日本医師会 COVID-19有識者会議
8.行政・法・倫理・社会, 意見

新型コロナウイルス診療におけるPOLST

相馬 孝博千葉大学医学部附属病院 医療安全管理部 教授
山本 修一千葉大学副学長・医学研究院眼科学 教授
COI:なし

ーPhysician Orders for Life-sustaining Treatment、生命維持治療に関する医師による指示書ー

注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • 生命維持治療に関する医師による指示書(Physician Orders for Life-sustaining Treatment、 POLST)は、事前指示の長い実践経験の延長上に米国で提唱された概念であり、指示内容に心停止時に心肺蘇生をしないDo Not Attempt Resuscitation(DNAR)を包含しているものである。
  • COVID-19の幅広いスペクトラムの治療を考慮する一環として、今後妥当性についての検討が望まれる。
  • ここでは、その具体的な手続きをガイドラインとして提示する。

何をしなければならないかー判断の妥当性の担保と、組織として責任を引き受けることー

COVID-19患者数は膨大であり、無症状から死に至るまで幅広いスペクトラムを有する.しかしながら、人工呼吸器などの医療機器や医療者の医療資源は有限であり、そのミスマッチは世界各国で問題となっている.このため終末期のCOVID-19診療にあたっては、通常とは異なる倫理的判断を求められる場合が生ずる。特にCOVID-19患者の多い米国では、集中治療を担当する医師が自殺する事態まで発展した [1]

通常診療は、患者本人の意思に基づくことが原則である。終末期においても、その原則を維持しつつ「生命を脅かす疾患に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書(POLST; Physician Orders for Life-sustaining Treatment)」の妥当性について議論が進められている [2]。

今回COVID-19診療にあたっても、「重篤な基礎疾患がありCOVID-19感染症のため呼吸循環不全に陥っており、心肺蘇生(CPR; cardiopulmonary resuscitation)を行うことが医学的に無益であると考えられる患者・家族に対する望ましいDNAR(Do Not Attempt Resuscitation)オーダーに関するインフォームド・アセントのプロセス」も公表された [3]。しかしながら、医療資源が枯渇した状況においては、大原則とすべき患者本人の意思は、公衆衛生学的見地から制限せざるを得ない事態に陥ることもある。海外の例だが、英国Guardian紙のトインビーは「誰を生かし誰を死なすのかという恐ろしい選択を迫られている」と赤裸々に語っている [4]。

医療資源が枯渇した状況においては、医療者はどの患者の診療を優先すべきかという非常に難しい判断を迫られる。そして、どのような結論を出すにせよ、後々まで大きな心理的負担を残すことになる。この判断は、誰もが納得できる正解は得られないかもしれないが、少なくとも出来るだけの客観性と公正性は確保しなければならない。つまり一部による医療者の恣意的あるいは近視眼的な結論に陥らないよう、多角的観点からの議論とその正確な記録を残すことが必須である。また最前線の医療者がその判断の責任をすべて引き受けると、前述の米国医師のように、その精神的な破綻を引き起こす可能性がある。こうした判断については、病院幹部が承認することによって責任を引き受け、現場の医療者の負担を軽減しなければならない。

「担当医師を含めた医療チームにより個々の治療方針を決定し、さらに病院が組織として現場の決定について妥当性を承認する」という具体的な手続きをガイドラインとして示す。また状況は刻々と変化するので、夜間休日を問わず一定の手続きとなるよう配慮し、また同一患者であっても周囲状況によって異なる結論となることも許容している。

検討のプロセス(千葉大学病院での提案)

まず大前提は、いかなる場合でも、苦痛の緩和のためのケアは最大限行われる、ということである。検討しなければならない状況として以下の2つの場合がある。

  • (1) 人工呼吸器またはECMO(Extra-Corporeal Membrane Oxygenation;体外式膜型人工肺)による治療を導入(継続)しても救命の可能性がきわめて低い状態になった場合に上記を導入しないか中止する場合
  • (2) より救命の可能性が高い患者に使用するために現行治療(人工呼吸器またはECMO)を中止する場合

前者の場合は医学的適応の検討であり、後者は当該患者を取り巻く社会的な適応の問題であり、言うまでもなく後者の検討が非常に難しい。

検討プロセスの4段階の例を以下に記す。

  1. あらかじめ患者(可能であれば重要他者にも)には入院時に、「COVID-19重症患者の治療では、医療資源の適正配分のため、患者とその時の状況により、人工呼吸器や ECMOによる治療が選択されないことがある」ことについて説明し、承諾を得て(入院時説明同意文書A)、診療文書として取り込んだ後、原本は患者または重要他者に手渡しておく。
  2. 医学的(1) または周囲の状況(2) により、治療方針を変更しなければならない時は、4名以上の検討チームを招集する。当該の患者の主治医(少なくとも助教以上)、(主治医とは違う科で)麻酔集中治療系の教授か准教授、看護職(主任以上)、その他職種(事務職などの当院職員、人が居なければ医療職も可とする)の4名以上が多角的観点から意見交換する。主治医は患者状態と取り巻く状況を簡潔に書き出す。検討チームは、医学的適応・患者意向・QOL・周囲の状況を可能な限り網羅して話し合い、日付や参加メンバー名を入れ、A4版1枚程度の「保存書類」としてまとめる(なおこの保存書類は診療録とはしない)。チームリーダーは検討結果をまとめるが、必ずしも全員一致でなくとも良い [5]。
  3. チームリーダーは、上記の保存書類の内容を、病院倫理委員会の委員長または副委員長に連絡し(電話でも可とする)、内容を確認してもらう。その後、書類末尾に承認者の名前と日時を記載し、完成させ、後日に病院倫理委員会に提出する。
  4. インフォームド・アセント(医師が責任を負う形でDNARの同意を得る)のプロセスは、前述の保存文書を元に十分な説明を行い、別書式の承諾書Bに、患者または重要他者(誰も居ない場合は第三者的立場にある当院職員にて代替する)のサインをしてもらって、診療文書として取り込んだ後、原本は患者または重要他者に手交する。同時に診療録本文には「治療を行わない(継続しない)ことについて検討し、病院として決定し、患者または重要他者に説明し、承諾を得た」旨の記述も必ず行う。

入院時説明同意文書Aの概要

タイトル:COVID-19患者の収容施設における「入院時」治療計画説明書
本文概要:今回当院にCOVID-19患者として入院するにあたり、治療やケアレベルが相対的に決定されることを受けいれます。経過観察のために自治体が指定するホテルに移動することがあることも了解いたしました。またすべての治療機器(人工呼吸器またはECMO《体外式膜型人工肺》)を、私が利用できない事態が生ずることも理解しました。
日付・説明者のサイン
日付・患者本人(または重要他者)のサイン

倫理委員会に提出する保存書類(診療録とはしない)の概要

検討した日時・場所・4名以上の検討チームメンバー名
患者名・ID
臨床経過(重要データ)と現在の状態
医学的適応・患者意向・QOL・周囲の状況にかかる多角的検討の概略
結論(人工呼吸器またはECMOを行わない・中止する)
承認した(倫理委員会)委員長/副委員長名・ 日時

承諾書Bの概要

タイトル:COVID-19治療にかかる POLST(医師による医療処置指示書)
患者氏名・ID
検討チームのメンバー名(説明医師に○印)
承認した倫理委員会委員長/副委員長名
本文概要:私は、今回の状況に鑑み、さらに生命を脅かす状態に直面した場合の医療処置の制限については、下記のような説明を受け、
◆現在の病状について理解しました。
(具体的説明内容)
◆使用制限される医療処置について、以下の内容について理解しました。
(具体的説明=人工呼吸器/ECMOを行わない・中止する)
◆また、これらの指示は、私の意思で、いつでも撤回できることを理解しています。
(具体的説明内容)
日付・患者または重要他者のサイン
日付・説明医師のサイン

今後の課題

本検討プロセスは、COVID -19対応で医療資源が枯渇した状況を想定したが、そのような状況下では非COVID -19患者に対しても同様に検討を行う必要が生じ、入院患者全体に対して運用しなければならないであろう。

[引用文献]
  1. https://www.nytimes.com/2020/04/27/nyregion/new-york-city-doctor-suicide-coronavirus.html (2020年4月29日 確認)
  2. 日本集中治療医学会倫理委員会:生命維持治療に関する医師による指示書(Physician Orders for Life-sustaining Treatment, POLST)とDo Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示 日集中医誌 2017;24:216-26.
  3. Curtis JR, Kross EK: The Importance of Addressing Advance Care Planning and Decisions About Do-Not-Resuscitate Orders During Novel Coronavirus 2019 (COVID-19). JAMA Mar 27, 2020
  4. Polly Toynbee: Coronavirus will force hospital chiefs to make some terrible choices(2020/03/17) https://www.theguardian.com/commentisfree/2020/mar/17/coronavirus-force-nhs-terrible-choices-covid19 (2020年4月29日 確認)
  5. Masoud Fallahi M, Mahdavikian s, Abdi A, Borhani F, Taghizadeh F, Hematpoor B: Nurses and physicians’ viewpoints about decision making of do not attempt resuscitation (DNAR). Multidisciplinary Respiratory Medicine (2018) 13:20-26