日本医師会 COVID-19有識者会議
WHO, 情報

WHO アップデート

中谷 比呂樹慶応義塾大学 特任教授WHO執行理事
COI:なし
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。

(第一報 4/27寄稿)

はじめに

このページでは、日本で日々診療活動や予防活動に邁進されている医療関係者の視点から、あまたの情報の内、“今すぐ役立つ”情報をピックアップして、要旨をお伝えしてまいります。内容については正確を期しますが、日本語と本文の英語版との間で齟齬がある場合は英語版を優先されるようお願いいたします。

基本的に前の週に発信されたものの中から日本の医療関係が関心を持ちそうなものを選びます。本部情報の一部は2週間程度でWKCの日本語ページに出ます。

なお、WHOは本部、地域事務局、各国駐在事務所の3層構造からなっており、日本は西太平洋地域に属し、この地域には、中国、韓国、シンガポールなどがあり、日本にとって参考となるエビデンスが蓄積されていますし、それを率いる地域事務局長は葛西 健博士、感染症危機管理の専門家でもあります。

その為、このページでは、WHO西太平洋地域事務局発信の資料にも目配りしてまいります。葛西RDは、地域を預かる立場から、過日のBBCインタビューでHQより実務的に踏み込んだことを言われているのでRDのプレス関係は十分フォローします。

WHOとは

世界保健機関憲章は、健康を「完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、單に疾病又は病弱の存在しないことではない」と前文で定義している。その上で、第一條において、「世界保健機関(以下「この機関」という。)の目的は、すべての人民が可能な最高の健康水準に到達することにある」とし、第二條で「この機関がその目的を達成するための任務は、次のとおりとする」として、果たすべき機能を記載している。

それらは:

  • (a) 国際保健事業の指導的且つ調整的機関として行動すること。
  • (b) 国際連合、専門機関、政府保健行政機関、専門的団体及び適当と思われる他の機関との効果的な協力を樹立し、及び維持すること。
  • (c) 要請に応じ保健事業の強化について各国政府を援助すること。
  • (d) 各国政府の要請又は受諾があつたときは、適当な技術的援助及び緊急の際には必要な助力を與えること。
  • (e) 国際連合の要請があつたときは、信託統治地域の人民のような特殊の集団に対して、保健上の役務及び便益を提供し、又はこれらを提供することを援助すること。
  • (f) 疫学的及び統計的事業を含む必要とされる行政的及び技術的事業を開設し、及び維持すること。
  • (g) 伝染病、風土病及び他の疾病の撲滅事業を奨励し、及び促進すること。
  • (h) 必要な場合には他の専門機関と協力して、不慮の傷害の防止に努めること。
  • (i) 必要な場合には他の専門機関と協力して、栄養、住宅、衛生、レクリエイション、経済上又は労働上の条件及び他の環境衛生状態の改善を促進すること。
  • (j) 健康増進に貢献する科学的及び専門的団体相互間の協力を促進すること。
  • (k) 国際的保健事項に関して、條約、協定及び規則を提案し、並びに勧告を行うこと並びにこれらの條約、協定、規則及び勧告がこの機関に與え且つこの機関の目的に合致する義務を遂行すること。
  • (l) 母子の健康と福祉を増進し、変化する全般的環境の中で調和して生活する能力を育成すること。
  • (m) 精神的健康の分野における活動、特に人間相互間の調和に影響する活動を育成すること。
  • (n) 保健の分野における研究を促進し、及び指導すること。
  • (o) 保健及び医療の職業並びにこれに関係のある職業における教育及び訓練の基準の改善を促進すること。
  • (p) 必要な場合には他の専門機関と協力して、病院業務及び社会保障を含む予防及び治療の見地からの公衆衛生及び医療に関する行政的及び社会的技術を研究し、及び報告すること。
  • (q) 保健の分野において情報、助言及び援助を提供すること。
  • (r) すべての人民の間に保健事項に関して精通した世論を発展させるように援助すること。
  • (s) 疾病、死因及び公衆衛生業務に関する国際用語表を必要に応じて作成し、及び改正すること。
  • (t) 必要に応じて診断方法を標準化すること。
  • (u) 食品、生物学的製剤、薬学的製剤及び類似の製品に関する国際的基準を発展させ、確立し、及び向上させること。
  • (v) 一般に、この機関の目的を達成するために必要なすべての行動を執ること。

の22項目を挙げている。(注:条文は外務省による世界保健機関憲章訳:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000026609.pdf

これらを要約すると国際保健の分野でのリーダーシップ、保健に関する研究課題の決定、規範・基準の設定、エビデンスに基づく政策課題の提唱、各国への技術支援、保健状態のモニタリングや評価になります。COVID-19についていえば、WHOが呼かけて各国が連帯して地球規模の対策を進めるのが「国際保健の分野でのリーダーシップ」、予防・診断・治療についての世界的基準を作るのが「規範・基準の設定」、各国への助言が「エビデンスに基づく政策課題の提唱」と「各国への技術支援」と「各国への技術支援」、感染者・死亡者などの統計を収集解析するのが「保健状態のモニタリングや評価」になります。

WHOはCOVID-19に全力を挙げて取り組んでおり、上記のミッションを果たすべく膨大な量の情報が発信されています。

巡回するWHOの情報源

巡回するWHOの情報源は以下のとおりです。

各情報

WHO本部 科学ブリーフィング:COVID-19患者への非ステロイド系抗炎症薬使用

(The use of non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) in patients with COVID-19)
 2020年4月19日
  • COVID-19を含むウイルス性肺炎にNSAIDsを用いた場合、死亡、臓器不全、日和見感染、入院やICUの利用、生命予後、QOL低下などを起こす可能性が指摘されたため、MEDLINE, EMBASE,及び WHO Global Databaseから73の調査研究報告を見つけ検討した。COVID-19, MERS、SARS症例を含んだ報告がない、あるいは、サンプル数が少ない研究が多いなどの限界を指摘した上で、現時点において、NSAIDsがCOVID-19患者に深刻な健康障害を起こすというエビデンスはないとしている。全文は以下で閲覧できる。
  • https://www.who.int/news-room/commentaries/detail/the-use-of-non-steroidal-anti-inflammatory-drugs-(nsaids)-in-patients-with-covid-19

BCG 接種とCOVID-19(WHO本部 科学ブリーフィング)

(Bacille Calmette-Guérin (BCG) vaccination and COVID-19)
 2020年4月12日
  • BCGは一般的な免疫能を高めることは知られている。新生児への接種率が高い国・地域ではCOVID-19報告数が少ないという三編の論文投稿(未刊行)を受けて、文献及び治験登録調査を行ったが、BCGのCOVID-19予防効果を示唆するエビデンスはなく、現時点では、COVID-19予防の為にBCGを接種することは推奨しないとしている。なお、COVID-19対応要員にBCGの予防効果があるかに関する2つの研究が進行している。全文は以下で閲覧できる。
  • https://www.who.int/news-room/commentaries/detail/bacille-calmette-gu%C3%A9rin-(bcg)-vaccination-and-covid-19

COVID-19に対する診療現場用免疫学的診断法に関する助言(WHO本部 科学ブリーフィング)

(Advice on the use of point-of-care immunodiagnostic tests for COVID-19)
 2020年4月8日
  • COVID-19の診断には呼吸系部位から採取したサンプルのPCR検査が推奨されているが、診療現場で迅速に結果が得られる(point-of-care)簡易な迅速診断法が開発されつつある。その原理は大別して、呼吸系部位から病原体を採取してウイルスのタンパク質を感知する抗原検査と血液あるいは血清中の抗体を検出する技術(抗体検査)の二方式がある。
  • 検査の拡大が求められる中、WHOは新しい検査法が続々と開発されることを歓迎すると述べた上で、有効性がまず実証されなければならず、それを待たずして広範な使用を推奨することは、かえって対策を妨げることになりかねないとして慎重な姿勢を示している。まず、総論として、新しい検査法については、研究としての利用を推奨するが、具体的な利用の適応範囲に関するエビデンスが収集されるまでは、臨床上の意思決定には使われるべきではないとしている。
  • 具体的に、迅速抗原検査については、PCR検査をより効率的に行うためのtriage的に使う価値が大きいが、現在の開発された製品の感度(sensitivity)は34~80%と大きな差があり、患者の見落とし、さらに言えば、偽陽性も危惧される。その為、検査自体のパフォーマンス向上と診断を下す上での利用法に関する研究が期待され、現時点では、患者ケア―に使うことは推奨しないとしている。
  • 迅速抗体検査については、過去の感染既往を見る検査であることを強調したうえで、抗体が検出されるのは感染後2週間の人が多いが、感染しても免疫反応が弱い人、他のコロナウイルスの既感染に影響される可能性、そもそも抗体を持った人が再感染しない保証があるのか等の懸念もある。その為、患者ケア―への利用は推奨しないが、サーベイランスと疫学研究における有用性を確立する研究を勧めるとしている。
  • 最後に、WHOとしては今後、免疫学的迅速診断法の評価をWHOが各国に示す政策に適宜取り込んでゆく、COVID-19の診断法に関する望ましい製品スペックを作成中で公開する、様々な検査法が、患者管理、疫学、感染症管理などどの場面でどれがもっとも有意義であるか関係者とともに究考して行くとしている。全文は以下で閲覧できる。
  • https://www.who.int/news-room/commentaries/detail/advice-on-the-use-of-point-of-care-immunodiagnostic-tests-for-covid-19

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するWHO-中国合同ミッション報告書

(Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19))
 2020年2月28日
  • 少し古い資料であるが、基本的な文献となるので紹介しておきたい。
  • 2020年2月16日から2月24日にかけてWHOと中国政府とが合同で実施した調査、解析、評価の報告書です。この合同調査団は中国人 12 名及び外国人 13 名(共同団長の WHO 職員1名及び国立感染症研究所髙橋仁主任研究官を含む)の計 25 名よりなり、武漢や北京等への訪問、中央・地方政府関係者、医療関係者、科学者等との議論を実施。患者 55924 名(2 月 20 日当時)の状況と政府がとっている対策を把握した上で、中国の対応を評価しつつ、中国国内向け、COVID-19 発生国及び/又は流行国向け、非発生国向け、一般国民向け、国際社会向けに合計22の勧告を行った。全文は以下で閲覧できる。

WHO西太平洋地域COVID-19大規模感染バーチャル記者会見

(Virtual press conference on COVID-19 outbreak in the Western Pacific Region) 
 2020年4月21日
  • この記者会見では、葛西 健 WHO地域事務局長がCOVID-19への取り組みについて、明確なメッセージを発している。
  • まず、健康危機担当部長Huong Thi Giang Tran博士から西太平洋地域のCODIV-19の状況いついて報告があり、既に13万人を超える感染者と5600人におよぶ死亡者が出ている報告があった。ついで、葛西地域事務局長からは、域内各国の保健大臣は、国際的な感染症に立ち向かうには一致協力する必要があることを共通の認識としてもたれていることを述べた上で,大要以下のよう述べている:
  • 加盟国の多くが交通遮断などの強い措置をとり、感染伝播や医療システムへの負担急増の抑制が図られて、効果をあげている。
  • 一方、これらの処置は人々の生活や家計に深刻な影響を与えており、各国は、強い措置を導入するのか、強化するのか、緩和するのか、交通遮断を解除するのか、人ヒト接触回避をどうするのかなどについて極めて難しい決断をする時期になっている。
  • しかし、ワクチンあるいは効果的な治療法が出来るまでは、感染を止めるためには、我々の生活、医療システム、そして取り組みを状況に応じて適応させ深化させなければならない。感染症対策と経済・社会機能維持のバランスをとりながら進めてゆく、それが“new normal”となる日々が来ると言わざるを得ない。
  • この場合、どの国にも当てはまる政策というものは無いが、WHOとしては、各国とも公衆衛生の基本を踏まえた政策をとって頂きたい。
  • 感染者の早期発見、治療、濃厚接触者の発見と隔離などの体制が整う前に様々な制約を急に緩めると、感染の再興を許してしまう。
  • そこで市民に皆さんには、公衆衛生の基本を守る生活をすること、経済界には新しい働き方を取り入れる、政府には最悪の事態の備えるように呼び掛けたい。
  • また、政府には、new normalの状態になったら予防接種など、通常の保健医療を再開し維持するように要請したい。この地域には慢性疾患に苦しむ方や予防や治療を要する感染症もまだ多く残っている。これらの人々が命の危機にさらされるようなことがあってはならない。
  • 最後に、COVID-19を抑圧し、弱者を守り、可能な限り安全な生活を維持できるよう、関係の皆さんがそれぞれの立場で努力することを訴えたい。記者会見の要旨と録画は以下で閲覧できる。
  • https://www.who.int/westernpacific/news/speeches/detail/virtual-press-conference-on-covid-19-outbreak-in-the-western-pacific-region-21-april-2020