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大阪府の新型コロナウイルス感染症対応~医療ひっ迫から学んだこと

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COI

注:この記事は、有識者個人の意見です。COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。

  • 大阪府の第4波における医療のひっ迫は、典型的には重症病床の不足に顕在化した。第3波での使用は最大187床であったが、第4波では重症者数の増加速度は第3波の3倍、病床占有は2倍となり、結果的に449床をピークとして減少に転じ、収束に向かった。
  • 後方視的にゲノム疫学の視点から振り返ってみると、第3波の減衰期にはすでにα変異体の占める割合が増加してきており、関西での第4波は急激に現れたのではなく、第3波の減衰とそれ以前から始まったα変異体の増加の合成波として出現していることがわかる。
  • COVID-19は重症患者の救命が最も中心的な診療の目的となり、大阪府でも第4波の医療のひっ迫を経験し、病床の再編成を行った。その結果、第5波に備えて最大605床の重症病床を確保し、災害級の感染症の流行に対して備えることとなった。
  • 第5波においては、重症病床の使用はピーク時に286床(確保病床に対する割合61.2%)で対応し、重症病床のひっ迫は起こらなかった。医療の管理下になかった自宅(施設含む)・宿泊療養でのコロナ関連死の死亡者も2名にとどまった。
  • 第5波以降は、流行するウイルスの変異体の属性によって要求される医療体制は変わって来るため、柔軟な対応が求められる。第5波をはるかに上回る感染者数が発生した場合、宿泊療養施設や軽症病床がひっ迫し、さらに、療養に至るまでの時間が遅れることが予想される。早期診断、早期治療のためには、診断した医療機関ですぐに治療ができるように制度を整えるべきであると考える。

*データはすべて大阪府の公表データに基づく。

1.第4波では何が起こったか

大阪府における検査陽性者(以下、感染者)の療養場所の決定に関するシェーマを【図1】に示す[1]。医療機関より届け出され、保健所によって入院の必要があると判断された場合、大阪府のフォローアップセンターに連絡され、一括して入院先医療機関の調整が行われる。医療機関の病床の状況は、毎日地域の保健所によって調査され、フォローアップセンターで把握されている。そのため、医療機関同士や保健所主導での病床の調整は不要であり、医療現場での業務の効率化が図られている。

図1
大阪府のCOVID-19入院マネジメント(2021年4月13日時点)
[1]より引用

感染者数が少ない場合には、このシステムはスムーズに運用できるが、感染者数が多くなってくると、保健所の機能が目詰まりし、感染者の診断から療養場所の決定、搬送までの時間が延長する。このことが顕在化したのが、α変異体(B1.1.7系統)が急増した2021年3月から6月に起こった第4波であった。【図2】に東京都と大阪府の人口10万人当たりの直近1週間の感染者数の推移を片対数グラフで示す。第3波と第5波では東京都が大阪府より多く、第4波では大阪府の感染者数が東京都を抜いて多かった。

図2
東京都と大阪府の10万人あたり直近1週間の新規陽性患者数の推移

第4波における医療のひっ迫は、典型的には重症病床の不足に顕在化した。第3波から第4波にかけての新規重症者数と重症病床数の推移を【図3】に示す。第4波の初期には大阪府内に224床の重症病床を確保していた。2020年10月から2021年2月までの第3波においては、重症病床の使用は1月15日の最大187床であった。第4波での重症者数の増加速度は、第3波の3倍のスピードとなり、病床占有のスピードは2倍となった[1]。

図3
大阪府における第3波と第4波の新規重症者数と重症病床数の推移

確保病床数を超える重症者数の発生に対して、大阪府は4月28日、府内5大学病院に対して、予定されている入院や手術を延期し、COVID-19用の重症用病床の増床を要請した。重症患者を診療する病院は、漸次病床数を増やしていったが、その時点で確保していた重症用病床361床に対する病床使用率は5月5日に103%となり、100%を超えた。重症化する感染者の増加速度の方がより速く、最大1日41例の新規重症者が発生し、重症病床に転院できない症例も増加し、軽症・中等症を診療する病院で継続して重症患者を診療することになり、最大91床が中等症からの継続診療を行った。結果的に5月4日の449床をピークとして、その後重症病床の使用数は減少に転じ、第4波は収束に向かった【図4】。

図4
大阪府の確保重症病床数と重症病床と軽症中等症病床で治療を継続している重症者数の推移

保健所の目詰まりや病床のひっ迫の指標として、医療にアクセスする前に死亡した感染者数も大阪府では公表されている【表1】[2]。第3波では1人であったが、第4波では19人に上っていた。最終的に大阪府の集計による第4波の感染者数は55,318名、死亡者は1,537名、2.8%であった[1]。

表1
医療の管理下になかった自宅(施設含む)・宿泊療養でのコロナ関連死の死亡者の状況
[2]より引用

2.第4波の起こり方の振り返り

第3波の収束時には、第4波に備えて、「緊急事態宣言解除後の最重要課題は、新型コロナウイルス感染症の感染再拡大(リバウンド)を生じさせないことである」[3]として、新型インフルエンザ等対策特別措置法にまん延防止等重点措置が新たに創設され(平成3年4月1日)た。この「リバウンド」の概念と対策は、感染流行は連続する事象としてとらえ、その増減は人流(ヒトとヒトとの接触)によってもたらされるという考え方に依拠していた。一方で、後方視的にゲノム疫学の視点から振り返ってみると、第3波の減衰期にはすでにα変異体の占める割合が増加してきており【図5】[1]、関西での第4波は急激に現れたのではなく、第3波の減衰とそれ以前から始まったα変異体の増加の合成波として出現していることがわかる。すなわち、「リバウンド」や「まん延防止等重点措置」の基になっている流行するウイルスの連続性の概念ではなく、変異体の増加という不連続のエピソードによる流行の波の形成であるという概念が重視されず、対策が人流による制御に集中した。

図5
α変異体のスクリーニング検査数と陽性数(陽性率)の推移

大阪府では、4月5日からまん延防止等重点措置を発令したが、4月25日には、第3回目の緊急事態宣言となった。振り返ってみれば、α変異体の増加傾向というウイルス側の要因を重視すれば、緊急事態宣言の解除は慎重であるべきであった。こ流行を連続する現象としてとらえ、まん延防止等重点措置などの飲食店の営業時間の短縮や酒類提供の制限によって有効に感染拡大を抑えられると想定し、その結果、急激な感染者数の増加に医療体制の整備が追い付かなかった点は反省点となった。この反省がδ変異体やο(オミクロン)変異体では活かされていると考える。

3.第5波への備え

COVID-19は、若年者や基礎疾患のない感染者にとっては多くの場合、軽症で推移し、治癒する感染症である。高齢者や基礎疾患のある感染者を中心として死亡率は5%以下であるために、重症患者の救命が最も中心的な診療の目的となり、行政の対策として重症病床の確保が、最優先されてきた。大阪府でも第4波の医療のひっ迫を経験し、病床の再編成を行った。【図6】[1]に示すように、従来の軽症・中等症病院と重症病院に中等症・重症一体型病院を新たに設置し、重症用の病床を増やす試みを行った。また、重症病院を重症拠点病院と改訂し、ECMO導入が可能な病院とした。

図6
第5波に備えた医療機能分化のイメージ
[1]より引用

【表2】[1]にそれぞれの病院の定義と要請病床数を示す。その中でも、中等症・重症一体型病院を1と2に分け、例えば1は、感染症指定医療機関、あるいは一般病床600床以上の総合病院で公立、国立病院は許可病床数の2%、民間病院では許可病床数1%以上の重症病床を要請した。さらに、大阪府では府立急性期病院の重症専用病棟30床に加え、2か所目の重症専用病棟を20床新設した。その結果、第5波に備えて最大605床の重症病床を確保し、災害級の感染症の流行に対して備えることとなった。コロナ以前の2:1看護の集中治療病床は大阪府内で615床であったので、ほぼすべての集中治療用の病床を利用することになるため、三次救急や手術の制限など一般医療への影響も大きいが、最大級の備えが行われた。

表2
医療機関分類の要件と要請内容
[1]より引用

4.第5波の経過とこれからの医療体制の整備の方向性

 第4波の経験から、病床数を増床準備して、2021年6月からの第5波を迎えた。第5波においては、重症病床の使用は9月9日のピーク時に286床(確保病床に対する割合61.2%)で対応し、重症病床のひっ迫は起こらなかった。【表3】[1]に大阪府がまとめた第4波と第5波の比較を引用する。重症化率は3.2%から1.0%へ、致死率は2.8%から0.3%へ改善された。また、医療の管理下になかった自宅(施設含む)・宿泊療養でのコロナ関連死の死亡者も2名にとどまった【表1】。 

表3
第4波と第5波の医療提供体制の比較 
[1]より引用

第5波以降は、流行するウイルスの変異体の属性によって要求される医療体制は変わって来るため、柔軟な対応が求められる。重症病床の確保はすでに610床まで進んでおり、第5波は60%程度で乗り越えることができたが、感染者数の爆発的な増加をもたらす変異体による流行に備えて、重症病床の確保は今後も進めて行くことが求められている。一方で、感染力が従来株より強い変異体、現在予測されているオミクロン変異体(B.1.1.529系統)の流行が起これば、重症病床のみならず軽症、あるいは無症状の感染者の隔離が問題となるであろう。第5波の1日最大感染者数は3,004名であり、最大療養者数は9月1日の27,587人であった【表3】。軽症・中等症の病床使用率は8月30日に90%となり、宿泊療養のピークは8月13日に61.2%であった。その後宿泊療養の部屋数を積み増すことで最終的には8,408室までの積み増しが行われたが、第6波に備えてさらに宿泊施設や病床の確保を続けている

第6波は、第5波をはるかに上回る感染者数が発生した場合、宿泊療養施設や軽症病床がひっ迫し、さらに、療養に至るまでの時間が遅れることが予想される。そのため、大阪府では、保健所を介さない治療や療養場所へのアクセスや臨時の医療施設を整えようとしている。

第5波までの重症患者の救命が医療体制確保の中心的な目標であったが、ワクチン、抗体療法の実現と今後の抗ウイルス薬の承認に向けて、次のフェーズでは、早期診断、早期治療のフェーズに移る。そのためには、診断した医療機関ですぐに治療ができるように制度を整えるべきであると考える。

[引用文献]
  1. 大阪府新型コロナウイルス対策本部会議資料 https://www.pref.osaka.lg.jp/kikaku_keikaku/sarscov2/
  2. 新型コロナウイルス感染症患者の発生状況について https://www.pref.osaka.lg.jp/iryo/osakakansensho/happyo.html
  3. 新型コロナウイルス感染症対策分科会 緊急事態宣言解除後の地域における リバウンド防止策についての提言 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/ribaundoboushisaku_teigen.pdf

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