日本医師会 COVID-19有識者会議
WHO, 情報

WHO アップデート 第10報

中谷 比呂樹慶応義塾大学 特任教授WHO執行理事
COI:なし
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。

(2020年7月13日寄稿)

米国およびBRICsの中軸国であるロシア、ブラジル、インドの患者数急増が止まらず、世界の感染拡大傾向は続いている。加えて、アジアや欧州で一度は感染を押さえたかのような国で、再び感染者の増大を懸念せざるを得ない状況が発生しており、日本も例外ではない。今回は、そのような憂慮に対応すべくWHO西太平洋地域事務局が作成した2つの資料について紹介する。現下の日本の状況に鑑みて重要と判断されたため、同地域事務局所属の邦人職員の方々のご尽力を得て、通常よりも詳細な概要が作成できたので感謝したい。 

1 WHO本部記者発表

注目すべき3の記者発表が先週発出されているので簡単に紹介する。

(1)ヒドロキシクロロキンとロピナビル/リトナビル(商品名:カレトラ)の治験中止

(WHO discontinues hydroxychloroquine and lopinavir/ritonavir treatment arms for COVID-19)
 2020年7月4日

(2)WHO専門家協議の為に中国へ

(WHO experts to travel to China)
 2020年7月7日

COVID-19の原因ウイルスSARS-CoV2が動物由来であるか、本格的な調査を開始するにあたり、協議の為に専門家が派遣された。

(3)COVID-19対応独立評価委員会設置

(Independent evaluation of global COVID-19 response announced)
 2020年7月9日

WHOの対応を独立した委員会で検証すべきであるとの項目を含むWHO総会決議を受けて、独立評価委員会設立が告知された。共同議長は元リべリア大統領サーリーフ女史(ノーベル平和賞受賞者)と元UNDP総裁クラーク女史(元ニュージーランド首相)。9月に予定される臨時執行理事会で進捗報告、11月に予定される臨時WHO総会に中間報告書、来年5月のWHO総会に最終報告を提出してもらいたいとするWHOの期待感も示された。

2 COVID-19対応において接触者追跡調査及び検疫を行うデジタル・ツールの選択

 ~段階的アプローチにおける指針と検討事項~
(Selecting digital contact tracing and quarantine tools for COVID-19)
 2020年6月19日

本指針の趣旨

西太平洋地域の加盟国が、デジタルによる追跡調査及び検疫(DCTQ)ツールの必要性や導入について検証し、自国の基本的考え方やテクノロジーの基盤を再確認し、デジタルツールの運用の利点、欠点について検討するにあたり、参考とする指針として作成。

背景

加盟国各国は、COVID-19の感染拡大を抑制するための各種規制を徐々に解除するフェーズにあり、「検査、治療、検疫(隔離)」の強化と持続がさらに重要である。厳格な感染抑制戦略を採用することは、感染者および濃厚接触者等に限定した措置のみで感染抑制を図り、学校閉鎖やイベントの中止といった広く社会経済に影響を与える措置を回避することが可能。

接触者追跡調査は公衆衛生上の基本的な機能である。感染者や接触者からの行動歴の聞き取り調査を行い、これにより保健機関は潜在的な症例や接触者を特定し、隔離あるいは検疫を行いさらなる感染拡大を止めることができる。

接触者追跡調査体制(隔離後のモニタリングを含む)を整え、強化するにはかなりの資源を要し、加盟国にとっては大きな課題となる。そして対応が後手になり、感染伝播を止めることができない結果となる。

デジタルツールの出現

このパンデミックを機に、多くの接触者追跡と検疫ツールが開発されたが、どのツールも追跡記録や評価等について不十分であり、接触者追跡の始めから検疫の終わりまでの一連の流れを、一つのツールで対応できると考えるべきではない。デジタルツールは、飽くまでマニュアルによる接触者追跡と検疫の体制を補完するものとして位置付けられるべきものである。

加盟国はデジタルツールの設計、活用をするにあたってはプライバシーの侵害等法規制に則って行い、国民の信頼を得るよう努める必要がある。

基本指針

当該指針では、以下の9つの原則を提示している。

  1. 文脈付けとカスタマイズ
    • 法的、規制及びテクノロジーといった地域社会の実情を踏まえ、DCTQツールがどの場面で最も活用できるのかのニーズ評価を行うこと。
  2. 説明責任と透明性
    • 透明性が確保されるガバナンスを担保し、詳細な仕様書を作成するといった厳格なプロジェクトマネジメントに基づいて開発を行う。
  3. データ保護とプライバシー
    • DCTQツールにより収集されたデータは安全で個人のみに帰属し、関連の法令に基づいて厳重に守られなければならない。情報の活用にあたっては、情報漏洩や悪用が生じないよう監査し、出来得る限り匿名化や暗号化がなされなければならない。
  4. 政府全体による取り組み
    • DCTQツールに関連する決定は関係省庁、地方自治体や関連組織との調整の上行われることが望ましい。
  5. マルチセクター/学際的なアプローチ
    • 公的機関及び民間セクター間のみならず、地域社会や国民の声を踏まえた設計や導入は成功への近道である。また、保健領域に限らず、社会学といった学問領域からの観点は開発の一連の過程に関わってもらうべきである。
  6. 公平性と包括性
    • デジタル技術の配備は情報格差の助長を招きかねない。移民や農村部の住民、障がい者といった社会的弱者が、デジタル技術をどうやって身に着けられるか等の検討が行われるべきである。
  7. 限定的使用と期間の限定
    • DCTQツールは、目的に限定して活用されるべきであり、データにアクセスできる者はその役割に応じて必要なデータのみに権限が付与され、データの保存も必要な期間に限定されるべきである。
  8. 利便性とコミュニケーション
    • ユーザーインターフェースや機能、コミュニケーション戦略はユーザーと共に設計し、利便性とアクセスのしやすさを追求すべきである。
    • 明確、誠実、一貫性と継続性を以て国民とコミュニケーションを行い、国民の懸念を払しょくすることで幅広い活用が促進される。
  9. 統合と相互運用性
    • DCTQツールは他のCOVID-19対応と統合されるべきである。例えば、国境を越えたデータの交換についても検討されるべきである。

DCTQワークフローと機能

当該指針では、DCTQのワークフローとして、以下の図に示すとおり、「特定フェーズ」「通知フェーズ」「検疫フェーズ」の3つに分け、さらにフェーズごとに17の機能を分類している。どの機能をデジタルツールとして採用する必要があるのかをこの分類に従って検討することが可能である。また、Annexとして各国で使われているDCTQツールの具体的なリストが機能分類とともに示されており参考になる。我が国のCOCOAは1aと2aを持つが行動の制約につながる3の機能は持たないものとして分類されている。

図表
DCTQワークフローと機能

DCTQツール運用へのステップ

当該指針では、ツールを運用するにあたっては、以下の順番で段階的に進めることが望ましいとして各段階で考慮すべき点をリストアップしている。

  1. COVID-19の対応状況を成果と資源の観点から検証する
  2. DCTQを行うにあたってのニーズに基づいた戦略(達成目標、成果、対象)を立案する
  3. DCTQツールを活用するフェーズ(特定、通知、検疫)を選択する
  4. DCTQツールの実施または開発順位を検討する
  5. 調整組織やプロジェクトチームを作る
  6. 運用及びモニタリング計画を立案し稼働可能にする

特に考慮されるべきこと

当該指針では、以下の点について特に考慮が必要と指摘している。

  1. 感度と特異度のバランス
    • 感度と特異度を最大化するには、偽陰性と偽陽性を最小化することの対応関係にある。偽陽性と偽陰性が最小化されるよう、段階的に接触者の基準を見直す必要がある。
  2. 社会的受容と有効性
    • 適切なツールの選択は、社会的受容性と有効性のバランスの判断に基づいて行われる。これはプライバシーが侵害されるリスクと有効性の向上のトレードオフの問題となる。
  3. GPSとBluetoothの検討
    • GPSとBluetoothそれぞれの特徴が考慮される必要がある。

DCTQツールの利点と欠点

当該指針では、DCTQツールの利点として、対象範囲の広さ、即時性、行動・接触歴の正確さ、感染者の積極的な協力を必要としないこと等を挙げている。逆に欠点として、プライバシー侵害のリスク、ツールが浸透しないリスク、一定のインフラが整備されていることが条件であること、ユーザーのリテラシー等に依存すること等を挙げている。

本文は以下からダウンロードできる。

3 西太平洋地域における出入国規制緩和の検討

(Considerations to relax border restrictions in the Western Pacific Region)
 2020年6月29日

指針の目的

当該指針の主な目的は、各国がCOVID-19の輸入・国内での感染伝播のリスクを最小化しつつ出入国規制の緩和を実現することである。

背景

WHO西太平洋地域各国・地域は、COVID-19のパンデミック初期に厳格な水際対策を導入し、国外からの入国を規制することで感染の輸入伝播リスクを減らし、危機対応準備と医療体制の強化のための時間を確保した。当地域の多くの国・地域は、COVID-19の症例数が減少するにつれ、公衆衛生的措置を緩和し、出入国規制も視野に入れた移動規制措置の緩和を検討し始めている。

この指針は政策決定者が、COVID-19の輸入症例およびそれにより感染伝播を最小限に抑えつつ国境再開の可能性を評価するにあたり参考となる主な検討事項を示すものである。ここで示すアプローチは、国際移動のみならず、国内移動の再開検討にあたっても活用可能である。

なお、この指針は、WHO本部の「Consideration in Adjusting Public Health and Social Measures in the Context of COVID-19 (COVID-19における公衆衛生措置及び社会的措置に関する検討)」、WHO西太平洋地域事務局の「WHO Western Pacific Regional Action Plan for Response to Large-Scale Community Outbreaks of COVID-19 (COVID-19の大規模市中感染対応地域アクションプラン)」「Calibrating Long-term Non-pharmaceutical Interventions for COVID-19 (WHO西太平洋地域COVID-19に関する公衆衛生措置と行動制限(NPI)についての指針)」に基づいて作成されている。

本指針のアプローチ

当該指針では、入手可能なデータと科学的エビデンス、国際的な連帯と人権の原則に基づき、以下のアプローチを提言している。

  • どこから(出発地)、誰(属性)の入国を許可するのかを注意深く検討し、COVID-19の輸入のリスクを軽減。
  • 移動前、移動の間、移動後の感染リスクの最小化
  • COVID-19感染者の発見、感染症例への対応といった国内のシステム強化
  • 出入国規制の変更による影響をモニターすること、及び出入国規制の見直し

COVID-19輸入のリスクを軽減する

各国は、社会的受容を考慮して、リスク・ベネフィットを評価することで、異なる政策オプションを検討することができる。出入国規制の緩和には、大きく二つのアプローチがあり、一つはCOVID-19の国内感染リスクが類似する二国間あるいは多国間の合意によるもの、もう一つは入国者の属性(自国民や居住者、外交官、ビジネス目的の渡航者等)によりケースバイケースで判断する場合である。前者は各国が相互に疫学データやサーベーランスシステムの体制等について情報交換することで政策決定が促進される。後者については、人道援助目的や自国民や永住者の帰還、医療物資や食品の供給等が優先される必要がある。

いずれにしても、出入国規制の緩和は国民の不安を惹起するため、政府は判断の根拠について広く国民に説明を尽くすようことが必要と指摘する。

感染が輸入されることのリスクを最小化する

当該指針では、入国者の移動の各ポイントでどういったリスク軽減措置を取るのか、政策決定者は考慮すべきであると指摘する。移動のポイントは、

  1. 出発前
  2. 移動中
  3. 国境
  4. 入国後

の四つに分けられる。1の出発前について一部の国は、入国前のCOVID-19の検査を求めているが、公衆衛生の観点からは有効性については限定的である。2の移動中については、ICAOのガイドライン 等を参考に搭乗手続きや搭乗中、手荷物処理のプロセスを考慮すべきである。3の国境については、一部の国は体温やCOVID-19の検査によるスクリーニングを行っているが、体温のみのスクリーニングの効果は低く、旅行者への感染予防手段の周知や健康状態の申告等を通じたリスクアセスメント等が効果的である。国境管理において重要なのは、COVID-19感染者の特定と対応能力の強化である。4の入国後については、旅行者は国の指示に従って14日間、健康状態を把握し、感染が疑われる症状がある場合には、保健当局に症状と旅行歴を報告する。国によっては入国後に隔離措置を行うことがある。

国内における感染者特定及びCOVID-19への対応能力を強化する

当該指針では、出入国規制が緩和されると、感染症の輸入の潜在リスクは増加するが、国内に感染が広がるリスクは、国内の早期特定および症例への対応能力の強化でリスクを緩和できるとする。

インフルエンザ及びCOVID-19の調査研究等のエビデンスによると、国境封鎖が感染症の流行を遅らせる効果ははっきりしていない。したがって、感染が輸入されることのリスクを最小化する措置としては、「ニューノーマル」といった個人の行動変容、公衆衛生措置と行動制限(NPI)、サーベイランス能力の強化、接触者追跡、隔離などの症例への対応能力の拡充、及び医療施設の対応能力適正化である。

西太平洋地域の経験やモデリングのデータによると、接触者追跡の体制が強力であること、有効な行動変容が広く浸透していることで、強力な行動制限措置を図らずとも市中感染のリスクをコントロールできることが示唆されている。

モニタリングと規制等の措置の見直し

当該指針では、政府は、出入国規制の政策変更をした場合は、その影響について継続的に評価すべきであるとする。例えば輸入症例数や入国時検疫施設の使用状況などの情報に基づいて出入国規制の見直しを定期的に行うことが可能となる。この影響を適切に評価し判断するためには、政府はデータ収集、整理、入力および分析する仕組みを確立する必要があり、特に輸入例による感染の広がりを早期に発見することが重要である。

また、各国は二国間及び多国間の交渉を促進させるため、感染者数だけではなく、検査能力や検査政策及び追跡者調査、病院や集中治療室の情報、国内の感染状況(例えば、主体となるのは輸入例か市中感染例か)、疫学的関連がわかっているかなどの情報を共有すべきである。

交渉が加盟国間で促進されるよう、WHOでは各国が感染状況の評価を統一的な方法で行えるよう支援し、各国がその結果や評価にあたって用いた情報を共有するよう働きかけている。また、共有された情報等をまとめたダッシュボードを構築している。

本文は以下からダウンロードできる。