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東京都の宿泊療養施設におけるCOVID-19感染症へのロナプリーブⓇ投与に関する報告

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COI

注:この記事は、有識者個人の意見です。COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。

  • 2021年9月に東京都からの委託により、宿泊療養施設を利用したCOVID-19に対する抗体カクテル療法を実施する機会を得たため報告する。対象は、重症化リスクをもつ患者145名であった。発症から7日以内の投与とし、SpO2<93%または酸素投与症例は除外した。結果、対象の95.2%が重症化しなかった。また、投与前後ならびにICTを用いた患者自身のセルフチェックにおいても有害症状を認めず経過観察が可能であった。
  • 本報告から、中等症1までの症例であれば、抗体カクテル療法を安全に実施できる可能性、また外来および在宅での投与可能な可能性も示唆された。

はじめに

2021年8月、本邦におけるCOVID-19数がピークに達し、東京都では1日あたり最大5,908名の新規感染者が報告された。このとき東京都は、入院が困難な状況に陥り、また宿泊療養施設も希望者全員の受け入れが困難な医療提供体制となっていた。このような状況下で当法人は、東京都から委託を受け、宿泊療養施設にてロナプリーブⓇ投与(抗体カクテル療法)を実施した。今回、我々は宿泊療養施設における抗体カクテル療法の実施方法と投与後経過について報告する。

背景

当法人は、2021年時点で東京と大阪に4診療所と訪問看護ステーション1つを運営していた。当時は、各自治体の要請により、COVID-19に罹患した患者に対し、かかりつけ患者以外の自宅療養者に対しても往診を行っていた。このような状況下において、東京都より宿泊療養施設での抗体カクテル療法の実施を新たに要請された。

本抗体カクテル療法は、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体「ロナプリーブⓇ」[一般名:カシリビマブ(遺伝子組換え)/イムデビマブ(遺伝子組換え)]が使用される。カシリビマブとイムデビマブという2種類の抗体が COVID-19ウイルスの増殖を抑制[1]、重症化を予防することが明らかになっており[2]、発症後早期に投与することで効果が期待できる薬剤である。

2021年7月に特例承認された時点では入院投与が必須であったが、当時は重症者のみしか入院加療できない状況下であったため、抗体カクテル療法の対象患者が入院出来ず、適切に使用できないジレンマが生じていた。これに対し東京都は、2021年8月、宿泊療養施設としていたホテルのひとつを特措法第三十一条の二の規定により臨時医療施設として指定し、抗体カクテル療法を実施することを決定した。開始当初、東京都主管で週2日行っていたが、実施件数を増やすべく当法人に委託され、残り5日間を当法人が担当した。

宿泊療養施設における抗体カクテル療法実施手順

医師2名・看護師4名・事務1名の体制で、モニター・救急カートなどを備えた施設内の治療フロア【図1】で実施した。対象患者の選定から患者帰室までを行う主な手順は、以下の通りである。

  1. 対象患者の選定
  • 看護師と医師で療養患者リストから発症7日以内かつ重症化リスク患者を選定後、看護師は患者への連絡と部屋準備を行う(選定方法詳細は後述)。
  1. 治療フロアの準備
  • 看護師は薬剤を冷蔵庫から取り出し常温20分放置後、調整を行う。
  • 患者が治療フロア到着時、看護師は個人防護具着用し、レッドゾーンにて患者を誘導、本人確認、バイタルサインを測定する。
  1. 同意取得・診察・治療開始・帰室
  • 医師が本人確認を行い、チェックリストを用いて適応症、禁忌、重症化リスク因子の有無などの確認、医師が対面で同意書を取得、無症状とSpO2<93%は除外する。
  • 医師は、投与前にバイタル測定をし、診察後、点滴開始(50ml, 2秒1滴)し、バイタル、症状変化を記載する。投与0分、30分(投与終了)、60分(投与後30分)、90分(投与後60分)でフォローする。
  • 投与から90分経過したら、医師は患者のバイタルや症状変化を確認し、患者は医師の判断で帰室する。
  • 宿泊療養施設担当の看護師は、投与24時間後にかけて、バイタルや症状変化を確認し、十分な健康観察体制を確保する。
図1
宿泊療養施設 抗体カクテル療法フロア図

対象患者の選定方法

ロナプリーブⓇの薬剤添付文書に基づき、重症化リスク因子(50歳以上・肥満・心血管疾患・慢性肺疾患・糖尿病・慢性腎障害・慢性肝疾患・免疫抑制状態・喫煙歴)を少なくとも一つを有し、有症状かつ酸素投与を必要としない患者を選定した。

投与およびフォローアップ

添付文書と前述した投与手順に基づき、2種類の抗体をそれぞれ600mgずつ混合、1回の点滴静脈注射を行った。帰室後は、LAVITAⓇ(患者自身が測定したバイタルサインや自覚症状を電子カルテに送信が可能な日本光電製のネットワークシステム)を用いて、患者自身がバイタルサインと症状を定期的に報告することとした。

結果:患者背景と有害症状

2021年9月1日から19日間で計145名、1日最大20名に投与した。患者背景は、平均年齢53±30歳、男性60%であった。年齢の内訳は、20~29歳5名(3.4%)、30~39歳9名(6.2%)、40~49歳12名(8.3%)、50~59 歳94名(64.8%)、60~69歳25名(17.2%)であった。ワクチン未接種者は89名(61.4%)、1回接種済は34名(23.4%)、2 回接種済は22名(15.2%)であった。発症から5日目以降の投与は91名(63%)であった。

投与中から投与後 60 分の治療フロアに滞在した期間において、アレルギー反応、血圧低下、またSpO2低下などにより医療介入をきたした症例はなく、全例が安全に帰室した。投与後の宿泊療法施設滞在期間中に、145名中7名(4.8%)が酸素飽和度の低下等を理由に病院へ救急搬送された。搬送症例の全例が50歳以上であり、5名がワクチン未接種者で、2名がワクチン1回接種であった。発症後から薬剤投与までの日数が5日目2名、6日目2名、7日目3名と、全例で発症後5日以上経過した症例であった。なお、投与から搬送までの日数の詳細は1日目1名、3日目2名、4日目2名、5日目1名、10日目1名であった【図2】【表1】。またこれらの救急搬送された7名における転帰は、全例が入院加療を行い、自宅退院となった。

図2
抗体カクテル療法145例:発症から投与までの日数
縦軸は人数、横軸は発症から投与までの日数。青は搬送無し、オレンジは搬送。

表1
宿泊療法施設滞在期間中に救急搬送された7名の重症化リスクと搬送時所見

考察

2021年9月東京都内でのCOVID-19パンデミック禍において、宿泊療養施設を利用した抗体カクテル療法の実施方法および患者経過について報告した。対象患者の95.2%は重症化せず、これまでの先行研究[2]とほぼ同様であったと考えらえる。また投与前後の治療フロアにおける観察期間において、有害症状を認めず安全に施行することができた。さらに、投与後はICTを用いて患者自身が医療スタッフへバイタルサインや自覚症状等の報告を行うことで経過観察が可能であった。

投与後に増悪した7例の詳細をみると全例が50歳以上であり、発症から投与開始までが5日以上経過していた。プラセボ投与群がなく、イベント数が少ないなかでの報告となるが、本報告は、軽症から中等症1までの症例であれば、宿泊療養施設を臨時医療施設として抗体カクテル療法を先行研究同等に安全に実施しえたことを経験した。また投与後60分までの経過観察を、ICTを用いた遠隔の観察で安全に代替しうることが示唆され、医療者の付き添いが困難な医療機関の一般外来および在宅において抗体カクテル療法が可能となると思われた。

[引用文献]
  1. David M, Sumathi S, Thomas N, et al:REGN-COV2, a Neutralizing Antibody Cock-tail, in Outpatients with Covid-19.N Engl J Med 384:238-251,2021.
  2. Reed S, Jessica B, Juan D et al:Antibody and cel-lular therapies for treatment of covid-19: a living systematic review and network meta-analysis:BMJ 374:n2231,2021.

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