日本医師会 COVID-19有識者会議
8.行政・法・倫理・社会

医療物資調達に関する産業界の新しい動き

西川 和見経済産業省大臣官房参事官(情報産業戦略・ヘルスケア産業総括)
COI:なし
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • 医療界の努力に、何らかの形で答えたい、という市民や産業界の声もあり、厚生労働省/経済産業省、医療界/産業界の連携により、これまでには見られない協力が進んでいる。
  • 元来、衛生/医療物資の管轄は厚生労働省である。しかし、物資の国際調達には商社や在外組織の協力が必要であり、また、国内生産には、幅広い産業の協力が必要であること等から、経済産業省も協力している。私自身、情報産業戦略・ヘルスケア産業総括として医療物資調達に関与してきた。
  • 人工呼吸器を一例に取ると、主要生産国である欧米でコロナが拡大したこともあり、需給が逼迫またはその懸念が増大した。3月下旬、トランプ大統領は、100日以内に10万台の供給を宣言し、自動車メーカーGM社は人工医呼吸器メーカーと組み、4月から月間1万台ペースの生産目標を発表している。
  • 我が国に関しては、国内で流通する人工呼吸器の99%を海外からの輸入に依存していた。海外調達と並行し、経済産業省と厚生労働省で緊密に連携し国内増産を図った。一例として、日本光電と自動車や電機メーカー等の協力を得て、海外生産モデルの国内生産への追加を含め、増産に乗り出した。他、アコマ医科工業もソニーと連携した取り組みを進めている。
  • 公的保険制度と医療関係者の能力・努力に支えられた日本の医療は世界に誇るべきものであり、今回のコロナ対策でも必死の取組が進められている。一個人として敬意と感謝の念を示すとともに、こうした医療界の努力に、何らかの形で答えたい、という市民や産業界の声があることも共有したい。

経済産業省の取組

経済産業省は、コロナ対策に必要な衛生/医療物資の調達について、厚生労働省と経済産業省で連携し、対策を推進している。

衛生/医療物資の管轄は厚生労働省であるが、物資の国際調達には商社や在外組織の協力が、国内生産には、医薬品/医療機器メーカーはもとより、幅広い産業の協力が必要であること等から、経済産業省も協力する形をとっている。

医療の現場からの声

医療の現場からの声は、コロナ対策で必要となる衛生/医療物資は、医療/介護用(感染症対策病院、一般病院/診療所、介護施設等)、特定産業用(生活維持に必要な産業/行政における対策)、一般用(職域、コミュニティ、家庭用)等において異なる。

医療用途では、マスク(サージカル、N95)、フェイスシールド、PPE/医療用手袋、消毒液、人工呼吸器、治療薬(アビガン、レムデシビル)、検査キット(PCR、抗原、抗体)等のニーズが、よく指摘される。

日本医師会からも早期から、繰り返し、政府に対して現場の声/要望が届けられてきている。

図表1
日本医師会からの、総理や厚生労働大臣に対する申し入れ(ホームページより引用・転載)
日本医師会からも早期から、繰り返し、政府に対して現場の声/要望が届けられてきている。

供給面の課題

こうした物資の供給面から見ると、概ね、

  1. 製造コストや労働力の観点から中国/ベトナム等の新興国で製造されるもの(マスク、PPE等)
  2. 侵襲性/専門性が高い医療機器/医薬品としてOECD諸国を中心に製造されるもの(人工呼吸器、治療薬、検査キット)

に分かれ、多くの国が国際調達に依存しており、グローバルな感染拡大、市場メカニズムの働き、各国政府の規制措置等により、大きく影響を受ける構造となっている。

中国/韓国等において感染が拡大した時期では、マスク/PPE等について国内需要拡大による逼迫が発生した。その後、欧米諸国での感染が拡大し、マスク/PPE等の不足感が更に強くなるとともに、人工呼吸器等の高度医療品の需給が厳しくなってきた。各国におけるコロナの拡大や収束の動向によって、週単位、月単位で物資調達の動向が大きく変わり、自国内の拡大・収束状態に加え、常に世界の状況に留意する必要がある。

国際調達と国内生産

わが国の医療現場に必要な物資を届けるため、国際調達に万全を期すことは当然である。例えば、医療用ゴム手袋は世界需要の70%がマレーシアで生産されているとされ、官民が連携して、その安定的な生産と輸入確保に努力している。人工呼吸器では、海外メーカーの販売代理店に、国内在庫の病院への早期納入、さらなる輸入の拡大を働きかけている。

同時に、世界的な需給見通しが不確実であること、わが国医療界の要請等を踏まえ、国内増産に力を入れる必要がある。その際、設備投資等の資金的支援に加え、医療関連産業だけでなく、自動車や電機といった幅広い産業の協力を求めることで、供給量/供給スピードを加速している。

こうした政策を進めることができる背景には、医療の現場を支援したい、という多くの産業界の声とアクションがある。早い段階から個社や団体レベルで支援の申し出があり、4月7日には、経産大臣/厚労大臣が連名で、経団連や同友会に対して医療物資の生産拡大を議論。4月15日、16日には、総理と産業界との懇談会も実施された。日本を代表するグローバル企業から、地域の中小企業まで、幅広い産業界が医療支援を表明し、アクションを実施している

図表2
医療防護具等の増産貢献企業との懇談(ホームページより引用・転載)
4月15日、16日には、総理と産業界との懇談会も実施された。
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202004/15kondan.html
図表3
医療防護具等の増産貢献企業との懇談(ホームページより引用・転載)
4月15日、16日には、総理と産業界との懇談会も実施された。
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202004/16kondan.html

産業界と連携した医療物資増産等サポート体制

4月20日には、日本医師会の横倉会長から梶山経済産業大臣に対し、「日本物づくり企業合同対策本部(仮称)」の設置要請がなされた。これを踏まえ、経済産業省と産業界、厚生労働省と医療関係者の連携により、「産業界と連携した医療物資増産等サポート体制」が構築されている。全国レベルで逼迫する物資に加え、病院内の感染対策に必要なアクリル板の確保や患者の移送手段のサポートなど、各地域の医療の現場で必要となる物資増産、産業支援の声に応えるため、地域レベルでの連携を強化することとしている。

具体的には、医療物資等の増産について申し出のあった企業と、地域における医療現場、医療機器メーカー等とのマッチングを図るため、企業情報を医療機関や都道府県へ提供している。また、各地域の経済産業局において、医療物資の増産を検討する企業等向けの相談窓口を設置し、増産に必要となる設備投資に関する支援策等について紹介することとしている。

人工呼吸器の具体例

人工呼吸器については、3月〜4月にかけて、その主要生産国である欧米でコロナが拡大したこともあり、需給が逼迫またはその懸念が増大した。その中で、各国で人工呼吸器の増産や輸出制限の動きが顕在化した。

現に、イタリア北部やニューヨークといった地域では、人工呼吸器が欠乏し、代替医療機器を活用する動きも見られた。

  • (※)3月下旬、トランプ大統領は、100日以内に10万台の供給を宣言。例えば、自動車メーカーGM社は人工医呼吸器メーカーと組み、4月から月間1万台ペースの生産目標を発表。英国でも、ダイソン等に1万台レベルの発注がされた、と報道。
  • (※)この時期、米国では、人工呼吸器の輸出規制はされていないものの、国防生産法に基づく米国政府への納品を最優先する必要があり、結果として米国外への輸出が遅れた事実あり。スイスは輸出規制を強化。
  • (※)イタリアのCOVID-19の治療ガイドライン(ARIR position paper)ではCPAP等の臨時使用も前提とした記載あり(https://www.monaldi-archives.org/index.php/macd/article/view/1285/1003)。ニューヨークでは知事や市長が動物用の人工呼吸器、麻酔器用の人工呼吸器といった代替手段も活用可能と説明。

日本では、3月に実行再生産数(R)が2.0を超えた時期もあり、仮に感染拡大が抑えられないと、呼吸が足りなくなる状況も想定された。一方、国内で流通する人工呼吸器の99%を海外からの輸入に依存していたことから、緊急時の調達に時間を要する。このため、経済産業省と厚生労働省で緊密に連携し、海外メーカーに対するさらなる日本への輸出要請に加えて、国内企業の増産について働きかけを行ってきた。具体的には、経済産業省が設備投資支援や、医療機器メーカーと他業種の連携促進を行い、厚生労働省が、それと連携する形で、医薬品・医療機器等における審査プロセスを最大限迅速化することで国内増産を支援してきた。

生体情報モニターを国内外で販売する日本光電は、MARSの経験に鑑み、新規事業として人工呼吸器の開発/生産に乗り出していたところ、自動車や電機メーカー等の協力を得て、海外生産モデルの国内生産への追加を含め、増産に乗り出している。来年100周年を迎える老舗医療機器メーカーであるアコマ医科工業は、海外でのOEM生産を主軸に市場開拓を行っている中でも、国内生産に注力することを決定し、ソニーと連携した取り組みを進めている。こうした取組は、今回、必要な台数を確保することに加え、将来に向けて国内に技術/生産基盤を残す、という副次的効果もある。

図表4
日本光電プレスリリース(ホームページより引用・転載)
図表5
ソニーグローバルマニュファチュアリング&オペレーションズのプレスリリース(ホームページより引用・転載)

医療界と産業界の更なる連携

公的保険制度と医療関係者の能力・努力に支えられた日本の医療は世界に誇るべきものであり、今回のコロナ対策でも必死の取組が進められている。一個人として敬意と感謝の念を示すとともに、こうした医療界の努力に、何らかの形で答えたい、という市民や産業界の声があることも共有したい。

厚生労働省/経済産業省、医療界/産業界の連携により、これまでには見られない協力が進んでいる。例えば、人工呼吸器等の承認審査においては厚生労働省の事務連絡に基づき優先的かつ最速で処理され、短期間に審査が行われている。引き続き、信頼に基づいた協力関係が深化するよう、取組を進めていきたい。