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感染経路不明な新型コロナウィルス感染症新規入院患者の感染経路に関する記述の結果報告

著者

COI(利益相反)

注:この記事は、有識者個人の意見です。COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。

  • 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査の結果では「感染経路不明」と判定される事例が多く、効果的な感染対策を行うにはこの経路を明らかにする必要があった。そこで、入院時に感染経路が不明であった事例を対象に調査を行った。
  • 対象患者の64%において既知の感染リスクの高い行動歴があった。行動歴からは感染リスクが高い場面が延べ24場面同定され、それらの場面の88%が飲食に関連しており、92%においてマスクが着用されていなかった。
  • これまで見つかっていなかった新規の感染経路を見いだすことは出来なかった。
  • 感染には飲食がやはり多くの事例で関係していることとともに、感染防止に対する意識付けや十分な知識が不足していることわかり、デルタ株による第5波においても解決すべき喫緊の課題として挙げられた。

はじめに

2019年末より中国・湖北省武漢市で原因不明の重症肺炎が報告され、これが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)であることが判明した[1]。以後も世界中で感染拡大が収まらず、本邦ではこれまで4回の急激なCOVID-19新規患者数の急増を認めた。従来の知見からは、新型コロナウイルス感染症においては未知の感染経路があり、流行の波と波の間にはこれらの感染経路を通じて感染が水面下で持続し、その後の感染者数急増への原因となっている可能性が指摘されていた。そこで第4波において新規陽性患者数が減少傾向となった時期(職場、学校、施設、家庭内での感染が少ない時期)に、新規感染者の感染経路を探索的に調査した。

 

第4波と第5波の間における、国立国際医療研究センター病院の入院患者カルテレビュー

2021年5月22日~6月29日に国立国際医療研究センター病院に入院した20歳以上のCOVID-19患者のうち、入院時に感染経路が明確(濃厚曝露者やクラスター感染など)であった患者、意思疎通が困難であった患者を除いた入院患者を対象者とし、対象患者の診療録レビューを行った。日常診療として対象者に行動調査票(添付)[2]を記載してもらい、それをもとに4名の研究者(SH, SM, NF, TT)が1対1のインタビューを行った。研究者らは感染症内科医師が2名と感染管理認定看護師1名、感染症看護専門看護師の課程を修了した看護師1名であり、医師2名はCOVID-19患者診療に携わっていたが、看護師2名は携わっていなかった。インタビュー記録は速やかに診療録に登録された。

調査内容は、年齢、性別、国籍、COCOA(接触者アプリ)[3]の導入の有無、導入済の場合はCOCOA通知の有無、発症14日前から発症1日前までの行動歴/接触歴とその場所や日時、マスク着用の有無、具体的な状況であった。回答を得た行動歴/接触歴を、既知の感染リスクが高い場面(例:船、長距離バス、スポーツジム、屋内音楽ライブ、クラブ、立食パーティー、カラオケボックス、外食、屋内展示会等の換気が悪く密閉された環境の集会への参加、流行地での滞在歴(国内・国外)など)[2]とそれ以外に分類した。マスクを外していた場所は下線、潜伏期間から感染機会が多いとされる発症4日前~7日前は太字とした[4]。また、対象者のうち既知の感染リスクが高い場面にいた人数を、場面別に集計した。次に、インタビューの中で感染に寄与しうると考えられた患者の考えや信念に関する回答内容を意味単位として抽出し、3名の研究者により質的に解析を行った。

調査期間中に国立国際医療研究センター病院に入院した20歳以上のCOVID-19患者43名のうち、入院時に感染経路が明確であった9名、人工呼吸器装着中の3名、全身状態から問診困難であった1名、言語の面から問診困難であった1名を除く29名を対象とした。29名のうち23名に対して、インタビュー調査を実施した。インタビュー調査を実施できなかった6名に関して、3名はインタビュー調査前に退院、3名は入院直後のためインタビュー調査を施行できなかった。回答を得た23名のうち、1名は発症日を入院日と誤って記載していたため、回答無効とした。収集した22名分の回答を解析対象とした。

約3分の2の感染者において感染リスクの高い行動歴あり

対象者の背景は、22名のうち男性が17名(77%)、女性が5名(23%)、年齢の中央値(四分位範囲)は52.5歳(44, 66)、19名(86%)が日本人であった。COCOAを導入していたのは、22名中6名(27%)であり、そのうち通知を受け取った者はいなかった。次に、回答を得た行動歴/接触歴を【表1】の通り既知の感染リスクが高い場面とそれ以外に分類した。既知の感染リスクが高い場面に関しては24場面(飲食関連 21場面、屋内音楽ライブ関連 1場面、スポーツジム関連 2場面)、それ以外の場面に関しては118場面(買い物関連 34場面、職場・仕事関連 22場面、公共交通機関・移動関連31場面、医療機関関連 14場面、娯楽関連 6場面、その他 11場面)であった。既知の感染リスクが高い場所である24場面のうち21場面(88%)が飲食関連であり、22場面(92%)でマスクが着用されていなかった。

表1
行動調査により収集された、候補となる感染経路
既知の感染リスクが高い場面が24場面、それ以外の場面が118場面であった。既知の感染リスクが高い場所である24場面のうち21場面(88%)が飲食関連であり、22場面(92%)でマスクが着用されていなかった。

*マスクを外していた場所は下線、潜伏期間から感染機会が多いとされる発症4日前~7日前は太字とした. 

 

既知の感染リスクが高い場面にいた対象者に関して、22名のうち12名(55%)が飲食を伴う行動をしたと回答した。このうち、6名が友人などと複数人で会食をしたと回答しており、さらにそのうちレストランなどでの会食が5名、居酒屋やバーでの会食が3名、20名以上での誕生会が1名、宅配サービスを利用しての食事会が1名(一部重複)であった。また、マスク着用なしでの屋内音楽ライブ参加者が1名、スポーツジム利用者が1名、スポーツジムインストラクターが1名であり、飲食を伴う行動のあった12名と1名の重複があった。よって、22名のうち14名(64%)において既知の感染リスクの行動歴を認めた。

感染リスクに関する誤った知識や認識不足あり

感染に寄与しうると考えられた患者の 考えや信念に関しては、「電車以外の移動中や職場ではマスク着用は不要だろう」、「会社の食堂でお喋りをしながら食事をすることは構わないだろう」、「仕事の後であれば職員同士でマスクなしで話しても大丈夫だろう」、「まずいなとは感じながらも、コンサート会場でマスクを外していた」、「外食が感染のリスクだとは知らなかった」、「個室型の理容室だったので、マスク着用は不要だろう」、「プライベートのゴルフであれば、4人で行ったとしてもマスクは不要だろう」などが挙げられた。

これまでに見つかっていなかった新たな感染経路は明らかにならず

今回の研究において、感染者の中には歯科処置や理容院においてマスク着用がない場面があった。マスクを着用しないために感染リスクは高まった可能性はあるが、実際にこれらを契機に感染したか否かは不明であった。今回の調査では、これまでに見つかっていなかった明確な感染経路を新たに同定することはできなかった。また、他の感染者においては、カラオケを教えている、陽性になった友人と会った、ジムのインストラクターでマンツーマンレッスン という場面があった。マスクを着用していたとしても、感染を100%防げるわけではないことに留意する必要がある[5]。至近距離で大きな声を出し他人と接触する場面がリスクとなる可能性がある。

感染予防対策行動につながる情報提供やリスク認知の醸成を

既知の感染リスクが高い場面である24場面のうち、22場面(92%)でマスクが着用されていなかった。また、対象者22名のうち14名(64%)において既知の感染リスクの高い行動歴があった。感染に寄与しうると考えられた患者の考えや信念に関連した、感染リスクの高い行動歴を認めた。

既知の感染リスクが高いとされる場面でマスクが着用されておらず、既に感染リスクの高いと判明している行動をとったものが約3分の2を占めていた。患者の考えや信念の結果から、感染リスクに関する知識や認識不足、知識があったとしても行動として行われていない状況があると考える。その要因として、感染拡大初期と比べて本調査は第4波時点での調査であるため、感染リスク情報への関心の低下や不安感情の低下、楽観性バイアス[6]等も考えられる。今後変異株の感染拡大が危惧されており、感染予防対策行動につながるような具体的な情報提供やリスク認知の醸成の方法を検討することが望まれる。

研究の限界

本研究には幾つか限界がある。1点目は、対象者とインタビュー者の関係である。インタビュー者のうち2名は感染症内科の医師として一部の対象者の診療にあたっていた。そのことが、インタビュー中の返答内容に影響を与えた可能性があった。2点目として、想起バイアスがある。3点目として、対象者は意図的に既知の感染リスクが高い場面を報告していない可能性があった。4点目は、1名の対象者につき1回しかインタビューを行っておらず、対象者の回答内容を再確認していない点である。5点目は、本研究は前向き質的研究ではなく後ろ向きの診療録レビューによる解析であり、サンプルサイズが少なく、得られる情報が飽和していない可能性があった。6点目は、実際に適切なマスク着用が行われていたか否かは検証していないため、正確に把握することは困難であった。最後に、調査期間のデルタ株(L452R)が占める割合は1.5%~31.6%であり[7]、第5波よりはデルタ株の割合が比較的少ない時期の調査である。

さいごに

第4波での新規感染者数が減少傾向となった際の新規感染者の感染経路を調査したところ、既知の感染リスクが高い場面では飲食関連が多く、新たな感染経路を同定することはできなかった。既知の感染リスクが高い場面ではマスク着用の不十分が目立ち、感染対策に対する意識の低さや知識不足が課題として考えられた。デルタ株による第5波において、COVID-19に関する正確な情報、特に既知の感染リスクの具体的な情報を提供するとともに、その感染予防に関するリスクの認識をさらに高めることが重要である。

[引用文献]
  1. Hayakawa, K., et al., SARS-CoV-2 infection among returnees on charter flights to Japan from Hubei, China: a report from National Center for Global Health and Medicine. Glob Health Med, 2020. 2(2): p. 107-111.
  2. https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/nisitama/topics/covid19/yousei.files/chousa2.pdf 新型コロナウイルス感染症患者行動調査票(感染源) (2021年8月5日アクセス)
  3. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/cocoa_00138.html 新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA) COVID-19 Contact-Confirming Application(2021年8月5日アクセス)
  4. Li, Q., et al., Early Transmission Dynamics in Wuhan, China, of Novel Coronavirus-Infected Pneumonia. N Engl J Med, 2020. 382(13): p. 1199-1207.
  5. Ueki, H., et al., Effectiveness of Face Masks in Preventing Airborne Transmission of SARS-CoV-2. mSphere, 2020. 5(5).
  6. 及川 晴, 及川 昌典 (2010). 危機的状況での認知,感情,行動の変化──新型インフルエンザへの対応──. 心理学研究, 81(4), 420-425.
  7. https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/henikabu/screening.html 東京iCDCにおける変異株スクリーニング検査について(2021年8月5日アクセス)
*特記事項

本研究結果は、Global Health & Medicine誌(https://www.jstage.jst.go.jp/article/ghm/advpub/0/advpub_2021.01092/_article/-char/en)に掲載されている。

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