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新型コロナウイルス患者の宿泊療養

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COI(利益相反)

このページは日本医師会のご支援により2020年度に作成されました
(c)日本医師会
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • 新型コロナウイルス感染者の宿泊療養は、限りある医療資源を重症者や重症化リスクのある者に重点的に配分し、また、自宅療養での家庭内感染(特に高齢者への)を防ぐために重要な医療政策である。
  • 宿泊施設と地域住民の理解、感染管理専門家による施設内のゾーニング、行政職員と宿泊施設の従業員の協力、医療施設、医師会、消防との連携のどれが欠けても宿泊療養は成り立たない。
  • 宿泊療養の運営に関わる行政職員と宿泊施設の従業員に対して、感染管理を専門とする医師や看護師による講義や実習(新型コロナウイルス感染の基礎知識、標準予防策と接触/飛沫感染予防策、個人防護具の着脱方法など)の時間を設け、スタッフの不安を解消する機会が設けられることが望ましい。
  • 健康観察として、1日2回程度の検温と、電話、訪室、スマートフォンのアプリによる体調確認が行われる。呼吸数やパルスオキシメーターによる酸素飽和度の確認もできれば望ましい。
  • 療養者は、新型コロナウイルスに感染したという不安に加え、日常生活とは隔離された宿泊施設での生活をすることで、ストレスを抱えることが多く、その対応方法についても議論しておく必要がある。
  • 行政の強力なリーダーシップが宿泊療養の運営に必須である。

はじめに

筆者は、中国武漢からのチャーター機の第一便で帰国された方々が、健康観察のため千葉県勝浦市のホテル三日月に滞在した際に、感染管理認定看護師とともにホテルでの感染対策と医療の責任者として対応にあたった。また、千葉県千葉市の宿泊療養施設を開設するにあたって、施設内のゾーニングや非医療スタッフに対しての講義や実習に携わった。その他、新型コロナウイルス患者の診療に加え、地域の病院への診療支援や地元企業への感染対策の啓蒙活動も行っている。これらの経験から、宿泊医療についての私見を述べたい。

宿泊療養が推奨されるまでの時系列

2020年1月29日、中国武漢からのチャーター便にて現地在住の日本人が帰国した。国立国際医療研究センターにて問診、診察、新型コロナウイルスのPCR検査が行われた後、無症状であった方々の健康観察期間中の滞在先として、千葉県勝浦市のホテル三日月が選ばれた。宿泊施設にて政府主導で感染症の健康観察が行われたのは初めてであり、限られた準備期間の中で、政府、病院、ホテルが協力して、健康観察(毎朝の看護師や保健師による体調チェック、往診、必要に応じて病院への搬送)や、生活面の支援(食事、洗濯、ごみなどの扱い)などの体制を構築した。その後のチャーター便での帰国者は、政府の施設での対応となったが、非医療機関においても健康観察や軽症者の療養が可能であるという認識が生まれる契機となり、その経験が厚労省の宿泊療養のマニュアル作成にも生かされた。

新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令が2020年2月1日に施行されたことを受け、感染症指定医療機関での入院療養が原則とされた。しかしながら、入院病床が十分に確保できない状況で、感染者の80%以上は軽症者であり、症状軽快後にPCRの陰性を2回確認しないと退院できないという基準があったことで病床はさらに圧迫し、自宅待機を余儀なくされる患者が増えていた。

2020年3月1日の厚労省通知により、地域での感染拡大により、入院を要する患者が増大し、重症者や重症化するおそれが高い者に対する入院医療の提供に支障をきたすと判断される場合に、自宅療養を原則とする方針が示された。自宅療養の候補者は、高齢者や基礎疾患を有する方、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方、妊産婦以外で、症状がない又は医学的に症状が軽い方であった。家族内感染を防止する趣旨から、高齢者や基礎疾患を有する者等への家族内感染のおそれがある場合には、入院措置を行うものとされた。

  • 「地域で新型コロナウイルス感染症の患者が増加した場合の各対策(サーベイランス、感染拡大防止策、医療提供体制)の移行について」
    https://www.mhlw.go.jp/content/000601816.pdf

専門家の中では、新型コロナウイルスの家庭内での二次感染が多いこと、狭い住居事情や高齢者が多いという日本特有な状況も鑑み、自宅療養は望ましくないという議論があった。

2020年3月19日の厚労省の事務連絡(3月26日に改訂)にて、家庭内での感染防止策を十分に取ることができない場合には、活用可能な宿泊施設等を利用することも検討すること、とされた。

2020年4月2日の厚労省の事務連絡にて、宿泊療養・自宅療養の対象が示された。対象は、無症状病原体保有者及び軽症患者(軽症者等)で、感染防止にかかる留意点が遵守できる者であって、原則1から4までのいずれにも該当せず、帰国者・接触者外来又は現在入院中の医療機関の医師が、症状や病床の状況等から必ずしも入院が必要な状態ではないと判断した者である。

  1. 高齢者
  2. 基礎疾患がある者(糖尿病、心疾患又は呼吸器疾患を有する者、透析加療中の者等)
  3. 免疫抑制状態である者(免疫抑制剤や抗がん剤を用いている者)
  4. 妊娠している者

高齢者等と同居している、もしくは医療従事者や福祉・介護職員など、業務中に高齢者等と接触する者と同居している軽症者は、自宅療養でなく宿泊療養を積極的に推奨された

宿泊療養の適応に、アレルギー除去対応が必要ない、日本語(文章及び会話において)によるコミュニケーションが困難でない(東京都:https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/syukuhaku.html)、ADL(日常生活動作)が自立している、スマートデバイスや電話で健康状態を相談できる(神奈川県:https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/covid19/facilities/flow.html)などの条件を加えている都道府県もある。

この通知に従って、各都道府県で宿泊療養施設の確保とその運営が始まった。

しかしながら、宿泊療養・自宅療養の対象である者でも原則入院としている地域があること、また、季節性インフルエンザの流行時期が近づいていることを見据え、医療資源を重症者や重症化リスクのある者に重点化していく観点から、2020年10月24日から入院の勧告・措置について見直しが行われることとなった。この通知により、入院の勧告・措置の対象から、宿泊療養・自宅療養の対象者が外された。ただし、医師が症状等を総合的に勘案して入院させる必要があると認める者、また、都道府県知事が新型コロナウイルス感染症のまん延を防止するために入院させる必要があると認める者に関しては、例外となった。

宿泊療養の現状

新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料として月に2回、全国の宿泊療養者数が報告されている。2020年10月7日の時点で、全国で受入可能室数は22411室で、896人が宿泊療養中である(部屋の占拠率は4%)。宿泊療養数が最も多い都道府県は東京都で243人(受入可能室数は1860室で13%を占拠中)、占拠率が最も高いのは沖縄県で19%(受入可能室数は340室で66人が宿泊療養中)である。

各都道府県の具体的な内訳については、それぞれのホームページを参照してほしい。ここでは、筆者の勤務先のある千葉県のデータを示す。

以下は、千葉県内における新型コロナウイルス感染者数の推移を示した棒グラフであるが、第1波は3月下旬から5月上旬にあり、第2波は7月上旬から始まっていることが、新規感染者数のグラフから読み取れる。【図表1】

図表1
千葉県における新型コロナウイルス新規患者数の状況
https://www.pref.chiba.lg.jp/shippei/press/2019/ncov-index.html

アドバイザリーボードの資料から読み取れる最初の日付の5月7日の時点で(厚労省に報告されるデータは1日の遅れがあることがあるから、この数字は千葉県発表データでは5月6日分)、千葉県では526室受け入れ可能であったが、37人(占拠率 7%)の宿泊療養の利用者と174人の入院調整中(自宅待機)の患者がいたことがわかる。第2波のピーク付近であった8月11日の時点で、710室受け入れ可能に対し103人(占拠率 15%)の宿泊療養の利用者と157人の入院調整中(自宅待機)の患者がいたことがわかる。【図表2】【図表3】

図表2
千葉県における新型コロナウイルス感染者数の推移(2020年5月19日発表)
https://www.pref.chiba.lg.jp/shippei/press/2019/ncov-index.html
図表3
千葉県における新型コロナウイルス感染者数の推移(2020年8月27日発表)
https://www.pref.chiba.lg.jp/shippei/press/2019/ncov-index.html

5月上旬の時点では、宿泊療養施設の利用者の多くは病院→宿泊施設の経路で入所したPCR陰性化待ちの患者であったこと(直接入所はあまり行われていなかった)、宿泊療養施設への搬送の手段が物理的に限られていたこと、宿泊療養施設の運用が開始されたばかりだったことなどが、宿泊療養利用者の数に比較して、入院調整中(自宅待機)の数が多かった理由と推測される。8月の時点では、退院にPCR陰性化の確認が不要になり、病院→宿泊施設の経路の入所が減ったにも関わらず、宿泊療養の利用者は増加している。宿泊施設への直接入所がより推奨されたこと、宿泊療養施設の運用に慣れたこと、また、宿泊療養施設の数自体も増えたことが理由として考えられる。

宿泊療養の立ち上げ

厚労省、国立国際医療研究センターによるマニュアルに詳しい。

地域住民への説明会の開催、安全で効率の良い療養施設内のゾーニング、運用マニュアルの作成(行政職員や医療従事者はローテーションで担当することが多いため)、療養者の状態が悪化したときの搬送手順の作成(医療施設、消防との連携)が重要である。また、行政職員と宿泊療養施設の従業員に対して、感染管理を専門とする医師や看護師による講義や実習(新型コロナウイルス感染の基礎知識、標準予防策と接触/飛沫感染予防策の内容、個人防護具の着脱方法など)の時間を設け、スタッフの不安を解消する機会が設けられることが望ましい。

宿泊療養の実際

宿泊施設への入所の経路

入院→宿泊施設

宿泊療養が始まった当初は、隔離解除基準(退院基準)にPCRの陰性化が含まれていた。そのため、入院患者の症状が改善し退院できる状態になったものの、PCR検査が陰性化しないという理由で退院できずに病床を圧迫していた。そのような患者を宿泊療養施設で受け入れ、病床を空けるという意味合いが強かった。2020年5月29日の厚労省通知によって、発症後14日間(2020年6月12日の通知では、さらに発症後10日間と短くなった)で、かつ、症状軽快後72時間を経過していれば、PCR検査をすることなく退院が可能となったため、この経路で入所する患者は全国的に減ったと思われる。

自宅→宿泊施設

新型コロナウイルス感染症に特徴的な臨床経過として、発症直後は軽度な症状であっても、発症後7-10日してから状態が悪化することが挙げられる。当初は、宿泊施設での症状悪化時の対応が不完全になる怖れから、自宅から宿泊施設への直接の入所を避ける傾向にあった。現在では、緊急時の対応、宿泊施設への搬送方法、宿泊施設での受け入れ態勢が整うにつれ、自宅からの直接入所が多くなっている。

新型コロナウイルス感染症の患者は、公共の交通機関を使用できない。そのため、入所手段としては、行政(保健所や消防)や行政に委託された民間会社による搬送が主体となる。宿泊施設の利用を推進していくにあたって、入所の交通手段がボトルネックになることも多い。駐車場が確保できる地域においては、自分で自家用車を運転して入所することもできるので、搬送手段を確保するのが難しい自治体では、そのような観点でも宿泊療養施設を選定する必要がある。

外来→宿泊施設

新型コロナウイルスの検査をした日から宿泊療養施設に入所するまでに数日経ってしまった場合に、医療機関を再度受診し、症状が増悪していないことを確認する方法である。そもそも宿泊療養の適応となるのは、重症化リスクがなく無症状/軽度の症状の患者のみであるので、全例で医療機関を再度受診する必要はないと考えるが、搬送に携わる行政職員や運転手に何らかの疑問があれば医療従事者と即座に連絡できる体制を整えるのが重要である。

療養中の健康観察

宿泊療養施設に常駐する看護師によって1日2回程度の検温と、電話、訪室、スマートフォンのアプリによる体調確認が行われることが通常である。新型コロナウイルスの肺炎では呼吸困難感に乏しいこともあるので、呼吸数やパルスオキシメーターによる酸素飽和度の確認もできれば望ましい。ホテルの構造や療養者の人数にもよるが、弁当を居室まで運ばないで療養者にロビーまで取りに来てもらうことで、看護師による視診も行える。

2020年4月27日の厚労省通知で推奨されている「緊急性の高い症状のセルフチェック」を療養者にお願いすることになっている。療養者は、新しい症状が出現したり、呼吸器症状が悪化した場合には、即座に医療スタッフに連絡をする必要がある。【図表4】

図表4
宿泊療養・自宅療養中に注意する緊急性の高い症状
https://www.mhlw.go.jp/content/000625758.pdf

療養者は、新型コロナウイルスに感染したという不安に加え、日常生活とは隔離された宿泊施設での生活をすることで、ストレスを抱えることが多い。退所の条件にPCRの陰性確認が不要になり、施設での滞在期間が短くなったことで、以前より状況はやや改善していると考えられる。しかしながら、行政職員やホテル従業員の無理のない範囲で、療養者にどれだけストレスなく過ごしていただくかの観点も重要である。例えば、家族や友人とのビデオ通話が快適にできるようにインターネット回線の帯域を確保する、新聞やコーヒーなどの嗜好品を提供する(事後精算で)、などが考えられる。メンタルヘルスの専門家による療養中のストレスについての相談を、ホットラインで受け付けている自治体もある。

医療機関との連携

  • 療養者が体調や呼吸器症状の増悪を訴えた場合、宿泊療養施設に常駐している看護師による初期評価が行われる。医師については、オンコール体制で対応にあたることが多い。新型コロナウイルス感染症は、短期間(1日以内)で重症化することもあるので、迅速な医療機関への搬送を可能にするフローの構築が必要となる。原則は、入院→宿泊施設の経路で入所した療養者に関しては、入院していた病院に、自宅/外来→宿泊施設の経路の場合は、最後に診察した医療機関に連絡するのが望ましいが、地域の事情によっては、輪番制などで対応しているところもある。
  • 宿泊療養中には、新型コロナウイルスとは直接関係なく、かつ、入院を必要としない(緊急性を要しない)医学上の問題も発生する。武漢からの帰国者の例では、軽度の下肢蜂窩織炎には往診で対応し、不眠に対しては必要に応じて千葉県災害派遣精神医療チーム(DPAT)に介入していただいた。退所まで待つことができない準緊急の問題に対しては、当番の医師を決めて往診する、タブレットなどを使いオンライン診療をするなどの方法が考えられる。感染対策の観点からは、療養者が病院を受診するのは好ましくない。

生活面での対応

  • どの施設でもほぼ変わらないこととして、食事は弁当の配布、洗濯は室内で可能、Wi-Fiが使用可能、外出は禁止、喫煙や飲酒は禁止ということが挙げられる。それに対して、家族や知人による差し入れ、ネットショッピングでの注文が可能かどうかは施設によって対応が異なるようである。
  • 厚労省のマニュアルによれば、宿泊軽症者同士の接触について全面禁止することは要しないが、なるべく接触は減らすようにする、また、宿泊軽症者はサージカルマスクを必ず着用する、とある。感染管理上は、新型コロナウイルスの患者同士の接触があっても問題はない。患者同士がお互いに交流を望むような場合は、時間を決めてホテルの会議室やロビーなどを使用するなどのことも精神衛生上の観点から考慮しても良い。

療養者むけの配布物や説明内容などの一例

各都道府県のホームページを参照してほしい。下記にいくつか例をあげる。

その他の課題

  • 同居の高齢者や小児、ペットの介護をしなくてはならないといった理由で、宿泊療養を望んでも自宅療養を選ばざるを得ない患者も多い。同居家族は、同時に濃厚接触者であることも多く、親戚や施設に預けるといった対応を取るのも難しい。自宅療養がスムーズに進められるための支援と、症状が悪化し入院が必要になった場合の家族の支援体制を構築する必要がある。なお、東京都ではペット同伴者用宿泊療養施設を運用している。

結語

  • 新型コロナウイルス感染者の宿泊療養は、限りある医療資源を重症者や重症化リスクのある者に重点的に配分し、また、自宅療養での家庭内感染(特に高齢者への)を防ぐために重要な医療政策といえる。
  • 宿泊施設の従業員と地域住民の理解、感染管理専門家による施設内のゾーニングと宿泊療養の運営に関わるスタッフへの感染予防策の教育、行政職員と宿泊施設の従業員の協力、地域の医療施設、医師会、消防との連携のどれが欠けても宿泊療養は成り立たず、また、行政の強力なリーダーシップが成功に必須である。

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