本の電子カルテシステムにはそれが採用されている。病院情報システムには、COVID-19の患者の入退院情報、処方情報、人工呼吸器の使用状況、ベッドの空床率などがすでにデジタル情報として診療業務の中で蓄積されている。G-MIS、HER-SYSの入力情報の多くは、病院情報システムから自動取得できる状況にある。

モノの管理の究極は情報管理である。モノがどこに何がいつく存在するのかを管理することは、情報管理である。また、在庫情報を判断し発注する、発注情報をディーラーやメーカーに伝える、納品管理を行うという行為も、情報管理である。今、世の中では「DX」がバズワードとなっている。DX(Digital Transformation)の本質は、単なる紙やFAXの「置換」としての情報化ではなく、デジタル技術により組織の仕事の仕方、組織文化、風土までを「変革」することにある。まさに医療資材管理でのDXを進めることこそが、新興・再興感染症対応を含め様々なニーズにこたえることのできる新しいメディカルロジスティクスを構築するために、求められている。

おわりに:革新的なメディカルロジスティクスの構築に向けて

最後に、トレーサビリティシステムを基本とした革新的なメディカルロジスティクスの実現に向けての提案をおこなう。

トレーサビリティ構築のための要素基盤にエネルギーを注ぐべきである

医療資材の商品識別情報を網羅したナショナルマスタの構築を急ぐべきである。例えばPMDAと連携し、承認時に、必要最低限の商品情報、コードを登録する仕組みなどが考えられる。また、業界団体やアカデミアは、バーコード表示に関する指針を作成し、統一的にバーコードやRF-IDを活用できるような環境を整える必要がある。そして、国全体で医療資材のトレーサビリティデータを管理する仕組みの研究を、管理主体や体制をどうするかを含めて、早急に進めるべきと考える。

情報を入力させるのではなく、今あるデジタル情報の活用をまず考えるべきである

RWDの活用はすでに世界の趨勢である。業務で蓄積されたデータから必要な情報を抽出することは、医療現場の入力負担を減らすことに加え、データ収集にリアルタイム性を与え、正確性を向上させる。国や業界が、医療関連情報を収集するシステムを検討・開発・発注する際には、病院情報システムに詳しい医療情報学者(理論家やデータ活用/分析者やデータベース設計者ではない電子カルテ研究者)を参画させるべきである。彼らは、病院情報システムのどこにどのような形式で、求める情報が格納されているかを知っており、さらにそれを取り出す方法も提案できる。

医療機関での適切な体制と人材育成を進めるべきである

医療機関の中で、医薬品は、国家資格を有する薬剤師が管理を行っている。一方、医療材料は、医薬品と同等程度の支出を占め、リスクの高い製品も存在するにもかかわらず、一部の事務職が併任で管理している場合が多い。特に、最近は外注化が進み、完全に管理の手を離している医療機関も見受けられる。診療をしっかりと支えていくには兵站(ロジスティクス)が重要である。物品管理業務を外注するとしても、医療安全の視点を持ちつつ、院内物流全体を俯瞰でき、改革を進められる人材を育成して配することで、物流データ・消費データに基づく合理的で効果的な病院の運営管理を支えることができると考える。

医療機関内の患者への使用・消費までをも含めたトレーサビリティを確立している事例は諸外国でも少ない。比較的高い医療機関の電子化率を背景に、日本が得意とする自動認識技術を取り入れ、医療現場の負担感を減らしつつ、医療資材の生産から消費・会計までの全国規模のトレーサビリティデータベースを構築することは不可能ではない。そして、そこに蓄積される全国規模のビッグデータは、今後の日本において、データに基づく効率的・効果的で危機管理にも対応可能なメディカルロジスティクスの実現はもとより、医薬品・医療機器に関する医療安全、超高額化する医薬品の偽造防止、使用データを活用した医療機器のイノベーション、そして医療政策にも活用されるであろう。

[引用文献]
  1. GS1ヘルスケアジャパン協議会.GS1ヘルスケアアムステルダム国際会議報告書.14-18,2019.
  2. 前川ふみ.つながる/つなげるデータ トレーサビリティのみらい;GS1の仕組みと世界的な広まり.医機連ジャーナル.107:81-88,2019.
  3. 広域災害救急医療情報システム.https://www.wds.emis.go.jp/ (cited 2021-6-30)
  4. EMIS(広域災害・救急医療情報システム)及びG-MIS(新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム)について.第23回救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会資料.https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/000732295.pdf (cited 2021-6-30)
  5. 厚生労働省.新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS):Gathering Medical Information System on COVID-19.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00130.html (cited 2021-6-30)
  6. 前川ふみ.GS1(ジーエスワン)標準と医療分野への展開.第38回医療情報学連合大会チュートリアル資料.2018.https://www.dsri.jp/standard/identify/ (cited 2021-6-30)
  7. 厚生労働省.薬機法改正に向けた対応状況について添付文書の電子化:トレーサビリティの確保.https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000682481.pdf (cited 2021-6-30)
  8. 一財)医療情報システム開発センター.医療機器データベース.https://www2.medis.or.jp/master/kiki/ (cited 2021-6-30)
  9. 国立研究開発法人国立国際医療研究センター.医療機器トレーサビリティデータバンク利活用実証事業.https://sii.or.jp/datashare29r/uploads/2jikoubo_jigyougaiyo_5.pdf (cited 2021-6-30)
  10. Kengo Miyo. Successful implementation of electronic health record system for traceability of medical materials. GS1 Healthcare Reference Book 2020-2021, 39-45, 2020.
  11. スマート物流サービス研究開発項目A(2)データ基盤構築技術.プロトタイプのデータ基盤構築及び概念実証[医薬品医療機器等].https://www.pari.go.jp/sip/htdocs/doc/projecta2/projecta2-3nric.pdf (cited 2021-6-30)
  12. 美代賢吾.トレーサビリティデータのオープン化がもたらす機会創出.医機連ジャーナル.107:72-80,2019.
  13. 美代賢吾.NCGMにおけるSIPスマート物流の取り組みと展望.月刊自動認識.2021(7).2021. 
  14. 増澤陸.ワクチン接種などコロナ関連のシステム乱立。どれを誰が何に利用するの?図解してみた。.https://news.yahoo.co.jp/byline/rickmasuzawa/20210428-00234966/ (cited 2021-6-30)
  15. 厚生労働省.平成29年(2017)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況.https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/17/ (cited 2021-6-30)

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